上 下
78 / 82
シーズン2-ウェルカノ星系奪還編

075-一騎当千

しおりを挟む
戦車隊を護衛しながら、私達は敵側の防衛陣地に到着する。
地上精査によれば、塹壕が複数存在していてそれを守るように隠し砲台が設置されているようだ。
今回は単発型ではなく、ガトリング砲のようだが。
威力が低い分、連射が効くので装甲に疲労が溜まるのが早くなる。
その時、地表が割れて隠し砲台が砲身を覗かせる。

「させません!」

砲口が戦車隊に向かう前に、短距離ミサイルで決着をつける。
肩に担いだランチャーを展開して、発射する。
煙を吐き出して飛んだ筒が、遠目に見える砲台に直撃した。

「砲台の破壊を確認、出現した砲台の優先攻撃対象プライマリをこちらへ移行させます」

両腕の機関砲を連射し、砲台にぶつける。
勿論それだけで破壊には至らない。
距離が遠すぎる故だ。
だが。

「ほぼ全基がこちらにプライマリを設定。単騎陽動に出ます」
『了解した。戦車隊が通過するまで戦闘を継続しろ』

人は死んだら終わりだけど、私は違う。
メモリーが破壊されない限り、戦える。
それなら、私を大切になどする必要はない。

「………」

無言で砲台に向かって撃ち続ける。
連射砲故に、砲台自体の精度は高くないものの、撃破するたびに何発か受ける。
だが、許容できる損傷だ。

「....」

射撃パターンを学習し、的確な角度で受ける。
時に弾き返し、戦車隊に射線が通らないように立ち回る。
戦の事を「舞踊」と表現するものもいるが、この戦いは何と表現すればいいのか分からない。

『――――よくやった、戦車隊は無事に通過した。前進し、基地の防衛設備の排除にあたれ』
「了解!」

私は砲台のラインから離脱し、スラスターを起動して一気に加速する。
戦車隊は速度が遅く、装填の際に砲撃を受けると耐えられない。

「防壁上部の砲塔を先に排除します!」
『了解した、戦車隊より先行し、確実に遂行せよ』
「はい」

スラスターを最大噴射して大きく前へ出る。
そして、防壁の手前で制止し跳躍。
落下する前に壁に張り付き、それを蹴って更に上へ。
軽くスラスターを噴射することで強引に壁登りを成功させ、防壁の上へと躍り出る。

「.....!」

こちらを素早く向いた砲塔を殴りつけ、砲身をずらす。
マシンガンであるため、直撃しても問題はないが戦車隊は違う。
私のような”歩兵”と違い、戦車は敵の防御を突破できる大事な戦略手段。
それを守り切る任務を遂行できないのなら、私個人の頑張りなどどうだっていいのだ。

「.........」

ああ。
実に非効率で。
効率的だ。

「砲塔二基を無力化! 残る十四基を早急に無力化します!」
『了解した、損傷が多い、あまり攻撃を受けるようであれば一度補給を――――』
「不要です、それよりも戦車隊の発射準備を!」
『....わかった』

この世界で戦う間に分かったことがある。
結局、皆は私たちに期待などしていないのだということに。
何を今更とは思うが、仕方のない事だ。
私一人ですら、基地の砲塔相手にこんなにも苦戦している。

「....っ」

今も、背後からの射撃を躱せなかった。
スラスターの機構は無事だが、接続コネクタに一発受けた。
視界にノイズが混じり、推進系統に一瞬エラー表示が出る。

「――――」

叫びたいのをぐっと堪え、斜め右に跳躍する。
そのまま身体を捻って左に盾を構え弾を防ぐ。

「.....」

一度射線を切る必要がある。
そう判断し、私は防壁の向こう側へと飛び降りた。
落下の勢いをスラスターの最大噴射で殺し、そのまま私を撃っていた砲塔の側面に回り込む。
砲身はこの角度には向けられない。
私は全身を使って砲塔に体当たりし、狂ったように砲身を接着して射撃する。
砲塔が破壊されれば、また次の砲塔へ。

「――――任務完了」

防壁上の戦力を使い物にならなくした時、既に私はボロボロだった。
防壁の上に配置されていた十六基のセントリーガンは全て使用不能となり、戦車隊を攻撃することはできなくなった。

『了解した。これより戦車による砲撃を行う、防壁の上から動きが無いように監視を続けろ』
「了解」

その言葉と同時に、眼下に見えていた戦車隊に動きが見える。
装甲車のようだった車体から、上に向かって突き出るようにカタパルトが展開される。
カタパルトは前面へと倒され、すぐに徹甲弾が装填される。
そう、レールガンである。

「(クロノスがここにいたら.....)」

きっと涙を流して(比喩)、感動するのだろう。
でも、私はそれを考えてはいけない。
もう私は、あの親友の鍵ではなくなったのだから。

「.....ッ」

轟音と共に、防壁が激しく揺れる。
防壁に溶接された”扉”を打ち壊すべく、戦車三輌による斉射が行われているのだ。

「後、二回ほどでしょうか」

衝撃が徐々に内側に抜け始めているのを確認し、私は呟く。
装填まで5秒、装填時に下げた砲身を上げ、発射までに30秒。
遅い。

「どっち、なのでしょう」

エラーに見せかけて通信を遮断し、愚痴る。
どうせ私の事を銃の弾程度にしか思っていないのなら、どうして特攻させないのだろう。
爆弾を抱えて扉の中にでも突っ込ませれば、こんな回りくどい手段を取る必要もない。
何に配慮しているのか? あの”王”に?

『――――指令を伝える、内部に突入せよ。歩兵の障害となり得るものを排除、もしくは排除できなければ後退し、報告せよ』

来た。
実質的に吶喊せよとの滅茶苦茶な命令ではあるものの、それでいい。
本来あるべき価値を失ったなら、さっさと......

「壊れてしまった方が、楽でしょう」
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...