ストレンジ・トレイン

銀河星二号

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9同居人

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「じゃあさ、あたし、ヨシダさんの恋人役ってことでいい?」
「え?」
「いいじゃん。その方が常に側にいられるし」
「まあ、そうだけど」
 彼女はますますくっついて来た。か、顔が近い……。
「論理的には矛盾はありません」
「う、うん……そうだね……」
「誰かに会ったら、そう紹介してネ」
 何か……問題があるような気が……。

 その日、二〇八号室の彼女ことGR、表向きには三条千恵と言う人物は、僕の部屋に来ることになった。僕の恋人のフリをして。もちろん僕の護衛のためだ。

 部屋を出ると、玄関前で倒れていたはずの忍者、もといチェイサーは消えていた。
「……そういうものなのよ」
 彼女が言った。
「機能停止するとシステムが消去するのです。シーカーを」
 と銃が言った。
「シーカー?」
「我々は一連のあの存在をそう呼んでいます」
「ふむ……もしかして、電車の三角頭が消えたのも?」
「ええ、そのはずです」
「なるほど」

 マンションの外廊下を僕の部屋まで歩き出す。
 彼女は腕を組んで来た。
「……か、勘違いしないでよね。貴方なんかちっとも好きなんかじゃ無いんだから」
 何の小芝居なのか……。
「……何でツンデレ構文? いや、護衛なのは分かっているし」
「あはは、一度言ってみたかったから! せっかくだし」
「……まあいいけど」
「……ヨシダさんさぁ、ちょっといい男だよね」
「そう? 普通だと思うけど」
「モテるっしょ」
「いや……どうだろ?」
 ミっちゃんは妙に絡んでくるが……無いな。そんな事はない。
「……ないない」
 僕は首を横に振った。

 そして時間にして数十秒、僕の部屋に着いた。
「どうぞ」
 僕は自室のドアを開けた。廊下から部屋への惨状が露わになった。もちろん僕のせいである。
「うわぁ……」
 廊下に山と積まれたゴミ袋も、何故か床に転がってるパンツも、もちろん僕のせいである。
「私は先ほど見ましたので」
 流しに山と積まれた食器ももちろん……ああ、過去の僕め。
「ヨシダさんさぁ……」
 彼女が呆れた顔で言う。
「分かってる。分かってるから……」
 僕は目を瞑り、ただそう言った。
 会社に行って寝るだけの生活だったから!と、とりあえず言い訳しておく。
 僕は廊下のゴミを、ワキに片付けながら奥へと進んだ。

 部屋に入り、僕は中央のコタツ兼テーブルの周辺をサササッと片付けた。
 彼女は僕のベッドに腰掛けた。ちなみに銃はずっとプカプカ浮いたままだ。

「で、ヨシダさん、ここまではいいんだけど、後はどうしようか?」
「んー、これで十分なんじゃ?」
「大丈夫? XRP? あたし帰っていい?」
「記録では、突然空間にシーカーが出現した例もあるようですが」
「ダメじゃん」
 ドアを閉めとけば良いと言うものでも無いのか……。

「私、ここ住んじゃおうっか?」
 彼女が僕を見て、いたずらな表情で笑った。
「論理的には妥当ですね」
「こらこら」
「じゃ、どうすんの?」
「うっ……」
 確かに四六時中護衛となると、同じ空間にずっと居るしかない。
「逆にウチ来てもいいけど?」
 二択なのか……。いや待て、他の手は無いのか?あるはずだ……思いつかないけれど。

「あ、なんか来た」
 彼女がそう言い、一瞬、後ろの何かを手で払った。背後でグレーの何かがサラサラと崩れるのが見えた。それは電車で安西さんが祓った存在に似ていた。
「何かいたの?」
「居たよ。倒しちゃったけど。偵察か何か、いやただの霊ってやつかな?」
 いかん、やはりどう考えても自分じゃ対応出来そうにない。

「しかしさあXRP、わたし一人ってのも困るんだけど。ずっと監視は無理だよ。寝れないじゃん」
「そうですね、ワタシが代わりに見張っていてもいいんですけど。睡眠いりませんから」
「だけどXRPじゃ、何かあっても対処出来ないじゃん」
「そこなんですよね」

 僕はふと思い付いた。設定を変えればいいんじゃないかと。
「XRP、さっき彼女の設定を書き換えたみたいに、自分の設定は書き換えられないの?」
「……やったことは無いですね。権限的に難しいと思いますが」
「人型になるとか?」
「今のボディ、気に入っているんですが」
「やってみたら? 面白そうだから」
 彼女がそう言った。
「じゃあ、調べて見ましょう……検索検索……あ、何か発見しました……」
 すると、XRPがポトリとテーブルに落ちた。そしてランプを明滅させ始め……。
 僕と彼女は息を呑んで様子を見守った。

 ポンッと言う音と共にXRPに小さな翼が生えた。
「うおぉ、これはカッコいいですね」
 XRPが言った。
「う、うん……」
 彼女が横を向いてそう言った。
「人型は無いの?」
「検索しましたが、どうやら不可のようです。プロテクトされてますね」
「そうかー」
「さて、困りましたね」

「んー……じゃあ……」
 彼女がすっくと立ち上がった。
「あたし、とりあえず荷物持ってくるー。ちょっとお願いね、XRP」
 彼女はそう言って出て行った。
「了解《ラジャー》」
「荷物って……」
「生活に必要なものだと思います」
「……ここに住むってこと?」
「ですね」
 え、それって同棲……。
「べべべべ、ベッド一つしか無いんだけど」
「大丈夫ですよ。ヨシダさんが寝てる間は、多分起きてると思いますから」
 少しガッカリした。
「ああ、夜中起きて、朝に帰ると……なるほどー……」
「そういうことですね」
「あー、仕事とかは大丈夫なの?」
「設定書き換えましたし。お金ありますし」
「そっかー。いいなそれ」
「ヨシダさんの設定を書き換えられなくて残念です」
「全くだ」

 とか会話しているうちに彼女が帰って来た。持ってきたのは、お菓子とゲーム機と服。
 そしておもむろに脱ぎ出した。胸が弾むのが一瞬だけ見えた。
「あ、あっち向いてて」
「はい……」
 彼女が着替えたのはダボダボのジャージ。そしてメガネをかけ、ゲーム機をテレビにつないだ。
 映し出されるアクションゲームの画面。
「あの……それはどう言う?」
「だって、どう考えてもヒマそうだったから」
「デスヨネー」
「ヨシダさんもやる?」
 彼女はそう言ってコントローラーを僕に放り投げた。僕が受け取って隣に座ると、体を擦り寄せて来た。
「へへー」

 後ろでXRPが翼を収納した。変形するんか。ちょっとカッコいいなと思ってしまった。
「さて、とりあえずはこれでオーケーでしょうか? ヨシダさんが寝ている間はGRが監視。ヨシダさんは会社行って帰って来ると」
「うい~」
「そうですね……」
「あ、XRP、早めに本隊に連絡つけて、作戦練ってね。あたし、昼夜逆転慣れてるけど、なるべくなら寝たい時に寝たい」
「了解《ラジャー》」

 うん、確かに当面はこれで大丈夫そうな気がする。気がするが、何か問題あるような……。いいのか?何か見落としてないか?

 今はこれでいいとしても、世界が幻想で、僕が何か設定を変えないと、もはや存在は出来なくなって……。
 とか色々考えていると、僕は急に眠くなって来た。考えすぎたのか。まぶたが重い。

 あくびをした僕を見て彼女は言った。
「ヨシダさんさあ、眠かったら寝てもイイよ? 明日会社あるんだろうし」
 時刻を見たら、まだ9時だったのだが……。
「ごめん、今日は色々あったから、妙に眠くて……」
 僕はベッドにパタリと倒れた。意識はそこで途切れた。

 次に気付いたのは夜中だった。時計が深夜の一時を指している。テレビがついたままだが、彼女もXRPも居ない。
 僕は眠い目を擦りながら体を起こした。左右を見回す。やはりいない。そして僕は部屋の中に居てはならないものを見つけた。

 そう、そこにいたのは異形の存在。まだ見たことの無い存在が立っている。
 ヒゲのように触手が多数生えたタコのような頭。目は多分左右に飛び出ているのがそれのように思えた。

 それは歩き出し、テーブルの向こうに座った。
 そして、その口だと思える部分をグニャリと開き、エコーのかかった奇妙な声で、こう言った。
「君、吉田君。ちょっと話いいかな?」

 僕はとりあえず「はい」と答えた。
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