彼の世界、彼女の能力

銀河星二号

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セミの群れの襲来

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「よう、シズオちゃん!」
 メガネをかけた青年がそこに立っていた。
 派手な柄シャツに白い短パンを履いていて、表情はにこやかと言うか、とりあえず笑っている感じである。
「おう、健二か」
「二人とも相変わらず仲いいねー」
 健二は少し茶化すように笑いながら、そう言った。
 静夫は言った。
「あ、あっちゃんはさ……その……お、幼なじみだから!」
 敦子は少しムッとした表情で静夫を横目で見た。
 健二はそれを見て少し気まずそうにし、敦子に向けて一度笑いかけ、静夫の肩をポンポンと叩いた。
「分かってるってー。うんうん」
 静夫は健二の持っている紙袋に気付いた。
 模型メーカーのマークが入っている。
「それは?」
「ああ、これか。ちょっとパーツが足りなかったんで、そこの模型屋に来てたんだよ。その先のツカダモデリング」
「模型屋にドローンのパーツあるんだ」
「うん、店長がそう言うのも興味あってさ。あるんだよ。ちょっとだけだけど」
 そう言って、健二は紙袋から機械の部品を取り出した。
「それモーター?」
「うん、新型のやつでさ。磁石が違うらしくて電力の割にトルクが出るらしいんだ。店長が言ってた」
「へー」
「今付いてるやつだとさ、トルク不足で不安定なんだよ。だから試してみる」
 敦子は男二人の会話がよく分からないらしく、口を尖らして微妙な顔で聞いていた。
「ああ、あっちゃん知らなかったか。健二はドローンやってるんだよ」
「ドローン?」
 敦子が、忍者が印を結ぶポーズを取りそうだったので、静夫は身振り手振りで説明した。
「ラジコンみたいなのでさ、プロペラで飛ぶ機械。こう、ブーンって」
「へえ……」
 敦子は一応そう答えたが、何を思い浮かべてるのかは謎だった。
 その様子を見ていた健二は敦子にこう言った。
「椎名ちゃん、こんど機会があったら見せるよ。興味あればだけどー」
「あ、うん……ぷろぺら回るやつだよね……大丈夫、何となく想像出来るよ……ぷろぺら……」
「そ、そう……?ならいいけど……」
 と、商店街が騒がしくなった。
 見ると、人々がざわついている。
「ああ、どいてくれたまえ! 先を急いでいる!」
 黒ずくめでシルクハットを被った男が、マントをはためかせて静夫の方へ走ってきた。
「そこの君! 危ない! 退きたまえ! 右じゃない! 左!」
「えっ、えっ?」
 静夫はとっさに避けようとしたが、間に合いそうにもなかったので、頭を抱えてその場に座り込んだ。
 男はフワッと静夫の頭上、地上2メーターを跳んだ。
「ああ、失礼!許したまえー!」
「ちょっとー、シー君に何するんですかー!」
「すまんー!急いでいるー!」
 男は、夕方の混雑する商店街の人ごみをかき分けて、走り去った。
「今の人失礼ねー? ねー、シー君?」
「格好が妙だったね。今っぽくないと言うか……」
「それに、結構なジャンプ力だったぜー? 何者かな? サーカス団員?」
 静夫達がそんな会話をしていると、何か奇妙な音が聞こえて来た。
 最初に聞こえたのは沢山の微かな羽音。
 次にジジジという音。
 そして次の瞬間、黒い雲のようなものが商店街の上に出現した。
 それは無数の虫に見えた。
「何これ?……あっ!」
 空を見上げて声を上げた敦子。
 そして静夫も呆然とその様を見つめていた。
「こんな……集団で飛ぶセミなんて……初めて見た」
「シズオ、お前虫に詳しいんだろ?何のセミだこれ?」
「アブラゼミだと思うけど……いや、少し違うような気もする」
 やがてセミの数が増え、無数の羽音が甲高く響き渡った。
 その音は奇妙な高周波を伴っていて、商店街を歩く人々の耳を刺激し、道行く人は耳を覆った。
 静夫達も思わず耳を塞いだ。
「シズオー! この音、セミの飛ぶ音か? ……にしても変だぞこれ?」
「わ、分からないけど……!」
 音はどんどんと高くなっていき、ついに全員、音に耐えきれず座り込んでしまった。
 電線にスパークが走った。
「うわっ!」
「きゃあ!」
 電線から火の手が上がり、火の粉が商店街の歩道に降り注いだ。
 静夫は敦子を庇い、降り注いだ火の粉を払った。
「あっちゃん大丈夫!?」
「うん!……大丈夫だから!」
 やがて蝉の群れは、西へと飛んで消えていった。
「セミが電線にぶつかったのか?」
 健二は電線の様子を眺めている。
「いや健二、セミがぶつかったぐらいで、ああはならないと思うぞ。さすがに」
 静夫は腕を組んで考えた。
「電線に羽音が共鳴した……?」
「いや、シズオ、それこそ有り得ないだろ」
「……ないか」
 静夫は辺りを見回した。
「そうだ、セミ、どっち飛んでいった?あっちゃん見てなかった?」
「に、西!」
 敦子は、夕暮れでシルエットになっている西の山を指差した。
「そう言えばさ、シズオ……さっきの黒ずくめの男も確か西の方へ走って行かなかったか?」
「もしかして関係ある……?」
「んー、ありそうな気しない?」
「いやいや、考え過ぎでしょ」
 静夫はしばらく考え、こう言った。
「オレ、ちょっと見てくる。まだその辺にいる気がするし」
「シズオ、オレも行くよ! 何か面白そうー! いったい何の事件、これ? 怪奇セミ男? セミ使い?」
「あ、シー君行くなら、あたしも行く!」
 静夫達はセミの消えた西の山へと向かった。
 三人はアスファルトの山道を延々と走った。
 勾配はかなりきつく、三人ともすぐにヘトヘトになった。
「ちょっと待って。止まってシズオ。お前体力有り過ぎ」
「どっち行った?」
 静夫は空を見回している。
 セミの姿はもうどこにも見当たらない。
「もう周り真っ暗で何も見えないよ、シー君……」
 既に夕闇も過ぎて空は薄紫から暗い青に変わっていた。
 生い茂った木々が視界を黒く遮っている。
「あれ?ここって……?」
 健二が辺りをキョロキョロと見回している。
「何?健二?」
「この辺、黒森じゃないか?」
「黒森?」
「……この辺、変な噂があるんだよー。見たんだって白い人。自転車で走ると追ってくるって噂」
 健二はオロオロしている。
「解散! シズオ、椎名さん! これ以上アブナイ!」
 それを聞いた敦子もイヤそうな顔をしている。
「わー、やめとこうよ。それにもう夜だし、帰ろうよ、シー君」
「うーん……」
 二人に言われて、静夫はそれ以上奥に進むのを止めた。
 突然、敦子の電話が鳴った。
 健二は何を思ったのか、頭を抱えてその場に座り込んだ。
「はい。あ、涼子さん?……うん、うん。あ、ありがとう御座います。電話しました。はい。あの、一度友達が会いたいって言うんですけど。あ、シー君って言います。ええ。……ち、違いますよ。はい……」
 しばらく敦子は電話で話していた。
「シー君、会ってくれるって」
 静夫はキョトンとしていたが、やがて気が付いた。
「……ああ!もしかして、さっき話してた昆虫学者?」
「そうそう。特別に頼んだんだからね」
「ありがとうー!」
 そう言って、静夫は思わず敦子に抱きついた。
「あっ!シー君……もう……」
 健二がしゃがんだまま、上目遣いでジッとそれを見上げていた。
 静夫はそれに気付き、パッと手を放した。
「幼なじみだから!」
 健二は立ち上がると、ニッと笑った。
「はいはい、そんなことより、とっとと帰りますよーシズオちゃんー。怖いの出ないうちにー」
 健二は静夫の手を引いて道を下り始めた。
 そして三人は早足気味に山を下り、帰路に就いた。

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