魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第59話 親子の決別 合成UMAバッツカッチ 超魔甲闘士アポロ 登場

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アトランティス帝国の最高技術顧問たるアゲシラオス博士は部下のハスカール隊を率いて娘の治める町へ特使として赴いていた。

エリクシリオとしても外交上の問題としてこれを受け入れるしかなかったが、ハスカール隊を町へ入れる事は断固として断った。

そして今、城塞の一室で親子はテーブルを挟んで向かい合っていた。

「エリイ、顔は分からんだろうが彼らは同じ同胞だよ。構成員は大陸の帰還と共に全て現生人類共から入れ替えた」

「それで彼らはどうなったのです?」

「我々の指定する特殊な才能の持ち主はいなかったのでね。全員UMA化してもらった」

「彼らと共存する気はないのですか?」

「ありえん。必要のない存在は徹底的に排除するのが我々のやり方だ。それは分かっているだろう?彼らが地球をどれだけ汚染し、他の動植物はおろか同胞も滅亡に追いやるのをティブロンは幾度も目にしているからな。それがこの結論なのだよ」

「アトランティスがなぜ異世界へ追放されたか、その反省が無ければまた同じ事の繰り返しです。戦争の為にあらゆる力を極限にまで振り絞った結果が国を現世から追放させる大災害をもたらしたのではないのですか。今の状況はあの時と全く同じだと思います」

「確かにな。当時は魔法の鎧の力を完全に制御できているとは言い難かった。だが今は違う。
完全なる力が我々にはあるのだ。さあ、『本国』へ住民共々行こうじゃないか。ここへいても現地民との軋轢が増すばかりじゃないのか」

父の言葉は本当だった。

実際問題として毎日のように住民同士の小競り合いは続いている。

f市側の混乱で話し合いもままならず、彼女の下した結論は原則外界へ出ないようにと通達するだけだった。

「相手を理解するなどというまだるっこしい事も我々の目指す世界ならなくなる。そんな複雑な思考をする者は上層の一握りのアトランティス人だけなのだから。そしてお前は間違いなくその中に入る。我々はお前の力を必要としているのだ」

「そうですね。私が今何を考えているかさえ知ろうともしないのですからね。私は、いえ私達はその申し出を受け入れる訳にはいきません。あなた方の作ろうとする世界は死の世界です。何も感じず、ただ生きるだけの存在しかいない世界に君臨することが重要だと思うのですか?」

「他者を支配したがる事こそ人間の本質だよ。それを全ての人間が、それもその価値も資格も無い者達がやろうとするから争いと苦悩が生まれるのだ。君の懸想する芹沢達人はそのいい例だ。彼の父親は外ではネズミ1匹支配できぬくせに内ではつまり家族に対しては比類無き暴君として振る舞っていたようだからな。その思考を奪ってやる事が連中にとって無上の幸福となるのだよ」

「そこまで分かっているのならその努力をするべきではありませんか!そうしないのはただの怠慢です。私は別の道を往きます。ですからお父様も」

「これ以上は待てん。止むを得んな」

その言葉と同時に突如コウモリの羽を背中に付けたゴリラの様な怪物がエリクシリオの背後に現れる。

「ッ!?何の反応も無かった?」

エリクシリオが動くより先にバッツカッチは手から小さな竜巻を放ち彼女を拘束する。

「バッツカッチ、彼女を殺せ。私は他の連中の相手をせねばならん」

その言葉と共に竜巻の勢いが増し、エリクシリオの苦痛の声を上げる。

アゲシラオスはその光景を振り返らずに部屋を出ようとするがそこへイオアンネスが入って来た。

彼は悪いとは思っていたがずっと父娘の会話を聞いていたのだった。

「正気ですか、旦那様!?今ご自身の娘を殺すようにと?」

「そうだ。君はついてくるよな、イオアンネス?生粋のアトランティス人にはここは息苦しい事この上ないからな」

「質問に答えて下さい!こんな事はあってはならない。こんな事が許される世界を作るというなら儂もこの場に留まりますぞ」

「そうか。ならば仕方あるまい。お前は老齢の身だ。もうそこまで生きられまいから手を下すまでもなかろう」

そう言うと彼は城塞の中庭へ飛び下りた。



町の門を守っていたハスカール2名は正体不明のバンを見るや警告なしに発砲した。

「既に占拠されていると見ていいな」

「でしょうね」

「マルスは大丈夫なのか?」

「ウイルス対策はしているけど、もし新型だった場合外部からワクチンプログラムを使うから」

芹沢達人の心配に横から笠井恵美が対策を伝える。

「なら行くぞ」

左右に揺れるバンの両扉からレジリエンスとマルスが飛び出す。

レジリエンスが左腕の壁(トイコス)で熱線を防ぎつつ右腕から火球(フロギストン)で1体を

マルスがマルスブラスターの早撃ちでもう1体が射撃前にそれぞれ倒す。

城門を飛び越えた2人は町中にひと気が無い事に気づく。

「どういう事でしょうね?ここは守るに値しないとでも?」

「上に行くほど重要な設備がある。そこかしこに路地があるからそこに待ち伏せているかもしれん。少し待て」

レジリエンスはそう言うと探知魔法プサクフで辺りを探る。

彼の血液の変化の影響か、以前よりも広範囲を探知できるようになっていた。

「妙だな。上の地区に行く坂の上下にしか連中は配置されていない?」

「人手不足なのでは?」

「もしくはアポロの力に絶対的な信頼を寄せているか」

「いるんですか、やはり」

「丘の上の城塞内だ。まずいな」

「次元移動は出来ないんですか?」

「非常時だからか町全体に特殊な結界が張られていて、使えない」

強行突破あるのみ

そう結論すると2人は大通りを駆け抜け件の坂に差し掛かる。

この坂は攻められた時を考え、急勾配かつ曲がりくねっていて、下からでは坂の頂上の様子が判らない構造になっていた。逆に上からは下の様子は筒抜けだった。

レジリエンスは杖先から水の銛を発生させ坂の曲がり角の石畳に投げつけると、銛と杖を結ぶ光る水の糸を巻き取り空中へ舞い上がる。

これと同時にマルスが坂の下のハスカールの1人をブラスターで撃ち抜き、1人を無線で呼んだパワードペッカーの
不意打ちで倒し、残る2人をパワードスマッシャーで吹き飛ばすと空に火線が何度か引かれるのを見て、警戒しつつ坂を上がっていく。


空中へ上昇したレジリエンスの体を熱線が掠める。

銛を巻き取ると下降しながら再度銛を熱線が来たポイントへ投げる。

銛はハスカールのすぐ傍に刺さり巻き取る勢いでその1体を体当たりで吹き飛ばす。

騒ぎを聞きつけた2人のハスカールが侵入者を挟んで同時に現れ、熱線銃の引き金を引く。

レジリエンスは『カスレフティス』(ギリシア語で鏡の意)の魔法を左腕に縦の様に出現させ熱線を反射、1体へ直撃させるともう1人を坂下へ蹴り飛ばす。最後の一人が自分を狙って照準を付けているのを見た彼は火球を放つ。

ハスカールは炎を上げて倒れた。

「手慣れているな。その順応速度はやはり危険だな」

城塞から超魔甲闘士アポロが現れた。

そして城塞内で一瞬赤い光と青い光が灯ると

「まだ知能面に問題があるか」

彼は振り返りながら嘆息する。



エリクシリオを苦しめるバッツカッチは調子に乗りすぎていた。

彼は目の前の獲物が炎で焼かれる様を見てみたくなり、手から火球を放った。

だが火球は彼女の目の前で火の四元将アイディオンの姿となり、主を守るようにひとりでに装着されていく。

装着完了と同時に赤い光が室内を照らし、それに目が眩んだ怪物は再び目を開けることなく鎧の放った青白い炎を受けて消滅した。

アイディオンはアポロを追って中庭に出た。

城塞の入り口にはレジリエンスと遅れてやって来たマルスが、そしてアポロを挟み込むようにしてその背後にアイディオンが立つ。

「さあ、来たまえ。君達3人に勝ち、このアポロが唯一無二の魔甲闘士となる。その為に改良を重ねたのだからな」

「お父様。貴方を倒すしかないというのなら、ここで決着をつけましょう」
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