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7チェイサー
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「いやー不思議ですなぁー」
「はあ……」
2週間ほど経って、僕は立って動けるようになった。
担当の先生は僕のレントゲン写真を見て頭を傾げている。
「普通はね、ひと月や二月はかかるんですよ。これぐらいの骨折だとね。それがどういうことなんだか。んー、……何か特別なことをやってらっしゃいました?」
「特別なことと言うと……」
「インドの山奥で修行とか?」
「行ったことも無いです」
「特別な食事をしているとか?」
「かなり不摂生を絵に描いた感じの生活です」
「……実は異星人とか?」
「それは確かめてませんが、かなりの確率で違うと思います」
「うーん……不思議ですなぁー」
とか言う感じで、リハビリもそこそこに、僕は数日後には退院出来る事になった。
数日後の午後。
「どうも、ありがとうございました」
「吉田さん、気を付けて下さいね」
正面玄関で、ピンクの制服の担当の看護婦さんに手を振られ、僕は退院した。
着ていた物はかなりズタボロになっていたので、今は病院に頼んで用意してもらったものを着ている。いつもと趣味がまるで違う服装なので、どうも自分が自分じゃ無いような気がする。早く帰って着替えないと落ち着かない。
僕は近くの駅から電車に乗った。いつも使っている路線の、初めて乗る駅である。降りてもいない駅から乗ると言うのは妙な気分だ。
やがて電車がやって来て僕は乗り込んだ。
車内を見回す。普通の車内だ。混んでもいないし空いてもいない。平日の電車の普通の車内。
電車はやがてなめらかに発進した。スピードが徐々に上がって行く。
しばらく進むと、電車は爆発があったと新聞に書いてあった地点にさしかかった。
現場は既に完全に片付けられており、目を凝らして見ても痕跡は良く分からなかった。
……そう言えば、あの銃、どうなったんだろうか。ふとそう思い、僕は自分の右手をじっと見つめた。もちろんそこには何も無かった。
とその時。妙な視線を感じた。
僕は辺りを見回してみたが、特にこちらを見ている人は居なかった。知り合いでもいたのかと思って探してみたが、やはりそれらしい人影も見当たらなかった。
僕は自分の服装を見た。別にそれほどおかしな格好もしていないし、目立つ服装でもない。そのせいでは無さそうだ。
視線は気のせいか……。
電車は進み、三十分ほどして地元駅へと到着した。つまり、あの電車が来た駅だ。
電車を降り、改札に向かって歩いていると、反対側のホームに、あの時と同じように路線の電車が滑り込んで来た。もちろん普通の電車である。
僕はそれを見て少し安堵した。
僕は駅前の不動産屋に寄り、合鍵を貰った。持っていた部屋の鍵は会社……と言うか、あの時の電車の自分の机にバッグごと置いたままだったのだ。どうなったかは知らない。
他にも色々生活の歯車が狂いまくっているので、しばらくはやることが多そうだ。
そしてあの日に通った道を逆に辿って、僕は自分のマンションへと到着した。階段を昇り、二階の3つ目の部屋。このドアで間違い無いはず。
しばらくぶりなので、何となく違和感がある。
「お待ちしていました。ヨシダさん」
入口のドアの前で聞こえたのは、聞き覚えのある声だった。合成された電子音のあの声。
気が付くとあの銃が傍らに浮かんでいた。
「やあ、久しぶり」
僕は思わずそう答えてしまった。
「早速ですが、あなたに危機が迫っています」
何を言い出すのかこの銃は。
待てよ……と言うか、コイツがここに実在すると言うことは……あれは現実かつ、同じ時空間だったと言うことか?
いやいや、また僕が白昼夢か幻想を見ていると言う可能性も……?
「どうしましたか? ヨシダさん?」
「いや、少し混乱していて。……君、前に会ったよね。電車で」
「ええ、お会いしました」
「……ちなみにこれ、現実だよね?」
「現実の定義が良く分かりませんが、時空間的には繋がっています。そう言う解釈でよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
どうやらあれは現実だったらしい。
「そう言えば、さっき危機って言わなかった?」
「ええ、あなたの存在が危機に瀕する事態が差し迫っています」
自分の存在……?
その時、ガヤガヤと階下から人が数人、マンションの階段を昇ってくる音がした。
僕は、隣に浮かぶ非日常的な物体を、他の人間に見られてはいけないような気がし、慌てた。
「と、とりあえず部屋に……」
僕は鍵を取り出し、急いで回した。
「それを止めに来たのですが。残念です」
「えっ?」
僕はガチャリと部屋の鍵を開けてしまった。
そこにあったのは……雑然とした部屋だった。と言うか、いつも通りの僕の部屋だ。
「何も無いようだけれど?」
「ああ、そう見えるんですね……緊急回避開始」
衝撃が起こった。僕の体は後ろに吹き飛ばされ、二階の手すりにしこたま打ち付けられた。
いったい何が……。
見ると、ドアの中に何者かが立っていた。何故か微動だにしない。
驚いたのは、そいつの頭は、あの電車の三角頭のように、人間では無い形状の頭をしていたことだった。
平たい、潜水艦の船首を切り取ったような紡錘形の頭をしている。
「失礼、すぐに回避しないと危険でしたので」
僕を吹き飛ばしたのはお前の方か。
「あそこに立っているのがチェイサーです。あなたに分かりやすく言うと、ニンジャと言ったところでしょうか」
「忍者?」
「他の言葉で言うと、暗殺者、アサシン。分かりますでしょうか?」
「ああ。でも何で僕が?」
「彼らは秘密裏にあなたを消去する必要があったのです」
「よく分からないんだけど、僕は何かをやったのか?」
「簡単です。目撃者です」
「……電車か?」
「御名答。彼らは見られたく無かったのです」
「あれは何なんだ?」
「詳しくは今は話せませんが、作り物と言っておきましょう」
「今話してくれよ!」
「目の前のチェイサーはスタンが効いていますが、すぐに効果が切れてしまいます。急ぐ必要があります」
確かに目の前のチェイサーとやらは痺れて動けなくなっているように見えた。
「どうすればいい? 走って逃げればいいのか?」
「人目につく場所なら良いでしょうが、あいにくとこの辺は人通りが少ないようです。適切な場所がありません」
「戦えと?」
「あなたの身体能力では不可能でしょう」
「じゃあ、どうすれば?」
「簡単な方法があります。二〇八号室に行って下さい。そこに我々の仲間がいますので」
「二〇八? 突き当りの部屋か?」
「急いで下さい」
僕はダッシュで二〇八号室へ駆け寄った。僕はドアノブを回した。しかしドアは開かなかった。
「開かないじゃないか!」
「住人がいますから。そういう時はノックなのではないですか?」
僕は逸る気持ちを抑えて軽く二度ノックをした。
「はい? どなた?」
出てきたのは、水商売でもやっていそうな茶髪の女の人だった。
「すいません、助けて下さい!」
「何を?」
僕はどう説明していいのか答えに困った。
とりあえず銃を指差す。
「こいつの、仲間だって聞いたんですけど!」
「……? どいつの?」
何度も銃を指差すが、彼女には見えていないようだった。
「ヨシダさん、認証コードを入力して下さい」
「認証コード?」
「認証コードがどうかしたの?」
どうやら彼女には銃の姿も見えず、声も聞こえていないようだった。
「ヨシダさん、ワタシと同じ言葉を詠唱して下さい」
僕は銃が言う複雑かつ意味がわからない言葉真似て喋り続けた。
「あんた、何言ってんの? 全然分かんない。わたし忙しいからこれでいい? じゃねー」
「最後にこうです。サブミット」
「サブミット!」
すると彼女の目の色が変わった。
「承認。緊急モードに移行。何かヘルプが必要?」
「チェイサーを! やつを撃退してくれ!」
「了解」
すると彼女は何処からともなく二丁の銃を取り出し、両手で僕に向かって構えた。
数発の光弾が連続で放たれた。
僕は避けられず撃たれたと思った。が、撃たれてはいなかった。
代わりに倒れたのは僕のすぐ背後にいたチェイサーらしかった。ヤツはドサリと倒れた。
「まだ何か必要?」
すると銃が言った。
「彼に話があるので、ちょっと場所を貸して貰えないでしょうか?」
彼女は少しイヤそうな顔をしたがこう言った。
「じゃ、入って。お茶ぐらいは出したげるよ」
僕は彼女の部屋に入った。
「はあ……」
2週間ほど経って、僕は立って動けるようになった。
担当の先生は僕のレントゲン写真を見て頭を傾げている。
「普通はね、ひと月や二月はかかるんですよ。これぐらいの骨折だとね。それがどういうことなんだか。んー、……何か特別なことをやってらっしゃいました?」
「特別なことと言うと……」
「インドの山奥で修行とか?」
「行ったことも無いです」
「特別な食事をしているとか?」
「かなり不摂生を絵に描いた感じの生活です」
「……実は異星人とか?」
「それは確かめてませんが、かなりの確率で違うと思います」
「うーん……不思議ですなぁー」
とか言う感じで、リハビリもそこそこに、僕は数日後には退院出来る事になった。
数日後の午後。
「どうも、ありがとうございました」
「吉田さん、気を付けて下さいね」
正面玄関で、ピンクの制服の担当の看護婦さんに手を振られ、僕は退院した。
着ていた物はかなりズタボロになっていたので、今は病院に頼んで用意してもらったものを着ている。いつもと趣味がまるで違う服装なので、どうも自分が自分じゃ無いような気がする。早く帰って着替えないと落ち着かない。
僕は近くの駅から電車に乗った。いつも使っている路線の、初めて乗る駅である。降りてもいない駅から乗ると言うのは妙な気分だ。
やがて電車がやって来て僕は乗り込んだ。
車内を見回す。普通の車内だ。混んでもいないし空いてもいない。平日の電車の普通の車内。
電車はやがてなめらかに発進した。スピードが徐々に上がって行く。
しばらく進むと、電車は爆発があったと新聞に書いてあった地点にさしかかった。
現場は既に完全に片付けられており、目を凝らして見ても痕跡は良く分からなかった。
……そう言えば、あの銃、どうなったんだろうか。ふとそう思い、僕は自分の右手をじっと見つめた。もちろんそこには何も無かった。
とその時。妙な視線を感じた。
僕は辺りを見回してみたが、特にこちらを見ている人は居なかった。知り合いでもいたのかと思って探してみたが、やはりそれらしい人影も見当たらなかった。
僕は自分の服装を見た。別にそれほどおかしな格好もしていないし、目立つ服装でもない。そのせいでは無さそうだ。
視線は気のせいか……。
電車は進み、三十分ほどして地元駅へと到着した。つまり、あの電車が来た駅だ。
電車を降り、改札に向かって歩いていると、反対側のホームに、あの時と同じように路線の電車が滑り込んで来た。もちろん普通の電車である。
僕はそれを見て少し安堵した。
僕は駅前の不動産屋に寄り、合鍵を貰った。持っていた部屋の鍵は会社……と言うか、あの時の電車の自分の机にバッグごと置いたままだったのだ。どうなったかは知らない。
他にも色々生活の歯車が狂いまくっているので、しばらくはやることが多そうだ。
そしてあの日に通った道を逆に辿って、僕は自分のマンションへと到着した。階段を昇り、二階の3つ目の部屋。このドアで間違い無いはず。
しばらくぶりなので、何となく違和感がある。
「お待ちしていました。ヨシダさん」
入口のドアの前で聞こえたのは、聞き覚えのある声だった。合成された電子音のあの声。
気が付くとあの銃が傍らに浮かんでいた。
「やあ、久しぶり」
僕は思わずそう答えてしまった。
「早速ですが、あなたに危機が迫っています」
何を言い出すのかこの銃は。
待てよ……と言うか、コイツがここに実在すると言うことは……あれは現実かつ、同じ時空間だったと言うことか?
いやいや、また僕が白昼夢か幻想を見ていると言う可能性も……?
「どうしましたか? ヨシダさん?」
「いや、少し混乱していて。……君、前に会ったよね。電車で」
「ええ、お会いしました」
「……ちなみにこれ、現実だよね?」
「現実の定義が良く分かりませんが、時空間的には繋がっています。そう言う解釈でよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
どうやらあれは現実だったらしい。
「そう言えば、さっき危機って言わなかった?」
「ええ、あなたの存在が危機に瀕する事態が差し迫っています」
自分の存在……?
その時、ガヤガヤと階下から人が数人、マンションの階段を昇ってくる音がした。
僕は、隣に浮かぶ非日常的な物体を、他の人間に見られてはいけないような気がし、慌てた。
「と、とりあえず部屋に……」
僕は鍵を取り出し、急いで回した。
「それを止めに来たのですが。残念です」
「えっ?」
僕はガチャリと部屋の鍵を開けてしまった。
そこにあったのは……雑然とした部屋だった。と言うか、いつも通りの僕の部屋だ。
「何も無いようだけれど?」
「ああ、そう見えるんですね……緊急回避開始」
衝撃が起こった。僕の体は後ろに吹き飛ばされ、二階の手すりにしこたま打ち付けられた。
いったい何が……。
見ると、ドアの中に何者かが立っていた。何故か微動だにしない。
驚いたのは、そいつの頭は、あの電車の三角頭のように、人間では無い形状の頭をしていたことだった。
平たい、潜水艦の船首を切り取ったような紡錘形の頭をしている。
「失礼、すぐに回避しないと危険でしたので」
僕を吹き飛ばしたのはお前の方か。
「あそこに立っているのがチェイサーです。あなたに分かりやすく言うと、ニンジャと言ったところでしょうか」
「忍者?」
「他の言葉で言うと、暗殺者、アサシン。分かりますでしょうか?」
「ああ。でも何で僕が?」
「彼らは秘密裏にあなたを消去する必要があったのです」
「よく分からないんだけど、僕は何かをやったのか?」
「簡単です。目撃者です」
「……電車か?」
「御名答。彼らは見られたく無かったのです」
「あれは何なんだ?」
「詳しくは今は話せませんが、作り物と言っておきましょう」
「今話してくれよ!」
「目の前のチェイサーはスタンが効いていますが、すぐに効果が切れてしまいます。急ぐ必要があります」
確かに目の前のチェイサーとやらは痺れて動けなくなっているように見えた。
「どうすればいい? 走って逃げればいいのか?」
「人目につく場所なら良いでしょうが、あいにくとこの辺は人通りが少ないようです。適切な場所がありません」
「戦えと?」
「あなたの身体能力では不可能でしょう」
「じゃあ、どうすれば?」
「簡単な方法があります。二〇八号室に行って下さい。そこに我々の仲間がいますので」
「二〇八? 突き当りの部屋か?」
「急いで下さい」
僕はダッシュで二〇八号室へ駆け寄った。僕はドアノブを回した。しかしドアは開かなかった。
「開かないじゃないか!」
「住人がいますから。そういう時はノックなのではないですか?」
僕は逸る気持ちを抑えて軽く二度ノックをした。
「はい? どなた?」
出てきたのは、水商売でもやっていそうな茶髪の女の人だった。
「すいません、助けて下さい!」
「何を?」
僕はどう説明していいのか答えに困った。
とりあえず銃を指差す。
「こいつの、仲間だって聞いたんですけど!」
「……? どいつの?」
何度も銃を指差すが、彼女には見えていないようだった。
「ヨシダさん、認証コードを入力して下さい」
「認証コード?」
「認証コードがどうかしたの?」
どうやら彼女には銃の姿も見えず、声も聞こえていないようだった。
「ヨシダさん、ワタシと同じ言葉を詠唱して下さい」
僕は銃が言う複雑かつ意味がわからない言葉真似て喋り続けた。
「あんた、何言ってんの? 全然分かんない。わたし忙しいからこれでいい? じゃねー」
「最後にこうです。サブミット」
「サブミット!」
すると彼女の目の色が変わった。
「承認。緊急モードに移行。何かヘルプが必要?」
「チェイサーを! やつを撃退してくれ!」
「了解」
すると彼女は何処からともなく二丁の銃を取り出し、両手で僕に向かって構えた。
数発の光弾が連続で放たれた。
僕は避けられず撃たれたと思った。が、撃たれてはいなかった。
代わりに倒れたのは僕のすぐ背後にいたチェイサーらしかった。ヤツはドサリと倒れた。
「まだ何か必要?」
すると銃が言った。
「彼に話があるので、ちょっと場所を貸して貰えないでしょうか?」
彼女は少しイヤそうな顔をしたがこう言った。
「じゃ、入って。お茶ぐらいは出したげるよ」
僕は彼女の部屋に入った。
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