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シーズン1-序章

020-作戦会議

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『先の作戦の独断専行は、目に余ります』
「.....申し訳ございません」
『確かに武装を装備させましたが、本来の目的は調査であり、敵の殲滅ではありませんでした』

俺は今、怒られている。
誰にかと言えば、エイペクスにである。
ジェシカ大尉が何か言いたそうにしていたけれど、本人が「私では感情的になり過ぎてしまいますから」と言ったためエイペクスが代わりに行うことになった。

『周辺の植民都市に住民が避難したことを確認しました、ただし.........都市の熱源を吸収するネルディエ級は依然脅威となります』
「はい」
『ですから、今回は謹慎などは行わず、明朝.........パルタⅣ時間で午前5:20に出撃してください』
「分かりました」
『それと...........』
「は、はい」

まだ何かあるのか。
そう思って身構えたが、帰ってきた言葉は意外なものだった。

『あなたの戦闘データは、我々人工知能にとっては稀に見るものでした。勿論、蛮勇にならなければの話ですが、あなたは我々の誇りです』
「.........ありがとうございます」

礼を言うと、エイペクスのモノアイから光が消える。
退出しても良い、そういう意味だ。
俺は立ち上がり、部屋を後にする。

「終わりましたか?」
「はい」

部屋を出ると、ジェシカ大尉に出待ちされていた。
制服が歪んでいるのを見る限り、ずっと壁に寄りかかって待っていたのだろう。

「何故、あのような行動に出たのですか?」
「あのような....とは、どういう意味でしょうか?」

俺は意味が分からず、立ち尽くす。
幾つかの予測が頭に浮かぶが、どれがジェシカの言う「あのような」行動なのかがわからない。

「何故、無謀な行動に出たのですか?」
「...........私は、兵器ですから。打撃を与えられる可能性があったので、最善の行動をしたまでです」
「逃げるという選択肢はあったはずですが?」

逃げるなんて、そんな選択肢は俺にはない。
目標を破壊するのが最善だと思ったからそうしたのだ。

「再びネルディエ級を捕捉するのに、追加のリソースと日程を消費してしまいます。ですから..........」
「.....あなたは、どうなっても良いと思っているのですか?」
「代わりなど幾らでも.........!?」

次の瞬間、俺は床に叩きつけられていた。
いや、組み伏せられたというべきか。
ジェシカが俺を押し倒して、床に縫い付けたのだ。

「な、何を.......するのですか?」
「あなたは自分の価値を理解していないようですね。あなたに情や責任を説いたところで無意味でしょうから........ええ、こうしましょう」

ジェシカは俺の眼を見る。
俺も、視線を合わせた。

「あなたは、シークトリアの国運を分かつ存在として、莫大なコストをかけて作られました。あなたを失うことは、国の損失です。同時に、シークトリアは敗北するでしょう」
「........................」

忘れていた。
自分にはカネが掛かっていることを。
無茶してロストすれば、その努力が水の泡になる。
……何が予定を守る、だ。
俺が破壊されたら、皆も死んでしまうじゃないか。

「............申し訳ございません、ジェシカ大尉....」
「........今回の戦闘データをもとに、あなたの戦闘鎧を新規製作しています、次は無茶をしないでください」
「.............はい」

その時、俺は何かを感じて、”新規製作”という言葉を拾い、検索した。
すると、この艦ではない実験艦に、兵器工場があることを知った。

「.............ジェシカ大尉」
「何でしょうか、クラヴィス?」
「....こんな装備を、制作してもらうことは可能でしょうか...?」

俺はクロノスの新装備について、ジェシカ大尉に相談するのだった...



◇◆◇



提案は、アッサリと通った。
一瞬意外に思ったが、知識を読み込むことでその疑問は氷解した。
この時代では、もはや兵器などボタン一つで誰にでも作れるモノでしかないのだ。
大きさの制限はあれど、3Dプリンターのようなもので即座に作れる。
「私」のボディが大量生産できるのも、これによるものなのだ。

『それにしても、何故このようなものを?』
「クロノスの武装でも、ネルディエ級に追い縋るのは簡単ではありませんから」

俺達の前には、一つの武装が完成した姿で安置されていた。
あまりに大きすぎる故に、クロノス内部に埋め込むのではなくライフルと同じく装備させる形となった。

「反動が大きいのが難点ですが、使いこなせればかなり便利なものとなると思います」
『あなたの設計には無駄が多すぎました、4時間の修正作業を完了し、この形となったのです』
「無理を言って申し訳ございません」
『なぜ謝罪するのですか? 作戦の遂行に必要なのであれば、支給するのが当たり前の事です』

エイペクスはそれだけ言うと、去って行く。
作戦開始まで後三時間、俺はクロノスに乗るために第二格納庫へと向かう。
作戦前に各武装のチェックを行いたいからだ。

「............あれ、クラヴィスさん?」
「ラウド様、何か御用ですか?」
「.......いや、こんな夜更けにどうしたんだろうかと思って」
「守秘義務がありますので、詳細はお話しできません」
「......戦いに行くんですか?」
「そうです」

俺は頷く。
ラウド中尉は何も知らない。
だから、何か言うかもしれないが......無視しなければ。

「.....頑張ってください」
「ありがとうございます」

返ってきたのは、簡単な返事だった。
でも、冷たい声色ではない。
私は頷いて、ラウド中尉の横を通り抜けた。
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