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シーズン8-オルトス王国侵攻編
186-超常なる力
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それから数日が経過した。
アインスとツヴァイは交代でシフトを組んで指揮に徹し、フィーアはシフトを組まずに戦い続けていた。
時間を選ばずに奇襲を続けるNoa-Tun連邦に、前線を維持しなければならない王国軍は疲れ切っていた。
だが、最も疲弊しているのはアドアステラである。
何故か?
『アドアステラが補給に入りました』
「ピンガーアップ! ミアプラキドゥス艦隊ジャンプイン、包囲陣系で攻撃開始!」
アドアステラが整備・補給に入るタイミングで奇襲を仕掛け、出撃に時間が掛かる状況で末端の艦船を撃破。
それと同時に補給を中断して出撃してきたアドアステラを前に退散する。
その繰り返しであった。
『これでいいのですか? シン様』
「言っただろ? SSCにおいて、一つの強力な”個”は意味がないと」
シンは記憶を思い出すように遠い目をした。
かつてSSCには、課金と経年の経験を以てのし上がった男がいた。
しかし、彼が作り上げたプレイヤーユニオンは、最終的に守り抜く事も出来ず崩壊した。
寝る時間、食う時間、休む時間。
強力な個だとしても、それらを欠かさずに戦い続ける事など出来ないのだ。
「それに、ここでアドアステラを足止めするのは別の目的あっての事。――――コバルト、奴らにとどめを刺せ」
『了解!』
そしてついに、戦局は最終段階に入った。
アドアステラはまともに動けないと踏んだアインスは全軍突入の指示を出し、フィーアはオルタネーター、ドラゴンスレイヤー、マリス・インパルス、ミアプラキドゥス、そして対旗艦用の襲撃型戦艦スレイプニル艦隊を率いてジャンプした。
『アドアステラの出撃を確認』
「ハハハハァ! その疲れ切った船で何が出来る! 参るぞ!」
直後。
ブロードベッツの上部、艦橋と一体化していた部分が飛び出し、そのまま戦闘機のような形状へと変形してアドアステラに接近する。
ブロードベッツは、飛び出した戦闘機...ダァトの背を撃つように動く。
アドアステラの集中砲火を回避し、ダァトはアドアステラに向けて電子戦装備を最大稼働させる。
ECM・センサージャマー・トラッキングジャマー...その他諸々の電子戦装備がアドアステラに降りかかる。
アドアステラが即座にそれらに対して対策装備を起動する前に、スレイプニルの強力な砲撃がアドアステラのシールドに直撃し、そのシールドを撓ませた。
次の一撃で、シールドが完全に崩壊する。
『今です、アドアステラに集中砲火を!』
「あァ、だけど...いいのですかねェ? シン様の大事な方では...」
『構いません、それが命令です』
包囲陣形から密集陣形に変化しながら、艦隊の砲は一斉にアドアステラに攻撃を仕掛ける。
P.O.Dと同じ光を纏ったブロードベッツの強化砲がアドアステラの装甲を貫く。
「くひひ、勝ちましたね」
離脱していくダァトの中で、フィーアは嘲笑する。
たかが一隻の船など、こうして囲んで叩けば終わる。
数百数千の砲撃がアドアステラへと殺到し――――
『――――――――――――!!!』
それは、悲鳴か。
慟哭か。
音を伝わらない真空の中で、それは響き渡った。
波動のように広がる何かの力が、向かってきていたレーザーを全て打ち消し、砲弾の動きを止め、ミサイルを静止させ、それ以外を悉く無力化した。
範囲内にいたダァトも、その「共振」に巻き込まれた。
「があああっ!? 何です、かあっ!?」
直後。
アドアステラの装甲が先端部から純白に染まっていく。
再び元の色に戻った時、その装甲は完全に修復していた。
先端部が開き、砲身が顔を出す。
『! 全艦隊、散開せよ!』
事態に気づいたアインスが叫ぶが、もはや遅い。
アドアステラの先端部から放たれた砲弾が艦隊のど真ん中に飛び――――
太陽のような光球が生まれた。
そこにいた艦船は悉く破壊され、余波で艦列が乱れる。
「――――面白い」
その光景を見ていた人間が一人。
口端を歪め、呟く。
『どうされますか? 司令官』
「やるじゃないか流歌、超常の力を身に着けるとは.....全艦隊、手を引け」
シンの指令が下り、Noa-Tun艦隊は一斉に尻尾を巻いて...という表現が似合う速度で逃走を始める。
「ダメだ! 逃げるな、まだ勝てるでしょう!! 何故、何故!」
『うるさーい! 通信切っちゃうよ!?』
「しっ、しかし....!」
ラムブレードに牽引され、機能停止したダァトも戦域から離脱していく。
それを、アドアステラは追撃するでもなく見守っていた。
「........まさか、お前の言う通りに事が起こるとは思っていなかった.....」
シンは呟く。
そして、同じ部屋に座る「もう一人」に目を向けた。
「アルテア、俺にもあるんだな、その力は?」
シンの右目に呼応するように、その人物もつぶやく。
その言葉はオーロラにも聞こえず、傍に控えるドライにも聞こえない。
それは音ではなく、魂の共振によってのみ聞こえる物なのだ。
「素晴らしい........早速、実験だ」
シンは立ち上がる。
その右目には、複雑な印章が浮かんでいた。
アインスとツヴァイは交代でシフトを組んで指揮に徹し、フィーアはシフトを組まずに戦い続けていた。
時間を選ばずに奇襲を続けるNoa-Tun連邦に、前線を維持しなければならない王国軍は疲れ切っていた。
だが、最も疲弊しているのはアドアステラである。
何故か?
『アドアステラが補給に入りました』
「ピンガーアップ! ミアプラキドゥス艦隊ジャンプイン、包囲陣系で攻撃開始!」
アドアステラが整備・補給に入るタイミングで奇襲を仕掛け、出撃に時間が掛かる状況で末端の艦船を撃破。
それと同時に補給を中断して出撃してきたアドアステラを前に退散する。
その繰り返しであった。
『これでいいのですか? シン様』
「言っただろ? SSCにおいて、一つの強力な”個”は意味がないと」
シンは記憶を思い出すように遠い目をした。
かつてSSCには、課金と経年の経験を以てのし上がった男がいた。
しかし、彼が作り上げたプレイヤーユニオンは、最終的に守り抜く事も出来ず崩壊した。
寝る時間、食う時間、休む時間。
強力な個だとしても、それらを欠かさずに戦い続ける事など出来ないのだ。
「それに、ここでアドアステラを足止めするのは別の目的あっての事。――――コバルト、奴らにとどめを刺せ」
『了解!』
そしてついに、戦局は最終段階に入った。
アドアステラはまともに動けないと踏んだアインスは全軍突入の指示を出し、フィーアはオルタネーター、ドラゴンスレイヤー、マリス・インパルス、ミアプラキドゥス、そして対旗艦用の襲撃型戦艦スレイプニル艦隊を率いてジャンプした。
『アドアステラの出撃を確認』
「ハハハハァ! その疲れ切った船で何が出来る! 参るぞ!」
直後。
ブロードベッツの上部、艦橋と一体化していた部分が飛び出し、そのまま戦闘機のような形状へと変形してアドアステラに接近する。
ブロードベッツは、飛び出した戦闘機...ダァトの背を撃つように動く。
アドアステラの集中砲火を回避し、ダァトはアドアステラに向けて電子戦装備を最大稼働させる。
ECM・センサージャマー・トラッキングジャマー...その他諸々の電子戦装備がアドアステラに降りかかる。
アドアステラが即座にそれらに対して対策装備を起動する前に、スレイプニルの強力な砲撃がアドアステラのシールドに直撃し、そのシールドを撓ませた。
次の一撃で、シールドが完全に崩壊する。
『今です、アドアステラに集中砲火を!』
「あァ、だけど...いいのですかねェ? シン様の大事な方では...」
『構いません、それが命令です』
包囲陣形から密集陣形に変化しながら、艦隊の砲は一斉にアドアステラに攻撃を仕掛ける。
P.O.Dと同じ光を纏ったブロードベッツの強化砲がアドアステラの装甲を貫く。
「くひひ、勝ちましたね」
離脱していくダァトの中で、フィーアは嘲笑する。
たかが一隻の船など、こうして囲んで叩けば終わる。
数百数千の砲撃がアドアステラへと殺到し――――
『――――――――――――!!!』
それは、悲鳴か。
慟哭か。
音を伝わらない真空の中で、それは響き渡った。
波動のように広がる何かの力が、向かってきていたレーザーを全て打ち消し、砲弾の動きを止め、ミサイルを静止させ、それ以外を悉く無力化した。
範囲内にいたダァトも、その「共振」に巻き込まれた。
「があああっ!? 何です、かあっ!?」
直後。
アドアステラの装甲が先端部から純白に染まっていく。
再び元の色に戻った時、その装甲は完全に修復していた。
先端部が開き、砲身が顔を出す。
『! 全艦隊、散開せよ!』
事態に気づいたアインスが叫ぶが、もはや遅い。
アドアステラの先端部から放たれた砲弾が艦隊のど真ん中に飛び――――
太陽のような光球が生まれた。
そこにいた艦船は悉く破壊され、余波で艦列が乱れる。
「――――面白い」
その光景を見ていた人間が一人。
口端を歪め、呟く。
『どうされますか? 司令官』
「やるじゃないか流歌、超常の力を身に着けるとは.....全艦隊、手を引け」
シンの指令が下り、Noa-Tun艦隊は一斉に尻尾を巻いて...という表現が似合う速度で逃走を始める。
「ダメだ! 逃げるな、まだ勝てるでしょう!! 何故、何故!」
『うるさーい! 通信切っちゃうよ!?』
「しっ、しかし....!」
ラムブレードに牽引され、機能停止したダァトも戦域から離脱していく。
それを、アドアステラは追撃するでもなく見守っていた。
「........まさか、お前の言う通りに事が起こるとは思っていなかった.....」
シンは呟く。
そして、同じ部屋に座る「もう一人」に目を向けた。
「アルテア、俺にもあるんだな、その力は?」
シンの右目に呼応するように、その人物もつぶやく。
その言葉はオーロラにも聞こえず、傍に控えるドライにも聞こえない。
それは音ではなく、魂の共振によってのみ聞こえる物なのだ。
「素晴らしい........早速、実験だ」
シンは立ち上がる。
その右目には、複雑な印章が浮かんでいた。
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