異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

文字の大きさ
112 / 125
4章 渡界人の慧眼

4-1 我はウォルター・ランドステイ⑧ 明かされた名前

しおりを挟む



 私達は駅のホームを駆け抜け、駅前に停まっていたタクシーに飛び込むと大伴家へ向けて出発した。
屋敷に近づくにつれ、私は胸の内にある疑念が高まるのを抑えられず、渡に問うた。

「しかし、どうやって説明するんだ?さっきの説明では母親はともかくあの家庭教師や父親が納得するとは思えんぜ?」

「そこは納得してもらうしかないよ。どうしてもというのなら実物を見てもらう事でね。今回の件はどう説明しても常識の範疇を超えているのだから」

渡もこの点はいささか困っている様子だった。

「何だか頼りないなあ」

「勇君の両親の真の愛情が試されているといっても過言ではない。情愛は理屈や理性では説明がつけられないからな。『いい子』というのが結局のところ親に都合の『いい子』であるか、そうではなく本人そのものを愛しての『いい子』なのかという問いを僕らはあの両親に突きつけることになるんだよ」

「君は教育評論家にすぐにでもなれるな」

「なに、僕自身がそういう教育を受けてきたからね。でなければ異世界総合コンサルタントなんて職業を選ぶことは無かっただろうさ」

そんな会話を続けている内に大伴家に着いた。夕闇に照らされたインターホンを鳴らすと母親のひかり氏が出迎えてくれた。

「急にお邪魔して申し訳ございません。勇君は?」

「ああ!良かった!渡さん、私はもうどうしていいか・・・・今連絡をしようとしていたんです。あの子はとんでもない子です!!いえあれは断じて勇ではありません!」

渡は取り乱す母親を宥めながら言った。

「落ち着いて下さい。一体何があったのですか?」

「つい30分前の事でした。家庭教師の授業中にあの子は先生を何かの実験台にしようとしたんだそうです!先生はこの世のものとは思えない声を上げて部屋を飛び出しまして、その事を私に伝えると気絶してしまいました。そして」

私達はここで会話を中断せざるを得なかった。屋敷から不気味な詠唱が聞こえてきたからだ。

「いけない!!早く彼を止めなければ!!」

私達は全速力で勇君の部屋の前に向かう。鍵が掛かっていて明かない。

「君、扉を破るのを手伝ってくれ」

「よしきた!」

2人で扉に体当たりして何度目かで遂に蝶番が外れ、私達は部屋の中へ倒れ込んだ。

部屋の中はおおよそ3歳児のものとは、いや常識的な人間の部屋とは思えぬものだった。

部屋一杯に散乱した学術書やフラスコや試験管が並べられており、中心には六芒星が見たこともない色のチョークで描かれていてその中心に子供が目を閉じて立っていた。

「私は渡界人。異世界総合コンサルタントをしている。君は誰だ?」

渡に相手は答えない。詠唱を続けながらただ不遜な眼を上げるだけだ。

「話を変えよう。君は異世界カーウデクストから呪文を使い魂だけをこの子と入れ替えた。女神マハが不審な幼子の魂がカーウデクストへ来るのを見ているのだ。これが君の意図した結果かは分からないが、とにかく君はこの世界に転生した」

渡は続ける。

「君の母親から話を聞いて今回の件が転生に関連すると疑ったのは君が料理と偽って色々な調味料を鍋の中に入れた事だ。あれらを君が化学薬品と間違うのは無理はない。カーウデクストでは砂糖とは黒砂糖だし、塩も岩塩。コショウに類する物はないからね。そこで君はこの世界の常識を学ぶ為にひとまず子供の振りをする事にしたが、人嫌いの隠者ゆえかその振る舞いは子供のそれではなく、さらには自身の探求心を止める事も出来なかった。君はこの部屋に父親の書斎から君の生前の専攻していた学問に類する本を見つけて読みふけった。もちろん本に偽装を施してね。そしてこの家の家庭教師に付いてこの世界の常識を教わり、用済みとなったので魔術の実験台か生贄にしようと今行動を開始した。ここまでで何か違うかね?無名魔術師さん?」

渡の最期の言葉は彼の中の別人のプライドをいたく傷つけたらしい。

「黙れ!!何も知らぬ凡人が!!我はウォルター・ランドステイ!!この世の真理の全てを解き明かす者だ!!」

子供の顔には年相応のものではなく、皺だらけの老人の怒りの形相が浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜
ファンタジー
 神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。  巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。  千年間も。  それなのに主人公は鍛錬をする。  1つのことだけを。  やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。  これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。  そして、主人公は至った力を存分に振るう。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...