怠惰の神の使徒となり、異世界でのんびりする。筈がなんでこんなに忙しいの?異世界と日本で怠惰の魔法を使って駆け巡る。

七転び早起き

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サルバルート王国とアズール家族

第26話 銀狼族ダルタンの情報

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 異世界で初めての夕食は突然の来訪者があり大人数となった。その夕食は僕を含めた六人で長方形の木目調結界テーブルを囲み賑やかだ。楽しい夕食の席順は、ラスカル、リンド、ランドと反対側にサリーナ、アンナ、僕とで分かれている。

「ランド、これ見ろよ。銀のフォークだぜ!これでご飯を食べるなんて、まるで貴族になったみたいだぜ!」

(お前達、手掴みで食べてるよな?それにそのフォークは銀じゃないからな)

「ほんとだな!それよりリンド、やっぱりこのベーコンは最高だぜ!外はカリッと中はジューシーでめちゃくちゃ旨いぜ!」

(どこかで聞いたセリフだな。ああ、タルクだったな。ランド、違うコメントにしろよ)

 リンドとランドは「すげーうめー」「うはー」「あちー」と常に喋りながらご飯を食べている。(熱いならフォーク使えよ。フォークを)

 そんな騒がしい二人に「お前らうるさいぞ!静かに食べろ!」と笑顔で怒るラスカル。(お前イカした怒り方をするんだな)
 そんな様子を見て微笑みなから食べているのはサリーナで、アンナの汚れた口元を布で拭いたりと、まるで本当の母親のようだ。

(こんな楽し食事をするのは久し振りだな)

 そんな僕はニコニしながらご飯を食べていた。するとなにかが聞こえてくる。「ん!」と短い言葉だが可愛らしい声が。
 それは僕の隣からで、アンナがフォークにソーセージを突き刺して、腕を思いっきり伸ばして僕に向けていた。

(ひょっとして僕に食べろと言ってるのかな?それはとても嬉しいよ。でもね、そのソーセージだけど僕の胸元に当たってるよ?僕の服が油で汚れちゃってるよ?)

 僕はそれを気にする素振りを見せず、少し屈んで位置を調節し美味しそうに食べ、アンナの頭を撫でながらお礼を言った。

「アンナちゃんありがとう。とっても美味しかったよ。僕は凄く嬉しいよ」

 それを聞いたアンナは眠たい目をしたまま頷くと、正面を向いてモクモクと食べ始めた。

(あの‥‥‥そこは見つめ合ってニコッと笑うところだと思うのですが‥‥‥‥)

 その様子を見ていたサリーナが少し驚いた表情で話し始める。

 「アンナがこんなに嬉しそうな顔をするなんて驚いちゃった。それにとっても人見知りなのに、春馬さんには懐いてるみたいです」

(そ、そう‥‥‥あれが最高の笑顔だったんだ。僕には同じ顔にしか見えないんだけど‥‥)

「ははは、気に入られて良かったです。アンナちゃん、僕のことは春馬って呼んでくれればいいからね」

 僕は再びアンナの頭を撫でながらそう言った。アンナの表情の変化をじっくりと観察しながら。(やっぱり判らない‥‥)

 それからは六人で色々な話をしながら楽しく食事をした。それは王都を観光するならココ!な話やラスカル達がお金を貯めて借家をもう少しで借りれるところまできてる事、リンドとランドのイタズラ生活の話など。

 そしてその幾つもの話の中に、ダルタンに関する話が出てきた。それはラスカルが教えてくれた話だ。

「サルバルート王国は昔はいい国だったらしいんだ。でも確か十四年前だったかな。まだ俺が幼い時に王様がガザフ王に代替わりしてからこの国は変わり始めたんだ」

 そう言ってラスカルが話してくれた内容は、ガザフ王が民から支持を得るためにやった炎狼族討伐の話だった。それで支持を得たガザフ王だが、それからも炎狼族が居る村を次々と調べ、見つけると討伐隊を組んだそうだ。
 その暴虐な行いは一年ほど続き、炎狼族はほとんど死んだらしい。それでガザフ王は炎狼族の完全討伐を宣言した。

 そして民から支持を得たガザフ王は、「今こそ過去に奪われた土地を取り戻す時だ!」と他国との戦争を始めると宣言し、サルバルート王国の軍事力強化を進めた。どうも残虐な性格のガザフ王は戦争をしたいが為に王になりたかったみたいだ。

 それからは軍備強化の為にと税金を上げ、大勢の兵士が必要だと徴兵令を発令し、「国の為に」と支持してくれた民を煽りながら、軍事国家の道を歩み始めた。
 そして5年ほどで戦争準備を整え他国との戦争を始め、その戦争は現在も続いている。

 実は最近他国から休戦協定をと打診があったが、ガザフ王がそれを無視してその使者を斬り殺したとの噂もあるみたいだ。

 そしてこの長く続いている戦争だが、喜んでいるのはガザフ王とその側近。あと軍のお偉い方と戦争により富を得た商人などで、一般の人々や徴兵された一般兵は心身共に疲れ果てていた。そしてここでダルタンが出てくる。

 そのダルタンは一年ほど前に、ここから一週間ほど離れた街で見つかり捕まった。その街はアズール家族全員で初めて行った街。そう、ミーナとタルクに心の傷を負わせた街だ。
 ガザフ王は炎狼族の生き残りと一緒に居たダルタンを拷問し居場所を聞き出そうとした。だがいくらキツい拷問でもダルタンは愛する家族の為になにも話さなかった。その期間は一年以上。(さすが誇り高き銀狼族だ。尊敬するよ)

 そして業を煮やしたガザフ王は、戦争を再加熱させる起爆剤としてダルタンを使うことにしたのだ。

「わが国の土地が奪われた原因となる裏切りの炎狼族を助けた銀狼族を捕まえた。この戦争が長引いているのは、この銀狼族が軍事情報を他国に流していたからだ」と。

 僕はこの話を聞いて心が黒く染まるのを感じた。(なんで幸せに生きていた家族を引き裂くんだ。なんでダルタンが拷問を受けなきゃならないんだ。こんなのおかしいよ!!)

 僕は口端から血が滲むほど噛み締めて、それからの事をラスカルに聞いた。

「ラスカル、その銀狼族の人はそれからどうなったの?もしかして殺されたの?」

 そのラスカルは顔を歪めさせながら僕の目をじっと見つめたあと口を開いた。

「その銀狼族は三日後に王都の噴水広場で処刑される事になってる。国家反逆罪として」

 あと三日‥‥‥‥‥

 その後の僕は朝が来るまでなにも言わず、ただ椅子に座って遠くを見つめていた。
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