17 / 41
詮ずる所
しおりを挟む
遥と涼子がアクビスに潜入するのは本日十九時。彩美は、明日の午前に説明会のアポを取った。
翔太も事務所に合流し、最終確認を行う。
「ザラムの集いは明後日。そこで選定される三十六人に入るためには、バッジが必要になります」
「バッジってどうやったらもらえるの?」
翔太の説明に涼子が反応する。
「幹部クラスが勧誘部門と生活部門の人を選んで、丸い銀バッジを渡すそうです。そのバッジをもらった人が三十六人候補になる。たか絵さんの話では、選ばれる人は三十代から五十代くらいの人で、太っていたり貧弱な人だったり極端な体型の人が多いみたいっすね」
九条は口をへの字に曲げながら、遥と涼子をまじまじと見た。
「あんたたち、二人とも太っているようにも貧弱そうにも見えないぞ。それに集いは明後日なんだろう? バッジはどうやって手に入れるんだ」
「盗みます」
遥の自信満々な顔に、九条は不安を覚える。
「たか絵さんと舞ちゃんがバスに乗り込み次第、私と涼子さんは彩美さんと合流。その後洸太さんと大さんを捜索し、二人と共に確保してある出口から脱出します」
「当日は俺も近くで待機する。白井くん、って言ったか。通信機器はどれくらい用意があるんだ」
翔太は持っていた巾着をひっくり返す。ゴロゴロっと音を立ててテーブルにいくつか機器が転がった。
「すみません、三つしかないです。先輩と涼子さん、それから俺が外で使おうと思ってて。里の側まで行けば電波も拾えるんで」
「では、白井くんには俺と繋がれる通信機器を別にこちらで用意しよう。何度も言うがくれぐれも無理はするな。最悪の場合、俺の責任で里に突入する。危険を察知したらすぐに白井くんに知らせるんだ」
その場にいた全員が頷くと、九条は一息つくようにソファの背もたれにグッと身を預けた。
「それにしても。警察でも考えあぐねていた事件の概要を、こうも簡単に掴んでしまうとは。君や探偵業を蔑む発言をしたこと、撤回するよ」
気まずそうにおでこを掻けば、その九条の左手に遥が反応を示した。
「つかぬことを伺いますが」
「なんだ」
「指輪、していませんね。左手の薬指」
ああ、と九条。
「妻は随分前に亡くなったんだ」
遥が慌てて不躾な質問を詫びれば、九条は顔の前で手をひらひらと靡かせて笑う。
「いいさ。普段は人に質問ばかりする職業柄なんでな。自分のことを訊かれて腹を立てる、そんな理不尽なことはしない。それに、相手に悪意があるのかないのかぐらいは流石にわかる。気にしなくていい」
遥と九条のやりとりを、涼子はぽうっと見つめる。
物事を冷静に、論理的に考えられる所。人をよく見ている所。目の前にある問題に対峙し、戦う所。そしてその全てには、善意が前提としてあること。
(似ているわ……遥と、九条さん)
自分は遥が好き→遥と九条が似てる→つまり自分は九条が好き。
「……好き」
涼子は脳内で繰り広げられたロジックにたまらず声を漏らした。その声はタイミングよく部屋に訪れた静けさに乗って、九条の耳にしっかりと届く。
無論、皆にも。
「告白、ですか」
「急に大胆っすね。涼子さん」
遥と翔太の視線を受けて、涼子はやっと我に返った。
「——ち、違うわよ! やめてよもう! ほら、ボケてないで、作戦に集中!!」
「わかりやすっ」
「慌てすぎっす」
「だから! 違うってば!」
遥が九条を横目に見れば、急になんの騒ぎだと戸惑いを浮かべていた。その鈍感な表情に、遥は苦笑いで眉を下げたのだった。
翔太も事務所に合流し、最終確認を行う。
「ザラムの集いは明後日。そこで選定される三十六人に入るためには、バッジが必要になります」
「バッジってどうやったらもらえるの?」
翔太の説明に涼子が反応する。
「幹部クラスが勧誘部門と生活部門の人を選んで、丸い銀バッジを渡すそうです。そのバッジをもらった人が三十六人候補になる。たか絵さんの話では、選ばれる人は三十代から五十代くらいの人で、太っていたり貧弱な人だったり極端な体型の人が多いみたいっすね」
九条は口をへの字に曲げながら、遥と涼子をまじまじと見た。
「あんたたち、二人とも太っているようにも貧弱そうにも見えないぞ。それに集いは明後日なんだろう? バッジはどうやって手に入れるんだ」
「盗みます」
遥の自信満々な顔に、九条は不安を覚える。
「たか絵さんと舞ちゃんがバスに乗り込み次第、私と涼子さんは彩美さんと合流。その後洸太さんと大さんを捜索し、二人と共に確保してある出口から脱出します」
「当日は俺も近くで待機する。白井くん、って言ったか。通信機器はどれくらい用意があるんだ」
翔太は持っていた巾着をひっくり返す。ゴロゴロっと音を立ててテーブルにいくつか機器が転がった。
「すみません、三つしかないです。先輩と涼子さん、それから俺が外で使おうと思ってて。里の側まで行けば電波も拾えるんで」
「では、白井くんには俺と繋がれる通信機器を別にこちらで用意しよう。何度も言うがくれぐれも無理はするな。最悪の場合、俺の責任で里に突入する。危険を察知したらすぐに白井くんに知らせるんだ」
その場にいた全員が頷くと、九条は一息つくようにソファの背もたれにグッと身を預けた。
「それにしても。警察でも考えあぐねていた事件の概要を、こうも簡単に掴んでしまうとは。君や探偵業を蔑む発言をしたこと、撤回するよ」
気まずそうにおでこを掻けば、その九条の左手に遥が反応を示した。
「つかぬことを伺いますが」
「なんだ」
「指輪、していませんね。左手の薬指」
ああ、と九条。
「妻は随分前に亡くなったんだ」
遥が慌てて不躾な質問を詫びれば、九条は顔の前で手をひらひらと靡かせて笑う。
「いいさ。普段は人に質問ばかりする職業柄なんでな。自分のことを訊かれて腹を立てる、そんな理不尽なことはしない。それに、相手に悪意があるのかないのかぐらいは流石にわかる。気にしなくていい」
遥と九条のやりとりを、涼子はぽうっと見つめる。
物事を冷静に、論理的に考えられる所。人をよく見ている所。目の前にある問題に対峙し、戦う所。そしてその全てには、善意が前提としてあること。
(似ているわ……遥と、九条さん)
自分は遥が好き→遥と九条が似てる→つまり自分は九条が好き。
「……好き」
涼子は脳内で繰り広げられたロジックにたまらず声を漏らした。その声はタイミングよく部屋に訪れた静けさに乗って、九条の耳にしっかりと届く。
無論、皆にも。
「告白、ですか」
「急に大胆っすね。涼子さん」
遥と翔太の視線を受けて、涼子はやっと我に返った。
「——ち、違うわよ! やめてよもう! ほら、ボケてないで、作戦に集中!!」
「わかりやすっ」
「慌てすぎっす」
「だから! 違うってば!」
遥が九条を横目に見れば、急になんの騒ぎだと戸惑いを浮かべていた。その鈍感な表情に、遥は苦笑いで眉を下げたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる