日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第五章:殺盗団を壊滅せよ

125:〆の心遣い

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 異怪骨董やさんへ戻ると、いつもの事だが一瞬視界がホワイトアウトする。
 そんな一瞬の隙を突くように、何者かが流にアタックを仕掛けて来た!

「むぐぁ!? な、何だ!!」

 まだ視界がぼんやりとしているが、嗅覚は正常だった。
 その嗅覚が捕えた香は、とても良い香りがしている。
 それは薬草のような香りだが、香料が柑橘系のハーブとクチナシの花を混ぜたような香りに、若い娘特融のフレッシュな色香がミックスした、とても不思議な香りだった。

「お客人!! 無事で良かったのです!! 一人で何十人も相手にしたと聞いて、とても心配したのです」
「むぁ!? 因幡なのか?」
「そうなのです、ボクは因幡なのですよ?」

 そう因幡が言う頃には徐々に視界が元に戻って来る。

「おおぅ、まさかの人型に変化してたのか。どうりで良い香りがすると思ったわ」
「え!? な、何を言っているのです!? もぅ、お客人ったら変な事言わないでほしいのです……」
「おいおい、うさちゃん。お顔が真っ赤だぞ?」
「でも、モフモフだから分からないのです」
「でも、今はモフモフじゃないぞ?」
「あ!? 恥ずかしいのです……」

 どうやら因幡は何時もの調子で、流に抱き着いたと思っていたらしい。

「はっはっは。あ~やっぱり因幡はいいな。うん、モフモフじゃないけど癒された」
「ほへ? よく分からないけど、お客人が喜んでくれて良かったのです?」
「ありがとうな。向こうの世界でも、こっちでも因幡は俺の命を救ってくれる、ありがたい神様だよ」
「えええ!? い、いきなりそんな事を言われると照れるのですよ……」

 因幡はうさ耳を前に「ぺたり」と倒すと、そのまま目を隠してしまう。

「さて、うさちゃん。風呂に行こうかね。お兄さんはちょっと疲れたんだよ」
「はいなのです。じゃあ回廊を開くので、少し待っていて欲しいのです」

 そんな因幡の後ろ姿を見ると、いつもながら不思議な体だと思ってしまう。
 そして何気なく、モフっとしている尻尾に目が行くと、流はおもむろに尻尾を握ってみる。

「ひゃああん!? な、何をするのですかお客人!」

 見ると因幡の桜色の瞳は潤み、顔は綺麗なピンク色に上気している。

「あ、いや。すまん、つい、な?」
「もう……そう言う事は誰もいない所でしてくださいなのです」
「? 誰もいないだろう?」
「いるですよ~ほらぁ~」

 誰かいるのかと思った瞬間、店内にひびく怨嗟の声がする。

『ハッハッハ、我の前で乳繰り合うとはな』
『然り然り』
『なにヨ! 私に対する当てつけなのかしら!?』
『み、みんなそう言うのは良くないよ?』
『次の許可は安くは無いぞ……』

 店内にいる付喪神の事をすっかりと忘れていた流は、少し恥ずかしく思う。
 そしてそこから逃げるようにして、因幡の手を引き回廊へと去って行く。

「いや忘れていたわ。あいつら大抵静かだらなぁ」
「なのです。たまに『五老』が大騒ぎし、釣られて周りも騒ぎ出す位なので、忘れやすいのです」
「それな」
「なのです」

 二人は見つめ合うと、思わず吹き出す。

「ははは、笑った。あ、そうだ。因幡さ、あの涙から作った回復薬だけど、まだあるのか?」
「ごめんなのです。残念ながらあれで全部なのですよ……」
「そうなのかぁ。作るのが大変なのか?」
「なのです。先日材料を教えた時は、味付けの部分をメインに言ってみたのですが、その他にも材料は複数あるのです。特に面倒なのは、富士の樹海にたまに生える日輪嶽と言う茸と、月齢とボクの体調が全て最高の状態で、やっと一本作れるのです」
「なるほどねぇ。あれだけの効果ならそれも納得だな」

 流はこれまで因幡が調合してくれた、神薬とも言える効能を思い出す。

「あ、でも今ならば、あれほどの効果は無いにしても、それなりの回復薬なら作れるのです」
「そうなの?」
「なのです。お客人の事が大好きな気持ちが限界突破したのと、また人に変化出来るようになった事で、作れる物が増えたのです」
「そ、そうか。それはその……ありがとう」
「え? あぅ……ボクはなんて事を言っているのです……」

 見つめ合う二人は廊下で固まっていた。
 すると一陣の風が庭から吹いて来ると、そこには一羽の鶴の折紙が飛んで来た。

「〆:あらあら。中々浴場においでにならないので、迎えに来てみれば……まぁまぁ……」

 〆はそう言うと、二人の頭の上をクルクルと旋回する。
 次の瞬間、ふわっとした光が一瞬瞬くと、〆は人型に変化する。

「もう! 私もまぜてくださいな♪」
「ちょ!? 抱き着くな」
「あ~! それならボクも~」
「因幡まで!? お、重い……」
「古廻様、それは失礼ですよ?」
「そうなのです、ボクは重く無いのです」
「あ、ハイ……」

 二人の凍るような視線に思わず素に戻る流。
 そんな流を見て、美琴は溜息を吐くように揺れるのだった。

「さて、そろそろ浴場へと向かいましょう? たぬ爺も古廻様の来るのを楽しみにしていますよ?」
「そうなのか、じゃあ行くかね」
「では参りましょう」

 〆と因幡を伴い、流は四阿温泉郷へと向かう。
 長い廊下には行灯あんどん等間隔とうかんかくに置かれ、見るだけでも安らぎを与えてくれる。
 右手の庭には紅葉が見頃を迎えており、電気の照明器具では不可能と思える、不思議な色彩の間接照明が庭を照らしている。

 そんな何時もよりも、心が安らぐような空間の演出をする〆の心遣いに、流は思わず感じ入る。

「…………」
「どうかなさいましたか、古廻様?」
「……いや、何でもないよ」

 やがて歩くだけで癒される廊下を抜けると、四阿温泉郷へ到着するのだった。
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