30 / 81
因縁編
メッセージの意味
しおりを挟む
緊張が走る。彩美の発言に、権堂はありえない、と口を開いた。
「そ、そりゃ開いてただろ。あんたがその瞼、閉じたんだから」
「そうなんですけど。でも、私は佐和子さんの背中の刃物にも気が付かなかったんです。穏やかに目を閉じて横たわっていた……そんな風な記憶なんです、私には」
テーブルに乗った豪華な料理が途端に瑞々しさを失うほどに、場の空気も乾く。海里は重ねて彩美に訊いた。
「その、芹さんを呼んで戻ってきたときに誰か人は居ました?」
「はい。段田さんが。順番で言うと、その後に相澤さん、権堂さん、野中さんがいらして、最後に江畑さんだったかと」
「僕はなんにもしてませんよ。僕が大柳さんを発見したとき目は開いていたし、背中に刃物も刺さっていました」
視線が自分に集中していることに気づいた段田は、慌てて口を動かす。その様子を見て、今度は海里が考えをまとめるように口を開いた。
「大柳さんの死亡推定時刻は16時から19時。でも大柳さんは夕食に顔を出していたから、犯行時刻はもっと絞られる。竹林さんの言ったことが記憶違いでないのなら、もしかしたら大柳さんは倒れていたその時、まだ生きていたんじゃないですか? それを竹林さんが芹さんを呼びに行ったものの数分のうちに、誰かが背中を刺してとどめを。その痛みと衝撃で目が開いたのだと考えれば——」
海里はそこで言葉を止める。じわじわ広がり出した猜疑心のうねりは、海里がついさっきまで白だと疑わなかった人物を黒く取り囲んだ。
「竹林さん、或いは段田さんのどちらかが嘘をついている、ってわけね」
不安からだろう、途端に敵意を向けられた彩美の眼球が小刻みに震えだす。千聖は珈琲カップに口をつけると、低く冷静な声で続けた。
「でも段田さんの方が怪しいか。だってもし竹林さんが佐和子さんを刺したとして、わざわざそんな嘘をつく必要がないもの。第一発見者として疑われる立場ならなおさら、皆と話を合わせておくのが無難でしょう?」
「たしかに。ねえ、どうせ明日こっから居なくなるんだし、ホントのこと言ってけば? おばちゃんになんの恨みがあったの?」
千聖に続きマリアにまですっかり犯人認定された段田は、鼻息荒く眼鏡の位置を直す。その表情に、マリアは口の端を微かに上げた。
「あの。ちょっといいですか」
そう口を挟んだのは、海里だった。
「俺もひとつ皆さんに聞いてもらいたい話があります。ここに来る前、俺の身に起きたこと」
海里は自宅アパートで起きた謎の女の自殺の件を伝える。話を聞いた千聖は、身を守る様に腕を抱えた。
「なにそれ、怖っ。突然家に現れて、お腹を刺して? しかも後日確認したらその死体、消えてなくなっちゃったってこと?」
「はい。その女性がダイイングメッセージみたいに残した言葉があるんですけど、それ多分皆さんのことなんじゃないかなって」
「はあ? なによそれ」
「OEGAD。だってこれ、俺と竹林さん以外の皆さんのイニシャルですよね? Oは亡くなった大柳佐和子さん。そして——」
海里は確認する様に、ひとりずつ視線を移していく。
E……江畑マリア
G……権堂薫
A……相澤千聖
D……段田慎之介
「こんな偶然、ある訳がない。あの消えた女性は、皆さんに繋がりのある人なはずなんです。心当たりありませんか? 長い茶髪の——
右顎にほくろのある女性」
「そ、そりゃ開いてただろ。あんたがその瞼、閉じたんだから」
「そうなんですけど。でも、私は佐和子さんの背中の刃物にも気が付かなかったんです。穏やかに目を閉じて横たわっていた……そんな風な記憶なんです、私には」
テーブルに乗った豪華な料理が途端に瑞々しさを失うほどに、場の空気も乾く。海里は重ねて彩美に訊いた。
「その、芹さんを呼んで戻ってきたときに誰か人は居ました?」
「はい。段田さんが。順番で言うと、その後に相澤さん、権堂さん、野中さんがいらして、最後に江畑さんだったかと」
「僕はなんにもしてませんよ。僕が大柳さんを発見したとき目は開いていたし、背中に刃物も刺さっていました」
視線が自分に集中していることに気づいた段田は、慌てて口を動かす。その様子を見て、今度は海里が考えをまとめるように口を開いた。
「大柳さんの死亡推定時刻は16時から19時。でも大柳さんは夕食に顔を出していたから、犯行時刻はもっと絞られる。竹林さんの言ったことが記憶違いでないのなら、もしかしたら大柳さんは倒れていたその時、まだ生きていたんじゃないですか? それを竹林さんが芹さんを呼びに行ったものの数分のうちに、誰かが背中を刺してとどめを。その痛みと衝撃で目が開いたのだと考えれば——」
海里はそこで言葉を止める。じわじわ広がり出した猜疑心のうねりは、海里がついさっきまで白だと疑わなかった人物を黒く取り囲んだ。
「竹林さん、或いは段田さんのどちらかが嘘をついている、ってわけね」
不安からだろう、途端に敵意を向けられた彩美の眼球が小刻みに震えだす。千聖は珈琲カップに口をつけると、低く冷静な声で続けた。
「でも段田さんの方が怪しいか。だってもし竹林さんが佐和子さんを刺したとして、わざわざそんな嘘をつく必要がないもの。第一発見者として疑われる立場ならなおさら、皆と話を合わせておくのが無難でしょう?」
「たしかに。ねえ、どうせ明日こっから居なくなるんだし、ホントのこと言ってけば? おばちゃんになんの恨みがあったの?」
千聖に続きマリアにまですっかり犯人認定された段田は、鼻息荒く眼鏡の位置を直す。その表情に、マリアは口の端を微かに上げた。
「あの。ちょっといいですか」
そう口を挟んだのは、海里だった。
「俺もひとつ皆さんに聞いてもらいたい話があります。ここに来る前、俺の身に起きたこと」
海里は自宅アパートで起きた謎の女の自殺の件を伝える。話を聞いた千聖は、身を守る様に腕を抱えた。
「なにそれ、怖っ。突然家に現れて、お腹を刺して? しかも後日確認したらその死体、消えてなくなっちゃったってこと?」
「はい。その女性がダイイングメッセージみたいに残した言葉があるんですけど、それ多分皆さんのことなんじゃないかなって」
「はあ? なによそれ」
「OEGAD。だってこれ、俺と竹林さん以外の皆さんのイニシャルですよね? Oは亡くなった大柳佐和子さん。そして——」
海里は確認する様に、ひとりずつ視線を移していく。
E……江畑マリア
G……権堂薫
A……相澤千聖
D……段田慎之介
「こんな偶然、ある訳がない。あの消えた女性は、皆さんに繋がりのある人なはずなんです。心当たりありませんか? 長い茶髪の——
右顎にほくろのある女性」
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる