魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第58話 引き裂かれる世界 合成UMAコンリット 類人猿型UMA XYZ1 登場

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アトランティス大陸首都ポセイドニア

この街の最も大きな建物にある指令所にティブロンがむっつりと入ってきた。

「日本へあんな指令を出していいのかね?むしろ彼らの力を引き出しかねないのでは?」

「お言葉ですがアゲシラオス博士、貴方の刺客とやらには失望しましたよ。バンイップはまだいい。我々の知らぬマルスの未知の力に倒された。今後の対応も考えられる。しかしヨーウィは何です?死にぞこないの野良UMAの横槍があったとはいえよりにもよって素のレジリエンスに倒されるとは!?」

「それだがね。レジリエンスのあの装着者魔法適性はどうなっていたのだ?」

アゲシラオスの質問に固まるティブロン。それは困惑というより怒りによるものだった。

「それが何か?」

「いかに改良されているとはいえレジリエンスのあの出力はあり得ん。これは改良案を送った私が断言するのだ」

「・・・・・つまり装着者の方に何かが起きていると?」

「そうだ。鎧の装着によって彼は常にエレメンタル・エナジーに曝され続けている。その事と何か関係があるかもしれん」

「まさか・・・・!いやそんな事があればこちらの計画に破綻が起きる。アトランティス人至上主義という今後の世界の基盤を揺るがしかねん」

「今度は私が行こう。これ以上UMA共をぶつけても意味はない。魔甲闘士を葬るのは魔甲闘士でなければならんという事だろう。ハスカールⅡ隊を2部隊借りていくぞ」

「何をするつもりです?」

「親子の話し合いだよ」

超魔甲闘士アポロは次元の穴を作りだすとその中に消える。続いて彼によって改良されたハスカール、すなわちハスカールⅡの部隊が2列に整列して穴の中へと入っていった。


芹沢達人はソフィアを連れてエリクシリオの町レフテリアへと戻る途中いきなり男が棒で殴り掛かって来た。

「早速来たか。俺を殺してもあんたが救われるわけじゃないぞ」

「うるせぇ!お前らがいるからこの国はこんな事になったんだ。お前みたいな疫病神はさっさと出ていけ」

そう言いながらなおも男は持っていた棒を振り上げる。

怒りに任せて手元が狂ったのか棒はソフィアへと振り下ろされる。

達人はその攻撃を止めるべく右手を彼女の前に出すと、その手の動きに沿って発生した一陣の風が男を吹き飛ばした。

「や、やっぱり化け物だ」

悲鳴を上げながら逃げ出す男と自分の手を交互に見つめる達人

(どうなっているんだ、俺の体は?)

原因を考える間もなく、ゾッとする感覚に顔を上げると周囲の空間が歪み、赤いビームが四方から放たれる。

「伏せろ!」

逃げていく男にそんな反射神経は無く閃光に貫かれる。達人はソフィアの目と耳を塞ぎながら庇うので精一杯だった。

「今度はトイコス・・・?咄嗟だったがあいつを守る事が出来なかった。魔法の範囲は相当狭いみたいだな」

(以前俺の血が青くなったことがあったがそれが原因か。そういえばティブロンも青い血を流していたな。だが今の感覚は違う。あれはアポロの物だ。まさかレフテリアに何かあったか?)

「怖い!今のは何!?」

「ソフィア、落ち着いて聞いてくれ。これから一緒別の場所に行く。それからレフテリアに帰ろう。ちょっとの間この箱に入ってくれ」
達人は金属箱から取り出したレジリエンスの鎧を装着すると空箱にソフィアを入れると空間転移の穴を開ける。

(いくらアゲシラオスでもいきなり同胞を殺したりするようなマネはすまい。今一番危険なのは八重島さん達が俺のせいでとばっちりを受けているかもしれないという事だ。頼む、間に合ってくれ)


達人の予感は当たっていた。

例の首相の演説直後、『お尋ね者を庇う一家』として八重島家は投石を受け全ての窓ガラスが割られ、更には数人の

暴徒までが入り込んできた。

「何だ君達は!?こんな事をしても状況は改善しないぞ」

「お前らさえ居なくなれば俺達は生き残れるんだ」

「一殺多生という奴だ。気の毒だがな」

家主の八重島修一郎に暴徒達は勝手な理屈を返す。

「お前たちは裏口から逃げろ。ここは私が」

「でも、あなた」

「イヤ、お父さんも一緒に」

「いつまで臭いシバイしてやがる、まとめて死ねよ」

暴徒の1人が鉄パイプを修一郎へ振り下ろす。

だがパイプは硬い金属音と共に弾き飛ばされた。

「なっ、こいつ何処から?」

「達人!」

「逃げろ、皆」

暴徒を一瞬で叩きのめすとレジリエンスと八重島一家は裏口へと向かう。

その途中何かを壊す音と怒号、続いて足音が聞こえてきた。

「もう裏口にも手が回っているのか?」

「八重島さん、足音は1つの様だ」

(よほどの腕自慢かあるいは・・・・)

レジリエンスは裏口へ通じる短い廊下へ飛び出すと同時に侵入者に杖を突きつける。

「お前か」

「どうも考える事は同じだったようですね」

レジリエンスへ銃を突きつけたマルスはブラスターをホルスターへと戻す。

「ケイ君?」

レジリエンスの後ろから紗良が安堵の声を上げる。

「さ、裏口にトレーラーが来るのでお早く」

全員裏口で伸びている暴漢を跨いて家を出る。レジリエンスは箱の中からソフィアを抱え上げると

マルスの通信を受けた文明存続委員会のトレーラーが八重島家の裏手の路地に停まる。

ここにも暴徒が集まって来ていたが、2大魔甲闘士に盾突こうなどという勇気のある者はいない。

レジリエンスは八重島一家を中へ入れると自身は屋根の上へ、マルスはガンウルフで外へ飛び出す。

「どうもありがとう、皆さん」

「いいえ、所長が生きてらしたらきっとこうするでしょうから」

八重島梓に笠井恵美が微笑み返す

「じゃああいつは・・・・」

「残念ですが。でも連中に一矢報いる事は出来ましたよ。アトランティスの連中もまさかあんな隠し玉があるとは思わなかったでしょう。最も所長は組織の誰も信用してなかったってことですがね」

修一郎を慰めるつもりが、上司に信用されていなかったことに気が付いて古川努は肩を落とす。

「それは皮肉というか、奴らしいというか」

「ええ。ようやくそのシステムも解析できた所です」

『でも1分でエネルギーを使い切るか装着を解除しなければいけないんでしょう?』

内部の様子を聞いていたマルスが割り込む。

「そう。アルトマルスはいわば意図的な暴走状態という訳だ。代わりにマルスシステム以外のあらゆる外部干渉を受けつけないがね。それで外の様子は?」

『ハスカール出現!あれはなんだ?』

古川が外の様子を車載カメラで見ると後方200m後ろにハスカールの一部隊がパラボラアンテナのような装置を持って立っていた。

そして群衆に向かって

「お前らは全員『普通の人間』だ。こうすれば選別も捗る」

約束が違う、という群衆の抗議にハスカール隊はパラボラアンテナから何かの電波を照射してそれに答えた。

群衆の1部は類人猿型UMA XYZ1へ、大部分は黒い霧となって消滅してしまった。

その光景に修一郎は顔をしかめながら

「どこへ向かっているんですか?」

「あの転移してきた大陸の一部です。我々を匿ってくれるのはあそこしかない。彼らはこっちに敵対的ではないからな」

「どうしてそう言えるの?」

「アトランティスの先兵ならとっくにこっちを攻撃しているでしょうしね。それが無いという事は希望はあるわ」

笠井は紗良に説明するがその言葉は自分に言い聞かせている様だった。



「これは約束が違う!これでは日本国民がいなくなってしまう。そちらに着けば我が国が各国から背負わされた賠償金の支払いも安全保障もしてくれるという条件は」

「首相、この条約によって貴国は我がアトランティスの保護国となったのだ。つまり大人と子供、子供を大人が『自由裁量』で躾けるのは万国共通ではないでしょうか」

「そんな事が」

「許される。私は神だ。一段劣った物をどう扱おうが勝手だろう?」

フルフェイスマスクからの声が明らかに変わった。断定的な物言いは変わらないのだが傲岸さが抜けて高貴ささえ感じられる。

総理官邸の一室で映像の形で魔甲闘神メサイヤと会談した日本国首相は絶望の声を上げる。

同時に目の前の『男』が何かとてつもない物に変容しつつあるとも感じていた。

「我々の目の上の瘤であるアメリカの対処はすぐに決着がつく。見たまえ」

メサイヤは空間に映像を映し出す。

そこにはアメリカ海軍と戦う、空飛ぶクジラの様な怪物がフォーカスされていた。

怪物は体の先端に巨大な単眼と側面に上下2列に並んだ無数の突起が特に目を引いた。

「あれは何です?」

「スコロペンドラ。君達の言語に直せばムカデクジラとでも言おうか。最もこの手の有識者達にはコンリットという名称の方が一般的なようだがね。我が国の誇る国家破壊用の戦略級UMAだ」

そんな会話の間にも米軍の攻撃をものともせずコンリットなる怪物は潮ではなく巨大な火炎弾を頭頂部の穴から吹き出しながら上の方の突起から何かの液体を噴射する。

液体が戦闘機や軍艦に当たると瞬く間に溶解していく。

更に単眼からも極太の熱線を放ち艦隊旗艦と思しき戦艦を爆散させた。

一方的な虐殺に首相は言葉を失い、立ち尽くしていた。

戦闘が終わるとコンリットは普通のクジラの様に海に潜り姿を消した。

「このままコンリットにはアメリカの穀倉地帯を襲わせる。それが終わればオーストラリアの鉱山。彼らには我々の保護国化を蹴った罰を受けてもらわなければな。食料と文明に不可欠な鉄が無ければ現生人類は立ち行かなくなるだろう事に気が付かない愚かさを全員で噛みしめると良い。そういう意味では貴国は賢明な判断をしたと言っておこう」

映像は北米へ上陸したコンリットが下の列の突起からの液体で作物を枯らし、土壌を汚染していく様子が映し出されていた。当然火炎弾をまき散らしながらである。

「まさか、あの怪物をここに差し向ける事はありませんよね?」

「それは貴国の態度次第だ。現在我々はあれを量産中だからな。ただ」

「ただ?」

首相はまた相手の雰囲気が変わった事を察したがその事に気を留めないように注意しながら聞き返す。

「貴国の領土内に我が国の領土が何かの間違いで出てきてしまったのでね。その周辺で派遣した部隊が不満分子とやりあう事になるだろう」

「それは困ります」

消え入りそうな声で抗議するが、当然相手にはされない。

もはや決定事項なのだ。

(俺は日本をアトランティスの脅威から守る為に後世の歴史にとんでもない大悪人として残るのではないか?)

とはいえこの決定が実はアトランティス側の誤算だった事を彼は知らない。

日本が世界最速でアトランティスの保護下に入った事は適当な理由をつけてレジリエンスらを攻撃しようとした彼らの思惑を外させることに成功した。

その為このような回りくどい方法を取らざるを得ないのだった。

結果的に大々的なアトランティスの攻勢を受けている諸外国程には被害は少ないのが現実だった。

(だがアトランティスが無くなれば日本が不利な立場になるのは変わらない)

もはやどうする事もできない状況に事態は動いていた。



エリクシリオの町へ向かうレジリエンス達にXYZ1の大軍が群がる。

「あんな姿になってまでアトランティスに忠誠を誓うのか」

「そりゃあ達人さんみたいに『武士は食わねど高楊枝』を人生訓にしている、なんてのは生きた化石みたいな生き方ですからね」

「そんな事をしたつもりは無いが。それより舌に気を付けろ」

マルスはレジリエンスの言葉に一瞬訝るがバイクに伸ばされる舌でその意味を理解する。

ガンウルフを跳躍させ、舌を躱すと後部のガトリングランス・ガトリングモードで舌が絡まり動きの鈍った怪物達を一掃する。

一方のレジリエンスもバンの進行方向に陣取る怪物の群れに火球や突風を撃ち込み吹き飛ばす。

(連中の性能は向上していないのか)

あまりのあっけなさに安堵すると同時にこの事態を引き起こしたハスカール隊がいなくなっている事に気が付く。

「ハスカール隊がいない?」

「考えている事は同じかもな。連中にとっては同胞だ」

古川はそう言ってバンの速度を速めた。
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