SAVE_YOU

星逢もみじ

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二廻目 初恋の香り

第38話 スタッフルームの秘密

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「――古森っ‼」

 腹部から血を流して倒れる古森に駆け寄り、咄嗟とっさに傷口を押さえる。頭が真っ白になるほど嫌悪感を感じる、ヌメリとした生暖かい血が両手に伝わってきて顔をしかめる。

「何があったの⁉」

 その瞬間を見ていなかったのだろう。少し遅れて蛍が声を上げる。

「無﨑が古森を撃った……!」

 簡潔に見たことだけを話す。

「そんな……!」
「くそっ、血が止まらない」
「っ、どいて!」

 俺の言葉に蛍が押しのけるように俺と古森の間に身を入れ、手際良く止血作業に取り掛かる。慣れているのか、迅速つ適切な判断というのは傍目はためからでも分かったが、それでも血の量はおびただしく、最悪の事態を容易に想像させた。

「……蛍、ここを任せていいか?」
「ええ! ……えっ?」

 口にしてから何かを察したのか、蛍は俺の顔を見る。だが俺の視界にもう蛍は映っていない。映っているのは、古森を撃った男――無﨑の後ろ姿だけだった。

 視界の隅で真木さんを見る。喧噪けんそうでかき消されていたが、彼女の悲痛な声は確かに俺の耳に届いていた。今は茫然ぼうぜんとした様子で古森を見つめる彼女に突き動かされ、弾かれるようにからだが動く。

「二人を頼んだ」
「まさか……。――ま、待って! 志樹っ‼」

 蛍の制止を振り切り無﨑を追いかける。騒ぎを聞きつけて集まってきた野次馬が邪魔なのか、距離は遠いが幸い姿は見失っていない。相手は拳銃を所持している。危険なのは重々承知だが、あのまま黙って見ていることも出来なかった。

 蛍が追ってこないかが気がかりだったが、二人の事を任せた以上、放って追いかけてくるということはないだろう。

「あっ、くそっ……!」

 そうこうしている間に、無﨑は目の前でエレベーターに乗り込んでいってしまった。このまま見ていれば何階で止まるかは分かるが、降りる階が分かっても、それから追うのでは簡単に逃げ切られてしまうだろう。

「どうする……! っ、そうだ! ルメ‼」

 大声で叫ぶ。すると、すぐにルメが姿を現した。

「どうしました?」
「今動いてるこのエレベーターが何階で止まるかだけ教えてくれ」
「こちらのエレベーターは一階で止まる予定ですが」
「ありがとう!」

 ルメの言葉を聞くや否や、すぐに空いているエレベーターに乗り込み一階のボタンを押す。

「はぁっ……はぁっ……!」

 無機質な稼働音を聞きながら息を整える。ホログラムによって映し出された景色を見ても心はまるで落ち着かない。現実と向き合っている時に幻想を映し出されても、ただ目をらしているだけだと解ってしまうからだろう。

「……すぅ~……ふぅ……」

 操作パネルを押し、ホログラム機能を切って現実の風景を見ながら、深呼吸をして冷静に考える。――どうやって無﨑を捕まえるか。

 過去に武道をかじったことはあるが、相手は拳銃を持った人間だ。達人の域にあるような人でも勝算は限りなく低いだろう。リリィを頼ろうかとも思ったが、それがだということはすでに理解している。

 どうして拳銃が持ち込まれているのか。どうしてそれを使用したにも関わらず、無﨑は無事に逃げおおせているのか。それは無﨑が〝秘匿〟されているから。リリィに限らず、ルメも無﨑のような秘匿された存在が相手では完全に無力なのだ。

「秘匿か……」

 VIPにのみ与えられる、AIから感知されなくなる機能。無﨑がそれに値するかどうかは改めて考えるまでもない。――つまり、今の無﨑にPLOWや客を守るはずのAIは完全に意味が無い。

 状況を整理していると、時間切れとばかりにチンッという軽快な音と共にエレベーターの扉が開く。

「くっ……!」

 考えている場合ではないと急いで外に飛び出ると、無﨑はちょうどエレベーターに隣接する〝関係者以外立ち入り禁止〟と書かれたスタッフルームに入っていくところだった。以前、リリィに気にしなくていいと言われた部屋。どうしてそんな場所に逃げ込んだのか分からないが、絶対に逃すまいと後を追う。

 ――だが、追っていった部屋の中には誰もいなかった。

「まさか、そんな事……!」

 部屋の中は広いが、薄暗く見通しが良いとは言えない。掃除用具が入れてある物置部屋と聞いていたが、そこには隠れられる場所どころか、不自然なほど何も無かった。

「幻覚……なわけないよな」

 自分の目を疑いながら壁伝いに歩いていると、ガコンという音と共に身を任せていた壁が抜けたような感覚を覚え、危うく倒れそうになるからだを寸でのところで踏みとどまると、そこには階下へ続く螺旋状の階段が伸びていた。

「な、なんだこれ……?」

 ここは物置部屋ではなかったのか? いや、そもそもPLOWに地下なんて無かったはずだ。……おそらく無﨑はこの先にいるのだろうが、流石にこうまで怪しいと進むべきか迷ってしまう。

 ――この島に警察はいない。だとすれば無﨑が捕まるのはいつになる? それまでに同じ事を繰り返さないという保証はないし、PLOWの創設者ならこうした秘密の部屋の一つや二つはあるのだろう。そこから島の外に逃げてしまう、という可能性も考えられる。だが……。

 だからこそ退くべきだという理性が働きかけたところで、脳裏に血に濡れた古森の姿と真木さんの悲痛な声を思い出す。

「……いや、行こう」

 肌寒い冷気が階段の下から上ってくる。嫌な予感が肌をヒリつかせるが、もうその足が止まることはなかった。
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