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第12話 追う者追われるモノ 蛾型UMAモスマン 人型上級UMAフライング・ヒューマノイド 登場
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異空間内で箱が意思を持ったように達人の手を離れ、猛スピードで飛んでいく。それを追う達人にエリクシリオが追い付いた。
「またあなたではないようですが」
「・・仕方のない事です。ですが選ばれた人間がどういう人物なのかは見極めたいと思います」
そう話すうちに箱が彼らの前から消えてしまう。
しまったと思う間もなく彼らも消滅地点近くに移動し、しばらくして異空間を抜ける。
「まさか途中下車できるとは。探すのが大変だな」
「せめて中に入っているのがどの属性かが分ればその魔力を辿れるのですが」
「海にあったから水ではないですか?それとも土とか」
「箱に入っている以上別の属性の可能性もあります。それにここだと水以外は探知が難しいかもしれません」
今彼らのいる場所はどこかの山道で眼下に町が見える。
「もしかしたらあの町の住民の誰かを選んだかもしれませんね」
「それなら早く見つかりそうですが」
エリクシリオは言葉を切る。
どんな人間が選ばれたかはわからないのだ。
自分たちに協力的な人物ならば良いがそうでないならば最悪戦う事もありうるのだ。
達人は鎧を外し、エリクシリオもそうしようとしたが彼女の貫頭衣では山道を歩くのは不便であるためヘルメットのみ外す事にした。
「素晴らしいですね。青い空、豊かな森。暖かい日の光。爺から聞いていた通りの世界」
エリクシリオが目から涙を流し、感極まった声で呟く。
「あそこは人間がいや生物の住める環境じゃない。一体何があってあなた達はあの場所に住んでいるんですか?」
「私が生まれる前の話です。私の父の代で私達は傲慢の罪ゆえに神の怒りに触れこの世界から今の世界に飛ばされたと聞かされています」
「まさか魔法の鎧はその神と戦う為に作られた?」
「そんな畏れ多いことを。‥でも父ならそんなことを考えるかもしれません。彼はあなたと同じように全く魔法が使えませんでしたから。父のような人々は増えていたといいますからそんな世界に反感を持っていてもおかしくはありません」
「しかしあなたは魔法が使えるわけだ」
「母方の遺伝だと思いますが。でも父の家系だって使えたはずです。でも突然変異か何かで父は魔法を使うことができなかった。自分のような魔法の使えない人間を大魔導士に仕立て上げる魔法の鎧を作る動機は十分あるわけです」
「そのおかげで俺は生きている」
「父に感謝しなければいけませんね」
そんな話をしながら1時間ほどで下山し車道に行き当たる。その二人の前を一台のトラックが通り過ぎる。
初めて見る自動車に度肝を抜かれているエリクシリオの横でそれに描かれていたマークを見て達人は嫌な予感を覚え、背負っていた箱を下ろし装着準備に入る。
「どうしたのですか?」
「俺があなたの街に来たきっかけを作った連中ですよ。世界中で破壊活動を行っています」
「どうやら箱はあの車の中にあるようですね」エリクシリオは達人と逆に鎧を脱ぎ始める。
「これはあなたのとは違って魔力を吸収する事しかできないのです。付けたままだと魔法が使えない」
彼女は達人の疑問に先回りして答える。そして脱いだ鎧をどこかの異空間へとしまう。
そして二人はトラックを追って走り出し、やがて自動車の屋根から屋根へ飛び移りながら目標のトラックへ近づいて行った。
タンカー襲撃班を率いていた熱海悟朗は任務失敗後Eスリー代表直々にY県の某山に向かうよう指示を受けた。
そこに組織にとって重要な戦力があるというのだ。
「金属製の箱ね。あれか、例の甲冑野郎と同じ力か?なら歓迎だな」
トラックの助手席で悟朗は同意を求めるように部下の運転手に問いかける。
「全くですよ。我々の行動のみが地球を救うというのに」
運転手はそこで言葉を切る。
前方の雑木林の中に何か光る物を見つけたからだ。
車を停めてトラックから数人の男たちが下りてくる。
果たして雑木林の斜面に半ば埋まるように金属製の箱があった。
箱の一面に女神ではなく男神の姿の浮彫がある点がレジリエンスの物との違いだった。
何名かが近づこうとすると箱から電撃が走り彼らを寄せ付けない。
何か惹かれるものを感じて悟朗が箱に近づくと今度は何の反応もなくそのまま彼の手によりトラックに運びこまれた。
荷台の中にはTVにて世界に宣戦布告を表明したあのマントの人物つまりEスリー代表が座っていた。
「熱海隊長ご苦労でした。地の四元将にはどうやらあなたが選ばれたようですね」
「なぜここにあるとわかったかは謎だがまあいい。早速やるか?」
「お披露目は東京に着いてからにしましょう。これを奪われたりしないように各員警戒を」
ここまでのやり取りが達人たちが現実世界に戻ってきた直後に交わされたEスリー側の活動だった。
一方文明存続委員会も魔法の箱が転移してきたことをエレメンタル・センサーで感知していた。
「一瞬ですが強力な反応です。Y県のどこかの山中という事までしかわかりませんが」
「ちょうど鈴宮玲が近くにいるな。彼女に回収させよう」
笠井恵美の報告に黒川博士がそう伝える。
「早い方がいい。例のEスリーのような連中に拾われたら事ですよ」
ティブロンが頭上のモニターを凝視しながら呟く。
「そうだ。近くの山中にある。興味ないだと?回収できればよりプロトマルスを強化できる。悪い話ではないと思うがね」黒川直々に説得しているようだが相手は乗り気ではないようだ。
笠井からしてみればこの男がどうして他人が自分の思う通り動くこと前提で物事を決めるのか理解に苦しむ時がある。
その点では文明存続委員会はEスリーと大差のない組織なのではないかと最近思い始めていた。
それでも彼女の指は落下地点近くのドローンを捜索の為に飛ばすよう指示を出していた。
エレメンタル・エナジーを感知できるのは人間の技術だけではない。UMAもそうである。
ある目的で偶然現実世界で人間を襲っていたフライング・ヒューマノイドは宿敵である四元将のエナジー波形を忘れてはいなかった。
彼も新たな装着者が見つかるか装着者がその機能を熟知する前に叩くべきと判断し、仲間二人には独断でその後を追った。
エリクシリオと達人がトラックを捕捉したのは東京とY県を結ぶ高速道の手前だった。
ここは上下線ともに二車線しかないため平日でも渋滞が発生するほどだが先日の宣戦布告の為か自動車の数は通常の3分の1ほどだった。
当たり前だが物流がストップするとかましてや全ての自動車をエコカーに換えるなどという芸当が数日のうちにできるはずもない。
攻撃側の圧倒的な人手不足は皮肉なことに相手側にいつ標的になるのかという不安を与える結果となったが『改心』した者はわずかであった。
多くの人々は生活を変える事より生活を守ることを選んだのだった。
そしてその多く人間がEスリーの理念が本物などとは信じていない事も生活を変えない理由でもあった。
先日のタンカー襲撃時のボート然り、今達人達が追う彼らのトラックも環境破壊に一役買っている物を燃料としているのは明らかだった。
バックミラーに映る追跡者を周辺の車を蹴散らしてでも振り切ろうと運転手がスピードを上げた。
彼は前方にも白い人間のようなものが浮いているのに気づいた。
それがトラック目掛けて両腕と胴体から熱線を照射した時「トイコス」と叫ぶ声が聞こえ、灰色の半透明の二つの壁がトラックの前方を覆った。
前方の方はすぐに破られたが後ろの方は前方の壁で減衰したビームを防ぎ切った。その間に怪物フライング・ヒューマノイドは距離を詰めてその荷台の上に妨害者レジリエンスのとエリクシリオと同時に降り立った。
「お初にお目にかかります。私はフライング・ヒューマノイド。あなた方の相手はまた今度という事で」
そう言うとだらりと下げた両腕から三本の爪が伸びトラックの荷台の上部を貫通する。
だがその穴は何事もなかったかのように一瞬で塞がった。
全員事態を飲み込めず固まった。
それはトラックの荷台にいた悟朗達も同じだった。
天井部分が破壊され、銀色の怪物が見えたと思ったら次の瞬間屋根が元通りになり、代表が苦しそうに俯いていたのだった。
この事態に最も早く動いたのは達人で杖先に赤い炎の剣フレイムキャリバーを形成して怪物目掛けて突き出す。
刃は改修による強化で以前の風に揺らめく頼りなげな炎からややオレンジ色を帯びた深紅の金属状の直剣へとパワーアップしていた。
「何っ?これは・・・」
だが剣先が怪物の体に触れるより先に怪物の体に穴が開き攻撃は素通りしてしまう。
フライング・ヒューマノイドの体はアメーバの様に原形質流動を行う事ができ自在に形を変えることができるのだった。しかもアメーバが変形したらそのままなのと違いその体は元の状態に戻る。
間を置かずその穴の周囲から放たれた数条の電撃を受け火花を散らしながらレジリエンスは道路に落下していく。
接触を避けようとする車の間を転がりながらも立ち上がりトラックに再び向かうべく飛び上がるレジリエンスの頑強さにフライング・ヒューマノイドは内心舌を巻き、エリクシリオは安堵の表情を浮かべた。
標的を運転手に変え後ろを振り返った怪物は腕を運転席に向け熱線をチャージする。
両腕に光が集まっていく。
そう見せかけて自分を狙う女に向き直り両者の腕から同時に熱線と青白い火球が飛び空中で激突する。
この間にトラックへ追いついたレジリエンスはこの爆発の炎を吸収し、白煙を破って怪物に切りかかる。
二度、三度
その攻撃は大振りで怪物は能力を使わずにこれを避ける。
四度目の斬撃はそれまでより鋭く、さらに後方からエリクシリオの旋風の魔法が放たれる。
怪物は斬撃を原形質流動で無力化したが魔法の方は対応できず全身に小さな傷を負う。
同時に達人が左腕を横に振るいトイコスを再び唱える。
三度の攻撃中左手で逆三角形を描いて四度目で土のシンボルを完成させたのだった。
瞬時に怪物の体の空洞と全身の傷が灰色の半透明のブロックで埋まる。
その隙を逃さず二人は火球を放つが怪物の目の前でそれは弾かれた。
「バリアーか」
「なるほど。それを続ければいずれ原形質流動ができなくなりこちらが負ける。しかし手数が足りないようですね。君の戦いと同じだ」
「どういう意味だ?」
左腕で強引にブロックを破り再生を始める怪物の言う事の意味が分からないレジリエンスに
「なぜ我々が世界中で増殖しつづけているか?それは地球自身が人類という自らの体に巣くう癌細胞の除去の為ですよ。最も人間も地球の生み出した生命体ですからね。絶滅とはいきません。ただ適正な数になるまではこの現象は泊まらない。君がいくら戦おうとね」
「そうだとしても、戦いをやめる理由にはならない。悪あがきだろうとも理不尽に奪われる命を見捨てる事は出来ない」
(何としてもトラックから奴を引き剥がさなくては。だがもう夕方だ。夕闇では主たるエナジー補給先の太陽光が少なくなる。残っている風のエナジーだけで機能停止覚悟で二人同時に強力な魔法を使うか?しかし奴を倒せるほどの威力なら周りにどれほどの被害が出るか判らない)
達人がこう考えていた時
突如反対車線の向こうにある林から真っ赤な目をした飛翔体とそれを追って黒い鎧武者プロトマルスが飛び出してきた。
「モスマン?彼の縄張りだったのか」とフライング・ヒューマノイド
「新しい魔法の鎧?」達人とエリクシリオが同時に叫ぶ。
飛翔体は高速道路の上り線と下り線を二分する壁を越える。
そして新たな敵に身構えるレジリエンス達を無視してトラックの前を走る車の天井部分をその鋭利な羽で切断した。
破壊された車は制御を失い別の車に追突し爆発する。Eスリーのトラックはその大きさに物を言わせ周囲の車を跳ね飛ばしながら強引に道を進む。
「あの獣と車は顔と匂いが同じではありませんか?」
「匂いと車のライトで車を自分のライバルだと勘違いしているというのか?」エリクシリオの疑問に達人が答える。
「二手に分かれましょう。あの剣士では追い付けそうにありません。こちらは私が」
今またモスマンによって切断された車が壁に激突する様を見てエリクシリオがそう提案する。
そう言うとエリクシリオが呪文か祈祷を唱えるのを達人は聞いた。
彼女は今まで無詠唱で魔法を使っていただけにフライング・ヒューマノイドも異変を感じて彼女に向けて熱線を放つ。
エリクシリオの目の前で電撃が走り、それが鳥の形に変わる。
稲妻で縁取られた透明な鳥は怪物の放った熱線をその身に取り込み炎揺らめく黄金の神鳥が姿を現した。
同時にレジリエンスの全身に奇妙な感覚が走るが達人は新たな敵を倒すため今はあえて無視することにした。
(今は判らないことを追及している場合じゃない。あの蛾の化け物を倒さなくては)
「霊鳥サンダーバード!?ほとんど数のいない精霊級のUMAがこんな娘と契約しているとは?」
フライング・ヒューマノイドの驚きへの返事代わりの雷撃がサンダーバードから放たれる。
展開したバリアーを貫通し火花を散らしよろける怪物。
それをレジリエンスは飛び越え前方の車の屋根に飛び移る直前、怪物は上昇しつつ下半身を円盤状に変形させると高速回転させレジリエンスを背後から襲うが当たることなく道路に激突した。
彼を乗せた車を含む全ての自動車が一斉に一車線に寄り出したからである。
彼らは知る由もなかったのだが彼らの戦いを目撃した運転手等から警察への通報が相次いでいた。
このような事態など想定していなかった警察上層部が対応の協議を重ねている内に『戦闘』に巻き込まれて事故や死者さえ出たことで彼らは消防と連携した『事故対応』を行うことに決めたのだった。
そこでパトカーや消防車が通行できるようラジオ等を通じて片側通行を呼びかけたのである。
「あの個体は本能に忠実すぎた。習性を完全に読まれていますね」
フライング・ヒューマノイドは精霊が長時間現世に留まれないことは知っていたが、その間にモスマンが倒されるだろうと思った。
排ガスのような匂いを出すモスマンは自分の眼と同じ形かそれに近いヘッドライトの車を自身を脅かすライバルと誤認し排除しようとする習性があるのだった。
数度の襲撃からレジリエンスはそれに気づいていた。
それと狙いをつけた車に風のエナジーを土に変えてトイコスを唱える。
出現した壁に跳ね返され道路を逆走する形になったモスマンはけたたましいサイレンを鳴らしてやってくる『ライバル』を見た。
それは彼にとって生涯最後のライバルだった。
より正確に記すならようやく追いついたプロトマルスがパトカーの屋根の上で腰の前垂れに当たる部分からUSBメモリのような物を取り出し刀の鍔部分に差し込むとサイドアーマーへ戻すと同時に腰を落とす。
居合切りの『溜め』の様な状態でふくらはぎに備えられたブースターを吹かしながらその体勢のままモスマンへ迫る。
ここに時速百六十キロでモスマンが突っ込んだことで彼の体が横一文字に切り裂かrれ、文字通り真っ二つになった。
地面に着地したプロトマルスはマルスソードを腰に戻した。
断末魔を上げるモスマンの爆発のエナジーを吸収したレジリエンスは件のトラックを探すがどこにも見当たらなかった。
「またあなたではないようですが」
「・・仕方のない事です。ですが選ばれた人間がどういう人物なのかは見極めたいと思います」
そう話すうちに箱が彼らの前から消えてしまう。
しまったと思う間もなく彼らも消滅地点近くに移動し、しばらくして異空間を抜ける。
「まさか途中下車できるとは。探すのが大変だな」
「せめて中に入っているのがどの属性かが分ればその魔力を辿れるのですが」
「海にあったから水ではないですか?それとも土とか」
「箱に入っている以上別の属性の可能性もあります。それにここだと水以外は探知が難しいかもしれません」
今彼らのいる場所はどこかの山道で眼下に町が見える。
「もしかしたらあの町の住民の誰かを選んだかもしれませんね」
「それなら早く見つかりそうですが」
エリクシリオは言葉を切る。
どんな人間が選ばれたかはわからないのだ。
自分たちに協力的な人物ならば良いがそうでないならば最悪戦う事もありうるのだ。
達人は鎧を外し、エリクシリオもそうしようとしたが彼女の貫頭衣では山道を歩くのは不便であるためヘルメットのみ外す事にした。
「素晴らしいですね。青い空、豊かな森。暖かい日の光。爺から聞いていた通りの世界」
エリクシリオが目から涙を流し、感極まった声で呟く。
「あそこは人間がいや生物の住める環境じゃない。一体何があってあなた達はあの場所に住んでいるんですか?」
「私が生まれる前の話です。私の父の代で私達は傲慢の罪ゆえに神の怒りに触れこの世界から今の世界に飛ばされたと聞かされています」
「まさか魔法の鎧はその神と戦う為に作られた?」
「そんな畏れ多いことを。‥でも父ならそんなことを考えるかもしれません。彼はあなたと同じように全く魔法が使えませんでしたから。父のような人々は増えていたといいますからそんな世界に反感を持っていてもおかしくはありません」
「しかしあなたは魔法が使えるわけだ」
「母方の遺伝だと思いますが。でも父の家系だって使えたはずです。でも突然変異か何かで父は魔法を使うことができなかった。自分のような魔法の使えない人間を大魔導士に仕立て上げる魔法の鎧を作る動機は十分あるわけです」
「そのおかげで俺は生きている」
「父に感謝しなければいけませんね」
そんな話をしながら1時間ほどで下山し車道に行き当たる。その二人の前を一台のトラックが通り過ぎる。
初めて見る自動車に度肝を抜かれているエリクシリオの横でそれに描かれていたマークを見て達人は嫌な予感を覚え、背負っていた箱を下ろし装着準備に入る。
「どうしたのですか?」
「俺があなたの街に来たきっかけを作った連中ですよ。世界中で破壊活動を行っています」
「どうやら箱はあの車の中にあるようですね」エリクシリオは達人と逆に鎧を脱ぎ始める。
「これはあなたのとは違って魔力を吸収する事しかできないのです。付けたままだと魔法が使えない」
彼女は達人の疑問に先回りして答える。そして脱いだ鎧をどこかの異空間へとしまう。
そして二人はトラックを追って走り出し、やがて自動車の屋根から屋根へ飛び移りながら目標のトラックへ近づいて行った。
タンカー襲撃班を率いていた熱海悟朗は任務失敗後Eスリー代表直々にY県の某山に向かうよう指示を受けた。
そこに組織にとって重要な戦力があるというのだ。
「金属製の箱ね。あれか、例の甲冑野郎と同じ力か?なら歓迎だな」
トラックの助手席で悟朗は同意を求めるように部下の運転手に問いかける。
「全くですよ。我々の行動のみが地球を救うというのに」
運転手はそこで言葉を切る。
前方の雑木林の中に何か光る物を見つけたからだ。
車を停めてトラックから数人の男たちが下りてくる。
果たして雑木林の斜面に半ば埋まるように金属製の箱があった。
箱の一面に女神ではなく男神の姿の浮彫がある点がレジリエンスの物との違いだった。
何名かが近づこうとすると箱から電撃が走り彼らを寄せ付けない。
何か惹かれるものを感じて悟朗が箱に近づくと今度は何の反応もなくそのまま彼の手によりトラックに運びこまれた。
荷台の中にはTVにて世界に宣戦布告を表明したあのマントの人物つまりEスリー代表が座っていた。
「熱海隊長ご苦労でした。地の四元将にはどうやらあなたが選ばれたようですね」
「なぜここにあるとわかったかは謎だがまあいい。早速やるか?」
「お披露目は東京に着いてからにしましょう。これを奪われたりしないように各員警戒を」
ここまでのやり取りが達人たちが現実世界に戻ってきた直後に交わされたEスリー側の活動だった。
一方文明存続委員会も魔法の箱が転移してきたことをエレメンタル・センサーで感知していた。
「一瞬ですが強力な反応です。Y県のどこかの山中という事までしかわかりませんが」
「ちょうど鈴宮玲が近くにいるな。彼女に回収させよう」
笠井恵美の報告に黒川博士がそう伝える。
「早い方がいい。例のEスリーのような連中に拾われたら事ですよ」
ティブロンが頭上のモニターを凝視しながら呟く。
「そうだ。近くの山中にある。興味ないだと?回収できればよりプロトマルスを強化できる。悪い話ではないと思うがね」黒川直々に説得しているようだが相手は乗り気ではないようだ。
笠井からしてみればこの男がどうして他人が自分の思う通り動くこと前提で物事を決めるのか理解に苦しむ時がある。
その点では文明存続委員会はEスリーと大差のない組織なのではないかと最近思い始めていた。
それでも彼女の指は落下地点近くのドローンを捜索の為に飛ばすよう指示を出していた。
エレメンタル・エナジーを感知できるのは人間の技術だけではない。UMAもそうである。
ある目的で偶然現実世界で人間を襲っていたフライング・ヒューマノイドは宿敵である四元将のエナジー波形を忘れてはいなかった。
彼も新たな装着者が見つかるか装着者がその機能を熟知する前に叩くべきと判断し、仲間二人には独断でその後を追った。
エリクシリオと達人がトラックを捕捉したのは東京とY県を結ぶ高速道の手前だった。
ここは上下線ともに二車線しかないため平日でも渋滞が発生するほどだが先日の宣戦布告の為か自動車の数は通常の3分の1ほどだった。
当たり前だが物流がストップするとかましてや全ての自動車をエコカーに換えるなどという芸当が数日のうちにできるはずもない。
攻撃側の圧倒的な人手不足は皮肉なことに相手側にいつ標的になるのかという不安を与える結果となったが『改心』した者はわずかであった。
多くの人々は生活を変える事より生活を守ることを選んだのだった。
そしてその多く人間がEスリーの理念が本物などとは信じていない事も生活を変えない理由でもあった。
先日のタンカー襲撃時のボート然り、今達人達が追う彼らのトラックも環境破壊に一役買っている物を燃料としているのは明らかだった。
バックミラーに映る追跡者を周辺の車を蹴散らしてでも振り切ろうと運転手がスピードを上げた。
彼は前方にも白い人間のようなものが浮いているのに気づいた。
それがトラック目掛けて両腕と胴体から熱線を照射した時「トイコス」と叫ぶ声が聞こえ、灰色の半透明の二つの壁がトラックの前方を覆った。
前方の方はすぐに破られたが後ろの方は前方の壁で減衰したビームを防ぎ切った。その間に怪物フライング・ヒューマノイドは距離を詰めてその荷台の上に妨害者レジリエンスのとエリクシリオと同時に降り立った。
「お初にお目にかかります。私はフライング・ヒューマノイド。あなた方の相手はまた今度という事で」
そう言うとだらりと下げた両腕から三本の爪が伸びトラックの荷台の上部を貫通する。
だがその穴は何事もなかったかのように一瞬で塞がった。
全員事態を飲み込めず固まった。
それはトラックの荷台にいた悟朗達も同じだった。
天井部分が破壊され、銀色の怪物が見えたと思ったら次の瞬間屋根が元通りになり、代表が苦しそうに俯いていたのだった。
この事態に最も早く動いたのは達人で杖先に赤い炎の剣フレイムキャリバーを形成して怪物目掛けて突き出す。
刃は改修による強化で以前の風に揺らめく頼りなげな炎からややオレンジ色を帯びた深紅の金属状の直剣へとパワーアップしていた。
「何っ?これは・・・」
だが剣先が怪物の体に触れるより先に怪物の体に穴が開き攻撃は素通りしてしまう。
フライング・ヒューマノイドの体はアメーバの様に原形質流動を行う事ができ自在に形を変えることができるのだった。しかもアメーバが変形したらそのままなのと違いその体は元の状態に戻る。
間を置かずその穴の周囲から放たれた数条の電撃を受け火花を散らしながらレジリエンスは道路に落下していく。
接触を避けようとする車の間を転がりながらも立ち上がりトラックに再び向かうべく飛び上がるレジリエンスの頑強さにフライング・ヒューマノイドは内心舌を巻き、エリクシリオは安堵の表情を浮かべた。
標的を運転手に変え後ろを振り返った怪物は腕を運転席に向け熱線をチャージする。
両腕に光が集まっていく。
そう見せかけて自分を狙う女に向き直り両者の腕から同時に熱線と青白い火球が飛び空中で激突する。
この間にトラックへ追いついたレジリエンスはこの爆発の炎を吸収し、白煙を破って怪物に切りかかる。
二度、三度
その攻撃は大振りで怪物は能力を使わずにこれを避ける。
四度目の斬撃はそれまでより鋭く、さらに後方からエリクシリオの旋風の魔法が放たれる。
怪物は斬撃を原形質流動で無力化したが魔法の方は対応できず全身に小さな傷を負う。
同時に達人が左腕を横に振るいトイコスを再び唱える。
三度の攻撃中左手で逆三角形を描いて四度目で土のシンボルを完成させたのだった。
瞬時に怪物の体の空洞と全身の傷が灰色の半透明のブロックで埋まる。
その隙を逃さず二人は火球を放つが怪物の目の前でそれは弾かれた。
「バリアーか」
「なるほど。それを続ければいずれ原形質流動ができなくなりこちらが負ける。しかし手数が足りないようですね。君の戦いと同じだ」
「どういう意味だ?」
左腕で強引にブロックを破り再生を始める怪物の言う事の意味が分からないレジリエンスに
「なぜ我々が世界中で増殖しつづけているか?それは地球自身が人類という自らの体に巣くう癌細胞の除去の為ですよ。最も人間も地球の生み出した生命体ですからね。絶滅とはいきません。ただ適正な数になるまではこの現象は泊まらない。君がいくら戦おうとね」
「そうだとしても、戦いをやめる理由にはならない。悪あがきだろうとも理不尽に奪われる命を見捨てる事は出来ない」
(何としてもトラックから奴を引き剥がさなくては。だがもう夕方だ。夕闇では主たるエナジー補給先の太陽光が少なくなる。残っている風のエナジーだけで機能停止覚悟で二人同時に強力な魔法を使うか?しかし奴を倒せるほどの威力なら周りにどれほどの被害が出るか判らない)
達人がこう考えていた時
突如反対車線の向こうにある林から真っ赤な目をした飛翔体とそれを追って黒い鎧武者プロトマルスが飛び出してきた。
「モスマン?彼の縄張りだったのか」とフライング・ヒューマノイド
「新しい魔法の鎧?」達人とエリクシリオが同時に叫ぶ。
飛翔体は高速道路の上り線と下り線を二分する壁を越える。
そして新たな敵に身構えるレジリエンス達を無視してトラックの前を走る車の天井部分をその鋭利な羽で切断した。
破壊された車は制御を失い別の車に追突し爆発する。Eスリーのトラックはその大きさに物を言わせ周囲の車を跳ね飛ばしながら強引に道を進む。
「あの獣と車は顔と匂いが同じではありませんか?」
「匂いと車のライトで車を自分のライバルだと勘違いしているというのか?」エリクシリオの疑問に達人が答える。
「二手に分かれましょう。あの剣士では追い付けそうにありません。こちらは私が」
今またモスマンによって切断された車が壁に激突する様を見てエリクシリオがそう提案する。
そう言うとエリクシリオが呪文か祈祷を唱えるのを達人は聞いた。
彼女は今まで無詠唱で魔法を使っていただけにフライング・ヒューマノイドも異変を感じて彼女に向けて熱線を放つ。
エリクシリオの目の前で電撃が走り、それが鳥の形に変わる。
稲妻で縁取られた透明な鳥は怪物の放った熱線をその身に取り込み炎揺らめく黄金の神鳥が姿を現した。
同時にレジリエンスの全身に奇妙な感覚が走るが達人は新たな敵を倒すため今はあえて無視することにした。
(今は判らないことを追及している場合じゃない。あの蛾の化け物を倒さなくては)
「霊鳥サンダーバード!?ほとんど数のいない精霊級のUMAがこんな娘と契約しているとは?」
フライング・ヒューマノイドの驚きへの返事代わりの雷撃がサンダーバードから放たれる。
展開したバリアーを貫通し火花を散らしよろける怪物。
それをレジリエンスは飛び越え前方の車の屋根に飛び移る直前、怪物は上昇しつつ下半身を円盤状に変形させると高速回転させレジリエンスを背後から襲うが当たることなく道路に激突した。
彼を乗せた車を含む全ての自動車が一斉に一車線に寄り出したからである。
彼らは知る由もなかったのだが彼らの戦いを目撃した運転手等から警察への通報が相次いでいた。
このような事態など想定していなかった警察上層部が対応の協議を重ねている内に『戦闘』に巻き込まれて事故や死者さえ出たことで彼らは消防と連携した『事故対応』を行うことに決めたのだった。
そこでパトカーや消防車が通行できるようラジオ等を通じて片側通行を呼びかけたのである。
「あの個体は本能に忠実すぎた。習性を完全に読まれていますね」
フライング・ヒューマノイドは精霊が長時間現世に留まれないことは知っていたが、その間にモスマンが倒されるだろうと思った。
排ガスのような匂いを出すモスマンは自分の眼と同じ形かそれに近いヘッドライトの車を自身を脅かすライバルと誤認し排除しようとする習性があるのだった。
数度の襲撃からレジリエンスはそれに気づいていた。
それと狙いをつけた車に風のエナジーを土に変えてトイコスを唱える。
出現した壁に跳ね返され道路を逆走する形になったモスマンはけたたましいサイレンを鳴らしてやってくる『ライバル』を見た。
それは彼にとって生涯最後のライバルだった。
より正確に記すならようやく追いついたプロトマルスがパトカーの屋根の上で腰の前垂れに当たる部分からUSBメモリのような物を取り出し刀の鍔部分に差し込むとサイドアーマーへ戻すと同時に腰を落とす。
居合切りの『溜め』の様な状態でふくらはぎに備えられたブースターを吹かしながらその体勢のままモスマンへ迫る。
ここに時速百六十キロでモスマンが突っ込んだことで彼の体が横一文字に切り裂かrれ、文字通り真っ二つになった。
地面に着地したプロトマルスはマルスソードを腰に戻した。
断末魔を上げるモスマンの爆発のエナジーを吸収したレジリエンスは件のトラックを探すがどこにも見当たらなかった。
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カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
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