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絶望
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「……異常だわ」
涼子の呟きは、美帆の耳には届かない。
「洸太が起きてから事態を説明したら、あの子すっかり自分がやったもんだって信じちゃって。その後は心配するふりをして、パパに連絡しなさいって言ったわ。なんとかしてくれるからって。案の定パパは事件を揉み消して、洸太は心を閉ざして引きこもりになった。やばくない? 全て、私のシナリオ通り! 私の起こしたことは、ぜーんぶ無かったことになっちゃったの!」
大きな身振り手振りで、まるで少女のように話す美帆。遥はその機嫌を損ねないように言葉を選んだ。
「なるほど。でもあなたの完全犯罪は、春野彩美さんの出現によって危機を迎えてしまった」
美帆はうっとりした目で遥を見る。
「その通りよ。せっかく引きこもって大人しくしていたのに、あの女。洸太を外に連れ出した挙句に、罪を週刊誌に暴露するように唆したの。そんなことされたらちゃんと調べられちゃう、矛盾に気づかれちゃうじゃない! 仮に罪にはならなくてもこの時代、世間の目は厳しくなる。だから私は先手を打ったの。洸太に罪の意識があるなら、償うためにアクビスの里で祈り続けたらいいって」
「なぜ、春野彩美さんが洸太さんに罪を暴露するように勧めたのか、わかりますか」
「そんなことに興味はないんだけど」
その時。
美帆の背後から素早く人影が現れた。
「……それは! あんたが殺したのが私の母親だったからよ!!」
振りかぶった刃物はゴツンっ、と小さな音を立てて。振り返った美帆の上腹部に突き立てられた。
「刺さ……らない!? なんでっ」
俯く彩美が顔を上げると、冷たい表情の美帆は彩美の頬に思い切り平手打ちをした。
バチンっ、と鈍い音と共に、彩美は床に倒れる。
「時間稼ぎもいいとこね。その女が車のトランクに乗り込んでいたことを、私が気づいていないとでも思った? むしろ、乗らせてあげたのよ! そこの探偵気取り。あんた私を嵌めた通信機の相手でしょ。大体こんな危険なことをするのに、なにも準備してないわけないじゃない」
美帆が服を捲ると、そこには防弾ベストが見えた。
「そんな……」
「あの時の女、あなたの母親だったんだ? 運が悪かったわね。どうも、ご愁傷様でした」
丁寧にお辞儀をする美帆。
彩美が唇を噛むと、遥と涼子も顔に諦めの色を浮かべた。
「これがあなたたちの作戦? 時間を稼いで隙を狙って? 甘いのよ! 大体、中途半端な覚悟で来るからこんなことになんのよ? 腹なんか刺してないで、本気だったらここを突き刺すのよ! ここ!」
美帆は彩美の顎を無理やり持ち上げ、挑発するように顳顬を指さした。
「そんな殺し方では、あなたは満足できなさそうですけどね」
遥の言葉に美帆はすぐに食いつく。
「なに。あんたに私の気持ちがわかるの?」
「それはどうでしょう。でも、あなたに繋がる目撃者や証拠が出なかった理由なら、わかります」
「へえ。言ってみて」
「中山静香も北宮ありさも、実際にはどこにも存在しないから」
美帆はポカンと口を開けた。
「……は? なんのファンタジー? 私は、ちゃんと二人殺したわよ」
「この殺人、本当にあなた一人で実行したんですか?」
「うざいうざい、なにそれ。あたしがやったに決まっているでしょう? 静香もありさも、充実した投稿に溢れてて癇に障って……決め手は、あんたが言ったバッグ。あの二人、私が手に入れられなかった限定バックを見せびらかすみたいにSNSに載せてた。それが許せなかったの」
「そんな、小さな事で……」
涼子の言葉に美帆は眉を上げる。
「小さなこと? 何が小さいの? 私の元に来るはずだったバッグが、別の人のとこにいっちゃったのよ? 間違ったことは、正さないと!」
遥は前のめりになる涼子を制し、口を開く。
「そのSNS、誰に教えてもらいましたか? 彼女たちの個人情報や自宅、帰宅の時間帯は? 犯行日時は? 誰かに指示されたのではありませんか?」
「……何が言いたいの」
「あなたはアクビスの里にいいように使われたんですよ。最初から最後まで、あなたは“主”のシナリオ通りに動かされたんだ」
「何言ってんの? 私が! 私の意思で! 静香もありさも! ちゃんとこの手で絞め殺した! 主の情報を元に計画したのは私! 実行したのは私! 全部わ・た・し!」
美帆はそう捲し立てると大きくため息をつく。
「そろそろ茶番も終わりね。まあまあ楽しかったわ。ほら、連れて行きなさい」
美帆に指示された男たちは、彩美の両手を拘束した。
「ちょっと! なにすんのよ!」
遥と涼子は担がれ、それから彩美は引きずられるようにして連れて行かれる。
「ふふっ。お楽しみは、これからよ」
涼子の呟きは、美帆の耳には届かない。
「洸太が起きてから事態を説明したら、あの子すっかり自分がやったもんだって信じちゃって。その後は心配するふりをして、パパに連絡しなさいって言ったわ。なんとかしてくれるからって。案の定パパは事件を揉み消して、洸太は心を閉ざして引きこもりになった。やばくない? 全て、私のシナリオ通り! 私の起こしたことは、ぜーんぶ無かったことになっちゃったの!」
大きな身振り手振りで、まるで少女のように話す美帆。遥はその機嫌を損ねないように言葉を選んだ。
「なるほど。でもあなたの完全犯罪は、春野彩美さんの出現によって危機を迎えてしまった」
美帆はうっとりした目で遥を見る。
「その通りよ。せっかく引きこもって大人しくしていたのに、あの女。洸太を外に連れ出した挙句に、罪を週刊誌に暴露するように唆したの。そんなことされたらちゃんと調べられちゃう、矛盾に気づかれちゃうじゃない! 仮に罪にはならなくてもこの時代、世間の目は厳しくなる。だから私は先手を打ったの。洸太に罪の意識があるなら、償うためにアクビスの里で祈り続けたらいいって」
「なぜ、春野彩美さんが洸太さんに罪を暴露するように勧めたのか、わかりますか」
「そんなことに興味はないんだけど」
その時。
美帆の背後から素早く人影が現れた。
「……それは! あんたが殺したのが私の母親だったからよ!!」
振りかぶった刃物はゴツンっ、と小さな音を立てて。振り返った美帆の上腹部に突き立てられた。
「刺さ……らない!? なんでっ」
俯く彩美が顔を上げると、冷たい表情の美帆は彩美の頬に思い切り平手打ちをした。
バチンっ、と鈍い音と共に、彩美は床に倒れる。
「時間稼ぎもいいとこね。その女が車のトランクに乗り込んでいたことを、私が気づいていないとでも思った? むしろ、乗らせてあげたのよ! そこの探偵気取り。あんた私を嵌めた通信機の相手でしょ。大体こんな危険なことをするのに、なにも準備してないわけないじゃない」
美帆が服を捲ると、そこには防弾ベストが見えた。
「そんな……」
「あの時の女、あなたの母親だったんだ? 運が悪かったわね。どうも、ご愁傷様でした」
丁寧にお辞儀をする美帆。
彩美が唇を噛むと、遥と涼子も顔に諦めの色を浮かべた。
「これがあなたたちの作戦? 時間を稼いで隙を狙って? 甘いのよ! 大体、中途半端な覚悟で来るからこんなことになんのよ? 腹なんか刺してないで、本気だったらここを突き刺すのよ! ここ!」
美帆は彩美の顎を無理やり持ち上げ、挑発するように顳顬を指さした。
「そんな殺し方では、あなたは満足できなさそうですけどね」
遥の言葉に美帆はすぐに食いつく。
「なに。あんたに私の気持ちがわかるの?」
「それはどうでしょう。でも、あなたに繋がる目撃者や証拠が出なかった理由なら、わかります」
「へえ。言ってみて」
「中山静香も北宮ありさも、実際にはどこにも存在しないから」
美帆はポカンと口を開けた。
「……は? なんのファンタジー? 私は、ちゃんと二人殺したわよ」
「この殺人、本当にあなた一人で実行したんですか?」
「うざいうざい、なにそれ。あたしがやったに決まっているでしょう? 静香もありさも、充実した投稿に溢れてて癇に障って……決め手は、あんたが言ったバッグ。あの二人、私が手に入れられなかった限定バックを見せびらかすみたいにSNSに載せてた。それが許せなかったの」
「そんな、小さな事で……」
涼子の言葉に美帆は眉を上げる。
「小さなこと? 何が小さいの? 私の元に来るはずだったバッグが、別の人のとこにいっちゃったのよ? 間違ったことは、正さないと!」
遥は前のめりになる涼子を制し、口を開く。
「そのSNS、誰に教えてもらいましたか? 彼女たちの個人情報や自宅、帰宅の時間帯は? 犯行日時は? 誰かに指示されたのではありませんか?」
「……何が言いたいの」
「あなたはアクビスの里にいいように使われたんですよ。最初から最後まで、あなたは“主”のシナリオ通りに動かされたんだ」
「何言ってんの? 私が! 私の意思で! 静香もありさも! ちゃんとこの手で絞め殺した! 主の情報を元に計画したのは私! 実行したのは私! 全部わ・た・し!」
美帆はそう捲し立てると大きくため息をつく。
「そろそろ茶番も終わりね。まあまあ楽しかったわ。ほら、連れて行きなさい」
美帆に指示された男たちは、彩美の両手を拘束した。
「ちょっと! なにすんのよ!」
遥と涼子は担がれ、それから彩美は引きずられるようにして連れて行かれる。
「ふふっ。お楽しみは、これからよ」
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