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3章 候補者は4人
13 捜索隊の安否
しおりを挟む「それで捜索隊は、丹下景勝さんは無事なんですか?」
私はこの襲撃で最も重大な問題点を誰も話さないのに苛立って聞いた。
「それは大丈夫だ。先程座馬君が言った通り本来転送される位置から大分ズレてはしまったが異世界オーストラムへは辿り着いたようだ。見たまえ」
真龍警部は背広の内ポケットから何かの機械を取り出す。それはスマホを少し小さくしたような正四角形で装置の上部に心電図のようなモニターが4分割されて映っていた。
「これは?」
「捜索隊のバイタルゲージだ。多少心拍数が高いのは見慣れぬ異世界に来たからだろう」
「通信は出来るのですか?」
「ある程度は。だが次元が異なる事と高エネルギー、つまりカオスエネルギーが高まると干渉を受けて通信不能になってしまうがな」
その事を証明するかのようにザワザワと耳障りなノイズが数秒した後、男性の低いが明瞭な声が聞こえてきた。
『こちら捜索隊隊長、徳長光吉。こちら捜索隊隊長徳長光吉です。本部応答願います』
「こちら本部。真龍だ。うまく転移できたようだな。座標はどこだ?」
『地図通りであればD―16地点。予定地点より30キロほど西にそれています』
真龍警部は機械のモニターをオーストラムの地図と思しき地形図に切り替えると徳長氏の言った座標をマークする。
「・・・・東の大森林を進むしかあるまい。物資の問題で北の山越えはリスクが高すぎる。危険度の観点からなら大森林も似たようなものだが少なくとも寒さと飢えには悩まされることはないだろう。毎日進捗状況を送ってくるように」
了解しました、という返事と共に通信は終わった。
「彼らの言う事が本当なら確実に3日はロスですよ。カルト共は何故転移装置を使わなかったんでしょう?そうすれば逃げられるし、向こうで捜索隊を始末することも出来るのに」
「奴らは捨てゴマなのだ。こちらの計画を送らせる事とあちらは絶対にカオスを入手できるという自信があるのだ。つまりもう向こうに送り込んだ連中の仲間は我々の捜索隊より先んじていると見ていいだろう」
座馬とは別の白衣の男の物騒な発言に真龍警部はあくまで冷静に返した。
「それで大森林とはどんな場所なんです?」
私は真龍警部の言った『危険』といったワードにいてもたってもいられなかった。
「危険な原生生物のいる森。動物どころか植物さえも油断ならないまさに魔境だ」
「そんな所に・・・・!」
「だが北の山越えをしようとなると食料や水が持たない。なにせ水も木もない6000m級の岩山をいくつも超えて行かなければならないのだからね」
つまり捜索隊は2つの内よりましな地獄を選んだという事になる訳である。
真龍警部の予想通り、拘束されたカルト教団の構成員は何一つ言葉を発しなかった。いやできなかったというのが正しい。彼らは発声器官を潰されていたのだ。
「おい、兄貴がこんな不気味な連中とやり合うなんて知ったら灯里さんは卒倒しかねないぞ」
暗澹とした気持ちでアパートに帰ってきてから私は渡に言った。
「だが何も知らないよりかは幾分かは良い。問題なのは向こうからの通信文が無事に送られてくるかだが・・・」
その後灯里嬢から景勝氏の状況を伝えるメールが届いたとの連絡が入った。だがその異世界からの通信文は日を追うごとに間隔が長くなり、捜索隊が出発して25日後からはぱったりと送られてこなくなった。そして出発から45日後に遂にカオスエネルギーを携えて捜索隊は帰ってきた。
景勝氏ただ一人だけで。
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