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3章 候補者は4人
1 失踪した兄
しおりを挟むこれから記す事件は私としても読んでくれるであろう読者の方々にも気が重いと思われる。
とはいえこの事件の記録がないことには我が隣人渡界人の異世界総合コンサルタントとの仕事と異世界転移の裏の仕組みを網羅したとは言えないのである。
その日私と渡は彼の部屋で今まで扱ってきた事件の資料の整理とその要点のまとめをしていた。異世界総合コンサルタントと世間一般に認知されていない職業でも実際の所300件近い相談があるもので、最初安請け合いをした私はこの作業が夜まで続くとは思ってもみなかった。
「キリがいいとは言えないがこの辺で終わりにしよう。でないと夕食を食いッぱぐれる事になりそうだ」
整理の終わっていない事件資料を机に放りだして渡がそう言ってくれたことを私は心から嬉しく思った物だ。
さあ、今夜はどこへ食べに行こうかな?とウキウキした気持ちで出かける準備をしていた私達の耳にピンポンという新たな事件を告げる音が響いた。
「こんな時間にこんでも・・・・」
「まあ僕の相談相手は圧倒的に社会人が多いからね。ちょっと見てくるよ。君は机の上の物を適当に空けておいてくれ」
そう言うと彼は玄関へ向かう。私も少なくとも人が3人は座って話が出来るスペースを慌てて作ったのだった。
私の準備が完了したと同時に渡が栗色の髪をした20代前半くらいの女性を伴って戻ってきた。渡が椅子を勧めてそこに腰かけ私達も彼女に対面するように座る。
「夜分に押しかけてしまい申し訳ありません。ですがもう八方塞がりで・・・・それで以前私の友人があなたの事を言っていたのを思い出してそれで」
そう言って俯いた彼女の顔は心配か恐怖かその両方で青ざめていた。
「アッ、申し遅れました。私は丹下灯里と申します。兄が失踪しましてそれで今日1日探し回っていたのですが何も手掛かりが掴めず、最後の頼みの綱としてお伺いしたのです」
「丹下さん、お兄様とは同居されているのですか?」
「いいえ。兄は高校卒業と共に家を出て行って地方都市で一人暮らしをしております。家族内で私だけは定期的に兄と連絡を取り合っておりました」
「そこで書置きか何かを発見されたんですね?少なくとも僕のような人間に助力を求める何かが」
「はい、これです。何か私のような素人には分からない何かがありますでしょうか?」
そう言って彼女はこぎれいな赤いハンドバックから四つ折りにされたA4サイズの紙を渡に見せる。そこにはこんな事が書かれていた。
『あなたも異世界で一攫千金を目指してみませんか?新たな土地、誰も知らない未知なる世界であなたの才能を活用させよう!!連絡先は〇〇〇―▲▲▲―□□□』
「これは・・・・週刊誌とかの一番後ろに載っている怪しい広告の類じゃないのか?電話番号も連番続きというのが何か詐欺めいているよ」
私はその広告を見て思わずそう言ってしまった。だが渡はその番号を凝視してジッと考え込んでいた。
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