ストレンジ・トレイン

銀河星二号

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3クルー

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 そこは奇妙な空間だった。
 2つの世界が混じり合っていたのである。例えれば……工事中とでも言うべきか。
 半分は電車のディティールをしていて、もう半分がSF映画に出てくるような光の明滅する金属の壁とパイプで出来ていた。
 窓は塞がられてしまっていて、外の景色はまるで見えない。

「安西さん、ここは……まるで大急ぎで電車を装おうとして間に合わなかったとか、そういう感じの……」
「偽物ですね。これは霊の仕業とかそう言うのではなく、この電車自体が何かのフェイクである可能性があります」
 いったいどんな存在がこれを作っているのだろうかと思った。それにさっきの奇妙な輩……あれが霊的な存在でないとすると、いったい何なのか。
 そしてこの伝わってくる電車の振動。どう考えてもリアルだ。

「ここ、何かあります」
 彼女が見つけたそれは床に落ちた液体の痕跡だった。色は緑色。何かはよく分からなかった。触るのは危険があるかもしれないのでやめておいた。
「あそこの物体の影までいくつか続いています」
 僕はそれを目で追うと、そこには人の足のようなものが覗いているのが見えた。人間か?
「誰か……倒れている?」
「……見てみましょう……」

 僕らは恐る恐る、その長椅子になる予定だったであろう、長方形の金属の塊の向こうをそっと覗いた。果たしてそこには人らしきものが倒れていた。
 上下が繋がった白い服を着ていて、頭にはヘルメットと言うか、何かの装置を装着している。
 人らしきと言ったのは、僕には人間では無いように思えたからだ。正確には言い表せないが、骨格というか、人体の比率が微妙に人間とは違うような気がしたのだ。
 そして、その人物の体の下にも先程の液体が広がっているのが見えた。僕はそれを見て、それが彼の体液であろうことを理解した。彼の白い服にも同じ色の染みが広がっている。

「怪我をして気を失っているのでしょうか? 致命的な傷は見当たらないようにも見えますが」
 確かにあちこちから出血してはいるが、大きなキズは見当たらない。
 すると、彼は一瞬うめいた後、目を少し開けた。そして僕らを見ると、謎の言語をボソリとつぶやいた。
 もちろん僕らにその言葉の意味が分かるはずもなかった。
 彼は震える手で上方向を指差した。上?
 僕と彼女はそっと上を見上げた。

 そこには赤いランプが明滅していている金属のボックスがあった。
 そして彼は僕の右手の、例の銃のような物体を指差して何かをつぶやいた。
 すると、物体は僕の手を離れ、彼の右手にすっと収まった。
 そして彼が何かを言ったかと思うと、それを握りしめ、上の金属のボックスめがけて狙いを定めて引き金を引いた。

 轟音と共に赤色のレーザーが放たれてボックスへと当たった。キーンと言う金属とレーザーの共振する音が鳴り響いた。
「きゃあ!」
「うわっ!」
 僕と彼女は耳を塞いでその場に座り込んだ。
 更に彼はトリガーを引こうとしたが、狙いが定まらないらしく、やがてフラフラと力無く手を下ろした。
 そして僕の方を見、金属のボックスを指差すと、何かをつぶやいて、そのまま目を閉じた。

「私、彼の止血をしてみます! ハンカチなら持っているんで!」
 彼女はそう言って一番傷の深そうな彼の太腿をタオルで縛った。
 物体は彼の手から転がり落ちると、また飛び上がって僕の手に戻って来た。
 僕は上方にある金属のボックスを見た。いったいこれは何なのか。僕にこれを撃てということなのか?
 僕は銃を構え、彼と同じようにトリガーを引いてみた。……が、やはり何も起きなかった。
「くそっ!」
 僕は自分が何も出来ない事に苛立った。

「あっ!」
 彼女が叫んだ。
「気配が! ……さっきのヤツらです。前から? あれ、上から? え? ……よく分からない!」
「落ち着いて安西さん!」
 僕らがひと一団になって周囲を警戒していると、あちこちに何かモヤのような存在が現れ始めた。
 それはそれ程大きくは無かった。だが一つでは無く複数だった。僕はその時点で彼の傷の原因が分かった気がした。同時に僕は絶望した。数が多過ぎる。
 安西さんが数体は相手に出来るとしても、僕は奴らに対しては未知数で奴らにはほぼ確実に無能……。そして彼は気を失っている。どうすれば。

「言語解析完了」
 そう電子音の声がした。ふと気が付くと手に持っていた物体の側面に緑色のランプが灯っていた。
「始めましてヨシダさん」
 それは物体の声だった。流暢に日本語を話している。
「クルーから許可が出ています。使用可能になりました」
 クルーと言うのが彼であることは何となく分かった。彼は何かの乗員だと言うことか?
 まてまて。使用可能と言うことは、僕に銃が撃てると言うことか?

 そうこうしているうちに、徐々に無数の影が実体化し始めた。大きさは十センチ程度。
「安西さん、僕も戦えます! 銃が使えるようになりました!」
「え?」
 僕が銃を指差すと、彼女の顔に少し安堵の表情が浮かんだ。

 影がだんだんはっきりしてくるにつれ、僕はそれらが人の形をしている事を理解した。なるべくはっきり見ないことをその瞬間に心に決めた。
 僕は銃を構え、そのうちの一体を狙い、トリガーを引いた。轟音と共にレーザーが……レーザーが……出ないな。何も出ない。
「ちょっと!」
 僕は銃に抗議した。
「作戦的に無謀と判断しました。命令は却下されました。エネルギーを温存します」
 ウエポン風情が何を生意気なと思ったが、よくよく考えると一理あった。
 敵は複数で数が多い。数体倒したところでエネルギー切れを起こしたらそれでお終いだ。合理的な作戦を求められていると言うことか。賢い。賢いがなんかムカつく。

「来ます!」
 彼女の声と共に無数のグレー色の小人が僕らに襲いかかった。
「痛だだー!!」
 噛み付いてきたそれに対して僕は思わず声を上げてしまった。バンバン叩いて群がる小人を払い落とす。そして見ないようにしながら、落ちた小人を足で踏んづけた。
 彼女もお祓い棒で祓いながら、もう片方の手で群がる小人を次から次へと払いのける。
 白い服の彼はというと、いつの間にか彼女に御札を体の上に置かれていて、どうやらその効果で小人は近寄れないようだった。

「吉田さん、銃は?」
「ちょっとした手違いで! 今無理なんだ! ごめん!」
「そんな!」
「痛ててっ! この!」
 僕は小人を剥がしては踏み続けた。
 そうこうしているうちにいつの間にか小人の数が減りだした。どうやら僕は無能でも無いらしかった。
 やがて数が少なくなると、不利と見たのか残った小人は物陰に逃げて行った。
「はあはあ……」
「吉田さん、大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと噛まれたり引っ掻かれたりしたけどかすり傷程度。安西さんは?」
「私も大したことは……」
 彼女も引っ搔かれてはいたが大きな怪我は無さそうだった。
[もう終わりかな?」
「いえ、まだ気配はします。と言うか……さっきより……」
「……さっきより?」

 と、前の車両に通じるドアがガンガンと音を鳴らし始めた。何者かがドアを叩いている。さらにドアの隙間から漏れるように黒い小さな小人の影が湧き出してきた。さっきより多い。
「ど、どうすれば?」
「吉田さん、今度こそ銃を! さっき使えるって言ってましたよね?」
「僕だって使いたいよ! でも、このヘソ曲がり銃が許可しないんだよ。無謀だって!」
「無謀……?」
「敵が多すぎだから撃つのを許可しないって言われたよ!」
「でも吉田さん! 彼……さっき銃を撃ってましたよね」
「……あ!」
 そうだ、彼は敵を撃った訳じゃ無い。金属のボックスを撃っていたのだった。
 僕らはそれに気付き、上の金属のボックスを見上げた。
「吉田さん、あれを! あれを狙って! 理由は分かりませんが、多分それが正解です!」
「分かった! 安西さん、伏せて!」
「はいっ!」
 僕は銃を構え、金属の箱目がけて引き金を引いた。赤い閃光が辺りを染め上げた。
 大音響と共に金属の箱はレーザーに撃ち抜かれて大破した。
「うわっ!」
 僕は衝撃で床に転がった。
「……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。ちょっと予想外だったから。でも大丈夫」

 大破した金属ボックスを見ると、中に四角い物体がいくつか並んでいるのが見えた。
「何でしょう?」
 僕は立ち上がってその正体を確かめようと、天井のボックスへと近づいた。

「わっ!」
 それは突然落ちて来て、床に転がった。
 それは継ぎ目がたくさん走っている長方形の黒い物体だった。それ以上は分からない。
「これを? どうすれば? そうだ、彼を起こせば何か! あ、安西さ……」
 そう言った瞬間、前方のドアが吹き飛んだ。わらわらと小さな影が這い出てきた。
 そして僕は見たのだ。その後ろに怪物としか呼べない二本足の存在がそこに立っていたのを。

 どう考えてもピンチだった。
 
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