異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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2章 渡界人の日報

2-6 魔獣売ります終章 穏やかな結末

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 「もはや何もかもご存じのようですね。それにワイザリウシアの魔獣、少なくともコボルトとスライムについてはよくその生態をご存じだ」

「まあ、個人的に昔そちらの世界に転生者を送り込んだことがありますのでね。それはそうとあなたの名前と目的を説明して頂けますか?」

渡に促されて男性は話し始めた。

「私は今はこんななりですが元日本人です。ですが今は向こうの世界の住人ですので向こうの世界の名前であるカイル=ベスケンと名乗らせてもらいます。ここに来た、いや出戻った理由は私の職業が関係しています」

「それは?」

「テイマーです。聞いたことがありませんか?魔獣やゴーレムを使役し戦わせるという職業です」

「こう言っては何ですがあまり花形職業とは言えないような・・・」

「それはよく言われます。僕の場合は他の職業も選択できるのに何故それなのだとよく言われます。ですがそれこそがここに来た理由でもあるのです」

私の失言にカイル氏は眉1つ動かさず言った。

「僕は子供の頃あるコボルトに助けられ、10歳ころまで彼らと共に過ごしていました。彼らは人を襲わず、独自の集落を形成し、ワイザリウシアの片隅でひっそりと暮らしていました。ところがある日後に義父となる人物がこの集落に迷い込み、コボルトの長老と話し合った結果僕を引き取り、人間の中で暮らす事になりました。やはり人間は人間の中で暮らしてこそだという結論に長老もアレス(それが義父の名です)も達したようでした。ところが人間社会に行ってみるとコボルトは害獣代表のような扱われ方をしており、事実人間社会の周辺に暮らすコボルト自身も狂暴凶悪と互いに憎しみ合う関係でした」

ここまで一気に話すとカイル氏は彼らの関係に胸を痛めるかのように悲しそうな顔で俯いた。

「僕は長じるにつれて僕を育ててくれたあのコボルト達の秘密を知りたくなりました。それが判れば2つの種族は完全に和解しあい、殺し合う必要がなくなるのですから。冒険者ギルドの依頼が減ってしまうのは気が引けましたが、コボルト被害に遭っている人々はそれこそ世界中にいるのですからこれは有意義かつ育ての親に対する孝行だと思った物です。ところがワイザリウシアという世界に科学者という職業はありません。彼らの秘密を探るには魔獣を操るテイマーになる以外にはないのです」

「そのコボルトの隠れ里には成長してから訪ねてはみなかったのですか?」

「渡さん。それは僕も考えました。しかし実行に移した時は遅かったのです。隠れ里は人間の襲撃で住人は皆殺しにされた後でした。そんなわけで僕は一からコボルトを育ててその生態の変化を詳しく研究する事にしました。その過程でスライムを見ると彼らは心が穏やかになるという性質を発見したのです」

「そう。あのコボルト用マタタビもスライムの成分が使われています。ただその成分はある条件を満たしたスライムの体組織の中でも非常に希少な部位なので殆ど出回っていませんがね」

「当然そういう知識も知る人ぞ知る、という具合なのです。そして当然ですがこんな事をしている僕に対して世間の風当たりはよくありませんでした。そこでこの事を全く知らない僕にとっての故郷とも言うべきこの世界で育成したらどうなるか?という興味もあってこの建物を借り秘密のペットショップを営みながら彼らの生育記録を付ける事にしたのです。

「あまり変化は無かったようですね?」

渡は皮肉でなく、労りの念で言った。

「はい。そして先日共生用のスライムが逃げ出し、あそこに閉じ込められている奴隷のラウザが言うにはスライムを捕獲した何者かがいるというではありませんか。これはいよいよワイザリウシアからの追手が来たと思い、用心を重ねようとした矢先、コボルトが逃げたという子供の字で書かれた張り紙が町のあちこちに張り出され、事が大きくなってはならぬと密かに探し回ったのですがそれがまさか罠だったとは・・・」

「そう言えばなぜカイルさんは夜のみ外出していたのですか?」

「それは君、彼とラウザ氏の見た目を比べてみたまえ。そして人間は特に外国人を見た目だけで判断する生き物だという事を忘れてはならないよ」

確かに温厚そうな見た目のカイル氏と悪党その物という面構えのラウザではこの2人が主従関係とは到底考えられない。その事を伝えると

「カイル氏のような人物が昼間の町の裏路地をこそこそ探っていたらそれこそ不審がられるだろう。だがラウザのような強面ならさもありなんと人は思うだろうね。逆に夜の路地ならカイル氏は旅行帰りで道に迷った善良な白人というイメージを勝手に日本人は持つものさ」

「僕の考えも全くその通りです。しかし、スライム捕獲の当日はその捜索範囲の広さでラウザと手分けしなければなりませんでした」

「なるほど。お二人の悪意のない事はよく分かりました。ラウザ君も主人思いが余ってああいう行き違いになってしまったのですからね。ブリング神にはこちらからも言っておきましょう」

「ありがとうございます」

そう言うと次元を超えてやってきたワイザリウシアの使いにカイル氏とラウザは連行されていった。


この物語で書くべきはもうほとんどない。大分経ってあの2人がコボルトの完全な家畜化を成功させたこと、そして魔獣学を教える大学を設立させた事を後日渡から聞いただけである。

「余り興味無さそうにしているがね、君、こういう事が世界を救うという事なんだぜ。それが分からんうちはまだまだ君を異世界へ行かせることはできないな」
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