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2章 渡界人の日報
2-2 ドラゴン転生②ドラゴンになる夢
しおりを挟む再び椅子へ座った日之出敏明氏はここに来た訳を話し出した。
「実はここ最近立て続けに妙な夢を見るのです。それも全く同じ内容を。自分が明らかに巨大になって一人の冒険者か勇者それも女性です、その人物と戦う夢を見るようになったのです」
「でもそれだけではドラゴンだとは」
「ええ。でもコウモリみたいな翼に鋭い爪、体の下には金銀財宝がありそこに映る私の顔は2本の角の生えた凶悪なドラゴンそのものなのです」
私の疑問に日之出氏はそう答えた。
「確かに西洋的な竜のテンプレ、つまり典型例ですね。その相手の女性に見覚えはありませんか?」
「ドラゴンは金銀財宝を守っているのが普通なのか?」
「ああ。『ベーオウルフ』然り古い叙事詩に出てくる竜は皆そうさ。ほら、トールキンの『ホビットの冒険』にもあるじゃないか。全身硬い鱗だが金銀財宝の上に寝ているせいで腹部は比較的柔らかくそこが弱点とも言われているね」
話の腰を折られながらも依頼人は渡の質問に一瞬考え込み
「いいえ」
「何か特徴はありませんでしたか?」
「そうですね。小柄で鎧に兜を被っていたので絶対にそうだとは言えませんが声からかなり若いと思います。もしかすると娘くらいの年齢かもしれません」
「盾は持っていましたか?中世的な世界なら盾には身分証代わりの紋章が入っている事が多いのですが」
「そういえば持っていましたよ。片手剣に盾を持っていました。確か三つの剣を王冠状に配置した紋章が書かれていましたよ。あれは高貴な身分を表すのですか?」
日之出は妙にうれしそうな顔をしながら聞いて来た。
私は正直失礼だとは思ったが、こんなにうだつの上がらなさそうなサラリーマンでも結婚して子供がいるというという事の方が彼の語る夢以上に驚きだった。
「由緒ある事は間違いないですね。では日之出さん、全ての条件を達成できるかは分かりませんが出来るだけやってみましょう。なにせ先ほども言いましたがこういう危険生物を受け容れたがる所はあまりありませんのでね。例え実体が大人しく人間や他の生物を襲わないにしろ、巨大生物は人間の恐怖を呼び起こし社会不安を引き起こしますからね」
「そうですか。ではこれが連絡先です。一応携帯と自宅のを。最も自宅は妻と離婚し娘の親権が向こうに移ったので平日は誰もいませんが」
そう言うと日之出氏は来る時と同様に哀愁を漂わせながら帰っていった。
「渡、君はあの勇者の出自に心あたりがあるのか?」
「いや。だがあの盾に描かれていたという紋章から彼女の所属が鉄騎公国アイアンハックであることは間違いない」
「アイアンハック?」
訝しがる私に渡は一冊の本を低い収納棚から取り出した。
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