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第二部
不穏な家系図
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車中。翔太は九条の運転する助手席から、今得ている情報を共有するべく口を動かしていた。
「羽貞蘭丸?」
「知りませんか? 今大活躍中のミュージカル俳優です」
「さあ……テレビはニュースくらいにしか目を通さないからな。で、その蘭丸ってのがなんだ」
「彼は三越の出なんですよ。だから彼の戸籍を足がけに、三越家の繋がりを探ろうかと思ったんすけど」
「けど、なんだ。もう少しはっきり言ってくれ」
それと道案内も頼む、そう視線をフロントガラスに向けながらも、九条は翔太の話に真剣に耳を傾けた。
「先輩に言われて、役所のサーバーをハッキングして戸籍情報を調べたんです。三越家の人間は、どうやって毎度生まれる双子をひとりの存在として生かすことができたのか。その秘密を探ろうと思ったんすけど、戸籍を見ただけではよくわからなかったんです」
「翔太お前、今さらっととんでもないことを言ったな」
「え?」
「……まあいい。続けろ」
翔太は首を傾げるも、持ってきた資料を膝の上に広げて話を続けた。
「まずは三越義実さんと妻の梅さん。ふたりは実のところ血の繋がりがあるわけですから、法律上婚姻関係は結べない。なのにどういう理由かすんなり結婚できてるんすよ。その子供である小百合さんと三郎さんの婚姻関係も、問題なく受理されてます」
「……その、義実と梅の子供たちは戸籍上どうなっているんだ。淘汰の儀とやらがなけりゃ、梅は全部で八人もの子供を産んでいることになるんだろう?」
「それが戸籍に載っていたのは『喜一』『逸士』『三郎』そして『小百合』の四人だけでした。小百合さんに関しては淘汰の儀で、二十歳になったその年からすみれさんと入れ替わっていたわけですけど、それ以降もすみれさんは、表向きには小百合さんを名乗っていたみたいです。まあ、すみれさんの存在は戸籍にはないので、当然っちゃ当然ですね」
「双子を産む度に、片一方は出生届を出されなかったってことか。そうなると出産院も三越の息のかかった施設である可能性が高いな」
「はい、先輩もそう言ってました。でも問題なのはこの後で……あ、次の信号を左に曲がってください」
九条は言われた通りにウィンカーを出し、ハンドルを切る。
「問題はここからなんです。まずは喜一さん。彼には二度の離婚歴があるはずなんすけど、前妻として載っていたのはひとつ前の妻、大滝輝子さんの名前だけでした。でもその前にも奥さんがいたはずなんですよね。その人が、夏代さんとさくらさんの産みの親らしくって」
「籍は入れなかったのか。その夏代とさくらの戸籍は、今どこに入っているんだ」
「彼女たちは孤児として届けが出された後、小百合さん……まあ、正しくはすみれさんの養子として三越家に入りました」
「けど、小百合と三郎は兄妹なんだろう?」
「そこなんです。調べたら、小百合さんの戸籍上の夫の名は三郎さんじゃなかったんですよ。えっと、その道また左で」
車は大通りから裏の細い道に入る。
何件か個人経営の居酒屋やパン屋が並ぶ中、その通りにある公園を挟んだ向こうに、デザイン性の高いシルバーのビルが見えた。
翔太は九条に徐行を促し、そのビルの入り口が確認できる場所で車を止めるように指示した。
「小百合さんの戸籍上、夫の欄に記載のあった名前は勇、それから息子の名前も載っていました。俺、その息子の方とは面識があるんです。彼は今あそこにいます。そして、先輩と涼子さんも」
「あれって……確か、魚富青果とかいう会員制スーパーだろう」
「九条さん会員なんですか?」
「まさか。うちの教官が噂したてたんだよ。渋谷署の生活安全課が、近々大きいヤマを崩すんじゃないかって。あそこはスーパーとは謳っているが実は中身は風俗店で、売春斡旋や果ては臓器売買までなされてるって話だ。まあ、ガサ入れするにも情報がなさすぎて、なかなか手をこまねいているみたいだが」
「教官?」
「ああ。いま警察学校の校長やってんだよ、俺」
「羽貞蘭丸?」
「知りませんか? 今大活躍中のミュージカル俳優です」
「さあ……テレビはニュースくらいにしか目を通さないからな。で、その蘭丸ってのがなんだ」
「彼は三越の出なんですよ。だから彼の戸籍を足がけに、三越家の繋がりを探ろうかと思ったんすけど」
「けど、なんだ。もう少しはっきり言ってくれ」
それと道案内も頼む、そう視線をフロントガラスに向けながらも、九条は翔太の話に真剣に耳を傾けた。
「先輩に言われて、役所のサーバーをハッキングして戸籍情報を調べたんです。三越家の人間は、どうやって毎度生まれる双子をひとりの存在として生かすことができたのか。その秘密を探ろうと思ったんすけど、戸籍を見ただけではよくわからなかったんです」
「翔太お前、今さらっととんでもないことを言ったな」
「え?」
「……まあいい。続けろ」
翔太は首を傾げるも、持ってきた資料を膝の上に広げて話を続けた。
「まずは三越義実さんと妻の梅さん。ふたりは実のところ血の繋がりがあるわけですから、法律上婚姻関係は結べない。なのにどういう理由かすんなり結婚できてるんすよ。その子供である小百合さんと三郎さんの婚姻関係も、問題なく受理されてます」
「……その、義実と梅の子供たちは戸籍上どうなっているんだ。淘汰の儀とやらがなけりゃ、梅は全部で八人もの子供を産んでいることになるんだろう?」
「それが戸籍に載っていたのは『喜一』『逸士』『三郎』そして『小百合』の四人だけでした。小百合さんに関しては淘汰の儀で、二十歳になったその年からすみれさんと入れ替わっていたわけですけど、それ以降もすみれさんは、表向きには小百合さんを名乗っていたみたいです。まあ、すみれさんの存在は戸籍にはないので、当然っちゃ当然ですね」
「双子を産む度に、片一方は出生届を出されなかったってことか。そうなると出産院も三越の息のかかった施設である可能性が高いな」
「はい、先輩もそう言ってました。でも問題なのはこの後で……あ、次の信号を左に曲がってください」
九条は言われた通りにウィンカーを出し、ハンドルを切る。
「問題はここからなんです。まずは喜一さん。彼には二度の離婚歴があるはずなんすけど、前妻として載っていたのはひとつ前の妻、大滝輝子さんの名前だけでした。でもその前にも奥さんがいたはずなんですよね。その人が、夏代さんとさくらさんの産みの親らしくって」
「籍は入れなかったのか。その夏代とさくらの戸籍は、今どこに入っているんだ」
「彼女たちは孤児として届けが出された後、小百合さん……まあ、正しくはすみれさんの養子として三越家に入りました」
「けど、小百合と三郎は兄妹なんだろう?」
「そこなんです。調べたら、小百合さんの戸籍上の夫の名は三郎さんじゃなかったんですよ。えっと、その道また左で」
車は大通りから裏の細い道に入る。
何件か個人経営の居酒屋やパン屋が並ぶ中、その通りにある公園を挟んだ向こうに、デザイン性の高いシルバーのビルが見えた。
翔太は九条に徐行を促し、そのビルの入り口が確認できる場所で車を止めるように指示した。
「小百合さんの戸籍上、夫の欄に記載のあった名前は勇、それから息子の名前も載っていました。俺、その息子の方とは面識があるんです。彼は今あそこにいます。そして、先輩と涼子さんも」
「あれって……確か、魚富青果とかいう会員制スーパーだろう」
「九条さん会員なんですか?」
「まさか。うちの教官が噂したてたんだよ。渋谷署の生活安全課が、近々大きいヤマを崩すんじゃないかって。あそこはスーパーとは謳っているが実は中身は風俗店で、売春斡旋や果ては臓器売買までなされてるって話だ。まあ、ガサ入れするにも情報がなさすぎて、なかなか手をこまねいているみたいだが」
「教官?」
「ああ。いま警察学校の校長やってんだよ、俺」
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