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黄色の少女(2)
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ブランは目の前の少女の姿に目を奪われたまま、少しの間立ち尽くす。
彼女の長い黄色の髪は、太陽の光を浴びてまるで金色に輝いているかのようで、その瞳の黄金色は、どこか神秘的な何かを感じさせるものだった。
『君は、誰?』
ブランはようやく声を発した。
その問いは、静かな空気へと溶け込んでいく。
少女は驚いたような表情を浮かべ、そして、優しく微笑んだ。
少女のその微笑みが何処か心地よいものだと、ブランは不思議と感じる。
『独りぼっちな男の子がいたから追いかけてみたの』
彼女の声には、どこか穏やかで安心感を与える響きがあった。
だが、その声にはどこか、演じているような違和感が混ざっている気がする。
まるで、彼女自身が本当の自分を隠しているかのように。
『そしたらこんな綺麗な草原があるだなんて。思ってもいなかったから驚いた』
後ろで手を組みながら、少女はふわりと近づいてくる。
舞い上がった花弁の中を歩く姿は、その黄金の髪と光を帯びた瞳の美しさと相まって、まるで女神の使途だと錯覚してしまう。
『あっ、私の名前はクレア。クレア・ウィル・ヴァルラーク』
少女はにっこりと微笑みながら、自然な調子で自身の名前を告げる。
そんな彼女の姿に、ブランはただ見入ってしまう。
『君は、私に名前を教えてはくれないの?』
ブランは一瞬、言葉を失ったまま彼女を見つめてしまう。
天使のような少女が、自分の返答を待っている。しかし、突然の出会いと彼女の圧倒的な存在感に圧倒され、彼は自分が名前を言うべきだということを忘れそうになっていた。
『……あ、俺は……』
声がうまく出ず、焦りが胸を駆け巡る。
しかし、そのまま黙っているわけにもいかない。
なんとか声を絞り出そうとするが、喉が詰まったような感覚のせいで、言葉がうまく出てこない。それでも、必死に名前を告げようと決意し、喉から無理やり言葉を押し出した。
『ブラン……ブラン・アルフテッド』
ようやく喉から出たのは、搾りかすのような、そんな声。 それでも彼女はその声を聴き、優しく微笑みながら言葉を返してくれた。
『……ブラン・アルフテッド。うん、いい名前だと思う』
思えば初めてだったのかもしれない。
他者から褒められるということは。
だからなのか、ブランはそのことで自分でも理解できないほどに、どうしようもなく嬉しいと感じた。
まだ十歳にも満たない少年が過ごしてきた人生は、決して良いものではなかった。孤児院での日々は、妹を蝕む病への不安と、周囲から向けられる冷たい視線で満たされていく。ヴィオレの病は少しずつ、しかし確実に進行していき、その重みがブランの心に深くのしかかっていた。少しでも彼女を喜ばせたいと、こうして花を集めても、それは幼い慰めに過ぎないのではないかという思いが、自分の無力さを一層強く感じさせる。
悔しさと虚しさが日を追うごとに胸中で積み重なり、どうにかする方法も知らずに不安と焦燥に支配されていたブランにとって、たとえそれがどれほど小さな褒め言葉であっても、その言葉は当時の彼の心を救うにはあまりにも大きなものであった。
彼女にとっては、特別な意味を持たないただの言葉。
であっても、その言葉はブランの心の奥底に深く響き渡り、まるで真っ暗な闇に差し込んだ一筋の光であった。
『……ありがとう』
かすかな声で、そう返すことしかできない。
だが、それでも確かに、心に広がる温かな『何か』をブランは感じる。
『それでなんだけど』
そう言葉を発する少女は、自身の髪をいじりながら、身体をくねらせる。
『私もこの場所に、これから来てもいいかな?』
『…えっ?』
『だって、こんな綺麗な場所を知っちゃったら、絶対これからも来たくなるもん!でも、私は君のことを追いかけてこの場所を知ることが出来たから、君の許可を得ないといけないと思う』
確かにこの草原はブランの秘密の場所ではあったが、だからといってこの草原がブランのものであるわけではない。それでも、こうして自身に許可を求める少女はどこか抜けていて、とても面白く感じられた。
――見た目だけで判断するのはやっぱり良くないんだな。
ブランは少し考え込みながら、苦笑いを浮かべた。彼の内心には驚きと喜びが混じっていたが、その場の雰囲気に合わせて穏やかに応えた。
『いいよ――と言っても、許可を取る必要なんてないのに。でも、君が来たいと思うなら、ここに来たらいい。俺もここには妹のために来るから、ここを知る仲間が増えるのは嬉しい』
ブランはにっこりと笑い、少女に向かって手を差し出した。クレアはその言葉に喜び、目を輝かせて微笑んだ。
『ありがとう!あと、私のことは君じゃなくて、クレアって呼んで。私もこれからはブランって呼ぶ。だからブランもこれからは私のことをクレアって呼ぶこと』
気づけば、砕けた口調に変わっていた少女。さっきまでの違和感はもう感じられず、今の彼女が本当の姿なのだろうと、ブランは思った。彼女の笑顔に触発されたブランも、自然と心が温かくなるのを感じる。二人はそのまま、花が咲き誇る草原の中へと歩みを進めた。
――ゴーン、ゴーン、ゴーン
思考を現実に引き戻すかのように、授業の終了を知らせる鐘の音が突然耳に響いた。
人は考えに耽り、集中すればするほど、時計の針が動く感覚が何倍も早く感じられる生物だ。当然、人であるブランにもそれは当てはまる。
ブランは急いで黒板へと視線を戻した。まだノートに書き写せていない部分がずらっと黒板に残っている。幸いだったのは、今日の時間割は魔歴学が終わればそれで最後だったこと。だから、急いで書き写す必要はないと思われるが、それはあくまで他に予定がない場合に限られる。
教室の鐘の音が鳴り終わり、次第に静寂が広がっていく中で、ブランは急いでノートの整理に取り掛かった。次の予定が近づいているため、できるだけ早く仕上げなければならない。筆を走らせながら、彼の頭はすでに次の予定について考えを巡らせていた。
「ごめん、遅くなった」
家と言うには、浴室やトイレを除けば一部屋しかない小さな家。そんな家へと、たくさんの食材が入った紙袋を抱え帰ってきたブランは、戻るなりそう言葉をかける。彼の視線は、部屋の奥側に置かれた寝台へと向けられていた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
そこには、上半身を起こしてこちらを見つめる少女がいた。
====================
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
白が一番好きな色。
彼女の長い黄色の髪は、太陽の光を浴びてまるで金色に輝いているかのようで、その瞳の黄金色は、どこか神秘的な何かを感じさせるものだった。
『君は、誰?』
ブランはようやく声を発した。
その問いは、静かな空気へと溶け込んでいく。
少女は驚いたような表情を浮かべ、そして、優しく微笑んだ。
少女のその微笑みが何処か心地よいものだと、ブランは不思議と感じる。
『独りぼっちな男の子がいたから追いかけてみたの』
彼女の声には、どこか穏やかで安心感を与える響きがあった。
だが、その声にはどこか、演じているような違和感が混ざっている気がする。
まるで、彼女自身が本当の自分を隠しているかのように。
『そしたらこんな綺麗な草原があるだなんて。思ってもいなかったから驚いた』
後ろで手を組みながら、少女はふわりと近づいてくる。
舞い上がった花弁の中を歩く姿は、その黄金の髪と光を帯びた瞳の美しさと相まって、まるで女神の使途だと錯覚してしまう。
『あっ、私の名前はクレア。クレア・ウィル・ヴァルラーク』
少女はにっこりと微笑みながら、自然な調子で自身の名前を告げる。
そんな彼女の姿に、ブランはただ見入ってしまう。
『君は、私に名前を教えてはくれないの?』
ブランは一瞬、言葉を失ったまま彼女を見つめてしまう。
天使のような少女が、自分の返答を待っている。しかし、突然の出会いと彼女の圧倒的な存在感に圧倒され、彼は自分が名前を言うべきだということを忘れそうになっていた。
『……あ、俺は……』
声がうまく出ず、焦りが胸を駆け巡る。
しかし、そのまま黙っているわけにもいかない。
なんとか声を絞り出そうとするが、喉が詰まったような感覚のせいで、言葉がうまく出てこない。それでも、必死に名前を告げようと決意し、喉から無理やり言葉を押し出した。
『ブラン……ブラン・アルフテッド』
ようやく喉から出たのは、搾りかすのような、そんな声。 それでも彼女はその声を聴き、優しく微笑みながら言葉を返してくれた。
『……ブラン・アルフテッド。うん、いい名前だと思う』
思えば初めてだったのかもしれない。
他者から褒められるということは。
だからなのか、ブランはそのことで自分でも理解できないほどに、どうしようもなく嬉しいと感じた。
まだ十歳にも満たない少年が過ごしてきた人生は、決して良いものではなかった。孤児院での日々は、妹を蝕む病への不安と、周囲から向けられる冷たい視線で満たされていく。ヴィオレの病は少しずつ、しかし確実に進行していき、その重みがブランの心に深くのしかかっていた。少しでも彼女を喜ばせたいと、こうして花を集めても、それは幼い慰めに過ぎないのではないかという思いが、自分の無力さを一層強く感じさせる。
悔しさと虚しさが日を追うごとに胸中で積み重なり、どうにかする方法も知らずに不安と焦燥に支配されていたブランにとって、たとえそれがどれほど小さな褒め言葉であっても、その言葉は当時の彼の心を救うにはあまりにも大きなものであった。
彼女にとっては、特別な意味を持たないただの言葉。
であっても、その言葉はブランの心の奥底に深く響き渡り、まるで真っ暗な闇に差し込んだ一筋の光であった。
『……ありがとう』
かすかな声で、そう返すことしかできない。
だが、それでも確かに、心に広がる温かな『何か』をブランは感じる。
『それでなんだけど』
そう言葉を発する少女は、自身の髪をいじりながら、身体をくねらせる。
『私もこの場所に、これから来てもいいかな?』
『…えっ?』
『だって、こんな綺麗な場所を知っちゃったら、絶対これからも来たくなるもん!でも、私は君のことを追いかけてこの場所を知ることが出来たから、君の許可を得ないといけないと思う』
確かにこの草原はブランの秘密の場所ではあったが、だからといってこの草原がブランのものであるわけではない。それでも、こうして自身に許可を求める少女はどこか抜けていて、とても面白く感じられた。
――見た目だけで判断するのはやっぱり良くないんだな。
ブランは少し考え込みながら、苦笑いを浮かべた。彼の内心には驚きと喜びが混じっていたが、その場の雰囲気に合わせて穏やかに応えた。
『いいよ――と言っても、許可を取る必要なんてないのに。でも、君が来たいと思うなら、ここに来たらいい。俺もここには妹のために来るから、ここを知る仲間が増えるのは嬉しい』
ブランはにっこりと笑い、少女に向かって手を差し出した。クレアはその言葉に喜び、目を輝かせて微笑んだ。
『ありがとう!あと、私のことは君じゃなくて、クレアって呼んで。私もこれからはブランって呼ぶ。だからブランもこれからは私のことをクレアって呼ぶこと』
気づけば、砕けた口調に変わっていた少女。さっきまでの違和感はもう感じられず、今の彼女が本当の姿なのだろうと、ブランは思った。彼女の笑顔に触発されたブランも、自然と心が温かくなるのを感じる。二人はそのまま、花が咲き誇る草原の中へと歩みを進めた。
――ゴーン、ゴーン、ゴーン
思考を現実に引き戻すかのように、授業の終了を知らせる鐘の音が突然耳に響いた。
人は考えに耽り、集中すればするほど、時計の針が動く感覚が何倍も早く感じられる生物だ。当然、人であるブランにもそれは当てはまる。
ブランは急いで黒板へと視線を戻した。まだノートに書き写せていない部分がずらっと黒板に残っている。幸いだったのは、今日の時間割は魔歴学が終わればそれで最後だったこと。だから、急いで書き写す必要はないと思われるが、それはあくまで他に予定がない場合に限られる。
教室の鐘の音が鳴り終わり、次第に静寂が広がっていく中で、ブランは急いでノートの整理に取り掛かった。次の予定が近づいているため、できるだけ早く仕上げなければならない。筆を走らせながら、彼の頭はすでに次の予定について考えを巡らせていた。
「ごめん、遅くなった」
家と言うには、浴室やトイレを除けば一部屋しかない小さな家。そんな家へと、たくさんの食材が入った紙袋を抱え帰ってきたブランは、戻るなりそう言葉をかける。彼の視線は、部屋の奥側に置かれた寝台へと向けられていた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
そこには、上半身を起こしてこちらを見つめる少女がいた。
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ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
白が一番好きな色。
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