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2003年

美しき花には棘がある

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「くそっ、なんで俺ばっかりこんな目に!」

 翔太は両手両足を縄で縛られていた。

「花を渡せ。親父から預かってんだろ? どこにやった」
「花なんか知らねーよ! うぐっ」

 ジタバタする翔太の腹を、男は苛立つように蹴り飛ばした。


「もう一度聞く。花はどこだ」
「……本当に……知らない」

 男は舌打ちすると、爪を噛みながら考え込む。

「やっと手に入れたってのに……あれがなきゃ、青池さんに消される」

 ナイフを取り出した男を見て、翔太は懸命に頭を回転させた。

「ま、待って! もしかして、あれかもしれない。親父が入れ込んでたクラブのママに、花を贈ったって。少し前に話してた」
「本当か?! どんな花だ」
「花自体は見ていない。でも、花を贈ったママが居る、クラブの場所ならわかる」
「なんてクラブだ」
「クラブの名前は知らない」
「ああ?!」

 苛立つ男。翔太は慌てて口を開く。

「いや、ママの名前なら分かる! 冬子だ」
「冬子……」

 少しして、男は翔太の手の縄を解いた。

「店を調べるから、電話しろ。花が回収できたら、助けてやる。でももしガセなら……殺すからな。クソガキ」
「……わかった」



◇◇◇



「ママ、ちょっと」

 黒服に呼ばれ、冬子は接客の席を立った。

「電話が入ってるんですが、少し妙で」
「妙?」
「若い少年のようなんです。一度店の裏で助けてもらった、お礼がしたいと」

 冬子はピンときた。

「いいわ。電話に出る」

 冬子は黒服から受話器を受け取る。

「もしもし」
「あ、あの。この間はありがとうございます。俺のこと、覚えてますか?」
「もちろんよ。白井翔太くん」
「え?」

 名前を言い当てられ、翔太は動揺した。

「白井翔太くん、でしょう?」
「あ、はい……親父が、お世話になって……」
「父って、白井実さん? うちの店に来たことは無かったと——」
「あ、あの!」

 電話口の大声に、冬子は思わず受話器から耳を離した。

「親父、あなたに花を贈りましたよね? 少し変わった特殊な花。その花を口にした女性が子供を産むと、
 
 変わった痣と共に、八歳で命を落とすという呪いの花・・・・です」
 
 冬子は驚きと衝撃で目を見開いた。

「あなた。その花のこと、どうして知ってるの?」
「え?」

 煮え切らない翔太。すると、電話の向こうがガサゴソ音を立てた。

「……もしもし。クラブエスナのママです?」
「あなたは?」
「翔太くんのお友達ですよ。それより、彼の父親があなたに贈ったっていうその花、僕に譲っていただけませんか。そんな物騒な花、ママも持て余すでしょう? 金なら出す」
「金?」

 戸惑う冬子に、男は続ける。

「そうだ、ちなみにその花って何色です?」
「色は……青にも緑にも見える碧色へきしょく、かしら」
「ビンゴだ! 間違いねえ!」

 歓喜する男。冬子は瞬時に脳内をフル稼働させた。

 おそらく、電話口の男と翔太は友達なんかじゃない。翔太が嘘をついているのがその証拠だ。
 
(白井実がエスナに来たことは、一度もない。なのに花を贈った? 碧色の花はカエルレア。でもなんだ、その『呪い』というのは。それにシエルの寿命はとっくに尽きている。花が存在するなんて、あり得ない)

「あの、もしもし?」

 男の声で、冬子は我に帰る。

「ええ、聞いているわ」
「今日この後時間あります? 少し急いでまして。すぐにでもその花が必要なんですよ、十万でどうでしょうか」
「十万? 冗談でしょ」

 冬子は強気に出た。

「こんな特殊な花、きっと人を選べばもっと高値で売れるはず。ねえ、もう一度翔太くんに代わってくださる?」
「ああ?」
「お互い気持ち良く取引きしたいでしょう? 翔太くんの返答次第では、タダであげてもいい」

 男は少し迷ったが、翔太に電話を変わった。

「これから聞くこと、ハイかイイエで答えて。今、あなたの身は危険?」
「ハイ」
「その花の存在を、あなたは最初から知っていたの?」
「イイエ」
「男は知り合い?」
「イイエ」

 その答えを聞いて、冬子は意を決する。

「わかったわ、場所を指定して。今からそこに花を持って行く」
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