双子の黙示録~追いやられた王女とチャラい男の紡ぐ章~

頼爾

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第一章 人類は最初の殺人を繰り返そうとする

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 死んだ妹の方を見て、神は大いに嘆いた。
 人間のあまりの愚かさを嘆いた。
 なぜこうなってしまったのかと。このように人間を作ってはいないはずなのに。

 神の愛した妹の方を双子の兄が殺してしまったのだ。くだらぬ嫉妬と劣等感で。
 神は妹の勤勉さと素直さを愛していたのに。妹の供物の方が気に入っただけだったのに。
 

 神は人間を作った。
 自分に似た姿形の人間を。
 しばらくは穏やかに暮らしたが、何でも満ち足りている神の楽園で、だんだんと人間は感謝を忘れ傲慢になっていった。

 そこで、神は楽園から一組の男女を追い出した。
 追い出された後、男女は追い出された責任の押し付け合いをしつつも協力するしかなく、やがて女は双子の男女を産んだ。

 人間を追い出した神はそれをずっと見ていた。
 彼らがお互いに感謝し愛し合い、神にも感謝して楽園に帰ってきてくれると信じて。

 しかし、人類最初の殺人がまさかの双子間で起きてしまった。
 神は後悔した。
 お互いがいることへの感謝・愛を知ってほしくて退屈しのぎに人間を追放したのに、なぜ殺人を犯すのか。

 神は双子の兄とその子孫に特別な天秤を課した。
 今度こそ、妹を殺さぬように。今度こそ双子で殺し合いが起きぬように。
 
 しかし、人類は最初の殺人を繰り返そうとする。

***

 王女としての私の人生が希望に満ち溢れていたのは、十二歳までだった。

 私が住んでいる建物は離宮であること、離宮から決して出てはいけないこと、母が月に一回訪ねてくるが父はこないこと、一つ上の兄もいるらしいが会いに来ないこと。

 私はそれらに全く疑問を抱かず、籠の中の鳥だった。

 私はこのラグナ王国の王女で、大きくなったら友好のために他国に嫁ぐのだから、ここでしっかりと勉強しなければいけない。そう言い聞かされて育ったから、王女としてこの生活は当たり前のことなのだと思っていた。

 私の周囲には、乳母を務めてくれた者とその夫がいて、使用人や騎士もいた。教育係も一緒に離宮に住んでいた。勉強して食事をして、剣や護身術の鍛錬をしてまた勉強する。夜会や茶会というものは成人してから行くのだと教わった。

 私は十二歳まで絶対に愛されて育った。胸を張って言える。
 でも十二歳のあの日、あの悪魔がやって来たのだ。


「お前がフリストか」

 フリストとは私の名前だ。フリスト・ラグナ。
 私と同じ真っ赤な髪に金色の目。
 髪の長ささえ無視すれば全く同じ顔の偉そうな態度の男がやって来た。年は私と同じくらいに見える。
 多分、家族なのだろう。これが一つ上の兄アレスか。

「お兄様でしょうか? はじめまして、フリストです」

 初めて会う兄、母以外の家族。
 自分とそっくりなので、初めて会った気はしなかった。見下すような視線が気になったものの、微笑んでそう呼び掛けて挨拶をすると、鼻で笑われた。

 妹を見る目ではなかった。まるで汚いものを見る目だ。
 ぞわりと背中を嫌な予感が駆け抜ける。

 兄は私のことが好きではないようだ。初対面なのに、どうして?

「病弱な妹は離宮で療養しているねぇ……お前、どこからどう見ても病弱に見えないな」
「アレス……どうしてここに? まさか尾行を?」

 私に会いに来てくれた母は、なぜか兄を恐れていた。

「おや、母上。俺が妹に会いに来てはいけないのですか? 病弱な妹の見舞いにもこない薄情な兄だと?」
「うつるかもしれないから、来てはいけないと言ったでしょう」

 母と兄の会話についていけない。
 私は風邪一つ引いたこともなければ、重い病にかかったこともない。
 一体、何がうつるのだろうか。いつも悲しそうに微笑んでいる母は、何となく焦っているように見えた。
 まるで、私と兄が会うのが不都合であるかのような態度だ。
 兄は後継者として熟すために忙しいから、私に会いにこないのではなかったのか。

「うつる? 調べさせたら、これは風邪一つ引かない健康優良児。監視させたら庭で元気に剣の鍛錬までしている。病弱と偽って匿ったわけですか、この、双子の妹を」

 双子? 何のことだろうか。
 私と兄アレスは一つ違いの兄妹であるはず。私に双子の片割れがいる?

「違うわ、アレス。あなたの双子の妹は亡くなったのよ。フリストはあなたの一つ下の妹よ」
「それも調べさせましたから嘘だと分かっています。これが俺の双子の妹ですね? 母上が迷信だからと、双子の妹を殺してくれるなと頼んでここに匿った」

 母と兄の会話についていけない。
 交互に眺めて呆然と見ていると、徐々に言い合いは激しくなった。兄が怒り、母は必死になだめようとしている。

「双子のうち、後から生まれた者は始祖のように将来のもめ事になるから殺す。王家ではそういう決まりだったはずなのに、なぜこんな阿呆を庇うのですか!」

 私を鼻で笑った兄はこちらを一瞥した。暗い目だった。
 ほとばしる悪意に二歩後退る。
 今日初めて会ったのに、どうしてここまで悪意を向けられなければならないのか。私は誰からも今までこんな悪意を向けられたことはない。
 しかも双子? そんな話は聞いたことがない。

 なぜ母はそんなことを偽ったのだろう。
 双子の兄がいるなら、いると言ってくれればいいのに。

 異様な雰囲気に後退りをすると、ドンと何かにぶつかった。
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