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シグナル
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『私たちと自然と共に。アクビスの里』
遥と涼子の笑顔が、だんだんとフェードアウトしていく。
「……一体なんなんだ、この動画は」
「つい先ほどアップされたばかりのようです。松永エステートの御令嬢が宗教に心酔していると、ネットは大炎上してます」
里での捜索が続く中、九条は頭を抱えていた。
スマートフォンに映し出されている動画では、薄紫色の作務衣を着た遥と涼子がアクビスの里のPRをしている。
「なんでこんなことになってんだ」
「よくわかりません。でも一部のネットユーザーが、これは助けを求めているのではと騒いでいて」
「なんだって?」
九条は動画の再生バーを少し戻すように言う。
「どこが、助けを求めている」
「それが我々にも……」
「ネット民はなんて言っているんだ」
「どうも信憑性は薄いのですが、一部の動きが『警察』『助けて』そう見えるそうです」
「動き……」
九条は有り得ると思った。
もう一度よく動画を確認する。
『本当、遥は食事のことばっかりね。でも、本当に美味しいものね』
『さあ、皆さんも私たちと一緒に、里で生活してみませんか?』
『一度来てみてください。世界がガラッと変わります』
「……そうか!」
九条は捜査員を集めた。
「ここを観てくれ。『世界がガラッと変わる』この望遠鏡を覗くみたいな動きだが、右手の親指と人差し指が額あたりでCの形になっているだろう。これは手話で、警察署を意味するんだ」
ざわつく捜査員たちに、九条は続ける。
「誰か俺の他に手話が読める奴はいるか」
「すみません。今ここには、警部しか」
「……もう一度最初から動画を観せろ!」
九条が確認すると、最後のセリフで掌を組み、自身に引き寄せる動作が『助けて』に見えなくもない。だがあくまでもそう見える、という程度だ。その他に手話に見える動作は『笑う』や『楽しい』など、緊急性があるようには見えない。
(手話だとしたら、なにを伝える? 考えろ……松永涼子は手話ができたが、あの探偵は知らなかったはず。美桜を預けたあの晩なにをしたかと訊けば、美桜は指文字を教えたと言っていた)
「指文字……」
九条は再び動画を注視した。
「PRなら任せてください」
(任せて、の親指で自身を指す動きが『あ』)
『あ、最近ね、あたし強盗に入られたんですよ。その人拳銃持ってて、こうやって頭に突きつけられて。あたし撃たれるかと思ったけど、アクビスの里に入っていたからかしら。ご加護があって、無事で済んだわ』
(銃の動きが『し』)
『そうそう、あれは本当にラッキーでしたね』
(ラッキーのピースサインが『か』)
『涼子さん、あの指輪見せて結婚会見するやつ、夢ですもんね。松永エステートの御令嬢なら、小さいネットニュースくらいにはなるんじゃないですか?』
(指輪を見せる動きが『ほ』)
「あしかほ……おい。どこかに『あしかほ』の名がつく地名や施設はないか」
「温泉施設や老人ホームなど、多数存在していて絞りきれません」
「くそっ! まだ他にもサインがあるのか?!」
九条は何故だか焦っていた。脳裏に浮かんだ涼子の笑顔が、霞がかるように消えていくのだ。
「他に施設はないのか」
「小学校がありますが、少々変わってまして」
「なにがだ!」
(……学校? そういえば、最後の『ようこそ』のポーズが、学校の手話表現とも取れるか)
「その芦花保小学校の文字が『笑楽校』になっているんです。廃校になった小学校を改装した、レンタル施設のようで」
九条は目を見開く。
「……ビンゴだ」
そして、全捜査員に指示を出した。
「今すぐに秩父の横瀬町にある、芦花保笑楽校に向かうぞ! 秩父警察に連絡、機動隊も向かわせろ!」
バタバタと捜査員が里を後にする中、佐藤が聞く。
「なぜ、芦花保笑楽校だと?」
「動画内の『ニヤニヤしちゃって』の動作は笑うことを、『お腹すいた』の動作は楽しむことをそれぞれ表すんだよ。最後の学校と全てを合わせれば、芦花保笑楽校になるんだ」
遥と涼子の笑顔が、だんだんとフェードアウトしていく。
「……一体なんなんだ、この動画は」
「つい先ほどアップされたばかりのようです。松永エステートの御令嬢が宗教に心酔していると、ネットは大炎上してます」
里での捜索が続く中、九条は頭を抱えていた。
スマートフォンに映し出されている動画では、薄紫色の作務衣を着た遥と涼子がアクビスの里のPRをしている。
「なんでこんなことになってんだ」
「よくわかりません。でも一部のネットユーザーが、これは助けを求めているのではと騒いでいて」
「なんだって?」
九条は動画の再生バーを少し戻すように言う。
「どこが、助けを求めている」
「それが我々にも……」
「ネット民はなんて言っているんだ」
「どうも信憑性は薄いのですが、一部の動きが『警察』『助けて』そう見えるそうです」
「動き……」
九条は有り得ると思った。
もう一度よく動画を確認する。
『本当、遥は食事のことばっかりね。でも、本当に美味しいものね』
『さあ、皆さんも私たちと一緒に、里で生活してみませんか?』
『一度来てみてください。世界がガラッと変わります』
「……そうか!」
九条は捜査員を集めた。
「ここを観てくれ。『世界がガラッと変わる』この望遠鏡を覗くみたいな動きだが、右手の親指と人差し指が額あたりでCの形になっているだろう。これは手話で、警察署を意味するんだ」
ざわつく捜査員たちに、九条は続ける。
「誰か俺の他に手話が読める奴はいるか」
「すみません。今ここには、警部しか」
「……もう一度最初から動画を観せろ!」
九条が確認すると、最後のセリフで掌を組み、自身に引き寄せる動作が『助けて』に見えなくもない。だがあくまでもそう見える、という程度だ。その他に手話に見える動作は『笑う』や『楽しい』など、緊急性があるようには見えない。
(手話だとしたら、なにを伝える? 考えろ……松永涼子は手話ができたが、あの探偵は知らなかったはず。美桜を預けたあの晩なにをしたかと訊けば、美桜は指文字を教えたと言っていた)
「指文字……」
九条は再び動画を注視した。
「PRなら任せてください」
(任せて、の親指で自身を指す動きが『あ』)
『あ、最近ね、あたし強盗に入られたんですよ。その人拳銃持ってて、こうやって頭に突きつけられて。あたし撃たれるかと思ったけど、アクビスの里に入っていたからかしら。ご加護があって、無事で済んだわ』
(銃の動きが『し』)
『そうそう、あれは本当にラッキーでしたね』
(ラッキーのピースサインが『か』)
『涼子さん、あの指輪見せて結婚会見するやつ、夢ですもんね。松永エステートの御令嬢なら、小さいネットニュースくらいにはなるんじゃないですか?』
(指輪を見せる動きが『ほ』)
「あしかほ……おい。どこかに『あしかほ』の名がつく地名や施設はないか」
「温泉施設や老人ホームなど、多数存在していて絞りきれません」
「くそっ! まだ他にもサインがあるのか?!」
九条は何故だか焦っていた。脳裏に浮かんだ涼子の笑顔が、霞がかるように消えていくのだ。
「他に施設はないのか」
「小学校がありますが、少々変わってまして」
「なにがだ!」
(……学校? そういえば、最後の『ようこそ』のポーズが、学校の手話表現とも取れるか)
「その芦花保小学校の文字が『笑楽校』になっているんです。廃校になった小学校を改装した、レンタル施設のようで」
九条は目を見開く。
「……ビンゴだ」
そして、全捜査員に指示を出した。
「今すぐに秩父の横瀬町にある、芦花保笑楽校に向かうぞ! 秩父警察に連絡、機動隊も向かわせろ!」
バタバタと捜査員が里を後にする中、佐藤が聞く。
「なぜ、芦花保笑楽校だと?」
「動画内の『ニヤニヤしちゃって』の動作は笑うことを、『お腹すいた』の動作は楽しむことをそれぞれ表すんだよ。最後の学校と全てを合わせれば、芦花保笑楽校になるんだ」
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