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種明かし
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「パトカーを使っても秩父まで一時間弱は掛かる。間に合うか心配だったが、ギリギリだったな」
「本当、ぎりぎりまで能力使うか迷いましたよ」
「能力?」
「あ、いや。なんでもないっす」
九条のツッコミを、翔太は笑って誤魔化す。
「時間稼ぎの目的とはいえ、あの女との会話は苦痛でした」
濡れた服を着替え終わってもまだ怒りの収まりきっていない遥に皆は苦笑する。すると、佐藤が向かってきた。
「春野彩美は処置後、救急車で運ばれました。出血が多く危険な状態でしたが、意識はあり命に別状はありません」
「ご苦労。よくやってくれた」
九条が言えば、佐藤は敬礼して去っていく。
「あんたたちもすぐに病院に行け。念のために見てもらうといい」
「あたし……なんか、疲れた」
そう言うと、涼子は安心したように意識を失い、九条にもたれかかる。
「涼子さん!?」
「大丈夫だ、息はある。ホッとして眠ってしまっただけだろう」
九条が言えば、遥と翔太は安堵のため息をつく。
「翔太。今何時?」
「十七時半。儀式まで、あんまり時間がないっす。でも涼子さんがその様子じゃ、作戦考え直さないと」
「そんな時間ない。私一人で行く」
遥は眠る涼子の手に、そっと自分の手を重ねた。
「儀式? なんの話だ」
二人の会話に九条が訊けば、翔太はパッと表情を明るくした。
「そうだ! 九条さんに頼みましょう。涼子さんは俺が引き受けるんで、今からアクビスの里へ」
「里に何があるんだ」
「とにかく移動しますよ」
「え、ちょっと翔太」
パチンっ
遥と翔太、それから涼子と九条はアクビスの里の門の前に居た。
九条は固まったまま、口だけを動かす。
「……なんだ、今のは」
眠る涼子を抱えながら、九条は考えを巡らせている。
「翔太、まずいよ。こんな風に人に知られたら混乱する」
「大丈夫。九条さんは俺が見込んだ男です」
遥と翔太のやりとりを見て、九条は恐る恐る訊いた。
「今のは、瞬間移動か」
「はい」
「これがきみの“能力”か」
「はい」
「きみは……人間ではない、のか?」
「さすが九条さん。察しがいいっす」
翔太の言葉に九条は目頭を押さえる。
「あの、このことはどうかご内密に」
「馬鹿を言え。こんなこと人に話してもこちらがおかしいと思われる。そもそも変だとは思っていた。事情があって自分は里に入れないと言っていたこと、指輪の力で女性信者の洗脳が解けたように感じたこと。それに南雲丹治と対峙したあの時、彼は俺に手をかざして何かをしようとしていたが、出来なかった。警察に簡単に侵入できたのも、前田恭介が靴の隠し場所を暴露したのも。全てはきみの力だったというわけか」
「大正解。九条さんの勘の良さは先輩並なんじゃないっすか?」
「ああもう! こうなった以上は協力してもらいましょう」
諦めた遥は九条に事情を話す。
「——つまり。この里には白井くんが近づけない結界が張ってあって、内部で人が殺されているのはそのマウトっていう死の神が転生するための生贄。きみたちは、それを止めようとしているというのか」
「その通りです」
「具体的には何をするんだ」
「結界が張ってある以上マウトはまだ里の中にいる。私たちはこれから里に入り、ザラム塔三階にある結界の核を壊します。そうすれば翔太もマウトに近づける。そこで儀式を妨害します」
「結界の核を壊すにはどうすればいい?」
「それは私が。この指輪を使えば結界は壊せるはずです」
遥の手には二つの指輪。ひとつは翔太、もうひとつは涼子のものだ。
遥の指輪は未だ見つかっていない。
「本来ならザラム塔に侵入後、涼子さんにはエレベーターを三階に着けて置いてもらう役割を任せていました。核の破壊に失敗した場合すぐに塔を離れる必要があり、マウトが相手な以上それは一分一秒を争うからです。そのタイミングは儀式の最中、マウトがザラム塔三階から離れるときを見計らっていました。でも状況は変わった。たか絵さんと舞ちゃんが里から脱出したことはもうマウトの耳にも入っているはずで、そうなると儀式は行われないかもしれない。それでも、生贄に選ばれた八人は今も儀式の場にいるはずなんです。命を助けなければ。私は、そのために里に入ります」
その時、九条は思ったままの疑問を遥に訊いた。
「なぜきみがそこまでする? 例え八人の信者が亡くなってしまったとしても誰もきみを責めないし、きみがそこまでの責任を負う必要は全くない。それでもきみが行く理由はなんなんだ」
遥は迷いなく答える。
「こいつですよ。この白井翔太は同じ神なくせに、人間が死ぬと落ち込むんです。ひょうきんな癖に寂しがり屋で、クリーニング屋の癖に香水なんか振り撒いちゃって。でも、私は三年前のあの日からこいつに悲しむ顔をさせないと決めました。それに、好きな人の願いは最大限叶えたい。人間ってそういうものでしょう?」
翔太はなんの邪気もない顔で、ぽかんと遥を見る。それを聞いた九条は、吹っ切れたようにカラッと笑った。
「遥。今からきみをそう呼んでもいいか」
九条の言葉に、翔太は目を見開いてきょろきょろさせる。
「その話に乗ってやる。安心してくれ、遥は必ず俺が守るよ。なに、その結界の核さえ破壊すれば、あとはきみに任せていいんだろう?」
翔太は首がもげそうなほどに上下にぶんぶん振った。
「さて。長く説明させてすまなかった。行くぞ」
「本当、ぎりぎりまで能力使うか迷いましたよ」
「能力?」
「あ、いや。なんでもないっす」
九条のツッコミを、翔太は笑って誤魔化す。
「時間稼ぎの目的とはいえ、あの女との会話は苦痛でした」
濡れた服を着替え終わってもまだ怒りの収まりきっていない遥に皆は苦笑する。すると、佐藤が向かってきた。
「春野彩美は処置後、救急車で運ばれました。出血が多く危険な状態でしたが、意識はあり命に別状はありません」
「ご苦労。よくやってくれた」
九条が言えば、佐藤は敬礼して去っていく。
「あんたたちもすぐに病院に行け。念のために見てもらうといい」
「あたし……なんか、疲れた」
そう言うと、涼子は安心したように意識を失い、九条にもたれかかる。
「涼子さん!?」
「大丈夫だ、息はある。ホッとして眠ってしまっただけだろう」
九条が言えば、遥と翔太は安堵のため息をつく。
「翔太。今何時?」
「十七時半。儀式まで、あんまり時間がないっす。でも涼子さんがその様子じゃ、作戦考え直さないと」
「そんな時間ない。私一人で行く」
遥は眠る涼子の手に、そっと自分の手を重ねた。
「儀式? なんの話だ」
二人の会話に九条が訊けば、翔太はパッと表情を明るくした。
「そうだ! 九条さんに頼みましょう。涼子さんは俺が引き受けるんで、今からアクビスの里へ」
「里に何があるんだ」
「とにかく移動しますよ」
「え、ちょっと翔太」
パチンっ
遥と翔太、それから涼子と九条はアクビスの里の門の前に居た。
九条は固まったまま、口だけを動かす。
「……なんだ、今のは」
眠る涼子を抱えながら、九条は考えを巡らせている。
「翔太、まずいよ。こんな風に人に知られたら混乱する」
「大丈夫。九条さんは俺が見込んだ男です」
遥と翔太のやりとりを見て、九条は恐る恐る訊いた。
「今のは、瞬間移動か」
「はい」
「これがきみの“能力”か」
「はい」
「きみは……人間ではない、のか?」
「さすが九条さん。察しがいいっす」
翔太の言葉に九条は目頭を押さえる。
「あの、このことはどうかご内密に」
「馬鹿を言え。こんなこと人に話してもこちらがおかしいと思われる。そもそも変だとは思っていた。事情があって自分は里に入れないと言っていたこと、指輪の力で女性信者の洗脳が解けたように感じたこと。それに南雲丹治と対峙したあの時、彼は俺に手をかざして何かをしようとしていたが、出来なかった。警察に簡単に侵入できたのも、前田恭介が靴の隠し場所を暴露したのも。全てはきみの力だったというわけか」
「大正解。九条さんの勘の良さは先輩並なんじゃないっすか?」
「ああもう! こうなった以上は協力してもらいましょう」
諦めた遥は九条に事情を話す。
「——つまり。この里には白井くんが近づけない結界が張ってあって、内部で人が殺されているのはそのマウトっていう死の神が転生するための生贄。きみたちは、それを止めようとしているというのか」
「その通りです」
「具体的には何をするんだ」
「結界が張ってある以上マウトはまだ里の中にいる。私たちはこれから里に入り、ザラム塔三階にある結界の核を壊します。そうすれば翔太もマウトに近づける。そこで儀式を妨害します」
「結界の核を壊すにはどうすればいい?」
「それは私が。この指輪を使えば結界は壊せるはずです」
遥の手には二つの指輪。ひとつは翔太、もうひとつは涼子のものだ。
遥の指輪は未だ見つかっていない。
「本来ならザラム塔に侵入後、涼子さんにはエレベーターを三階に着けて置いてもらう役割を任せていました。核の破壊に失敗した場合すぐに塔を離れる必要があり、マウトが相手な以上それは一分一秒を争うからです。そのタイミングは儀式の最中、マウトがザラム塔三階から離れるときを見計らっていました。でも状況は変わった。たか絵さんと舞ちゃんが里から脱出したことはもうマウトの耳にも入っているはずで、そうなると儀式は行われないかもしれない。それでも、生贄に選ばれた八人は今も儀式の場にいるはずなんです。命を助けなければ。私は、そのために里に入ります」
その時、九条は思ったままの疑問を遥に訊いた。
「なぜきみがそこまでする? 例え八人の信者が亡くなってしまったとしても誰もきみを責めないし、きみがそこまでの責任を負う必要は全くない。それでもきみが行く理由はなんなんだ」
遥は迷いなく答える。
「こいつですよ。この白井翔太は同じ神なくせに、人間が死ぬと落ち込むんです。ひょうきんな癖に寂しがり屋で、クリーニング屋の癖に香水なんか振り撒いちゃって。でも、私は三年前のあの日からこいつに悲しむ顔をさせないと決めました。それに、好きな人の願いは最大限叶えたい。人間ってそういうものでしょう?」
翔太はなんの邪気もない顔で、ぽかんと遥を見る。それを聞いた九条は、吹っ切れたようにカラッと笑った。
「遥。今からきみをそう呼んでもいいか」
九条の言葉に、翔太は目を見開いてきょろきょろさせる。
「その話に乗ってやる。安心してくれ、遥は必ず俺が守るよ。なに、その結界の核さえ破壊すれば、あとはきみに任せていいんだろう?」
翔太は首がもげそうなほどに上下にぶんぶん振った。
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