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第二章

意地

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「……そうか、もうそんな時間か。出口はあちらか?」

 虚ろなアンクの表情見たデンは、慌てて肩をゆする。

「おいアンク! しっかりしろ!」
「おお。デンではないか、こんなところで何をしている。ナオは何処だ? 釣りをする約束をしているのだが」
「お前——」

 デンは悟ったようにナミを見た。

「また記憶操作か」
「ふふっ、ヌンからもらった力だ。アンク殿には故郷の呪力が、身に染みてよく効くようだのう」「くそっ」

 デンはアンクを担ぎ上げ踵を返すと、森の出口に向かって走り出した。するとデンの頭上を飛び越え、巨大蜘蛛のショウが前を塞ぐ。

「ショウ、ずっと聞いていたであろう。そなたの父デンは、口を開けば妻とナオのことばかり。アンとショウのことなど、これっぽっちも気にかけてはおらぬ。良いのか? 同じ息子として、こんなにも蔑ろにされて。今そなたがデンと担がれてるアンクを呑み込めば、奴らに一生の苦しみを与えることも出来ようぞ」

 ナミの言葉を聞いて、デンに担がれたままのアンクはなぜだか嬉しそうに口を開いた。

「おお! そなたがデンの子か! アン? それともショウ? 話はよくデンから聞いておる。ずいぶん大きいのだなあ」

 ショウはグルルと喉を鳴らしながら、デンを見降ろす。

「ほれデン、降ろせ。えっと、そなたは足にほくろがあるから……ショウだな!」

 ショウは八本の脚をぎこちなく動かす。

「ほれ、そこだ。違う違う、その隣の脚……なんだ、話に聞いていた通りショウは少し鈍臭いなあ。そうだ、この後ナオと釣りをするのだ。ショウも一緒にどうだ?」
「ナ……オ……」

 ショウが人型に縮む。それを見たアンクは、手を叩いて歓喜した。

「ショウ! 肌の白さといい目の形といい、そなたデンに瓜二つではないか! アンはそばにはおらぬのか? アンは父と母、どちら似かのう」

 ショウの目から涙がこぼれる。それを見たナミは眉間に皺を寄せた。

「ええい! 何をしておるのだショウ! そなたがこの黄泉で精霊になれたのは我のおかげぞ! また怨霊の妖に逆戻りしたいのか! 今すぐふたりを呑み込め!」

 微笑むアンクに、ショウは微笑みを返した。

「……出来ませぬ」
「なんだと?!」
「彼は……アンク神は、アンを傷つけずに済む方法はないかと僕に聞いた。弟妹ていまいが飲み込まれているにもかかわらず、アンを気遣う言葉までくれた。僕はさっき、今まで生きてきた中で一番優しい顔を見たんだ」
「ショウ! アンを助けたくはないのか?! 我の言うことを聞け!」
「あなた様より! このアンク神の方が何倍も信用できる!」

 ショウはまたムクムクと巨大な蜘蛛に姿を変える。アンクとデンを脚ですくい上げ頭に乗せると、木々を薙ぎ倒しながら走り出した。
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