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第三章:滅ぼす者と、領域者との出会い
072:ルーツ
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(まさか……その滅ぼした奴ってのがあの化け物か?)
「そうじゃ、だからお前はここに来た。ここの空間は、わしがお前の心の領域に特別にこさえた物での。万が一あの化け物に遭うた時に、精神がやられんように細工をしとったんじゃよ。あやつは精神から蝕んでくるからのう」
(オイオイ、人の心に何してくれてんだよ!? まぁお陰で助かったけどな。なあ、御爺様。何で俺だけに剣術を仕込んだんだ? 親父もアニキも誰も教えてもらってないのに)
昔同じことを聞いた流だったが、祖父は教えてくれなかった。だが今なら聞けると思った流はもう一度問う。
「ふむ、一言で言えば才能……かの」
(また曖昧な~)
「いやいや、これは本心からじゃよ。おんしは異超門の向こう側を見たのだろう? わしは……いや、最後の鍵鈴の者以外で、歴代の古廻の者は誰一人として潜った者はおらなんだ」
(そうなのか? とても簡単に開いたぞ?)
「ワハハハ! それこそが才能と言うやつよ。〆の奴がいかようにしても開いた者は誰もいない、それは何故か分かるか?」
流は黙って首を左右に振る。
「まず、あの骨董屋を見つける事が出来ると言うのが最初の難関だ。次に異超門を開ける鍵、つまり鍵鈴に『選ばれる』事じゃな。最後はまぁ、わしら古廻の血だ。特に最初の難関である、異怪骨董やさんを見つける条件として『骨董品が好きかどうか』と言うのがある。歴代の古廻の者は、これらをクリアしてもだめじゃったがな」
流は思い出してみる、自分が骨董を好きになった原因を。そしてそれに拍車をかける祖父達「六郎爺さんや他の骨董仲間」が流をその世界に誘った事を。
(ちょっと待てクソジジイ! やっぱりあんたのせいじゃないか! くそ~ 骨董好きにならなければこんな命の危機もなかったってのか? ……いや、骨董は素晴らしい! ジジイにはムカツクが、ここは素直に感謝しとこ――アイダッ)
「馬鹿者め! 心の声はここでは、駄々洩れだと何故気が付かない。ほんに愚かよ」
拳骨を頭に直撃されながら言われてみれば、ここでの会話は全て心の声だったと今更ながらに気が付く。
(く!? 何て卑怯な手を!)
「馬鹿め! 早々に気が付かぬ、おんしが悪いわ」
祖父はヤレヤレとばかりに溜息をつく。
「さて、それでじゃ。わしら古廻の者、つまりは鍵鈴家は悪妖を狩る家として、『妖滅三家』のうちの一つだったんじゃよ」
(おい、うちの家系は昔からファンタジーだったのよ……)
「ファンタジー? 馬鹿者め、お伽噺でも創作でもないわ。まぁその先祖達はな、とある神の処遇で二家とは袂を分かった。だが、まだ袂を分かつ前に一つの退魔の依頼があってな……」
そう言うと祖父はため息交じりに語りだす。
「それがあの化け物を討滅すると言うものじゃった。化け物の奴は元は人形に憑いた付喪神だったのじゃが、原因は分からぬが人間に悪さをし始めたらしい。その化け物に三家が手を出したのが、不運の始まりよ」
その話は以前〆が言っていた気がすると、流は祖父に問う。
(討滅って言うと魂から滅却するって言うのだろ? 討伐より上ってやつの……なぁ、御爺様。それって〆から聞いてたのと似てるけど、同じ奴か?)
「そうじゃ、そしてその人形は袂を分かった二つの家の者と、我らの先祖を尽く皆殺しにしたのじゃが、袂を分った事で我らは流浪の民となった。そこで運よく逃れたのが、わしら少数残った古廻の者と言う訳じゃ」
(そうだったのか……でも何で苗字を変えたんだ?)
祖父はそれも説明せねばな、と独り言つ。
「あの人形は、我らの一族を心底怖れていたらしい。そこで各地に草を放ち、鍵鈴と言う名前を聞けば、人形を始めとした総動員で潰しにかかったと言う。そこで流浪にまで落ちた我が先祖は、無念のうちに名を捨てたんじゃよ」
祖父はその事に思いを馳せたのか、悔しさを滲ませた顔で空を見上げる。
「だがご先祖様達は逃げた訳じゃない、何時か人形を破壊するために『古来より存在する力ある道具』を探す旅に出たのじゃ。古き物を探し、各地を廻る……それを家名としたのが――」
(古廻家って事か……)
「うむ、そしてその道具を集めたのが、異怪骨董やさんと言う訳じゃ」
流は日本にいた頃から、自分に備わっていた異常とも言える直観力や、危機察知能力が、血から来ているものと確信する。
(だから俺は気配察知や観察眼なんかがある訳か……)
「おんし、そんな能力があったのか? ふむ、納得は出来る。修業時代より異様に感が良かったり、地霊を察知し払う事もあったしな」
(いや、俺も異世界に行って、ゴブリンって魔物を倒してから分かったんだよ)
そう言うと祖父はニヤリと笑う。
((カッカッカ! そうかそうか、あれは役に立ったか))
(ん? 御爺様、今何か考えてただろう? なぜ伝わらないんだ)
「馬鹿者め、おんしなら筒抜けだろうが、わしクラスになれば容易い事よ」
流はチッと吐き捨てて、その後を促す。
「おっと、すまんすまん。どうも脇道にそれていかんな。と、まあここまでが、おんしが襲われた原因じゃな」
一呼吸おいて祖父は今後の予想を重々しく話し出した。
「そうじゃ、だからお前はここに来た。ここの空間は、わしがお前の心の領域に特別にこさえた物での。万が一あの化け物に遭うた時に、精神がやられんように細工をしとったんじゃよ。あやつは精神から蝕んでくるからのう」
(オイオイ、人の心に何してくれてんだよ!? まぁお陰で助かったけどな。なあ、御爺様。何で俺だけに剣術を仕込んだんだ? 親父もアニキも誰も教えてもらってないのに)
昔同じことを聞いた流だったが、祖父は教えてくれなかった。だが今なら聞けると思った流はもう一度問う。
「ふむ、一言で言えば才能……かの」
(また曖昧な~)
「いやいや、これは本心からじゃよ。おんしは異超門の向こう側を見たのだろう? わしは……いや、最後の鍵鈴の者以外で、歴代の古廻の者は誰一人として潜った者はおらなんだ」
(そうなのか? とても簡単に開いたぞ?)
「ワハハハ! それこそが才能と言うやつよ。〆の奴がいかようにしても開いた者は誰もいない、それは何故か分かるか?」
流は黙って首を左右に振る。
「まず、あの骨董屋を見つける事が出来ると言うのが最初の難関だ。次に異超門を開ける鍵、つまり鍵鈴に『選ばれる』事じゃな。最後はまぁ、わしら古廻の血だ。特に最初の難関である、異怪骨董やさんを見つける条件として『骨董品が好きかどうか』と言うのがある。歴代の古廻の者は、これらをクリアしてもだめじゃったがな」
流は思い出してみる、自分が骨董を好きになった原因を。そしてそれに拍車をかける祖父達「六郎爺さんや他の骨董仲間」が流をその世界に誘った事を。
(ちょっと待てクソジジイ! やっぱりあんたのせいじゃないか! くそ~ 骨董好きにならなければこんな命の危機もなかったってのか? ……いや、骨董は素晴らしい! ジジイにはムカツクが、ここは素直に感謝しとこ――アイダッ)
「馬鹿者め! 心の声はここでは、駄々洩れだと何故気が付かない。ほんに愚かよ」
拳骨を頭に直撃されながら言われてみれば、ここでの会話は全て心の声だったと今更ながらに気が付く。
(く!? 何て卑怯な手を!)
「馬鹿め! 早々に気が付かぬ、おんしが悪いわ」
祖父はヤレヤレとばかりに溜息をつく。
「さて、それでじゃ。わしら古廻の者、つまりは鍵鈴家は悪妖を狩る家として、『妖滅三家』のうちの一つだったんじゃよ」
(おい、うちの家系は昔からファンタジーだったのよ……)
「ファンタジー? 馬鹿者め、お伽噺でも創作でもないわ。まぁその先祖達はな、とある神の処遇で二家とは袂を分かった。だが、まだ袂を分かつ前に一つの退魔の依頼があってな……」
そう言うと祖父はため息交じりに語りだす。
「それがあの化け物を討滅すると言うものじゃった。化け物の奴は元は人形に憑いた付喪神だったのじゃが、原因は分からぬが人間に悪さをし始めたらしい。その化け物に三家が手を出したのが、不運の始まりよ」
その話は以前〆が言っていた気がすると、流は祖父に問う。
(討滅って言うと魂から滅却するって言うのだろ? 討伐より上ってやつの……なぁ、御爺様。それって〆から聞いてたのと似てるけど、同じ奴か?)
「そうじゃ、そしてその人形は袂を分かった二つの家の者と、我らの先祖を尽く皆殺しにしたのじゃが、袂を分った事で我らは流浪の民となった。そこで運よく逃れたのが、わしら少数残った古廻の者と言う訳じゃ」
(そうだったのか……でも何で苗字を変えたんだ?)
祖父はそれも説明せねばな、と独り言つ。
「あの人形は、我らの一族を心底怖れていたらしい。そこで各地に草を放ち、鍵鈴と言う名前を聞けば、人形を始めとした総動員で潰しにかかったと言う。そこで流浪にまで落ちた我が先祖は、無念のうちに名を捨てたんじゃよ」
祖父はその事に思いを馳せたのか、悔しさを滲ませた顔で空を見上げる。
「だがご先祖様達は逃げた訳じゃない、何時か人形を破壊するために『古来より存在する力ある道具』を探す旅に出たのじゃ。古き物を探し、各地を廻る……それを家名としたのが――」
(古廻家って事か……)
「うむ、そしてその道具を集めたのが、異怪骨董やさんと言う訳じゃ」
流は日本にいた頃から、自分に備わっていた異常とも言える直観力や、危機察知能力が、血から来ているものと確信する。
(だから俺は気配察知や観察眼なんかがある訳か……)
「おんし、そんな能力があったのか? ふむ、納得は出来る。修業時代より異様に感が良かったり、地霊を察知し払う事もあったしな」
(いや、俺も異世界に行って、ゴブリンって魔物を倒してから分かったんだよ)
そう言うと祖父はニヤリと笑う。
((カッカッカ! そうかそうか、あれは役に立ったか))
(ん? 御爺様、今何か考えてただろう? なぜ伝わらないんだ)
「馬鹿者め、おんしなら筒抜けだろうが、わしクラスになれば容易い事よ」
流はチッと吐き捨てて、その後を促す。
「おっと、すまんすまん。どうも脇道にそれていかんな。と、まあここまでが、おんしが襲われた原因じゃな」
一呼吸おいて祖父は今後の予想を重々しく話し出した。
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