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四廻目 零れた境界線
第71話 夢じゃない
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「……ここは……」
見慣れたベッドの上で目を覚ます。離れのホテルだということは一目で知れた。
「……動く」
ついさっきまでの出来事を思い出して足に力を入れてみるも、問題無く動く。痛みもない。
布団を剥がして確認してみるも、当然身体は潰れておらず、怪我一つ無かった。
「あれは夢……? ……いや――」
口にしてすぐ頭を振る。
――あれは夢ではない。これが初めてのことならそう思えただろうが、そうではない。どころか、冷静に振り返ってみるとすでに二度も身に覚えがあった。
一度目はPLOWの前で何者かに――おそらく――射殺され。二度目はPLOWの地下で無﨑に心臓を撃たれて殺されている。
夢にしては嫌に感覚がリアルだったからおかしいとは思ったが、流石に三度同じようなことが起きれば〝夢〟の一言では片付けられない。確かに起きてすぐは夢に感化されやすいが、それにしても記憶が鮮明すぎる。
「……何がどうなってるんだ……」
窓から外を眺めるも、やはりPLOWは健在。何か――たとえばUtopia計画とやらに書かれていたような爆発が起きたとも思えない。
現実に起きたことでも夢でもなければ、天寿症の後遺症で頭がおかしくなったのかと思うも、こんな訳の分からないケースは聞いたこともなかった。リリィの話からして、この現象がPLOWによるものだという線も無いのだろう。
「何がなんだか――」
そんな埒の明かない妄想に耽りながら、ふと枕元の時計を見て絶句する。
「なっ……」
日付は八月一三日。最終日である八月一六日の三日前を示していた。
ここに来たのは八月一〇日。ということは、あれからまるまる四日は経過していることになる。
「時間が戻ってる……?」
時計が壊れている可能性も考慮して念のため携帯電話を開くも、そこには時計と同じ八月一三日という数字が表示されていた。
「まさか……本当に……?」
もしこれが冗談でもなく、本当に時間が戻っていたのだとすると、これまで皆と過ごした日々はどうなってしまったのだろう。
メッセージを確認すると今日も蛍と待ち合わせをしているが、やはり記憶には無い。
「行くか……」
いても立ってもいられなくなり、着の身着のままで部屋を飛び出す。
目的地はPLOW。あの場所に行けば何か分かるはず。そんな願望にも似た予感が躰を突き動かしていた。
☾
そうしてPLOWに着いた俺は、ある頼み事をするため、春佳を呼んでほしいとすぐさまリリィに声をかけていた。その間にいくつか気になった事を質問をしてみたが、どうやら初日に起きた出来事はそのままのようで、戒田に襲われた事実は変わっていなかった。
だが、二日目以降に起きた出来事は無かったことになっているらしく、古森や木流さんと過ごした日々はリリィの記憶にも一切残っていないとのこと。
そんな会話の中で、やはりというべきか大きな疑問も生まれていた。
それは、俺の知らないこの世界の二日目以降の出来事。どうやら俺は昨日も蛍と、それに春佳とも一緒にPLOWでの日々を過ごしていたようだが、これは一体どういう事なのか……。
「ところでリリィ、さっきも聞いたけど本当に今日は」
「はい、八月一三日ですよ?」
「……そうか」
「あのぅ、大丈夫ですか?」
リリィは心配そうな表情で聞いてくる。
それもそうだろう、リリィからしたら突然こんな意味不明な事を聞かれているのだ。
「ああ、大丈夫だ」
「それならいいんですが……何かあったら気兼ねなく仰ってくださいね?」
「分かってる。ありがとう」
……とは言っても、突然俺は未来から時間を遡ってきた。この後、無﨑が人を殺してPLOWも爆破される――だなんてことを口走るわけにはいかない。
笑って済ませてくれるならまだいいが、天寿症のこともある。リリィはそんな事をしないだろうが、天寿症患者は狂人の誹りを受けることもあった。そんな事を口にしたら、メディカルチェックという名目で色々と検査されるか、迎えの船が来るまで隔離されてしまう可能性もある。
口にするなら、確固たる証拠を掴んでから。
――そして、その証拠がすでに地下にあることを俺は知っていた。
……だが、馬鹿正直に地下に行かせてくれと言うわけにはいかない。これまでの出来事が夢ではなく、本当に時間が巻き戻っていると仮定するのなら、十中八九Utopia計画は無﨑が仕組んだもの。ここで俺が突然地下に行きたいなどと口にすれば、AIを介して無﨑に知られてしまう恐れがあった。だからこそ、もう一人の責任者と話をするため、春佳を呼んだのだ。
「――まったく、急に話したいだなんてどうしたの? 昨日も会ったばっかりなのに」
そんなことを考えていると、呆れた顔をしながら春佳が歩いてくる。
「よく来てくれた! ちょっと頼みたいことがあったんだ」
「ふっ、会って早々頼み事なんて、あたしも随分軽く見られたものね……」
「頼む! 急いでるんだ」
遠い目をしながら浸る春佳に付き合うことはせず、手を合わせて単刀直入に頼み込む。
「むぅ、ノリ悪いな~。で、頼みって?」
「霧山さんと話がしたいんだ」
「えっ、紬と? なんで急に?」
「ちょっと話したい事があってさ、頼めないかな……?」
――PLOWにおけるもう一人の責任者、霧山紬。彼女と話したい理由はいくつかあった。
一つは、PLOWで何か異常が起きていないかの確認。
リリィのデータに無いからといって、正常に稼働しているとは限らない。外部からクラッキングを受けた可能性も否定できないからだ。こればかりは春佳に聞いても分からないだろう。
そしてもう一つは、霧山さんがUtopia計画と無関係なのかを確認したかった。
地下で見たUtopia計画という文章。あのデスクには霧山さんと春佳の写真が飾ってあった。……信じたくはないが、もし関係者であるなら無﨑と共謀関係にある可能性が高い。無﨑が黒であることは確定としても、CEOたる霧山さんが関知していないなどということは考え難かった。
なぜという想いは当然あるが、もし本当にそうだとしたら馬鹿正直に聞いたところではぐらかされるだろうし、事が事だけに最悪消される可能性だってある。だから、本当に信じるに足る人物なのか一度話をして決めたかった。
天寿症の治療薬を作った命の恩人でもある人物に疑いの目を向けるのは胸が痛むが、状況が状況なだけに仕方ないと割り切る。もし信用できそうなら、無﨑やUtopia計画の事について切り出そう。
俺の頭を信じるなら、Utopia計画が実行されるのは最終日の八月一六日。
それまでになんとかしなくてはならないが、逆に考えればそれまでは安全だともいえる。今日を入れて後四日。決して長くはないが、やることが決まっている分、短いとも言えない日数だ。
「う~ん、今は忙しいから難しいと思うけど……。実は志樹の事を前に話したことがあって、興味持ってるみたいだったんだよね。一応連絡してみようか?」
「頼む」
残された時間でこの難題を解決するには、まず敵と味方の区別をしなければならない。
霧山さんは以前話した時、俺の事を気に入ったと言ってくれていた。あれが社交辞令でないのなら、時間を作ってくれる可能性は――いや、違う。あれは二日目の一一日に起きた出来事だ。それなら、この世界において俺と霧山さんは面識が無い……。
もしかしたらこの世界でも会っているのかもしれないが、念の為もう一手欲しい。
……春佳はすでに携帯を操作している。今から止めては逆に怪しい。
かくなる上は一か八か。無﨑も館内にいる人間全員の会話を汲み取ることは不可能なはず。危険な言動を取らなければルメを通して報告されることもないだろう。
「春佳、その前に最近変わったことなかったか?」
「え? 変わったこと? 別に無いけど」
「そうか……。た、例えば、PLOWに爆弾みたいなものが仕掛けらたりとかは――」
「ば、爆弾っ⁉」
見慣れたベッドの上で目を覚ます。離れのホテルだということは一目で知れた。
「……動く」
ついさっきまでの出来事を思い出して足に力を入れてみるも、問題無く動く。痛みもない。
布団を剥がして確認してみるも、当然身体は潰れておらず、怪我一つ無かった。
「あれは夢……? ……いや――」
口にしてすぐ頭を振る。
――あれは夢ではない。これが初めてのことならそう思えただろうが、そうではない。どころか、冷静に振り返ってみるとすでに二度も身に覚えがあった。
一度目はPLOWの前で何者かに――おそらく――射殺され。二度目はPLOWの地下で無﨑に心臓を撃たれて殺されている。
夢にしては嫌に感覚がリアルだったからおかしいとは思ったが、流石に三度同じようなことが起きれば〝夢〟の一言では片付けられない。確かに起きてすぐは夢に感化されやすいが、それにしても記憶が鮮明すぎる。
「……何がどうなってるんだ……」
窓から外を眺めるも、やはりPLOWは健在。何か――たとえばUtopia計画とやらに書かれていたような爆発が起きたとも思えない。
現実に起きたことでも夢でもなければ、天寿症の後遺症で頭がおかしくなったのかと思うも、こんな訳の分からないケースは聞いたこともなかった。リリィの話からして、この現象がPLOWによるものだという線も無いのだろう。
「何がなんだか――」
そんな埒の明かない妄想に耽りながら、ふと枕元の時計を見て絶句する。
「なっ……」
日付は八月一三日。最終日である八月一六日の三日前を示していた。
ここに来たのは八月一〇日。ということは、あれからまるまる四日は経過していることになる。
「時間が戻ってる……?」
時計が壊れている可能性も考慮して念のため携帯電話を開くも、そこには時計と同じ八月一三日という数字が表示されていた。
「まさか……本当に……?」
もしこれが冗談でもなく、本当に時間が戻っていたのだとすると、これまで皆と過ごした日々はどうなってしまったのだろう。
メッセージを確認すると今日も蛍と待ち合わせをしているが、やはり記憶には無い。
「行くか……」
いても立ってもいられなくなり、着の身着のままで部屋を飛び出す。
目的地はPLOW。あの場所に行けば何か分かるはず。そんな願望にも似た予感が躰を突き動かしていた。
☾
そうしてPLOWに着いた俺は、ある頼み事をするため、春佳を呼んでほしいとすぐさまリリィに声をかけていた。その間にいくつか気になった事を質問をしてみたが、どうやら初日に起きた出来事はそのままのようで、戒田に襲われた事実は変わっていなかった。
だが、二日目以降に起きた出来事は無かったことになっているらしく、古森や木流さんと過ごした日々はリリィの記憶にも一切残っていないとのこと。
そんな会話の中で、やはりというべきか大きな疑問も生まれていた。
それは、俺の知らないこの世界の二日目以降の出来事。どうやら俺は昨日も蛍と、それに春佳とも一緒にPLOWでの日々を過ごしていたようだが、これは一体どういう事なのか……。
「ところでリリィ、さっきも聞いたけど本当に今日は」
「はい、八月一三日ですよ?」
「……そうか」
「あのぅ、大丈夫ですか?」
リリィは心配そうな表情で聞いてくる。
それもそうだろう、リリィからしたら突然こんな意味不明な事を聞かれているのだ。
「ああ、大丈夫だ」
「それならいいんですが……何かあったら気兼ねなく仰ってくださいね?」
「分かってる。ありがとう」
……とは言っても、突然俺は未来から時間を遡ってきた。この後、無﨑が人を殺してPLOWも爆破される――だなんてことを口走るわけにはいかない。
笑って済ませてくれるならまだいいが、天寿症のこともある。リリィはそんな事をしないだろうが、天寿症患者は狂人の誹りを受けることもあった。そんな事を口にしたら、メディカルチェックという名目で色々と検査されるか、迎えの船が来るまで隔離されてしまう可能性もある。
口にするなら、確固たる証拠を掴んでから。
――そして、その証拠がすでに地下にあることを俺は知っていた。
……だが、馬鹿正直に地下に行かせてくれと言うわけにはいかない。これまでの出来事が夢ではなく、本当に時間が巻き戻っていると仮定するのなら、十中八九Utopia計画は無﨑が仕組んだもの。ここで俺が突然地下に行きたいなどと口にすれば、AIを介して無﨑に知られてしまう恐れがあった。だからこそ、もう一人の責任者と話をするため、春佳を呼んだのだ。
「――まったく、急に話したいだなんてどうしたの? 昨日も会ったばっかりなのに」
そんなことを考えていると、呆れた顔をしながら春佳が歩いてくる。
「よく来てくれた! ちょっと頼みたいことがあったんだ」
「ふっ、会って早々頼み事なんて、あたしも随分軽く見られたものね……」
「頼む! 急いでるんだ」
遠い目をしながら浸る春佳に付き合うことはせず、手を合わせて単刀直入に頼み込む。
「むぅ、ノリ悪いな~。で、頼みって?」
「霧山さんと話がしたいんだ」
「えっ、紬と? なんで急に?」
「ちょっと話したい事があってさ、頼めないかな……?」
――PLOWにおけるもう一人の責任者、霧山紬。彼女と話したい理由はいくつかあった。
一つは、PLOWで何か異常が起きていないかの確認。
リリィのデータに無いからといって、正常に稼働しているとは限らない。外部からクラッキングを受けた可能性も否定できないからだ。こればかりは春佳に聞いても分からないだろう。
そしてもう一つは、霧山さんがUtopia計画と無関係なのかを確認したかった。
地下で見たUtopia計画という文章。あのデスクには霧山さんと春佳の写真が飾ってあった。……信じたくはないが、もし関係者であるなら無﨑と共謀関係にある可能性が高い。無﨑が黒であることは確定としても、CEOたる霧山さんが関知していないなどということは考え難かった。
なぜという想いは当然あるが、もし本当にそうだとしたら馬鹿正直に聞いたところではぐらかされるだろうし、事が事だけに最悪消される可能性だってある。だから、本当に信じるに足る人物なのか一度話をして決めたかった。
天寿症の治療薬を作った命の恩人でもある人物に疑いの目を向けるのは胸が痛むが、状況が状況なだけに仕方ないと割り切る。もし信用できそうなら、無﨑やUtopia計画の事について切り出そう。
俺の頭を信じるなら、Utopia計画が実行されるのは最終日の八月一六日。
それまでになんとかしなくてはならないが、逆に考えればそれまでは安全だともいえる。今日を入れて後四日。決して長くはないが、やることが決まっている分、短いとも言えない日数だ。
「う~ん、今は忙しいから難しいと思うけど……。実は志樹の事を前に話したことがあって、興味持ってるみたいだったんだよね。一応連絡してみようか?」
「頼む」
残された時間でこの難題を解決するには、まず敵と味方の区別をしなければならない。
霧山さんは以前話した時、俺の事を気に入ったと言ってくれていた。あれが社交辞令でないのなら、時間を作ってくれる可能性は――いや、違う。あれは二日目の一一日に起きた出来事だ。それなら、この世界において俺と霧山さんは面識が無い……。
もしかしたらこの世界でも会っているのかもしれないが、念の為もう一手欲しい。
……春佳はすでに携帯を操作している。今から止めては逆に怪しい。
かくなる上は一か八か。無﨑も館内にいる人間全員の会話を汲み取ることは不可能なはず。危険な言動を取らなければルメを通して報告されることもないだろう。
「春佳、その前に最近変わったことなかったか?」
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