【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

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「メリークリスマース!!!」
 
 小さなクラッカーがいくつも弾け飛び、部屋中にカラフルな紙紐と火薬の匂いが広がる。
 マウトと直接対決をした一週間後。翔太の事務所ではクリスマスパーティーが行われていた。
 
「もう一年が終わっちゃうのね。年を重ねるたび、本当に時の流れを早く感じるわ」
 
 涼子は相変わらずワイングラスを傾ける。
 
「遥さん、涼子さん。この度は私のわがままな依頼で危険な目に合わせてしまって、本当にごめんなさい。それにせっかく里にまで入ってもらったのに、まさるさんは今だに行方不明。結局私は、何一つ力になれなかった」
 
 肩を落とすたか絵に、そっとあきらが近づく。
 
「まさか、たか絵がまさるを助けに宗教にハマったふりをしていたなんて。俺は本当に何も知らずに……今回のことで反省しました。たか絵ともちゃんと話し合って、これからは家事の分担、育児への考え方を改めると約束しました」
 
 晃は力強く頷く。


 
 あの後、アクビスの里は一時閉鎖された。警察による信者の事情聴取が進む中、たか絵と舞は過度な緊張による疲労で病院に運ばれたのだと、翔太が記憶の辻褄を合わせた。
 マウトが器にしていたまさるに関して、たか絵はずっと仲の悪かった晃には相談できずに一人でなんとかしようと翻弄した。あきらはそんなたか絵に、まさるにはもうこだわることはやめるよう伝える。

 いくら家族になったからといって、無理に関わる必要はない。全員が仲良くできるわけではないのだ、と。
 
「舞ちゃんのあざ、だんだん薄くなってきたって聞きました」
 
 遥が自分の分のサラダを取り分けながら言う。
 
「ええ。涼子さんに紹介してもらった気功師の方のおかげで、随分。ごめんなさい、正直初めは少し疑っていたの。でも家に来ていただいたその日のうちに、少し薄くなったのが目でもわかって。良い方を教えていただいたわ。本当、何もかもありがとう」
 
 たか絵の言った気功師とは、翔太のことだ。
 
 翔太は週に一度、女性気功師としてたか絵の家を訪問することになっている。無論、マウトの聖痕を舞から消すためだ。
 
「今日、舞ちゃんは?」
「実家の母に見てもらってるわ。だって絶対に来たかったんだもの。今日は梨沙も尚美ちゃんも実家に遊びに来て居たみたいで、舞も喜んでた」
「相変わらず、あの二人も仲が良さそうで何よりね」
 
 涼子が掲げたワイングラスに、たか絵は笑顔で自分のグラスを合わせた。
 
「はーい、ビーフシチュー。熱々のうちに食べてね、美桜ちゃん」
 
 翔太が手話で話しかけると、美桜は笑顔で両手を合わせた。首には例のネックレスが揺れている。
 
「美桜まで招待してもらって、なんだか悪いな。絶対行くって聞かなくて」
「大歓迎っす。今回は九条さんがいなきゃ危なかったんですし、美桜ちゃんの手話も大活躍! もう、じゃんじゃん食べてってくださいね!」
 
 九条は楽しそうな美桜を見て微笑んだ。
 
 前田恭介まえだきょうすけ南雲丹治なぐもたんじ南雲美帆なぐもみほが逮捕されてから一週間。九条はほぼ警察署に缶詰状態で対応に追われていた。
 前田恭介が横流しした薬物の出どころは伏せられ、さまざまな憶測が報道されたが、アクビスの里の信者からは一人も薬物反応が出なかったこと、南雲丹治が勾留中に自殺したことも重なり、里での薬物使用の有無は確認できなかった。

 警察は全ての責任を前田恭介に負わせて懲戒免職後逮捕、起訴する。警察の不祥事は連日テレビで流されていた。
 
「やっとひと段落、って感じ?」
 
 背後からした涼子の声に、九条は急いで振り返る。
 
「な、なによ」
「これ」
 
 そう言うと、九条は指輪を二つ取り出した。
 
「あのあと里を捜索していたら金庫の中で見つけたんだ。遥のだろう? きみから返しておいてくれないか」
 
 涼子は九条から指輪を受け取ると、すぐに顔を上げた。
 
「ねえ」
「あ?」
「遥は『遥』なのに、なんであたしは『きみ』なのよ」
「……別に深い意味はねえよ。なんでもいいだろう、呼び名なんて」
 
 するとチキンにかぶりつく遥が、咀嚼しながら言う。
 
「涼子さん、そういうのこだわり強いんです。私の時もチクチクずーっと言ってましたもん。早いとこ名前で呼んだほうがいいですよ」
「な、名前は無理だろ!」
「なんでよ」
「なんでって……」
 
 九条の耳が、みるみる赤くなる。
 
「ああもう! 手出せ」
「へ?」
「いいから早く!」
 
 九条は無理やり涼子の手を取ると、薬指に指輪をはめた。
 
「これ、あんたの。俺が預かってたんだ。遥の指輪も渡しとくから、返せよな……涼子」
 
 九条は強めに後頭部を掻きながら、その場から離れていく。
 
「……なに左手にはめてくれてんのよ」
 
 ボソボソ悪態をつきながらもまんざらでもないその様子に、遥と翔太は肩をすくめて互いを見合わせた。
 涼子は指輪を渡すと同時に、切り替えるように遥に話しかける。
 
「そういえば彩美さん、もうすっかり良くなったんでしょう? 今日は来ないの?」
「ああ、それが十三年前の事故のことを一人で週刊誌に持ち込んだら、かなり注目されたみたいで。連日取材やらなんやらで今日も忙しいみたいです。来られないこと、すごく悔しがってました」
「そう。まあ容疑者があの南雲美帆じゃ、そうなるわよね。真実が明らかになればいいけれど」
 
 涼子の含みのある言葉には、理由があった。
 
 警察の捜索はマウトの居たザラム塔三階にも及んだのだが、そこはもぬけの殻だった。儀式で犠牲になったはずの何十人分の骨も発見されていないし、当然前田洸太の骨も見つかっていない。
 死人に口なし。美帆の供述次第では、十三年前の罪が洸太になすりつけられることも充分にあり得るのだ。
 
 
 ピンポーン
 
 
「あ、私が出る」
 
 遥は玄関に向かい、扉を開ける。
 するとそこにはシャンパンを持った瑛山えいざんと真央が居た。
 
「我々まで招待してもらって、ありがとう。真央はすごく楽しみにしていたんだ……あいたっ」
 
 瑛山の頭が軽く叩かれると、後ろからひょっこり真央が顔を出す。
 
「ちょっと退きなさいよ。遥ちゃんが見えないでしょう? お久しぶりね! もう、遥ちゃん全然顔出さないから。今日はいつもより気合い入れてきちゃったわ」
 
 瑛山の後ろで両手を広げる、白い着物姿の真央。その真央の身体は、後ろから何者かに引っ張られたようで一瞬にして遥の視界から消えた。


 
「さっさと中に入りな。扉を閉めるんだから」


 
 押されるように瑛山が事務所に足を踏み入れると、続けて見えた真央の後頭部には、なんと銃口が突きつけられている。
 

 

 
 
 『——速報です。本日十六時二十分ごろ、埼玉県秩父市で起きた女性三人の殺人未遂容疑で逮捕起訴された南雲美帆被告が拘置所への移送中に逃走したもようです。なお、南雲被告には浦和連続強盗殺人事件、更には十三年前の事故についても容疑がかかっており、移送には事務官二人だけでなく警察官二人が付き添っていましたが、そのうち一人の警察官から拳銃を奪って逃走したとのことです。現在緊急配備が敷かれておりますが、いまだ行方は掴めておらず——』
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