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見知らぬ天井があった……分かっている。病室の天井だ。一度言ってみたかっただけだ。病院に運ばれたのは分かっている。
どうやら僕は全身打撲と複雑骨折らしかった。他にも大小の傷があり、簡単に言うと動けない。
正確に言うとゼロでは無い。首は動かせる。右手もかろうじて使える。ベッドから移動出来ないが正しい。
幸いにも重度の火傷は無かったらしい。なぜだろう。
看護婦さんに頼んで新聞を持って来て貰った。
普段は新聞など読まないのだが、今回はさすがにどう書いているか興味があった。
あの事件の見出しはこうであった。「電車に爆発物か?」。
違うよ憶測で記事を書くなよと、タイトルに突っ込みつつ内容を読んだ。
記事によると、3号車が爆発により大破したらしい。号車番号は多分合っている。
警察と自衛隊による現場検証も書かれていた。何らかの爆発物と。まあ火薬とかの反応は出ないだろうね。
写真もあった。3号車。僕はマジマジとその写真を見たが、あの融合した奇妙な形状はしていないようだった。普通の電車だ。
最近はCGで加工するのは簡単だから、この写真が真実そのままなのかは分からないが、警察と自衛隊の発表とも合っているので、今のところ信憑性は高い。
だが僕の記憶とは全く違う。どういうことなのか?誰かが嘘をついているのか、それとも……。
僕の幻想の可能性。もちろんある。催眠術とか酒の飲み過ぎとかも考えられる。
しかし、幻想とか幻覚とか言うものはとんと縁がないのだが、あれほどリアルなものなのだろうか?そこに疑問が残る。
しかしだ、新聞の記事といい、検証結果といい、全ての状況証拠を考えると、僕の幻想と言うのが辻褄がピッタリ合う。
……んなバカな。いや、意地でも認めないぞ。
まあ冷静に考えよう。何か糸口があるはず。あるはずなのだが……僕は天井を見た。白いな。まさに今の気分だ。
動けないので何も調べられない。スマホでネットの情報を探るぐらいは出来るが……何も無いだろうな。
僕は目を瞑った。
そう言えば会社の連中はどうなった?新聞には重傷者1名(自分のこと)としか書かれていないようだが。
ピンポーン
何かのチャイムが鳴った。すると枕元のスピーカーから看護婦さんの声がした。
「面会の方が来ております。お名前は蒲ヶ原さんだそうで」
蒲ヶ原?聞いたことが無いな。
「その名前、知らないんですが……」
「あ、少々お待ち下さい……あ、警察の方だそうで」
ああ、なるほど。
「分かりました。どうぞ」
するとインターフォンが切れた。
確かにあの状況……どう考えても怪しいのは僕だ。事情を聞きに来るのは当然だ。
病室のドアが開いた。そこには恰幅が良いと言うか、顔と体の横幅の大きい男性と、ひょろ長く目をキョロキョロさせた男がいた。
警察と言うのはなぜか二人一組でいつも行動している。たいていはもう一人は何も喋らない。護衛みたいなもんなんだろうか?
「やあどうも、蒲ヶ原です」
刑事さんは警察手帳をチラリと見せた。ちゃんとは見ていないが、ここは信用することとしよう。
「どうも」
「今回の爆発事件について少々状況の確認をしたいと思いまして」
「はあ」
「何か……変わった物とか見てはいませんか?」
変わった物……ええ見ましたとも。たくさん。それはもう山ほど。しかし、僕が見た事をこの刑事さんに話して果たしてどう言う反応をするだろうか?考えてみた。
正直に話してみたとしよう。
え? 幽霊に怪物? ロボットに正体不明の人物に……それに電車に会社の部署があった?それは難儀な経験をなさいましたなぁ。と言われる可能性が一つ。
もう一つは、この男は気が狂っている。裏を取ろう。きっとどこかの過激派の手先に違いない。と思われるか。良くて不憫だと思われるか。
前者の確率は限りなくゼロに近い。うん、ダメだ。
じゃあ逆に嘘をついたとして。どう思われるか?
熟練の刑事さんなら嘘をついているかどうかは、一目見ればだいたい分かるはず。喋り方とか目の動きとかあるらしいからね。
ダメだ。口ベタな自分がバレない嘘をつく自信がない。はてどうするか。
とりあえず探りを入れてみることにした。
「あの、正直に話しても良いんですけれど、信じて貰えますかね?」
「聞きましょう」
「とりあえずその前に一つ質問良いですか?」
「……どうぞ?」
「電車の中に会社があったって言ったら信じます
?」
すると蒲ヶ原刑事は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしたあと、傍らの相棒に資料を貰い、それに素早く目を通し、少し考えてこう言った。
「あなたの会社は鉄道会社ではなく、丸得商事という商社のようですが……?」
まあ、それが普通の反応ですよね。
しかしその反応で、やはりあれが異常事態であったことを悟った。普通は会社はビルの中にあるもんだ。
もう少し探る。
「会社には連絡は行っているんでしょうか?」
「あなたの身元を確認するために先日伺いましたよ」
会社に伺った……?
「会社の前にラーメン屋はありました? 白狼軒」
「……それが事件と何か?」
「僕にとって大事なことなんです」
刑事さんは相棒とまた小声で何かを話していたが、頷いてこちらを向いた。
「あったようです。コイツが覚えていました」
相棒か頷いている。
どうやら会社は今、元の場所にあるようだった。そして刑事さんはそれが普通のことだと思っている。
蒲ヶ原刑事は手元の資料をパラパラとめくって、こう切り出した。
「今回の事件、奇妙な点が数多くありまして」
「どうぞ」
「まず、爆発物の正体が分からない」
「はい」
「普通は硝煙反応とか出るんです。でも何も該当なし」
たぶん普通の火薬では無いよな、あれは。
「そしてあなただ。なぜ一人だけあの号車にいたのか。そしてなぜ軽症の火傷なのか。あの状況下で。何かご存知ですか?」
蒲ヶ原刑事の眼鏡の奥が光った。明らかに何か疑われている。
「あなたの会社、取引先に軍事関係の会社とかあったりは……」
「ウチで扱っているのは主に食品です」
「小麦粉とか?」
「ありますけど、普通にスーパーに売っている袋詰のやつです」
「そうですか……では質問を変えましょう」
蒲ヶ原刑事はメモ帳と鉛筆を取り出した。
「爆発した時の状況を詳しくお願いします」
モンスターにロボットが数体がしがみついて自爆したんです。……と言っていいものかどうか。
「……えーと……」
刑事さんは口ごもっている僕の態度を見て、相棒と話し込んでいる。
「話したくないなら別にいいんです。参考人ですし」
いや、そうじゃないんだ。言っても信じないだろうからだよ。……とも言えない。
「もう一つ。救急隊員から聞いたんですが……」
しまった。話が通っていたのか。
「女性と、他に男が一人いたとかいないとか。もっとも報告書には「混乱状態で」と書かれていますがね」
あの背の高い男の話はどう言っても信じないだろう。せいぜい笑われるのがオチだ。
問題は安西さん。どうなったのか気になる。そこだけ話そうか。
「女性の方は安西さんという、会社の人です。僕の記憶だと同じ号車にいたと思うんですが。見つかっていないようで。男の方は良くは知りません」
ウソは言っていない。
蒲ヶ原刑事はメモをとっている。
「分かりました。女性の方は調べましょう。他にもロボットやらモンスターやら言っていたようですが……まあ、そこはいいでしょう。我々はリアリストなんでね」
蒲ヶ原刑事は相棒と目を合わせると、互いに頷いてこう言った。
「今日のところはこれで引き上げます。我々も証拠が無いとあまり動けないんです。それでは」
そう言うと刑事はドアを開けて出て行った……と思ったらまた入って来た。
「ところで、そのラーメン屋「白狼軒」、旨いですか?」
「ええ」
僕はそう答えた。ああ、白狼軒のおっちゃん、変な手間取らせたらゴメンよ~と心の中で呟いた。
そして蒲ヶ原刑事は去った。
僕は横を向いていた首を戻し上を見た。やはり白い天井しか見えない。
ピンポーン
またインターフォンが鳴った。
「はい」
「面会の方が来ています。漆原美智子さんとおっしゃる方と……(あの、そちらは?)……安西さんと言う方です」
僕は暫くの沈黙のあと、はいと返事をした。
どうやら僕は全身打撲と複雑骨折らしかった。他にも大小の傷があり、簡単に言うと動けない。
正確に言うとゼロでは無い。首は動かせる。右手もかろうじて使える。ベッドから移動出来ないが正しい。
幸いにも重度の火傷は無かったらしい。なぜだろう。
看護婦さんに頼んで新聞を持って来て貰った。
普段は新聞など読まないのだが、今回はさすがにどう書いているか興味があった。
あの事件の見出しはこうであった。「電車に爆発物か?」。
違うよ憶測で記事を書くなよと、タイトルに突っ込みつつ内容を読んだ。
記事によると、3号車が爆発により大破したらしい。号車番号は多分合っている。
警察と自衛隊による現場検証も書かれていた。何らかの爆発物と。まあ火薬とかの反応は出ないだろうね。
写真もあった。3号車。僕はマジマジとその写真を見たが、あの融合した奇妙な形状はしていないようだった。普通の電車だ。
最近はCGで加工するのは簡単だから、この写真が真実そのままなのかは分からないが、警察と自衛隊の発表とも合っているので、今のところ信憑性は高い。
だが僕の記憶とは全く違う。どういうことなのか?誰かが嘘をついているのか、それとも……。
僕の幻想の可能性。もちろんある。催眠術とか酒の飲み過ぎとかも考えられる。
しかし、幻想とか幻覚とか言うものはとんと縁がないのだが、あれほどリアルなものなのだろうか?そこに疑問が残る。
しかしだ、新聞の記事といい、検証結果といい、全ての状況証拠を考えると、僕の幻想と言うのが辻褄がピッタリ合う。
……んなバカな。いや、意地でも認めないぞ。
まあ冷静に考えよう。何か糸口があるはず。あるはずなのだが……僕は天井を見た。白いな。まさに今の気分だ。
動けないので何も調べられない。スマホでネットの情報を探るぐらいは出来るが……何も無いだろうな。
僕は目を瞑った。
そう言えば会社の連中はどうなった?新聞には重傷者1名(自分のこと)としか書かれていないようだが。
ピンポーン
何かのチャイムが鳴った。すると枕元のスピーカーから看護婦さんの声がした。
「面会の方が来ております。お名前は蒲ヶ原さんだそうで」
蒲ヶ原?聞いたことが無いな。
「その名前、知らないんですが……」
「あ、少々お待ち下さい……あ、警察の方だそうで」
ああ、なるほど。
「分かりました。どうぞ」
するとインターフォンが切れた。
確かにあの状況……どう考えても怪しいのは僕だ。事情を聞きに来るのは当然だ。
病室のドアが開いた。そこには恰幅が良いと言うか、顔と体の横幅の大きい男性と、ひょろ長く目をキョロキョロさせた男がいた。
警察と言うのはなぜか二人一組でいつも行動している。たいていはもう一人は何も喋らない。護衛みたいなもんなんだろうか?
「やあどうも、蒲ヶ原です」
刑事さんは警察手帳をチラリと見せた。ちゃんとは見ていないが、ここは信用することとしよう。
「どうも」
「今回の爆発事件について少々状況の確認をしたいと思いまして」
「はあ」
「何か……変わった物とか見てはいませんか?」
変わった物……ええ見ましたとも。たくさん。それはもう山ほど。しかし、僕が見た事をこの刑事さんに話して果たしてどう言う反応をするだろうか?考えてみた。
正直に話してみたとしよう。
え? 幽霊に怪物? ロボットに正体不明の人物に……それに電車に会社の部署があった?それは難儀な経験をなさいましたなぁ。と言われる可能性が一つ。
もう一つは、この男は気が狂っている。裏を取ろう。きっとどこかの過激派の手先に違いない。と思われるか。良くて不憫だと思われるか。
前者の確率は限りなくゼロに近い。うん、ダメだ。
じゃあ逆に嘘をついたとして。どう思われるか?
熟練の刑事さんなら嘘をついているかどうかは、一目見ればだいたい分かるはず。喋り方とか目の動きとかあるらしいからね。
ダメだ。口ベタな自分がバレない嘘をつく自信がない。はてどうするか。
とりあえず探りを入れてみることにした。
「あの、正直に話しても良いんですけれど、信じて貰えますかね?」
「聞きましょう」
「とりあえずその前に一つ質問良いですか?」
「……どうぞ?」
「電車の中に会社があったって言ったら信じます
?」
すると蒲ヶ原刑事は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしたあと、傍らの相棒に資料を貰い、それに素早く目を通し、少し考えてこう言った。
「あなたの会社は鉄道会社ではなく、丸得商事という商社のようですが……?」
まあ、それが普通の反応ですよね。
しかしその反応で、やはりあれが異常事態であったことを悟った。普通は会社はビルの中にあるもんだ。
もう少し探る。
「会社には連絡は行っているんでしょうか?」
「あなたの身元を確認するために先日伺いましたよ」
会社に伺った……?
「会社の前にラーメン屋はありました? 白狼軒」
「……それが事件と何か?」
「僕にとって大事なことなんです」
刑事さんは相棒とまた小声で何かを話していたが、頷いてこちらを向いた。
「あったようです。コイツが覚えていました」
相棒か頷いている。
どうやら会社は今、元の場所にあるようだった。そして刑事さんはそれが普通のことだと思っている。
蒲ヶ原刑事は手元の資料をパラパラとめくって、こう切り出した。
「今回の事件、奇妙な点が数多くありまして」
「どうぞ」
「まず、爆発物の正体が分からない」
「はい」
「普通は硝煙反応とか出るんです。でも何も該当なし」
たぶん普通の火薬では無いよな、あれは。
「そしてあなただ。なぜ一人だけあの号車にいたのか。そしてなぜ軽症の火傷なのか。あの状況下で。何かご存知ですか?」
蒲ヶ原刑事の眼鏡の奥が光った。明らかに何か疑われている。
「あなたの会社、取引先に軍事関係の会社とかあったりは……」
「ウチで扱っているのは主に食品です」
「小麦粉とか?」
「ありますけど、普通にスーパーに売っている袋詰のやつです」
「そうですか……では質問を変えましょう」
蒲ヶ原刑事はメモ帳と鉛筆を取り出した。
「爆発した時の状況を詳しくお願いします」
モンスターにロボットが数体がしがみついて自爆したんです。……と言っていいものかどうか。
「……えーと……」
刑事さんは口ごもっている僕の態度を見て、相棒と話し込んでいる。
「話したくないなら別にいいんです。参考人ですし」
いや、そうじゃないんだ。言っても信じないだろうからだよ。……とも言えない。
「もう一つ。救急隊員から聞いたんですが……」
しまった。話が通っていたのか。
「女性と、他に男が一人いたとかいないとか。もっとも報告書には「混乱状態で」と書かれていますがね」
あの背の高い男の話はどう言っても信じないだろう。せいぜい笑われるのがオチだ。
問題は安西さん。どうなったのか気になる。そこだけ話そうか。
「女性の方は安西さんという、会社の人です。僕の記憶だと同じ号車にいたと思うんですが。見つかっていないようで。男の方は良くは知りません」
ウソは言っていない。
蒲ヶ原刑事はメモをとっている。
「分かりました。女性の方は調べましょう。他にもロボットやらモンスターやら言っていたようですが……まあ、そこはいいでしょう。我々はリアリストなんでね」
蒲ヶ原刑事は相棒と目を合わせると、互いに頷いてこう言った。
「今日のところはこれで引き上げます。我々も証拠が無いとあまり動けないんです。それでは」
そう言うと刑事はドアを開けて出て行った……と思ったらまた入って来た。
「ところで、そのラーメン屋「白狼軒」、旨いですか?」
「ええ」
僕はそう答えた。ああ、白狼軒のおっちゃん、変な手間取らせたらゴメンよ~と心の中で呟いた。
そして蒲ヶ原刑事は去った。
僕は横を向いていた首を戻し上を見た。やはり白い天井しか見えない。
ピンポーン
またインターフォンが鳴った。
「はい」
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