【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

文字の大きさ
33 / 41

種明かし

しおりを挟む
「パトカーを使っても秩父まで一時間弱は掛かる。間に合うか心配だったが、ギリギリだったな」
「本当、ぎりぎりまで能力使うか迷いましたよ」
「能力?」
「あ、いや。なんでもないっす」

 九条のツッコミを、翔太は笑って誤魔化す。

「時間稼ぎの目的とはいえ、あの女との会話は苦痛でした」
 
 濡れた服を着替え終わってもまだ怒りの収まりきっていない遥に皆は苦笑する。すると、佐藤が向かってきた。
 
「春野彩美は処置後、救急車で運ばれました。出血が多く危険な状態でしたが、意識はあり命に別状はありません」
「ご苦労。よくやってくれた」
 
 九条が言えば、佐藤は敬礼して去っていく。
 
「あんたたちもすぐに病院に行け。念のために見てもらうといい」
「あたし……なんか、疲れた」
 
 そう言うと、涼子は安心したように意識を失い、九条にもたれかかる。
 
「涼子さん!?」 
「大丈夫だ、息はある。ホッとして眠ってしまっただけだろう」
 
 九条が言えば、遥と翔太は安堵のため息をつく。
 
「翔太。今何時?」
「十七時半。儀式まで、あんまり時間がないっす。でも涼子さんがその様子じゃ、作戦考え直さないと」 
「そんな時間ない。私一人で行く」
 
 遥は眠る涼子の手に、そっと自分の手を重ねた。
 
「儀式? なんの話だ」 
 
 二人の会話に九条が訊けば、翔太はパッと表情を明るくした。
 
「そうだ! 九条さんに頼みましょう。涼子さんは俺が引き受けるんで、今からアクビスの里へ」
「里に何があるんだ」
「とにかく移動しますよ」
「え、ちょっと翔太」
 
 パチンっ
 
 
 

 
 遥と翔太、それから涼子と九条はアクビスの里の門の前に居た。
 九条は固まったまま、口だけを動かす。
 
「……なんだ、今のは」
 
 眠る涼子を抱えながら、九条は考えを巡らせている。
 
「翔太、まずいよ。こんな風に人に知られたら混乱する」
「大丈夫。九条さんは俺が見込んだ男です」
 
 遥と翔太のやりとりを見て、九条は恐る恐る訊いた。
 
「今のは、瞬間移動か」
「はい」
「これがきみの“能力”か」
「はい」
「きみは……人間ではない、のか?」
「さすが九条さん。察しがいいっす」
 
 翔太の言葉に九条は目頭を押さえる。
 
「あの、このことはどうかご内密に」
「馬鹿を言え。こんなこと人に話してもこちらがおかしいと思われる。そもそも変だとは思っていた。事情があって自分は里に入れないと言っていたこと、指輪の力で女性信者の洗脳が解けたように感じたこと。それに南雲丹治なぐもたんじと対峙したあの時、彼は俺に手をかざして何かをしようとしていたが、出来なかった。警察に簡単に侵入できたのも、前田恭介が靴の隠し場所を暴露したのも。全てはきみの力だったというわけか」
「大正解。九条さんの勘の良さは先輩並なんじゃないっすか?」
「ああもう! こうなった以上は協力してもらいましょう」
 
 諦めた遥は九条に事情を話す。
 
「——つまり。この里には白井くんが近づけない結界が張ってあって、内部で人が殺されているのはそのマウトっていう死の神が転生するための生贄。きみたちは、それを止めようとしているというのか」
「その通りです」
「具体的には何をするんだ」
「結界が張ってある以上マウトはまだ里の中にいる。私たちはこれから里に入り、ザラム塔三階にある結界の核を壊します。そうすれば翔太もマウトに近づける。そこで儀式を妨害します」
「結界の核を壊すにはどうすればいい?」
「それは私が。この指輪を使えば結界は壊せるはずです」
 
 遥の手には二つの指輪。ひとつは翔太、もうひとつは涼子のものだ。
 遥の指輪は未だ見つかっていない。
 
「本来ならザラム塔に侵入後、涼子さんにはエレベーターを三階に着けて置いてもらう役割を任せていました。核の破壊に失敗した場合すぐに塔を離れる必要があり、マウトが相手な以上それは一分一秒を争うからです。そのタイミングは儀式の最中、マウトがザラム塔三階から離れるときを見計らっていました。でも状況は変わった。たか絵さんと舞ちゃんが里から脱出したことはもうマウトの耳にも入っているはずで、そうなると儀式は行われないかもしれない。それでも、生贄に選ばれた八人は今も儀式の場にいるはずなんです。命を助けなければ。私は、そのために里に入ります」
 
 その時、九条は思ったままの疑問を遥に訊いた。
 
「なぜきみがそこまでする? 例え八人の信者が亡くなってしまったとしても誰もきみを責めないし、きみがそこまでの責任を負う必要は全くない。それでもきみが行く理由はなんなんだ」
 
 遥は迷いなく答える。
 
「こいつですよ。この白井翔太は同じ神なくせに、人間が死ぬと落ち込むんです。ひょうきんな癖に寂しがり屋で、クリーニング屋の癖に香水なんか振り撒いちゃって。でも、私は三年前のあの日からこいつに悲しむ顔をさせないと決めました。それに、好きな人の願いは最大限叶えたい。人間ってそういうものでしょう?」
 
 翔太はなんの邪気もない顔で、ぽかんと遥を見る。それを聞いた九条は、吹っ切れたようにカラッと笑った。
 
「遥。今からきみをそう呼んでもいいか」
 
 九条の言葉に、翔太は目を見開いてきょろきょろさせる。
 
「その話に乗ってやる。安心してくれ、遥は必ず俺が守るよ。なに、その結界の核さえ破壊すれば、あとはきみに任せていいんだろう?」
 
 翔太は首がもげそうなほどに上下にぶんぶん振った。
 
「さて。長く説明させてすまなかった。行くぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

さくら長屋の回覧ノート

ミラ
ライト文芸
三連続で彼氏にフラれ おひとり様として生涯過ごすことを決めた32歳の百花。 効率よく最速で老後費用の 貯蓄2000万円を目指す【超タイパ女子】だ。 究極の固定費である家賃を下げるために、築50年のさくら長屋への入居を決める。 さくら長屋の入居条件は 【「回覧ノート」を続けることができる人】 回覧ノートとは長屋の住人が、順々に その日にあった良かったことと 心にひっかかったことを一言だけ綴る簡単なもの。 個性豊かで、ちょっとお節介な長屋の住人たちと 回覧ノートを続けて交流するうちに、 百花はタイパの、本当の意味に気づいていく。 おひとり様で生きていくと決めたけれど、 <<少しだけ人と繋がっていたい>> ──そんな暮らしの物語。

処理中です...