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四廻目 零れた境界線
第72話 第一関門突破
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「例えば! 例えばの話だからな!」
予想以上に大きな声を出す春佳を落ち着かせる。この驚き方からして春佳は何も知らない――いや、逆に知っていると取れるかもしれないが、春佳がそんな隠し事をできるタイプとは思えない。
「びっくりしたぁ……そんなことあるわけないじゃん。ね、リリィ?」
「ええ。そもそも、そんな危険物を持ち込もうとしても入場ゲートで弾かれますし、そんな事を知っていたらとっくに対応していますよ」
「そうか。そりゃそうだよな」
ほっと胸を撫で下ろす。
この時点では何も起きていない。つまり、この会話を無﨑は聞いていないということだろう。後で秘密裏に……とも考えられたが、とりあえずは無事だ。
「なに? 気になることでもあったの?」
春佳が聞いてくる。ここまでは期待した通りの展開だった。
「いや、ただ昨日霧山さんとそんなことを話してたんだ」
「爆弾についてえ? ふぅん、まあいいや。……え、っていうかいつの間に紬と会ってたの?」
「前に霧山さんから直接話しかけられてな。最初は春佳の素行について話してたんだけど、その流れで」
完全な嘘八百で確認されたらすぐバレるが、春佳が連絡を取る間のこの一時だけ凌げればいい。
「なぁんだ、もう紬と会ってたんだ。――ってどんな流れよ! 仮に品行方正を地でいくあたしにちょ~っと悪いとこがあったとしても、志樹と紬が話し合う必要はないでしょ!」
「ま、まぁとにかく、その事についてもちょっと聞きたいことがあるんだ」
「うーん。……ま、聞いてみれば分かるか」
言いながら、春佳は携帯を耳に当てる。
すでに春佳から俺の話を聞いて興味をそそられている霧山さんが今言った爆弾の件を聞いたら、以前よりも興味を持ってくれる可能性が高くなるはず。興味のある人間が興味のあることを言っていたら、二倍興味が沸く。そう思っての嘘だった。
それに、もし無﨑と霧山さんが共犯者なら、尚の事直接会って話を聞きたいと思うはずだ。
「……うん……そう、それで――ええ……?」
電話をする春佳がジト目をしながらこちらを見てくる。
俺が口にした話と霧山さんの言っていることの内容が噛みあわないのだろう。
「――志樹ぃ~?」
電話を終えた春佳が呆れ気味に俺の名を口にする。
「どうした?」
「どうした? じゃないでしょ! 紬はそんなこと話してないって言ってたよ? 会ったこともないって」
「あー、そうか。じゃあ別の人と勘違いしてたかな?」
「んなわけないでしょ! はぁ~、まったく……。まぁいいや、明後日のお昼なら時間取れるってさ」
「え⁉ 会ってくれるのか……⁉」
「うん。忙しいはずなんだけど、面白そうだから会ってみたいってさ。……あれ、あたしが志樹のこと話したのは関係ないよね……?」
後半は小声だったが、バッチリ聞こえている。おそらくそれは大いに関係があるだろうから、素直に感謝しておこう。
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして。お礼は――」
「リリィも」
春佳を遮ってリリィにもお礼を言う。
「えっ⁉ い、いえ、私は何もしてないですから!」
急に話を振られたからか、リリィは驚きながら手を胸の前でブンブンと振っていた。
「そんなことないさ。彷徨ってた春佳を連れてきてくれたんだから」
「ちょっと⁉ 人を迷子みたいに言わないでくれる⁉ 仕事してたんですけど仕事!」
「まぁまぁ、春ちゃんそんなに怒らないで」
「お、怒ってないわよっ!」
ぷんぷんと怒ってみせる春佳を優しく宥めるリリィ。その光景に思わず頬が緩む。まるで親子のよう……などと考えてしまうのは気が緩んでる証拠なのかもしれない。
だが、なんにせよこれで霧山さんと会う約束を取り付けることはできた。霧山さんがUtopia計画と無関係であるならそれに越したことはない。その場合は地下のことを話せば済む話だ。
……最悪、もし万が一関係があったとしても、俺には天寿症に罹っていた病歴がある。今の俺の言動は狂人のそれに近いし、この世界で地下に行ったことは無いのだから、当然侵入の痕跡も見つからないだろう。頭のおかしなフリをすればなんとか凌げる……と考えるのは甘いだろうか。
しかし、無﨑と霧山さんが共犯だった場合は、リリィやルメも含めて最先端のAIを自由に扱えると言うことだ。もしそうなったら、完全に一人でどうこうできる問題ではなくなる。その時は知っている人間だけでも――いや、古森も木流さんも譲れない想いがあった。どう説明しても理解は得られないだろう。
……やはり、どうにかしてこの問題を解決するしか道はないのだ。
――春佳とリリィに別れを告げた後、そういえばと思い至り向かった先は五六階。ミキのいるフロアだった。
予想以上に大きな声を出す春佳を落ち着かせる。この驚き方からして春佳は何も知らない――いや、逆に知っていると取れるかもしれないが、春佳がそんな隠し事をできるタイプとは思えない。
「びっくりしたぁ……そんなことあるわけないじゃん。ね、リリィ?」
「ええ。そもそも、そんな危険物を持ち込もうとしても入場ゲートで弾かれますし、そんな事を知っていたらとっくに対応していますよ」
「そうか。そりゃそうだよな」
ほっと胸を撫で下ろす。
この時点では何も起きていない。つまり、この会話を無﨑は聞いていないということだろう。後で秘密裏に……とも考えられたが、とりあえずは無事だ。
「なに? 気になることでもあったの?」
春佳が聞いてくる。ここまでは期待した通りの展開だった。
「いや、ただ昨日霧山さんとそんなことを話してたんだ」
「爆弾についてえ? ふぅん、まあいいや。……え、っていうかいつの間に紬と会ってたの?」
「前に霧山さんから直接話しかけられてな。最初は春佳の素行について話してたんだけど、その流れで」
完全な嘘八百で確認されたらすぐバレるが、春佳が連絡を取る間のこの一時だけ凌げればいい。
「なぁんだ、もう紬と会ってたんだ。――ってどんな流れよ! 仮に品行方正を地でいくあたしにちょ~っと悪いとこがあったとしても、志樹と紬が話し合う必要はないでしょ!」
「ま、まぁとにかく、その事についてもちょっと聞きたいことがあるんだ」
「うーん。……ま、聞いてみれば分かるか」
言いながら、春佳は携帯を耳に当てる。
すでに春佳から俺の話を聞いて興味をそそられている霧山さんが今言った爆弾の件を聞いたら、以前よりも興味を持ってくれる可能性が高くなるはず。興味のある人間が興味のあることを言っていたら、二倍興味が沸く。そう思っての嘘だった。
それに、もし無﨑と霧山さんが共犯者なら、尚の事直接会って話を聞きたいと思うはずだ。
「……うん……そう、それで――ええ……?」
電話をする春佳がジト目をしながらこちらを見てくる。
俺が口にした話と霧山さんの言っていることの内容が噛みあわないのだろう。
「――志樹ぃ~?」
電話を終えた春佳が呆れ気味に俺の名を口にする。
「どうした?」
「どうした? じゃないでしょ! 紬はそんなこと話してないって言ってたよ? 会ったこともないって」
「あー、そうか。じゃあ別の人と勘違いしてたかな?」
「んなわけないでしょ! はぁ~、まったく……。まぁいいや、明後日のお昼なら時間取れるってさ」
「え⁉ 会ってくれるのか……⁉」
「うん。忙しいはずなんだけど、面白そうだから会ってみたいってさ。……あれ、あたしが志樹のこと話したのは関係ないよね……?」
後半は小声だったが、バッチリ聞こえている。おそらくそれは大いに関係があるだろうから、素直に感謝しておこう。
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして。お礼は――」
「リリィも」
春佳を遮ってリリィにもお礼を言う。
「えっ⁉ い、いえ、私は何もしてないですから!」
急に話を振られたからか、リリィは驚きながら手を胸の前でブンブンと振っていた。
「そんなことないさ。彷徨ってた春佳を連れてきてくれたんだから」
「ちょっと⁉ 人を迷子みたいに言わないでくれる⁉ 仕事してたんですけど仕事!」
「まぁまぁ、春ちゃんそんなに怒らないで」
「お、怒ってないわよっ!」
ぷんぷんと怒ってみせる春佳を優しく宥めるリリィ。その光景に思わず頬が緩む。まるで親子のよう……などと考えてしまうのは気が緩んでる証拠なのかもしれない。
だが、なんにせよこれで霧山さんと会う約束を取り付けることはできた。霧山さんがUtopia計画と無関係であるならそれに越したことはない。その場合は地下のことを話せば済む話だ。
……最悪、もし万が一関係があったとしても、俺には天寿症に罹っていた病歴がある。今の俺の言動は狂人のそれに近いし、この世界で地下に行ったことは無いのだから、当然侵入の痕跡も見つからないだろう。頭のおかしなフリをすればなんとか凌げる……と考えるのは甘いだろうか。
しかし、無﨑と霧山さんが共犯だった場合は、リリィやルメも含めて最先端のAIを自由に扱えると言うことだ。もしそうなったら、完全に一人でどうこうできる問題ではなくなる。その時は知っている人間だけでも――いや、古森も木流さんも譲れない想いがあった。どう説明しても理解は得られないだろう。
……やはり、どうにかしてこの問題を解決するしか道はないのだ。
――春佳とリリィに別れを告げた後、そういえばと思い至り向かった先は五六階。ミキのいるフロアだった。
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