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CASE:5
万華鏡の館
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マスタールームの前まで来た井無田は、ドアをゆっくりと2回、ノックする。中から返事はない。
そっとノブに手を掛け、室内に足を踏み入れると、そこには珈琲の香りが充満していた。
「芹様」
ドア付近から、1回呼ぶ。返事はない。
すると井無田はすぐにドアの内鍵を閉め、体重で軋む床を踏み鳴らしながら芹の元へと近づいた。
井無田が見降ろす芹は、デスクに突っ伏すように顔をつけ、目を閉じている。力無く垂れた腕の先、床には転がるカップと、中身の珈琲が溢れたシミが点々と模様を描いていた。
井無田は懐から懐中時計を取り出し、その蓋を開くと、中身を確認してから再び芹を見る。
「寿命か」
そう言うや否や、井無田はデスクに沈む芹の頭を躊躇なく鷲掴みにした。
小刻みに唇を動かす。薄く漏れ出る声は、何かの呪文をその腕から芹の頭へと落とし込めるように酷く優美であった。
その井無田の左手の甲にぶわりと浮かび上がるのは、例の六芒星。
青白い閃光の柱が細く立ち伸び、ほんの数分の間で井無田の髪は腰まで伸びた。
「おい。起きろ」
感情の乗らない無機質な声。その声に呼び起こされ、芹はゆっくりと瞼を開く。そうして状態を起こせば、自分の置かれている状況を理解しようと辺りを見回した。
「あれ……わたし、ここで何を」
「お前の名前はセリ。字は瀬利でも芹でも構わん」
「セリ……わたしの名前は、芹……」
「この館はお前のもの。その生命、全てを掛けて浄化に励め。それがお前の贖罪だ」
「あなたは——」
芹の視線と、井無田の視線が噛み合う。
井無田の瞳の色が深い緑色に揺れれば、芹は一瞬ガクリと首を垂らした。
そして、すぐに顔を上げる。
「……井無田」
「はい」
「珈琲が溢れています。すぐに片付けていただけますか」
「かしこまりました」
井無田は小さくお辞儀をすると、床に転がるカップとデスクの上のソーサーを手に部屋を出て行った。
残された芹は小さく息を吐くと、徐に引き出しを開ける。中からノートパソコンを取り出せば、ブルーライトを放つその画面に齧り付くように顔を寄せた。
ブックマークには、憂さ晴らしサミットの文字。そこからカーソルを動かし、検索エンジンをクリックする。
「殺人……隠蔽……強盗……逃走……速報……死体……」
ムカデの四肢のように蠢く、芹の両手。
そのキーボードを打つ左手の甲には、
くっきりと、十字の印が刻まれていた。
そっとノブに手を掛け、室内に足を踏み入れると、そこには珈琲の香りが充満していた。
「芹様」
ドア付近から、1回呼ぶ。返事はない。
すると井無田はすぐにドアの内鍵を閉め、体重で軋む床を踏み鳴らしながら芹の元へと近づいた。
井無田が見降ろす芹は、デスクに突っ伏すように顔をつけ、目を閉じている。力無く垂れた腕の先、床には転がるカップと、中身の珈琲が溢れたシミが点々と模様を描いていた。
井無田は懐から懐中時計を取り出し、その蓋を開くと、中身を確認してから再び芹を見る。
「寿命か」
そう言うや否や、井無田はデスクに沈む芹の頭を躊躇なく鷲掴みにした。
小刻みに唇を動かす。薄く漏れ出る声は、何かの呪文をその腕から芹の頭へと落とし込めるように酷く優美であった。
その井無田の左手の甲にぶわりと浮かび上がるのは、例の六芒星。
青白い閃光の柱が細く立ち伸び、ほんの数分の間で井無田の髪は腰まで伸びた。
「おい。起きろ」
感情の乗らない無機質な声。その声に呼び起こされ、芹はゆっくりと瞼を開く。そうして状態を起こせば、自分の置かれている状況を理解しようと辺りを見回した。
「あれ……わたし、ここで何を」
「お前の名前はセリ。字は瀬利でも芹でも構わん」
「セリ……わたしの名前は、芹……」
「この館はお前のもの。その生命、全てを掛けて浄化に励め。それがお前の贖罪だ」
「あなたは——」
芹の視線と、井無田の視線が噛み合う。
井無田の瞳の色が深い緑色に揺れれば、芹は一瞬ガクリと首を垂らした。
そして、すぐに顔を上げる。
「……井無田」
「はい」
「珈琲が溢れています。すぐに片付けていただけますか」
「かしこまりました」
井無田は小さくお辞儀をすると、床に転がるカップとデスクの上のソーサーを手に部屋を出て行った。
残された芹は小さく息を吐くと、徐に引き出しを開ける。中からノートパソコンを取り出せば、ブルーライトを放つその画面に齧り付くように顔を寄せた。
ブックマークには、憂さ晴らしサミットの文字。そこからカーソルを動かし、検索エンジンをクリックする。
「殺人……隠蔽……強盗……逃走……速報……死体……」
ムカデの四肢のように蠢く、芹の両手。
そのキーボードを打つ左手の甲には、
くっきりと、十字の印が刻まれていた。
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