彼の世界、彼女の能力

銀河星二号

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神社の二人、そして巫女

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 八月の初旬の神社の参道は人もまばらだった。
「そう言えばさ、あっちゃん。今年の蝉、やけに多いと思わない……?」
「そうかなー?」
 あっちゃんこと、敦子は食べかけの青いソーダアイスを口にほうばりながら、隣を歩く静夫を見上げてそう言った。
 彼女のフワフワの短い髪とスカートが揺れた。
 その表情は嬉しげではあったが、蝉の話にはまるで関心が無いようだった。
 敦子と静夫は高校の夏休み中で、商店街でブラブラしている途中に偶然会い、ここまで二人でやって来たのだった。
「いつもの妄想してたんでしょ。世界に対する違和感とか……」
「あ、まあ……そんなとこ」
「セミとか毎年こんなもんでしょ。気にしすぎだよ、シー君」
 そう言って敦子はパッと静夫の腕を自分の華奢な両腕で掴んだ。
 ついでに胸まで当てたので、静夫はその感触に少しドギマギした。
「い、いつもより多いような気がするんだけどな……」
 静夫は腕の感触を気にしながらも辺りを見回した。
 蝉の声がそこいら中に響き渡っている。
「あ、そうだ!」
 静夫は何かを思い付いたようだった。
「あっちゃんさ、前に知り合いに変な昆虫学者がいるって言ってたよね? 確か……いとこの……名前なんだっけ?」
 それを聞いた敦子はちょっと不満げにこう言った。
「あー、あの話、覚えてたんだ……」
「前に言ってたよね」
「……会いたいの?」
「有名なんだろ? ちょっと蝉のこと聞いてみたいんだ。前から一度会ってみたかったし!」
「そうなんだ……んー……」
 敦子は暫くの間、唇に指を当てて考えていた。
「いいけど……そうだな」
 敦子は目を輝かせてこう言った。
「ギュッとしてくれたら考える!」
「……ギュッと?」
「こうっ!」
 そう言って敦子は静夫の体にギュッとしがみついた。
「……シー君、いい匂い~!」
「自分でギュッとしてんじゃん……」
 敦子は静夫を見上げてこう言った。
「そこを上からギュッとでしょうが」
 静夫はキョトンとした顔で敦子を見つめ、上から敦子をギュッと抱きしめた。
「こう?」
 敦子は自分で言っておきながら、ドギマギしつつ、明後日の方向を見つめた。
「シー君、それは積極的過ぎだよ……?」
「いや……そうか?」
 敦子の顔が赤い。
「何か……ドキドキしちゃうよ……」
「そ、そういうこと言うなよ、お、オレも……ドキドキ……しちゃうじゃないか!」
「シー君……」
 敦子が静夫を見つめる。
「いや、あの……あっちゃん……? あの……!?」
 そして、セミの声が段々と……。
「あー、あー、お二人さん」
 声をかけてきたのは一人の巫女だった。長い黒髪を後ろで結っている。
 敦子はその姿をしばらくじっと見ていたが、ハッと気付いた。
「あ、あれ? もしかして、さわちん? きゃー、巫女姿可愛いー! 初めて見た!」
「ひ、比村さん……!? いや、あの、これは!」
 さわちんこと、比村沢子はジト目で二人の姿を上から下までマジマジと観察し、こう言った。
「神聖な神社の! 社務所のまえで……」
 と、沢子は自分の口元に付いていたご飯粒に気付き、指で口の中に放り込んだ。
「……同級生がいちゃいちゃハレンチなことをしているなんて! 思わず箸と茶碗置いて出て来ちゃったじゃない!」
 敦子はちょっとすまなそうにこう言った。
「ごめーん、ついつい、あ、あたしはそこまでする気は無かったんだけど……神原君が積極的で……」
「ちょ、あっちゃん?」
 沢子が言った。
「一部始終見てましたけどー」
「な! あっ……ぁのぁの! えーと! ……さわちんのオタンコナスー!」
 沢子に全て見透かされていた敦子は、とりあえず罵倒した。
 静夫は、ほれ見ろ正義は勝つといった表情でニヤニヤと見ている。
「ナスとかチンは付いてませんよー」
 そう言って沢子は袴の裾を少したくしあげた。
「うわ、さわちん! 大胆すぎ! 生足っ! シー君見ちゃダメー!」
 敦子は慌てて静夫の目を覆った。
 沢子は言った。
「いつも制服のスカートから生やしてるじゃない? 二本も。しかも太ももまで」
「巫女姿は違うの!そんな強力なウエポン装備で生足見せんなー!」
「そう言うのものかしら……」
 沢子は自分の足を左右からチラチラと見た後、こう続けた。
「……別に誰がどうくっつこうといいんだけどさ。あたしん家の目の前でちちくりあうのは止めてくれる?」
「あたしん家?」
 敦子はきょろきょろと左右を見回した。
 神社の風景が見えている。
「社務所が家なの」
「あー、そうなんだ」
 沢子は腰に手を当てて周りの蝉の大合唱する様を見回した。
「にしても……何か今年の蝉、うるさすぎない? もう……ミンミンミンミン……」
「……だよね、だよね!」
 静夫は初めて得た理解者に声を弾ませてそう言った。
「ご飯食べてても、気が気じゃないわ。あ、そう言えばご飯!」
 沢子は社務所に残して来たご飯に気が付いて、戻ろうか戻るまいかアタフタとした。
「あれ、今、何か冷たい物が当たったような」
 敦子がそう言った。
 見ると、さっきまでスッキリ晴れていた空に黒雲が渦巻き始めていた。
 ゴロゴロと音が聞こえている。
「あ、降ってきたー!」
 ザーッとと大粒の雨が降ってきた。
 参道の敷石が見る見るうちに黒く濡れていく。
 三人とも一気に雨に濡れた。
 沢子が慌てて二人に言った。
「二人とも、ちょっと中に入って! こっち!」
 沢子が走って社務所に入って行った。
 敦子と静夫も後を追いかけて社務所へと入った。
「お邪魔しまーす!」
「失礼します!」
 社務所の中は外の天気のせいか少し薄暗かった。
 生活感はあまりなく、神社らしい神妙な空気感が漂っている。
「あっちゃん達、ちょっとそこで待ってて。奥からタオル持ってくるから」
「ありがとー! さわちーん!」
 静夫は敦子のブラウスが濡れて透けているのに気付いた。
 敦子はそれに気付くと後ろを向いた。
「シー君、見ないー!」
「ご、ごめ、つい。本能だから!」
 静夫は横を向いた。
 暫くすると雷が激しく鳴り始め、外が白く見える程の土砂降りになった。
「はい、タオル。拭いて拭いて」
 二人とも、沢子に渡されたタオルでゴシゴシと拭いた。
「お茶でもいれるから、上がって上がって。こっち! 台所だから。来て来てー」
 二人は沢子の後に続いて廊下を歩いていった。
 奥まで行くと台所があり、二人はテーブルに腰掛けた。
 沢子は冷蔵庫を開け、麦茶を出し、コップに注いで二人に出した。
 外を見るとサーっと音がして水煙が上がるほどの土砂降りになっていた。
 沢子が感嘆した調子で言った。
「うわー、すごいねー」
「ちょっとこれは凄すぎでしょ」
 敦子もテーブルから立ち上がり、沢子と一緒に窓の外の見物を始めた。
 小一時間ほど経つと雨はやんだ。
「さわちん、色々ありがとー!」
 沢子と二人は手を振り合って分かれた。二人は商店街に向かって歩き始めた。
 歩きながら静夫は敦子に話しかけた。
「最近、こういう凄い雨多いよね」
「だねー。凄いねー」
 静夫は何か考え事をしている。
 それを見た敦子は静夫に尋ねた。
「どうかしたの?」
「……いや……何か……いや、まさかね……」
「何?何のこと?」
「……気のせいだと思う……」
「何?」
「んー、蝉がね、大合唱すると……その……雨が降るような……」
 敦子は静夫の脇腹を指で突っついて言った。
「なーにバカなこと言ってんの、シー君ったら。考えすぎだよ」
「そうだよね、何言ってるんだろうオレ……」
「そんなことがあるのなら、諺になってるよ『蝉が鳴くと雨が降るー』って」
「そのまんまじゃん……」
「いーの!」
 空を見上げると西の空が少し赤らんでいた。
 静夫は続けた。
「そういえば、さっきの話だけど……」
「何だっけ?」
「昆虫学者の……」
「ああ……!」
 そう言うと、敦子はバッグから携帯を取り出した。
「……電話してみるよ」
「おお、サンキュ!」
 しばらく敦子は後ろを向いて電話をしていた。
「出ないなー」
「出ないの?」
「うんー……忙しいのかな? また今度でいい?」
「あ、うん」
 二人は商店街の入り口に差し掛かった。
 商店街は買い物客で混雑していた。
 その時、後ろからタタタと人の近づく音がした。
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