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6設定が違います
しおりを挟むコンコン。ドアを叩く音がした。
「どうぞ」
僕がそう言うと、病室の薄いドアが開き、勝ち気そうな可愛い顔がチラリと見えた。ミっちゃんだった。なぜかドアの後ろに隠れてこちらを見ている。
何だろう、いつもと様子が違う気がする。どこがどうとは言えないのだけれど。
「……吉田さん、爆発したんですって?」
「……いや、待てまて。僕が爆発した訳じゃ無い」
そして、スッとドアの後ろに隠れた。
「用心してドアの陰に隠れなくていいから!」
すると顔を出した。
「冗談ですよ! もう、電車内で一人で爆発するなんて。一言言ってくれれば……」
いや、何の話だ?……うん、いつも通りのミっちゃんだ。気のせい気のせい。
そう言えば、安西さんがいると言っていたのだけれど、どこに?
ミっちゃんの後ろの人影が動いた。
「今日は他の部署の女のコ連れてきました。じゃーん」
するとドアの向こうから、うつむいて恥ずかしそうな表情をした安西さんが現れた。
「え、ちょっと待って。他の部署?」
「そうですよ、隣の資材課の」
資材課?どう言う事だ?電車での話と違う。
そして彼女はまるで怪我をしていなかった。僕は聞いてみた。
「安西さん、大丈夫だったの? 怪我は?」
「えっ?」
彼女は意外そうな顔をしている。ん?
「あれ、吉田さん、安西さんと顔見知りですか?」
「うん、こないだのおかしな電車……で……」
と、ここまで考えて、あの電車での記憶が事実なのかどうか自信が無くなった。とりあえず現状を確認しよう。
「安西さん、僕と会ったことあるよね?」
「……会社で何度かお見かけしたことは……あるんですが……」
彼女はそう答えた。会っていないのか?と言うか何か反応がおかしいぞ。安西さん、こんな内気な性格だったっけ?
ミっちゃんが割って入った。
「吉田さん、見知らぬ女のコに妙なアタックしちゃダメですよ。安西ちゃん、おとなしい子なんですから。嫌われますよ」
「いや、そう言う訳じゃ……」
「あ、そうだ。はい、お土産です」
ミっちゃんは手に持っていたメロンの箱をベッド脇のテーブルに置いた。
僕はそのメロンの箱に見覚えがあるのに気が付いた。いつも商店街の八百八の上の棚に飾ってあるやつだ。
「ミっちゃん、そのメロン、どこで?」
「やだなあ、自前に決まっているじゃないですか」
こらこら、自分の胸を自慢気に持ち上げるな。
「もしかして八百八で買った?」
「よく分かりましたね。そうですよ。高かったんですからね。後で一口下さいね」
「ああ……」
どうやら会社は元のあるべき場所にあるようだった。蒲ヶ原刑事の話とも一致する。
ここで僕は思った。どうやらあの電車の出来事を記憶しているのは自分だけなんじゃないかと。理由は分からないが。
そして誰かが嘘をついている訳でもないようだ。関連性の無い人たちの言っていることが一致し過ぎる。
「安西ちゃん、吉田さんが怪我をしたって言ったら、ついてくるって言い出して」
「すいません……お邪魔して……」
「あ、安西ちゃんはいいのいいの。爆発した吉田さんが悪いんだから」
僕は爆発してないし、何も悪くない。
「あの……」
安西さんは僕のベッドの脇に立ち、心配そうにこう言った。
「吉田さん……お怪我、大丈夫ですか?」
「あ、うん。良くは無いけど、動かなきゃそれ程痛くないし、それにギブスでガッチリ固定されてるから。大丈夫ですよ」
「あの……ギブス、触ってみても良いですか?」
「軽くなら大丈夫だと思うよ」
すると、安西さんは僕の足のギブスを撫でた。
「痛そう……」
「はは……」
と言うか、安西さんのギブスを撫でる手が何か艶めかしいんですけど……何?
ミっちゃんはなぜかニヤニヤ笑っている。
「あ、ごめんなさい! いっぱい触っちゃって。あまり触らない方がいいですよね?」
「あ、うん。念の為」
安西さんはギブスから手を離すと、恥ずかしそうに下を向いた。どう考えても何か変だ。
「メロン食べましょう、メロン。あれ? 果物ナイフとか無いんですか?」
ミっちゃんが病室のあちこちを探している。
「ここには無いと思うよ」
「そっかー、じゃ誰かに聞いて、どっかで切って来ますね」
ミっちゃんはそう言ってメロンを持って病室を出て行った。
僕と安西さんは病室で二人きりになった。微妙に空気が気まずい。安西さんは下を向いて、もじもじしているし。……何か聞いてみようか?
僕は彼女がお祓い棒を持っているのか気になった。と言うか巫女のパイトをしていたのかどうか。
「安西さん、巫女さんのバイトしたことがあるって聞いたんだけど?」
「あ、いえ、とんでもないです。……内気なもので、そう言う人前で何かをするのはちょっと……」
してないのか……。
「そうか……残念」
「……そう言うのお好きなんですか?」
「え? 好きか嫌いか言われると……好きな方かな?」
「……私、頑張ります!」
「?」
しばらく沈黙が続いた。何だろうこの間は。
「あの……吉田さん」
「はい」
「……やっぱり男の人って、元気な女の子が好きなんでしょうか? ……例えば、う、漆原さんみたいな!」
ミっちゃん?……微妙かな。うん、あれは微妙だろう。
「あの子は……元気過ぎると言うか……あからさま過ぎると言うか……」
「じゃあ、大人しい子ってどうなんでしょう?」
……普通は尻に敷かれるよりも、付いてきてくれる女の子が好きかな。一般論としては。
「好きかな?(一般的には)」
「本当ですか?」
と、病室のドアが開いた。
「メロンですよ~!」
ミっちゃんが大皿にメロンを乗せて持って来た。僕らはそれを食べ始めた。
「そう言えば、何が爆発したんですか? 吉田さん?」
ミっちゃんが言った。
正直に言うべきだろうか。二人を見た。
「何ですか~ジロジロ見ちゃって~どこ見てるんですか。どこを?」
だから胸を強調したポーズを取るなと……。
「私も聞きたいです!」
この二人ならいいか。
「えーと、モンスターが出て……」
そこまで言った時点でミっちゃんの眉がハの字になった。
「それを倒そうとロボットが自爆した」
「……全然面白くないですよ、吉田さん」
まあ、そういう反応するよね。
しかし、安西さんの反応は意外のものだった。彼女は震えていたのだ。
「安西さん……?」
「あ、いえ……よく分からないんですけど、何故か急に恐ろしくなってしまって……何か頭の中に想像が……」
ミっちゃんも、よく分からないと言う顔をしている。
「安西ちゃん、今の駄話に怖がるようなポイント無かったよ? ただのおっさんのつまらないジョークだよ?」
「……いえ、多分、私がおかしいんです……」
僕はその反応を見て、もしや彼女はあの車両の記憶があるのではと思った。僕は続けた。
「そのモンスターと言うのは、三角の頭をしていて……」
「……やめて下さい!」
「安西ちゃん? どうしたの? ……ちょっと吉田さん、虐めないで下さいよ」
「あ、ごめん……そんな反応するとは思わなかった……」
安西さんは手で顔を覆っている。顔色が悪い。
「保健室行く? ……あ、ここ病院だったわ。あははー」
「もう……大丈夫ですから……すぐ落ち着きます……」
暫くして彼女は落ち着き、ミっちゃんは、ほぼ一人でメロンを平らげて、二人は帰って行った。
僕はまた病室の天井を見上げた。
どうやら僕だけがあの電車の記憶を持っていると思っていたが、もしかすると安西さんも持っている可能性がある。まだ確信は無いが。
しかし、性格が変わっているし、部署も変わっている。
一つの可能性。パラレルワールド。爆発の衝撃でパラレルワールドに僕が吹き飛ばされた。うん、ありそう。
しかし、それだと彼女が同じ記憶を持っているのが説明出来ない。
もし同じ記憶があると言うのなら、同じ世界にいたと言うことだ。
そしてもう一つ思うのは、世界が変わる方向が都合良すぎると言うことだ。
もし彼女が何も思い出せないのだとしたら、おかしいのは僕ひとりで済む。
……まるで、誰かが世界の設定を、都合よく書き換えたような。
と、そこまで考えたが、今は何も出来ない。ああ、彼女のメアドでも貰っておくんだった。
……よし、ふて寝しよう。
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