魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第13話 起動!地王パノプリア   地の四元将パノプリア 登場

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「あの混乱と今の状況から逃げ切れるとは思えない。まさか魔法使いがいるのか?」

「その通りだ。水の魔法の使い手がいるぞ。それも恐るべき熟練者だ」

芹沢達人の疑問に舞い降りてきたサンダーバードが答える。その姿は半透明となり消えかかっている。

「さっきはありがとう。しかし体が」

「我々精霊はお前たちが現世と呼ぶこの世界に短時間しか留まれないのだ。周囲の時間を止めて彼らはこの道を走って行った。水魔法は極めれば時間を支配する事さえできるのだ。行け。行って契約者の娘を救出するのだ」

そう言うと思念波をレジリエンスの額のクリスタルに放つとサンダーバードの姿は完全に消えてしまった。

「この魔力の波形はトラックの荷台が一瞬で元通りになった時と同じだ。問題はどうやって奴らを追跡するかだが」

達人としては一番気乗りのしない方法をとる以外他がなかった。

「あんたも手練れだな。そいつは文明存続委員会が造った鎧だよな。すまないが委員会の連中に連絡を取ってくれないか」

達人は先程空飛ぶ怪物を葬った鎧武者に話しかける。

黒い鎧武者は離脱する気なのかふくらはぎのブースターを展開している所だった。

「それなりに鍛錬は積んできました。敵を討つまでは負けられない。彼らを知っているのでしたら連絡できるのでは?」

飛び上がるのをやめて振り向かずに答える鎧武者の声は達人と同じくらいと思われる少女の物だった。

「諸事情でスマホや携帯の類は持っていない。そいつに内蔵している通信機で又聞きというでもないだろうから、そちらの持っているスマホなり携帯なりで連絡を取ってくれないか」

「では使用料十万円即金で。今の世の中一人旅するのも色々と入用なんですよ」

「申し訳ないがそんな金は持っていない。他の条件ではだめか」

「ならS県k市の一家惨殺について何か知っていますか?」


「それも知らない。すまない、君の助けになれそうもない」

「全くですよ。かなり騒がれた事件だったのですがどんな人生を送っていたんですか?まるで仙人みたいに社会から隔絶されて生きているみたいですね」

プロトマルスはもはや話にならないと首を振りつつ再度ブースターを吹かして林の方へ去っていった。

(万策つきたか。いや、ああいう性格の奴を連中は信用しない。どこかで監視しているはずだ)

そう思い周囲を見回す達人に一台のバンが停まり中から笠井恵美が声を掛けてきた。

「乗って。至急新宿へ行くわ」

「そこにEスリーの拠点が?」

「それはわからない。地の四元将が現れてね、新宿は壊滅状態よ。」

「一体だけなのか」乗り込みながら達人が尋ねる。

「ええ。通信障害が酷すぎてよくわからないのだけど確認できるのは一体だけみたい」

「Eスリーにはもう一人魔法使いかもしくは水の四元将を所有している可能性がある」

「それはまずいわね。でも共に攻撃に参加しないのはなぜかしら?」

「連中も一枚岩ではないかもしくは別の理由があるのか。何にせよ合流される前に止めなければ」

「飛ばすわよ。掴まって」笠井はアクセルを踏み込んだ。






ここはEスリーのアジトの一室。

マントの人物が荒い息を吐きながらボロボロに錆びた義手を外す。

そして壁の隠しスイッチを押し棚の中から銀色の新しい義手を左腕にはめる。

水の魔法である『修復』と最上位の魔法たる『時間操作』を使った影響に「普通の」金属製の義手は耐えられなかったのだ。

(まさか1日で2度も魔法を使うことになるとは。あの男がパノプリアに選ばれたという事は奴の心の中の過去の野心が蘇ったという事になる。あの鎧が求めるのはそういうものである以上組織にとって一番危険な存在でもあるという事だ)

そこで内線が入り代表の考えが途切れる。

「彼女をこの部屋にお通ししろ。丁重にな。それと鎧と悟朗隊長はどうだ?・・・よし準備出来次第起動させよ」

そう言って内線を切る。少しして隊員に案内されてエリクシリオが入ってくる。

「どうですか。ここは快適ではありませんか?我が同胞よ」

「親愛の情があるなら顔を見せなさい。その力を何に使うつもりですか?」

「事情があってそれはできません。同じ女なら事情を察して下さると結構なのですが。それよりも手を組みませんか?この世界の人間どもが自然を汚しているのをその目で見たでしょう。彼らを掃除し、管理してこそ真の安定と平和が訪れるとそうは思いませんか?」

「そんなつもりは全くありません。人も自然も支配しようとするその考えが神の怒りを買ったとは考えられませんか?あの鎧はそういう発想から作られたものだと私は考えます。この世界では怪物達と戦う以外で父の鎧が役立つとは思えません。あなた方が彼らと戦うつもりがないのならどうか装着者に契約を解除するよう説得してください。あれに使われている技術は向こうでは生きるために必要です」

「父?そうかあの男の娘か!?我々がこうなったのはにあの男のためだ。私は奴のために故郷も腕も失うことになったのだ。神は死んだ!神なき世界で否、私が神となって君臨する世界を作るのだ。そのためならあらゆる方便・手段も厭わぬ。見よ!」

その言葉の終わらぬうちに杖先から青白い炎の剣を生み出し自身に切りかかったエリクシリオに構わず代表は窓のブラインドを上げる。

そこには高層ビルや車・人が空に巻き上げられている光景があった。

「なっ!?あなたはまさか」エリクシリオが二つの衝撃に驚きの声を上げる。

外の光景と剣の熱で出来たマントの裂け目から青い鎧とそれと違う色の左腕の鎧を見たためだ。

「見たね。この秘密を知ったからには生かして返さん」

その声は老人にも若者にも聞こえる不思議なものだった。

ゾッとする悪寒から逃げるように飛びのいたエリクシリオの目の前で巨大な水泡が現れて消えた。

次の攻撃に警戒しながら後ろ向きに先ほど入ってきたドアを開け通路を走る。

その行く手に銃を構えた数名のEスリー構成員が立ち塞がる。

地下駐車場のトラック荷台の上で包囲された時に初めて見た彼女がこれを武器だと感じたのは槍や剣を向けられるのと同等の圧力をこの鉄の塊から感じたからだった。

彼らの銃口が火を噴くのとエリクシリオが物陰に隠れるのはほぼ同時だった。

「火を噴く剣を使う魔法使い達、彼女の部下か。パンタレイの魔法の気配がないのは左腕が代用品になっている影響で力を発揮できないから?ならば完成品たるパノプリアを止めなければ。達人か私どちらか一人ではあれを止めることはできない」

突破するには彼らを倒すか無力化しなければならないがここを出れば通路で待ち構えている魔法の(と彼女は思いこんでいる)餌食になる。

そっと通路を覗くと自分が来た方向からも構成員が来ておりいよいよグズグズしていられなくなった彼女は天井付近に青い鏡のようなものを魔法で作り出し、そこにエナジーを絞ったフロギストン三発を角度を変えて打ち込んだ。

鏡状の物はあらゆる魔法を跳ね返す反射鏡である。

当たった火球はそれぞれの角度で反射し構成員に直撃、その衣服や手を炎上させた。

慌てふためく彼らの横をすり抜け近くの窓ガラスを割ってエリクシリオは外へ飛び出した。




「なんじゃこりゃ」

時間としてはエリクシリオとEスリー代表の会見直前と同時刻。

それが箱を開けた熱海悟朗達Eスリー構成員全ての感想だった。

パノプリアはバケツを逆さにしたような双眼(ツインアイ)のフルフェイスの兜

馬の蹄を拡大・引き延ばしたような脚部

削り出した岩石をそのまま使ったような肩と人間の倍はある長い腕で構成された、人間が使う事を考慮しているのか分からない外見だった。

「お前ら選ばれなくてよかったと思っているだろ。だがな、わざわざ俺を選んだという事は人間に使えるという事だ。今から見せてやるぜ。『神の如き力』ってやつをな」

彼の装着の意思を感じ取ったのか箱が大型化し前面のシャッターが開く。足、腰、胸部、腕部、肩最後に兜が悟朗の

体に装着され最後に箱そのものが展開する。これは移動の際にどうしても引っかかるからだった

「発進!」その鈍重な見た目に反して高速でパノプリアが動き出す。

全身の力を吸い取られる感覚を覚えながら奇妙な高揚感が悟朗を支配していた。

これと同じ感覚がまだ自分が学生時代仲間を従えて公道をバイクで暴走していた時と同じものであるという事に思い至り、あの頃の彼の中にあった何物にも縛られず『自由に生きる』という決意が再び頭をもたげてきた。

それは社会という何重にも張り巡らされた壁で生きていくにあたり、何度も打ちのめされて彼の心の奥底に引っ込み、奥底でくすぶっていた物だった。

それが先ほどのトラック襲撃で見せた自分達のリーダーが見せた越常の力―代償があるようにも見えたがーを見せつけられれば同等かそれ以上の力を振るう事の可能な代物を前にして一気に噴き出してきたのだった。

実際問題として熱海悟朗含めてEスリーメンバーのほとんどは組織の理念に共感も興味もない。

ただ明日地球が滅ぶのにその中の一国家の法律や道徳観念を守ろうとするのがどれだけ馬鹿らしいかという点で、つまり環境保護を名目に好き勝手をしてしかも新世界の支配階層になれるという事で参加しているに過ぎない。

「全てを俺の自由にできる、その第一歩を踏み出したんだ。分かるぜ俺にはこいつの全てがな。行けよマグナムクラッシャー!」

パノプリアは道路を高速移動しながら進路上にあるビルに向け下腕部を『発射』する。

四元将共通の能力として鎧の属性に対応する魔法や技は無詠唱で発動できる。

この場合は鎧はその全能力を悟朗に開示し、面白そうな物を見つけた彼の意思を感じ取り本来ならば全く違う名前の武装を発射した。

パノプリアの腕は魔法の杖と鎧の腕を一体化させるという実験的な機構となっており悟朗の手はパノプリアの骨格
(フレーム)の内側で杖を握る形になっている。

射出後魔法を発現させる源というべき宝石が人間の肘に当たる部分で露出するのと構造上細かい作業ができないという点でこの試みはパノプリアのみで打ち切られている。

下腕部がビルに触れると同時にビルが灰色の粒子となりパノプリアに流れ込む。

目標物を分解しそれが自身の属性の土に関わりがあるならばそのまま吸収する魔法『デモルフィズム』(ギリシア語で分解の意)はこの鎧の腕・頭・胸甲と背中に同じ呪文が刻まれておりまさに大地の支配者と呼ぶべきものだった。

恐ろしく狭い視界で町を爆走しながら鎧の機能を確認していた悟朗はふと気になる機能を見つけた。

「重力制御能力?こんなモンまであるのか。こいつを使えば・・・重力逆転!」

途端周囲の人・車・街路樹果てはビルに至るまでが空に巻き上げられた。

その効果範囲はパノプリアを中心に直径百メートル程ではあったものの威力は絶大だった。

効果範囲から外れれば当然巻き上げられたものは落下する。

空から降るビルや車そして人が地上に激突するその二次被害は新宿の街を瓦礫の山に変えていく。

そして飛び回る『腕』が巻き上げられたビルやアスファルトを分解吸収するので一種の永久機関を持った地獄絵図が完成した。

オフィスの退勤時間とも重なる時間帯で突如行われたこの蛮行は凄まじい混乱を引き起こした。

舞い上がった塵で空は暗くなり、重力異常による電波障害も重なり通信もままならない事も被害の拡大につながった。

状況を把握すべく警察や消防も人員を派遣するのだが重力異常に巻き込まれ連絡はもちろん彼ら自身も犠牲になってしまう。

「ハハハハハッ、こいつは良いぜ。これを見せられちゃあどんな奴でも降参間違いなしだ。Eスリーにいや俺に全世界がひれ伏すんだ。サーテ最後の一押しと行くか」

パノプリアの視線の先にはこの状況から逃げ出そうとする人々で溢れかえる新宿駅があった。

そこへ悟朗は歓喜の表情で顔を歪めながら全速力でパノプリアを突っ込ませた。

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