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8ハイド
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彼女の部屋は雑然としていた。並べられたカラーボックスに、時計やクレーンのヌイグルミ、雑貨などが数多く並んでいる。
部屋の中央には白いローテーブルが置いてあった。
「そこ座って。お茶淹れるから」
「どうも」
彼女はお湯を沸かし、ティーポットに注いだ。
「あたし、三条千恵……と言う設定をやっているハイド。あ、ハイドってのは役割ね。人に紛れて情報収集する役なの。よろしく」
「よろしく」
そしてお茶を等分にカップに分けて持ってきた。
「はい、ルイボスティー。あとクッキーもどうぞ」
「ありがとう」
僕らはテーブルを囲んで座った。窓の外には、僕の部屋とは微妙に角度が違う、いつもと同じ景色が広がっている。
「で、何? 私も関係ある話? それとも場所貸すだけ?」
銃が言った。
「実はこのヨシダさん、目撃者でして」
「ああ、こないだの」
「ワタシの分析では、この方、特異点かもと」
「ああ、それは面倒だね」
何を言っているのか分からない。
「ごめん、何がなんだか話が分からない。説明してくれないか?」
すると、彼女は言った。
「XRP、説明よろしく」
「そうですね、話せる範囲から話しましょう。とは言ってもある程度は話さないと、ヨシダさんの身の安全は確保出来なさそうですが」
彼女は少しイライラしている。
「全部話しちまいなよ。特異点なら、どのみち隠し通せないだろうに」
「いえ、まだ特異点と確定した訳でも無いです」
「そうかい……」
彼女はお茶をすすった。
「ではお話しましょう、ヨシダさん。今この世界は、いくつか綻びが発生しています。例えばこの間の電車の出来事」
「うん、電車は分かる。で、世界の綻びって何だ?」
「あなたは真実の世界を垣間見たのです」
「……」
彼女はニヤニヤ笑っている。
「それだと分からないんじゃないかな、XRP」
うん、全然分からない。
「この世界のシステム、特に幻影発生装置に不具合が発生しています」
「世界のシステム? 幻影発生装置?」
「この間、あなたが見た妙な電車の車内、あれが真実の世界の一端なのです。そして信じられないかもしれませんが、今見えているのが幻影なのです」
「幻影……?」
僕は部屋を見回した。白い壁、お茶の匂い、外から聞こえるスズメの鳴き声、傾きかけた午後の日差し。日差しが手に当たると暖かく感じる。
「……これが幻影だと君は言うのか?」
「そうです」
僕は少し考えた。
「……とりあえずだね、銃くん」
「XRPとお呼び下さい」
彼女が銃を指差して言った。
「それは、ソイツの形式番号……の一部分」
なるほど。
「で、XRPくん、世界のシステムとは何だ?」
「……」
XRPは黙っている。何か思考中だろうか?
「話しても良いんじゃない? 言わないと分かんないっしょ」
「助言ありがとうございます、GR」
「あ、GRってのはそれは私のこと。形式番号の頭文字」
なるほど……形式番号?
「ヨシダさん、実はここは人工的に作られた時空間なのです。それを作り出しているシステムのことです」
「ふむ……?」
僕はお茶をすすった。
「理由は分からないのですが、あなた方はこの時空間に閉じ込められているのです」
「……うん……とりあえず続けて」
「では続けます。今までこの世界は破綻なく存在してきました。しかしある揺らぎによって、システムに綻びが生じているのです」
「揺らぎとは?」
「それが私達が特異点と呼んでいる存在です。その特異点が存在する場所に綻びが生じるのです」
「それが僕だと?」
「可能性です。あなたはあの光景に遭遇しましたから。……ちなみに特異点は一つではなく、いくつも存在するようです。そのうちの一つである可能性ですね」
「なるほど」
「彼らとしては……」
「彼ら?」
「システムを構築した存在です。我々にもその存在の全体像は分かっていません」
「ふむ」
「彼らとしては平常の状態を続けたいのです。バレたくないのです。これが虚構であることを」
「……そこで、目撃した僕が邪魔だと」
「そういうことです」
「じゃあ、……僕はどうすればいい?」
「そこなのですが……」
「彼らはあなたを狙っています。先程の事で分かったと思いますが、あなたの部屋は当然バレています」
「帰れないってことかな?」
「今のままだと、そうなりますね」
「……もしや、会社も?」
「もちろんバレていますが、人目があるので手出しはしないでしょう。一人になるのがマズイのです」
「人目があれば良いと……駅前にテントでも張るか?」
「可能ならそれもいいかも知れませんが、もっと確実な方法があります。ボディガードです」
「ボディーガード?」
彼女がジト目で銃を見た。
「勘がいいですねGR」
「いやよ、今のこの仮想の生活が気に入ってるんだから」
僕は二人に聞いた。
「彼女がボディーガードをやるってことか?」
「ええ。手段としては確実です。しかし……」
彼女はあまり乗り気では無さそうだ。
「では、取引しましょう。設定を書き換えるというのは、どうでしょう? GR」
彼女の目の色が変わった。
「何々? なんかくれんの?」
「そうですね……何か希望があれば」
「じゃあ……どこかの御令嬢で、歳もあと5歳若くて、お金もいっぱいって設定で」
「分かりました。契約成立です……少々お待ち下さい」
銃は一分ほどランプを明滅させていた。
すると、彼女の長い茶髪が肩までの長さのツヤツヤの黒髪になり、目も丸みを帯びた形に変わった。
「設定を書き換えました。サイフの中身を確認してみて下さい」
「わーっ! いっぱいある!」
「カードの残高も変わっています」
「ありがとう!」
彼女は僕にすり寄るとこう言った。
「じゃ、ヨシダさん、これからさり気なくボディガードするから! よろしくね!」
気のせいか、性格まで変わったような……。
「う、うん……」
微妙に好みのタイプだから困る。
「あ、ヨシダさんの好みも少し入れておきました」
それでか……。
「ではGR、ミッション的には、ヨシダさんの常時ボディーガードです」
「ラジャー!」
「ステルスは使ってもいいです。必要な場合」
「分かりましたー!」
「さてヨシダさん」
「はい」
「当面は彼女がガードしますので、身の安全は確保されました。問題はその後です」
「よく分からないのだけど……何をどうすれば?」
「あなたはシステム側に目をつけられましたので、今のままだと元の生活に戻るのは難しいです」
「となると?」
「我々に手を貸してください。もしあなたが特異点ならば……やれるはずです」
「何を?」
「あなたの意向次第ですが、設定の変更、または停止です」
「今、彼女に対してやったようなことなら、君がやればいいんじゃ?」
「私が出来るのは仲間に対してだけです」
「……具体的にどうすんの?」
「説明しましょう。ヨシダさん、あなたはいるだけでいいです」
「いるだけ?」
「特異点の機能は「綻びを作る」です』
「……ふむ」
「もしヨシダさんが特異点ならば、そこに綻びが出来るのです」
「なるほど」
「綻びが出来たら、あとは我々がやります」
「……理屈は分かった。……具体的には? いつ? 何を?」
「それはまだ未定です。我々も慎重に作戦を立てないと」
「ふーむ……」
「持ち帰って検討しますので、よろしくご査収ください」
「……その冗談は面白くないし、使い方間違ってる」
「あ、違いましたか。あなた方の風習を真似てみたのですが」
僕は苦笑いし、天井を見上げた。もちろん知らない天井だ。同じマンションなので部材は一緒だが。
「まー、まー、あたしがガードするから大丈夫」
そう言って彼女は僕の腕にしがみついた。腕にポヨポヨな感触がする……そうか、これも幻影なのか。まあいいけれど。
部屋の中央には白いローテーブルが置いてあった。
「そこ座って。お茶淹れるから」
「どうも」
彼女はお湯を沸かし、ティーポットに注いだ。
「あたし、三条千恵……と言う設定をやっているハイド。あ、ハイドってのは役割ね。人に紛れて情報収集する役なの。よろしく」
「よろしく」
そしてお茶を等分にカップに分けて持ってきた。
「はい、ルイボスティー。あとクッキーもどうぞ」
「ありがとう」
僕らはテーブルを囲んで座った。窓の外には、僕の部屋とは微妙に角度が違う、いつもと同じ景色が広がっている。
「で、何? 私も関係ある話? それとも場所貸すだけ?」
銃が言った。
「実はこのヨシダさん、目撃者でして」
「ああ、こないだの」
「ワタシの分析では、この方、特異点かもと」
「ああ、それは面倒だね」
何を言っているのか分からない。
「ごめん、何がなんだか話が分からない。説明してくれないか?」
すると、彼女は言った。
「XRP、説明よろしく」
「そうですね、話せる範囲から話しましょう。とは言ってもある程度は話さないと、ヨシダさんの身の安全は確保出来なさそうですが」
彼女は少しイライラしている。
「全部話しちまいなよ。特異点なら、どのみち隠し通せないだろうに」
「いえ、まだ特異点と確定した訳でも無いです」
「そうかい……」
彼女はお茶をすすった。
「ではお話しましょう、ヨシダさん。今この世界は、いくつか綻びが発生しています。例えばこの間の電車の出来事」
「うん、電車は分かる。で、世界の綻びって何だ?」
「あなたは真実の世界を垣間見たのです」
「……」
彼女はニヤニヤ笑っている。
「それだと分からないんじゃないかな、XRP」
うん、全然分からない。
「この世界のシステム、特に幻影発生装置に不具合が発生しています」
「世界のシステム? 幻影発生装置?」
「この間、あなたが見た妙な電車の車内、あれが真実の世界の一端なのです。そして信じられないかもしれませんが、今見えているのが幻影なのです」
「幻影……?」
僕は部屋を見回した。白い壁、お茶の匂い、外から聞こえるスズメの鳴き声、傾きかけた午後の日差し。日差しが手に当たると暖かく感じる。
「……これが幻影だと君は言うのか?」
「そうです」
僕は少し考えた。
「……とりあえずだね、銃くん」
「XRPとお呼び下さい」
彼女が銃を指差して言った。
「それは、ソイツの形式番号……の一部分」
なるほど。
「で、XRPくん、世界のシステムとは何だ?」
「……」
XRPは黙っている。何か思考中だろうか?
「話しても良いんじゃない? 言わないと分かんないっしょ」
「助言ありがとうございます、GR」
「あ、GRってのはそれは私のこと。形式番号の頭文字」
なるほど……形式番号?
「ヨシダさん、実はここは人工的に作られた時空間なのです。それを作り出しているシステムのことです」
「ふむ……?」
僕はお茶をすすった。
「理由は分からないのですが、あなた方はこの時空間に閉じ込められているのです」
「……うん……とりあえず続けて」
「では続けます。今までこの世界は破綻なく存在してきました。しかしある揺らぎによって、システムに綻びが生じているのです」
「揺らぎとは?」
「それが私達が特異点と呼んでいる存在です。その特異点が存在する場所に綻びが生じるのです」
「それが僕だと?」
「可能性です。あなたはあの光景に遭遇しましたから。……ちなみに特異点は一つではなく、いくつも存在するようです。そのうちの一つである可能性ですね」
「なるほど」
「彼らとしては……」
「彼ら?」
「システムを構築した存在です。我々にもその存在の全体像は分かっていません」
「ふむ」
「彼らとしては平常の状態を続けたいのです。バレたくないのです。これが虚構であることを」
「……そこで、目撃した僕が邪魔だと」
「そういうことです」
「じゃあ、……僕はどうすればいい?」
「そこなのですが……」
「彼らはあなたを狙っています。先程の事で分かったと思いますが、あなたの部屋は当然バレています」
「帰れないってことかな?」
「今のままだと、そうなりますね」
「……もしや、会社も?」
「もちろんバレていますが、人目があるので手出しはしないでしょう。一人になるのがマズイのです」
「人目があれば良いと……駅前にテントでも張るか?」
「可能ならそれもいいかも知れませんが、もっと確実な方法があります。ボディガードです」
「ボディーガード?」
彼女がジト目で銃を見た。
「勘がいいですねGR」
「いやよ、今のこの仮想の生活が気に入ってるんだから」
僕は二人に聞いた。
「彼女がボディーガードをやるってことか?」
「ええ。手段としては確実です。しかし……」
彼女はあまり乗り気では無さそうだ。
「では、取引しましょう。設定を書き換えるというのは、どうでしょう? GR」
彼女の目の色が変わった。
「何々? なんかくれんの?」
「そうですね……何か希望があれば」
「じゃあ……どこかの御令嬢で、歳もあと5歳若くて、お金もいっぱいって設定で」
「分かりました。契約成立です……少々お待ち下さい」
銃は一分ほどランプを明滅させていた。
すると、彼女の長い茶髪が肩までの長さのツヤツヤの黒髪になり、目も丸みを帯びた形に変わった。
「設定を書き換えました。サイフの中身を確認してみて下さい」
「わーっ! いっぱいある!」
「カードの残高も変わっています」
「ありがとう!」
彼女は僕にすり寄るとこう言った。
「じゃ、ヨシダさん、これからさり気なくボディガードするから! よろしくね!」
気のせいか、性格まで変わったような……。
「う、うん……」
微妙に好みのタイプだから困る。
「あ、ヨシダさんの好みも少し入れておきました」
それでか……。
「ではGR、ミッション的には、ヨシダさんの常時ボディーガードです」
「ラジャー!」
「ステルスは使ってもいいです。必要な場合」
「分かりましたー!」
「さてヨシダさん」
「はい」
「当面は彼女がガードしますので、身の安全は確保されました。問題はその後です」
「よく分からないのだけど……何をどうすれば?」
「あなたはシステム側に目をつけられましたので、今のままだと元の生活に戻るのは難しいです」
「となると?」
「我々に手を貸してください。もしあなたが特異点ならば……やれるはずです」
「何を?」
「あなたの意向次第ですが、設定の変更、または停止です」
「今、彼女に対してやったようなことなら、君がやればいいんじゃ?」
「私が出来るのは仲間に対してだけです」
「……具体的にどうすんの?」
「説明しましょう。ヨシダさん、あなたはいるだけでいいです」
「いるだけ?」
「特異点の機能は「綻びを作る」です』
「……ふむ」
「もしヨシダさんが特異点ならば、そこに綻びが出来るのです」
「なるほど」
「綻びが出来たら、あとは我々がやります」
「……理屈は分かった。……具体的には? いつ? 何を?」
「それはまだ未定です。我々も慎重に作戦を立てないと」
「ふーむ……」
「持ち帰って検討しますので、よろしくご査収ください」
「……その冗談は面白くないし、使い方間違ってる」
「あ、違いましたか。あなた方の風習を真似てみたのですが」
僕は苦笑いし、天井を見上げた。もちろん知らない天井だ。同じマンションなので部材は一緒だが。
「まー、まー、あたしがガードするから大丈夫」
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