上 下
12 / 82
シーズン1-序章

012-初戦闘 後編

しおりを挟む
エネルギーフィールドを突き破り、一瞬視界が青白く染まる。

「.................!」
『なんだ、これは.......』

エネルギーフィールドのベールの先は、想像もしないような景色が広がっていた。
まず、真ん中には外側に見えていた砲台に繋がるであろう、巨大な支柱があった。
だが、内壁は.........無数のビル群が立ち並ぶ、まるで都市のような外見であった。
そして、立ち止まる私たちの眼前で、ビル群の隙間から次々とウスカ級が出撃してくる。
その数は.....

「220、360…….さらに増大中!」
『どうすりゃいいってんだ.....!』

圧倒的な数のウスカ級に、私たちは磨り潰されようとしていた。
そして、全てのウスカ級から、ミサイルが一斉に発射された。
高精度の誘導タイプでないのが唯一の救いか。

「.......フレア展開、内壁付近まで逃げてください!」
『了解!』

クロノスはフレアを展開し、ミサイルの軌道を逸らしつつ、ウスカ級の出てくる内壁付近まで接近する。
当然、とんでもない数のウスカ級にターゲッティングされるが、回転機動を取りつつそれらを振り払う。

「チャフ展開!」
『チャフ展開!』

加速、減速、反転、旋回、上昇、後退、ミサイル発射、下降、急加速、回転、チャフ展開、チャフ展開、フレア展開。

『何だか楽しくなってきたぜ!』
「............ついにおかしくなったんでしょうか?」

私は呟くが、何となくその気持ちは理解できていた。
熱線とミサイルの軌道を予測し、的確な回避ルートを算出、それを送信し、イレギュラーを観測しながら変動させていく。
今私は、役目を果たせている。
…..だが、限界は以外にも早く訪れるものだった。

『まずいっ、ライフルの弾がもうない!』
「リロードを試しましたか?」
『ああ、弾倉を使い切った!』

弾のなくなったライフルを腰にしまい、クロノスはレーザー砲を構えた。

「背後からミサイルが接近しています、ミサイル発射!」
『ミサイルもない、撃ち尽くした!』
「そんな、まだ二発分あるはずなんですが......」
『本当にない!』
「回避運動! 内壁に擦り付けますよ!」
『了解!』

クロノスは内壁に向けて急降下し、ビル群の間を駆け抜ける。
ミサイルはビル群に着弾し、次々とビルを粉々に吹き飛ばしていく。
クロノスは再び上昇し、目の前に集結するウスカ級を眺める。

『どうする!?』
「電磁シールド展開、強行突破します!」
『了解!』

先程電磁シールドが復活した。
クロノスは盾を構え、ウスカ級の編隊に突っ込んでいく。
レーザーを弾き、ミサイルを受け、そしてウスカ級に体当たりし、貫通してその向こうへと出る。
そして、私の眼に熱源の集中する場所が映った。

「あそこです、あそこを攻撃してください!」
『遠すぎる、近づくぞ!』
「はい!」

ウスカ級の密度が急激に薄くなり、私たちは熱源へと近づく。
チャンスは今しかない。

「プラズマキャノン発射準備!」
『プラズマキャノン発射準備!』
「エネルギー充填開始!」
『照準固定!』

視界には、向かってくるウスカ級......総勢570機が映っていた。

「............異世界で、オマエと戦えてよかった、トモ」
『オレもだよ、ハル』

たとえ熱源の破壊に成功しても、生きて帰ることはできない。
そう悟った私たちはなお、躊躇することはなかった。

「プラズマキャノン、」
『発射!』

閃光が放たれ、熱源を撃った。
そして、全てが白く染まった――――――



◆◇◆



クロノスは、一機佇んでいた。
目の前には、なおも輝く熱源。

『届か.....なかったか......』

プラズマキャノンは、その外殻を破壊しただけで終わった。
直後にクラヴィスがシャットダウンされ、クロノスは動けなくなりその場に浮遊し続けるしかなかった。
無数のミサイルが着弾し、クロノスは吹き飛ばされる。
レーザーを食らうが、動けない。

『.....ちく、しょう..........』

クロノスを縛る枷は、とても強く、クロノスの意志で動くことはできない。

『今、動ければ.......!』

クロノスは無数のミサイルの直撃を受ける。
その全身が破壊され、その下から黒い内部構造が覗き見えた。

『ゆる......ゆるさ...............許さね、ええ!!』

クロノスの身体が、ピクリと動いた。
その震えは、徐々に大きくなっていく。
そして、クロノスのアイカメラが赤い光を帯びた。

『ぜ、全部.......ぶっ壊して.................』

その全身に、急速に罅が広がっていく。

『待って!』

だが、ヒビの浸食は止まった。
クロノスのアイカメラの色が正常に戻った。
内部では、破損したコックピットで、クラヴィスが目を覚ましていた。

「ごめん、出力不足で........」
『ア.....ああ...............』

クロノスは、出力を取り戻し、その身体をぎこちなく動かした。

「破壊できなかったんですね」
『ああ、力及ばずな.....』
「まだ諦めないでください、攻撃手段を.......」

その時、クラヴィスは気付いた。
クロノスの左腕が破壊され、もうプラズマキャノンが撃てないことに。
レーザー砲では出力不足だと、分かってしまっていた。

『悪いな、もう詰んでるんだ......』
「まだ、手があるでしょう」
『......冗談だろ?』

クロノスは苦笑しながら、右手でロングソードを引き抜いた。
動力が伝達され、刀身が光を帯びた。

『行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
「はい!!」

剣を構え、クロノスは熱源に向けて突撃した。
そして、熱源に、剣が突き刺さった。
剣の力場が内部崩壊を引き起こし、今度こそ本当に、コアは融解し、膨張したのちに――――爆発した。

「急速離脱!」
『言われなくても!』

ロングソードを引き抜き、クロノスは左腕に向けて突進する。
後は爆発の勢いに乗り、崩壊するエルトネレス級の内壁から脱出した。




「申し訳ございません、もうバッテリーが......」
『オレもだよ.........』

宇宙空間を漂う俺達は、完全にエネルギーを使い果たしていた。
クロノスは被弾時にリークしたのが原因だが、俺は単純に活動限界だ。
クロノスが健在なら充電できるんだが.......ああ、眠い.....
そして俺は、意識を闇へと沈めたのだった。



















「酷い............」
「だが、興味深い、とてもだ」

回収された機体を見て、ジェシカとハーデンの二人はそれぞれ別の感想を口にした。
次に、二人の視線は格納庫の監視室内に移る。
そこには、シャットダウン状態で寝かされているクラヴィスが居た。

「命令違反、停止コマンドの無視、建造物破壊、撤退命令無視、そして明らかに不可能な任務の遂行.......一体どうなっているんでしょうか?」
「この娘には何かがある、これからの研究が楽しみだよ、そう思わないかな?」

そしてハーデンは、不穏な笑みを浮かべた。
ジェシカはその笑みに、危険なにおいを感じ取った。

「...........とにかく、このことは上に報告ですね」
「そうだね、珍しくいい報告が出来そうだよ」

二人は頷きあい、部屋を後にしたのだった。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...