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一日一生
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その昔。マウトは呪力でアンクをバラバラに散らしたのち、故郷へと帰った。
そこで母ヌトの魂を手土産にゲブに付け込み、マウトは破壊神セトを抹殺する。セトを失ったとあらば、人間を生み出せないオシリスたちの神としての地位は崩壊必至だ。
「僕がセトの任務である寿命を担う代わりに、オシリスを飲み込むことをゲブに承諾させた。ゲブはセトを疎ましく思っていたし、オシリスは意思のないゴーレムだったので、そんなに難しい話でありませんでした。だがそれに意義をなしたのが、そこにいるイシス。彼女はオシリスの妻。僕のことが許せなかったようです」
そこでマウトは、イシスが母のジェロスを殺めることを条件に賭けを持ち出したのだ。
イシスが勝てば、マウトはオシリスを解放する。ただしマウトが勝てば、イシスもオシリス同様マウトに飲み込まれることを承諾する、と。
「賭けの間、イシスは自らの忠誠を僕に捧げることを誓った。イシスの右腕のネフティス、子であるアヌビスもこの通りだ。誰かに傅かれるのは実に気持ちが良いよ」
「お前……なんてことを……」
翔太はもう我慢できなかった。
鋭い目つきでマウトを睨み、遥の手を握る左手は震えている。
「さっさとその賭けの内容とやらを教えろ」
「ああ、それはね」
“伊東遥がアンク様を殺すこと”
翔太と遥の驚く顔を横目に、マウトは続けた。
「期日までに伊東遥がアンクを殺せば、僕の勝ち。殺さなければイシスの勝ち。まあ、その前に僕が伊東遥を殺してもゲームオーバーだったんだけど。なんだかさっきは調子が悪かったみたいだ」
遥の心臓は視界が揺れるほどにドクドクと波打つ。
「ねえアンク様? あなたはずっと自分が死ぬ方法を探していたと思うけど、それを可能にできるのはイシスだったんだよ。イシスの呪力があれば、アンク様ですら永遠の眠りにつかすことができる。あなたは人間になる事なんかに現を抜かす前に、イシスに会いに行くべきだったんだ。そうすればこんな賭けに彼女を巻き込まなくて済んだ。まあ、もう何もかも手遅れだけどね」
「……期日っていつ」
その時。ふと遥の低い声が場に響いた。
「期日は約四年後の六月十日。伊東遥さん、きみの三十歳の誕生日です」
「その日までに私が翔太を殺さなかった場合、私はどうなるの」
「そんなの決まっています、死ぬんですよ。僕が言う『期日』は『寿命』ですから。でも、そうですね。あなたがアンク様を殺してくれれば、更なる寿命を差し上げましょう。僕の仲間になれば、永遠に転生させることを約束して差し上げてもいい」
遥は翔太が握る右手をそっと解くと、マウトの元へ一歩ずつ近づいていく。
離れて行く遥の背中を見て、翔太は思考が止まった。
「はっ! なるほどそうですか。最初から説明しておけばよかったですね。それはそうですよ、皆自分が可愛い僕だってそうだ! 何も恥じることはありません。そもそもアンク様は死を望んでいるのですから、きみがその手で殺してあげることが一番幸せとも言える!」
「殺し方は? なんでもいいの?」
「はい」
「今持ってるこんな、ペンなんかで刺しても?」
「ええ。でも核を突き刺してくださいね。我々神の核は、人間でいう臍の上辺りです」
「なるほど」
遥はマウトに笑いかけると、翔太に振り返った。
「翔太。翔太が思い描いていた結末とは違うのかもしれないけど、これでも一応翔太の望みを叶えることに変わりはないと思う。私も生きたいの、ごめんね」
ペンを持った手を振り上げた遥を見て、九条は目を見開く。
「一日一生。翔太、私に殺されるのなら幸せでしょう?」
翔太は断ち切れない愛情の視線を遥に送る。が、すぐに切り替えていつものカラッとした笑顔で返した。
「本当、先輩には敵わないっす」
右足を出してから、時間で言うと一秒もなかった。
驚く九条。
勝ち誇る顔のマウト。
遥は上げた手を、目一杯の力を込めて、振り下ろした。
そこで母ヌトの魂を手土産にゲブに付け込み、マウトは破壊神セトを抹殺する。セトを失ったとあらば、人間を生み出せないオシリスたちの神としての地位は崩壊必至だ。
「僕がセトの任務である寿命を担う代わりに、オシリスを飲み込むことをゲブに承諾させた。ゲブはセトを疎ましく思っていたし、オシリスは意思のないゴーレムだったので、そんなに難しい話でありませんでした。だがそれに意義をなしたのが、そこにいるイシス。彼女はオシリスの妻。僕のことが許せなかったようです」
そこでマウトは、イシスが母のジェロスを殺めることを条件に賭けを持ち出したのだ。
イシスが勝てば、マウトはオシリスを解放する。ただしマウトが勝てば、イシスもオシリス同様マウトに飲み込まれることを承諾する、と。
「賭けの間、イシスは自らの忠誠を僕に捧げることを誓った。イシスの右腕のネフティス、子であるアヌビスもこの通りだ。誰かに傅かれるのは実に気持ちが良いよ」
「お前……なんてことを……」
翔太はもう我慢できなかった。
鋭い目つきでマウトを睨み、遥の手を握る左手は震えている。
「さっさとその賭けの内容とやらを教えろ」
「ああ、それはね」
“伊東遥がアンク様を殺すこと”
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遥の心臓は視界が揺れるほどにドクドクと波打つ。
「ねえアンク様? あなたはずっと自分が死ぬ方法を探していたと思うけど、それを可能にできるのはイシスだったんだよ。イシスの呪力があれば、アンク様ですら永遠の眠りにつかすことができる。あなたは人間になる事なんかに現を抜かす前に、イシスに会いに行くべきだったんだ。そうすればこんな賭けに彼女を巻き込まなくて済んだ。まあ、もう何もかも手遅れだけどね」
「……期日っていつ」
その時。ふと遥の低い声が場に響いた。
「期日は約四年後の六月十日。伊東遥さん、きみの三十歳の誕生日です」
「その日までに私が翔太を殺さなかった場合、私はどうなるの」
「そんなの決まっています、死ぬんですよ。僕が言う『期日』は『寿命』ですから。でも、そうですね。あなたがアンク様を殺してくれれば、更なる寿命を差し上げましょう。僕の仲間になれば、永遠に転生させることを約束して差し上げてもいい」
遥は翔太が握る右手をそっと解くと、マウトの元へ一歩ずつ近づいていく。
離れて行く遥の背中を見て、翔太は思考が止まった。
「はっ! なるほどそうですか。最初から説明しておけばよかったですね。それはそうですよ、皆自分が可愛い僕だってそうだ! 何も恥じることはありません。そもそもアンク様は死を望んでいるのですから、きみがその手で殺してあげることが一番幸せとも言える!」
「殺し方は? なんでもいいの?」
「はい」
「今持ってるこんな、ペンなんかで刺しても?」
「ええ。でも核を突き刺してくださいね。我々神の核は、人間でいう臍の上辺りです」
「なるほど」
遥はマウトに笑いかけると、翔太に振り返った。
「翔太。翔太が思い描いていた結末とは違うのかもしれないけど、これでも一応翔太の望みを叶えることに変わりはないと思う。私も生きたいの、ごめんね」
ペンを持った手を振り上げた遥を見て、九条は目を見開く。
「一日一生。翔太、私に殺されるのなら幸せでしょう?」
翔太は断ち切れない愛情の視線を遥に送る。が、すぐに切り替えていつものカラッとした笑顔で返した。
「本当、先輩には敵わないっす」
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驚く九条。
勝ち誇る顔のマウト。
遥は上げた手を、目一杯の力を込めて、振り下ろした。
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