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シーズン1-序章

017-艦内探索 後編

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研究区画を出た俺は、今度はメイン区画に赴くことにした。
最初に向かうのは機関部。
ゲスト権限で閲覧したところ、

メイン機関 レノックス重力粒子制御機関

という情報が出てきた。
機関室内に入ると、体内の冷却装置が稼働し始めた。
視界の端に、[温度上昇:安全域]という表示が出る。
俺は機械だから、当然冷却できない程熱い場所に長居はできない。
でも、ここなら安全だ。

「うん? お主は.......誰じゃ?」

その時、声が掛かる。
そちらを見ると、重力粒子機関の真下部分で作業していたのか、そこから顔を出す老人が居た。

「私はDN-264、Clavis。本艦で開発された情報処理・機体パイロット専用のロボットです」
「クラヴィス.....ああ、あの英雄かね!」
「英雄ではありません、私はただの機械で......」
「謙遜は要らんよ。事実わしは、お主が乗ったロボットがウスカ級を破壊するところを見たからのう」

そういえば名前を知らなかったと注視すると、

ハロルド・レーゲン機関長

という情報が出てきた。
機関長自らが機関の修理.......?

「失礼いたしました、レーゲン機関長」
「わしの情報を見たのか。最近のロボットはやたらと高機能じゃな」
「.......昔はどうだったんですか?」

俺は気になって、ふと尋ねた。
これほどの高齢の人間なら、「私」が開発される以前のロボットの形を知っているのではないかと思って。

「わしが最後に見たのは、反乱戦争の時のキラーロイド.....」
『機関長、その発言は禁止されています』
「ぬおっ!? 何じゃ何じゃ......驚いた、すまんが、お主にこの話はできんな」
「そうですか」

キラーロイド.......検索をかけても、与えられた情報には何もない。
恐らく殺戮兵器の類なんだろうが.....それに、”反乱”戦争というのも気になる。
この世界でロボットが反乱を起こした歴史はないはず。
少なくとも、そう教わった。

「........どうですか、機関の状態は」
「ちと悪いのう、ここの機関は重力粒子制御機関じゃが、最近はハロニム機関が主流じゃからな、ようは旧型というわけじゃ」

ハロニム機関はすぐに出てきた。
ハロニムと呼ばれる特殊な鉱物をコアとして、ハロニムライナー粒子という粒子を発生させ、これに化学的な作用を与えるものだそうだ。
クロノスに搭載されてる機関と違い、ハロニム鉱石さえあれば量産が可能で、現在使われている全ての戦闘艦に搭載されている。

「旧型艦であることと、機関の状態が悪いことの関係性について説明をいただけませんか?」
「重力粒子機関は、はんら........ある一時期にしか生産されなかったんじゃよ、わしらにとっては息子も同然な程身近な機関じゃが、今はもう50年前にちょいと使われていただけの機関なんじゃ.....効率も悪くての、機関の生み出すエネルギーの3割を冷却に使わにゃならんし、排熱も凄いんじゃよ」
「だからこんなにも室内が熱いのですね」
「そうじゃな。長居は禁物、休憩室に行こう」

艦長は歩きだす。
俺もそれに続くと、壁面のパネルに艦長が触れた。
直後にドアが開き、さっきから見えていた小窓の中の部屋に案内された。

「ここが休憩室じゃよ」
「狭いのですね」

ツインテールが邪魔で、最大まで降ろさないと入れない。

「ああ、こいつはあくまで”現役”時代の休憩室に過ぎん。気温が下がったのは分かるかの?」
「はい、室温が22℃程に保たれていますね」
「正解じゃ、現役時代はつきっきりで見守らにゃいけなかったのじゃが、機関室で寝泊りなんぞしたら焼け死んでしまう、それでこの休憩所じゃよ」
「今は違うのですか?」
「冷却装置が進歩したからのう、大分マシになったんじゃ」

あれで...?
ログを見てみると、40度程だった。
前は何℃だったんだろうか?



◇◆◇



「また来るんじゃよ、いつでも歓迎するからのう」
「はい」

私は機関部を後にした。
次はどこにしようかな.........

「この下はどうなっているんでしょうか?」

下階行きの階段を見つけた。
ここが最下層だと思っていたのだが、倉庫か何かだろうか?
俺はそこに向かって歩こうとして、セキュリティウォールに弾かれた。

「っ!?」
『そちらには入れません、ご了承ください』
「どうしてですか?」
『許可されていません。お問い合わせはワグナー様にどうぞ』
「.................」

あの男が立ち入り禁止にしたということは、ここにも何か秘密がある。
俺はそう思ったが、セキュリティウォールはエネルギーシールドと同じなので、殴打以外に攻撃手段のない俺では突破できない。
おとなしく別の場所に行くことにした。
それは、部品工場である。

『ここに来るとは思いませんでした』
「エイペクス」
『はい、ここは部品工場です。指定されたシフトに従い、目録通りのパーツを作成しているところです』

アクリル板.......に似た、樹脂製の仕切りの向こうでは、機械が作業を行っていた。
手作業......というのは違うかもしれないが、マニピュレータで部品を組み立てている所もあれば、ハンダ付けをしている所もある。
奥には溶接室と書かれた場所もあり、ここで色々しているのだと分かる。

「溶接室は現在は使っていないのですか?」
『はい、現在は樹脂製か、パーツ形成プリンタがありますので不要です』
「そうですか....」

とすると、ここで全ての作業を行っていたかつては、”反乱戦争”の最中に作られたこの艦が、最前線で戦っていたのだと予想できる。
補給の受けられない状況で、比較的大型のこの艦は旗艦を務めていたのだ。

『ここに来ても、何か興味の惹かれるような物はないと思いますが........』
「いえ、私の交換パーツはどのように作られるのか、確認したいと思いました」
『なるほど、理解しました。では、完成品をお見せしましょう』

エイペクスは俺を隣室に案内した。
そこそこ広いその部屋には、完成した部品が安置されていた。
恐らく、形が崩れないようここで一時的に保管するのだろう。
次の部屋には、棚がたくさん並んでいた。

「ここに部品があるのですか?」
『はい、そうです』

エイペクスは少し奥に進むと、棚を開けた。
中には、「私」の顔が詰まっていた。

「!」
『あなたの顔パーツの部品です。表情を作る機能が入っているので、伸縮性に優れた合成樹脂を使用したものになります』
「フォスター博士が独自で合成したというパーツですね」
『フォスター博士.........データベースにありませんが、どの方でしょうか?』
「え?」

エイペクスが突然そんなことを言った。

「どの方とは.....デビッド・フォスター博士です」
『(デビッドフォスターで検索..............廃棄フォルダに発見、復元...................解釈、再定義......)はい、そうですね、普段使わない領域にあったもので忘れていました。あなたの開発責任者でしたね』
「そうです」

エイペクスでも忘れることがあるんだと、俺は驚く。
まあ既に異動になったらしい博士のことは忘れても仕方ないか。

『その情報はありませんでした、こちらで編集しておきます』
「はい」

特に話すこともなく、そのまま話は終わった。
俺はエイペクスに別れを告げると、そのまま自室へと帰ったのだった。

「今日のことは覚えておかないと」

俺はそう考え、日記に纏めて動作系ファイルのフォルダ内に隠しておいた。
これからも日記、書こうかな..........






















数日後、歩いているクラヴィスをレーゲン機関長が呼び止めた。

「はい、何でしょうか?」
「久々じゃの、元気か?」

孫に挨拶でもするように機関長はクラヴィスに問う。
だが、帰ってきたのは予想外の返事と、不気味なほど”正しい”笑顔だった。



「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「なっ.......ああ、わしはレーゲン機関長じゃよ、これからも宜しく頼むぞ」
「はい、機関長」

その後、去って行くクラヴィスを機関長はただ呆然と見つめていた。
彼が何を思ったかは誰にもわからなかった。
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