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4テトラヘッド
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その存在はパット見、遠目には人間に見えたかもしれない。しかし、それは今近くにいるのだ。距離にして十メーターちょっと。つまり、僕にははっきりと見える。
それは頭の形が正三角形だった。その時点で人間では無いのが分かった。
その三角形がこちらを向き、左右に小刻みに回転していた。
三角の頂点部分には赤い光があり、それは多分目であると推測出来た。
そしてそいつの右手……と言って良いか分からないが、右半身に付いていたその複数の触手には、どこか車体から引き剥がしたであろう大きな金属のプレートが握られていた。
プレートには緑色の液体が大量にこびりついており、何があったのかは容易に推測出来た。
全身は筋肉の塊に見えた。僕などは一捻りで終了しそうだった。
「……吉田さん!」
彼女はそいつを見て脅えている。
「あ、ああ……」
僕はかろうじてそう答えた。僕らの手に負える相手では無い。ここは……逃げるが勝ちか?
そこまで考えて僕は彼の存在に気が付いた。……さすがに置いていくことは出来ない。ならばどうする?他の手はあるのか?
僕はさっき上から落ちてきた黒く四角い物体を見た。もしあれが対抗策で切り札ならば、使えば勝つ可能性はある。しかし……僕は文明の利器を目の前にした類人猿と言ったところか。
……彼を起こせるか?起こせば何とかなるだろうか?言葉は通じないが……やってみる価値はあるか?
「安西さん、彼を! 彼を起こして! 早く!」
彼女は振り向き、行動しようとしたが、その瞬間、向こうにいるヤツの三角の頭の中心がグニャリと開くのが見えた。そして、耳に聞こえない大音響の咆哮が発せられた。
それが音波の一種だと分かったのは、車両の金属の壁がグニャグニャと波打ち、僕の頭が割れそうに痛みが走り、体が千切れそうに震えて圧迫されたからだ。
「――っ!」
僕は自分の耳を押さえた。彼女も耳を押さえて座り込んでいる。
そして例の彼が、その音波に耐えかねたのか、目を大きく開き、上半身を起こした。
彼は耳を押さえつつ、辺りを見回し、三角頭の存在と、床に落ちている黒い箱に気付くと、あの聞き慣れぬ言語で何かを叫んだ。
すると四角い箱にランプが灯り、電子音と共に金属の足が生えた。
そして更に箱は変形し、手が生え、頭が生え、銃が生え、それはロボットと言える形になった。
更に上の金属のボックスから複数の電子音がしたかと思うと、他の黒い箱が次々と落ちて来てロボットに変形した。
総勢十体程度のロボットの軍隊がそこに誕生した。
と、僕の手に別の振動が伝わった。
「危険です。この場からの撤退を進言します」
それは僕の手にある銃だった。撤退?これは有利な状況なのでは?
しかしこのクソ生意気な銃は言うことはだいたい的を射ている。僕は状況を見た。
例の彼は冷静さを失っているように見えた。目を見開き、拳を握り、同じ言葉を何度も叫んでいる。言葉も通じないし、この状況では彼に何を言っても無駄だと判断した。
僕は安西さんに声をかけ、手を引っ張った。
「状況が切迫しているらしいんだ! この銃が言ってる! 物陰に! 隠れよう!」
「え?」
彼女は銃を構えるロボットの軍隊と、何かを叫び続ける例の彼の表情を見て、何かを感じたらしく、手を引く僕に応じた。
僕らは小走りに近くにあった金属の一塊の陰へと身を潜めた。
ロボット達の一斉射撃。
閃光と衝撃がモンスターに炸裂し、全ては終わるかに思えた。
しかし炸裂する爆炎の中から無数の触手が伸びてロボット達と彼を貫いた。
ロボットはなおも銃撃を続けながらも、モンスターににじり寄って行った。
「観察の中断を進言します。大変危険です」
銃が言った。
僕はモンスターに群がるロボット達を見て先の展開が分かった。まずい。
僕は彼女を抱き寄せて庇い、物陰の奥にうずくまった。
一瞬の白い閃光。
全てが何も見えなくなった。と言うか僕は目を瞑った。どう考えても見ていられる光量では無かったからだ。
そして振動、大音響。体があらぬ方向に引っ張られ浮く感覚。僕の意識はそこで途切れた。
痺れるような大音響の余韻がまだ頭の中で木霊していた。何かが聞こえる。
「……大丈夫……大丈夫ですか? 意識はありますか?」
それは若い男の声に聞こえた。
何も見えない……そうだ瞑った目を開けないと。
僕が薄っすらと目を開けるとそこにいたのは救急隊員だった。白いヘルメットにオレンジ色の服を着ている。
彼の手が目の前で振られる。見えているかと言う合図だろう。僕は黙って頷いた。
「1名生存確認ー! 搬送用意ー!」
搬送?僕の事か。僕はなぜか少し笑いがこみ上げた。
そうだ、安西さんは?
僕は首を振って左右を見回したが彼女は見当たらなかった。もう搬送されたのだろうか。
そこはどうやら線路脇の道路のようだった。パトカーと消防のサイレンが鳴り響き、野次馬がワラワラと集まっている。
線路には大破した電車の姿が見える。脱線して倒れかけているようだ。
僕はあのモンスターを思い出した。まずい、一般人がアレに鉢合わせたら……。
「あの!」
僕は声を振り絞った。声が枯れている。
「はい?」
「あのおかしな電車、危ないです! 近寄っちゃダメです! ……そうだ! 自衛隊を呼んで下さい!」
僕が傍らにいる救急隊員にそう話しかけると、彼は少し笑い、こう言った。
「自衛隊なら先程、爆破された車両を見に来ましたよ」
「爆破? 爆破じゃ無いです! もっとおかしな存在がいて戦って……!」
「落ち着いて下さい。自衛隊の爆発物の専門部隊が来ましたからもう安全です」
「いや、そう言う部隊じゃダメなんです! もっと大砲とか戦車とか持って来ないと!」
彼はそのまま話を続けた。
「あの……何か混乱しているのかも知れませんが、自衛隊はその後、問題無いとの事ですぐに撤退しました。その後に我々が来た訳で。大丈夫です。事故は収拾中です」
「撤退? 何もなく?」
「はい」
「……でも、ロボットの残骸とか、モンスターの死体とか……いや、電車自体が奇妙だったでしょう?」
救急隊員はこいつは何を言っているんだと言う顔で僕を見ている。
「いえ……そのような報告は無いです」
僕は言葉が継げなかった。何も無い?あのロボット達がモンスターを倒してしまったと言うことなんだろうか。何も痕跡を残さずに?跡形も無く?……あり得るだろうか?
「そうだ、僕の側に女性はいませんでしたか? こう、長い黒髪の女性」
僕はジェスチャーを交えて説明をした。救急隊員はそれを聞くと、無線で何やらやり取りをしていたが、話し終えると素っ気なくこう言った。
「いえ、いないそうです」
……そんなバカな。もしや車外に吹き飛ばされた?
「いるはずなんです! 車両周辺は確認しましたか? 線路脇とか?」
「チェック済みです。 抜けはありません」
僕は大きな疑問を感じ始めていた。ロボットやモンスター、そして彼女も見つかっていない……そうだ、あの彼は?
「もう一人! 白い服の! 背の高い白い服の男性はいませんでしたか?」
「いえ、先程の確認によると、爆破車両で発見されたのは……あなた1名とのことですので」
そう言うと救急隊員は申し訳無さそうにヘルメットのつばを少し下げた。どうやら僕は事故のショックでおかしくなっていると思われているらしい。
どのみち、今の僕にはそれを確かめるすべはない。訳が分からないが、ここは一旦諦めよう。僕は再び目を瞑った。
やがて救急車のサイレンが近付き、目の前に救急車が止まった。僕は担架に乗せられ、救急車はサイレンを鳴らして走り出した。
僕は近くの病院へと搬送された。
それは頭の形が正三角形だった。その時点で人間では無いのが分かった。
その三角形がこちらを向き、左右に小刻みに回転していた。
三角の頂点部分には赤い光があり、それは多分目であると推測出来た。
そしてそいつの右手……と言って良いか分からないが、右半身に付いていたその複数の触手には、どこか車体から引き剥がしたであろう大きな金属のプレートが握られていた。
プレートには緑色の液体が大量にこびりついており、何があったのかは容易に推測出来た。
全身は筋肉の塊に見えた。僕などは一捻りで終了しそうだった。
「……吉田さん!」
彼女はそいつを見て脅えている。
「あ、ああ……」
僕はかろうじてそう答えた。僕らの手に負える相手では無い。ここは……逃げるが勝ちか?
そこまで考えて僕は彼の存在に気が付いた。……さすがに置いていくことは出来ない。ならばどうする?他の手はあるのか?
僕はさっき上から落ちてきた黒く四角い物体を見た。もしあれが対抗策で切り札ならば、使えば勝つ可能性はある。しかし……僕は文明の利器を目の前にした類人猿と言ったところか。
……彼を起こせるか?起こせば何とかなるだろうか?言葉は通じないが……やってみる価値はあるか?
「安西さん、彼を! 彼を起こして! 早く!」
彼女は振り向き、行動しようとしたが、その瞬間、向こうにいるヤツの三角の頭の中心がグニャリと開くのが見えた。そして、耳に聞こえない大音響の咆哮が発せられた。
それが音波の一種だと分かったのは、車両の金属の壁がグニャグニャと波打ち、僕の頭が割れそうに痛みが走り、体が千切れそうに震えて圧迫されたからだ。
「――っ!」
僕は自分の耳を押さえた。彼女も耳を押さえて座り込んでいる。
そして例の彼が、その音波に耐えかねたのか、目を大きく開き、上半身を起こした。
彼は耳を押さえつつ、辺りを見回し、三角頭の存在と、床に落ちている黒い箱に気付くと、あの聞き慣れぬ言語で何かを叫んだ。
すると四角い箱にランプが灯り、電子音と共に金属の足が生えた。
そして更に箱は変形し、手が生え、頭が生え、銃が生え、それはロボットと言える形になった。
更に上の金属のボックスから複数の電子音がしたかと思うと、他の黒い箱が次々と落ちて来てロボットに変形した。
総勢十体程度のロボットの軍隊がそこに誕生した。
と、僕の手に別の振動が伝わった。
「危険です。この場からの撤退を進言します」
それは僕の手にある銃だった。撤退?これは有利な状況なのでは?
しかしこのクソ生意気な銃は言うことはだいたい的を射ている。僕は状況を見た。
例の彼は冷静さを失っているように見えた。目を見開き、拳を握り、同じ言葉を何度も叫んでいる。言葉も通じないし、この状況では彼に何を言っても無駄だと判断した。
僕は安西さんに声をかけ、手を引っ張った。
「状況が切迫しているらしいんだ! この銃が言ってる! 物陰に! 隠れよう!」
「え?」
彼女は銃を構えるロボットの軍隊と、何かを叫び続ける例の彼の表情を見て、何かを感じたらしく、手を引く僕に応じた。
僕らは小走りに近くにあった金属の一塊の陰へと身を潜めた。
ロボット達の一斉射撃。
閃光と衝撃がモンスターに炸裂し、全ては終わるかに思えた。
しかし炸裂する爆炎の中から無数の触手が伸びてロボット達と彼を貫いた。
ロボットはなおも銃撃を続けながらも、モンスターににじり寄って行った。
「観察の中断を進言します。大変危険です」
銃が言った。
僕はモンスターに群がるロボット達を見て先の展開が分かった。まずい。
僕は彼女を抱き寄せて庇い、物陰の奥にうずくまった。
一瞬の白い閃光。
全てが何も見えなくなった。と言うか僕は目を瞑った。どう考えても見ていられる光量では無かったからだ。
そして振動、大音響。体があらぬ方向に引っ張られ浮く感覚。僕の意識はそこで途切れた。
痺れるような大音響の余韻がまだ頭の中で木霊していた。何かが聞こえる。
「……大丈夫……大丈夫ですか? 意識はありますか?」
それは若い男の声に聞こえた。
何も見えない……そうだ瞑った目を開けないと。
僕が薄っすらと目を開けるとそこにいたのは救急隊員だった。白いヘルメットにオレンジ色の服を着ている。
彼の手が目の前で振られる。見えているかと言う合図だろう。僕は黙って頷いた。
「1名生存確認ー! 搬送用意ー!」
搬送?僕の事か。僕はなぜか少し笑いがこみ上げた。
そうだ、安西さんは?
僕は首を振って左右を見回したが彼女は見当たらなかった。もう搬送されたのだろうか。
そこはどうやら線路脇の道路のようだった。パトカーと消防のサイレンが鳴り響き、野次馬がワラワラと集まっている。
線路には大破した電車の姿が見える。脱線して倒れかけているようだ。
僕はあのモンスターを思い出した。まずい、一般人がアレに鉢合わせたら……。
「あの!」
僕は声を振り絞った。声が枯れている。
「はい?」
「あのおかしな電車、危ないです! 近寄っちゃダメです! ……そうだ! 自衛隊を呼んで下さい!」
僕が傍らにいる救急隊員にそう話しかけると、彼は少し笑い、こう言った。
「自衛隊なら先程、爆破された車両を見に来ましたよ」
「爆破? 爆破じゃ無いです! もっとおかしな存在がいて戦って……!」
「落ち着いて下さい。自衛隊の爆発物の専門部隊が来ましたからもう安全です」
「いや、そう言う部隊じゃダメなんです! もっと大砲とか戦車とか持って来ないと!」
彼はそのまま話を続けた。
「あの……何か混乱しているのかも知れませんが、自衛隊はその後、問題無いとの事ですぐに撤退しました。その後に我々が来た訳で。大丈夫です。事故は収拾中です」
「撤退? 何もなく?」
「はい」
「……でも、ロボットの残骸とか、モンスターの死体とか……いや、電車自体が奇妙だったでしょう?」
救急隊員はこいつは何を言っているんだと言う顔で僕を見ている。
「いえ……そのような報告は無いです」
僕は言葉が継げなかった。何も無い?あのロボット達がモンスターを倒してしまったと言うことなんだろうか。何も痕跡を残さずに?跡形も無く?……あり得るだろうか?
「そうだ、僕の側に女性はいませんでしたか? こう、長い黒髪の女性」
僕はジェスチャーを交えて説明をした。救急隊員はそれを聞くと、無線で何やらやり取りをしていたが、話し終えると素っ気なくこう言った。
「いえ、いないそうです」
……そんなバカな。もしや車外に吹き飛ばされた?
「いるはずなんです! 車両周辺は確認しましたか? 線路脇とか?」
「チェック済みです。 抜けはありません」
僕は大きな疑問を感じ始めていた。ロボットやモンスター、そして彼女も見つかっていない……そうだ、あの彼は?
「もう一人! 白い服の! 背の高い白い服の男性はいませんでしたか?」
「いえ、先程の確認によると、爆破車両で発見されたのは……あなた1名とのことですので」
そう言うと救急隊員は申し訳無さそうにヘルメットのつばを少し下げた。どうやら僕は事故のショックでおかしくなっていると思われているらしい。
どのみち、今の僕にはそれを確かめるすべはない。訳が分からないが、ここは一旦諦めよう。僕は再び目を瞑った。
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