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第五章:殺盗団を壊滅せよ
127:暗黒面へようこそ~抱擁はお好きですか?
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「これは凄いな。味が無いのに、濃密で重厚な深みのある喉越しで体が癒される」
「じゃろう? それは精神力を回復させる効果がある水じゃ。今の小僧にはぴったりじゃろうて」
「ああ、確かにな……ありがとう、本当に助かるよ」
「うむうむ、気に入ったようで何よりじゃ。ではゆっくりと浸かって心と体を癒すがよい」
たぬ爺はそう言うと、湯煙の奥へと消えていく。
「はぁ~美味い……癒される……」
体の芯から癒されていると感じるが、やはり岩山での戦闘を思い出す。
祖父から明かされた真実と、今思えばそれに備えるための修行の日々。
そしてその結果、人を手にかけてしまった現実をじっくりと考える。
「覚悟、していたはずだったんだがな……落ち着いてみると……アレだな……はは……ジジイの言う通りまだまだ未熟ってところか」
流は大きく息を吸うと、そのまま背後へ倒れるように湯へと体を投げ出す。
しかし、何故か「ふよん」とした感触が、背中越しに伝わって来る。
それはとても大きい極上のクッションのような感触で、流は思わず「へ?」とマヌケな声を出してしまう。
「な、なんだあ!?」
「うふふ。古廻様……本日はお疲れ様でした。今だけはごゆっくりと、お休みくださいまし」
「〆か! 驚いたぞ」
「申し訳ございません。古廻様がお辛そうだったので、つい……」
そう言うと〆は流を後ろから抱きしめる。
「うわ、お前」
「今だけはこのままで……」
ふわりと優しく抱きしめられていると、心の暗く淀んだ塊が一つ、また一つと解けていく。
そんな感覚のせいか、流は思わず昔の事を語りだす。
「…………俺はこの世界に来るべくして来たんだと、今なら良く分かる」
「はい……」
「知っているかも知れないが、俺は幼少からジジイに死ぬような……いや、今思えば実際死んでもおかしくない修行をさせられた」
〆は無言で、流の体を抱く力が少し強くなる。
「あの頃はそれが異常だと思わなかったし、親も学校も何故かそれを黙認していたんだよ。しかも修行で抜けた授業を、後で特別授業をしてまでな。あらためて今思うと、やはり狂った非常識な日常だったが、それもこれも全部この世界で生き抜くためだったんだと思えるようになった」
「古廻様……」
心配そうに流を抱きしめる〆は、その後に流が話す事を待つ。
「今、俺の中に二つの感情が渦巻いている……いや、渦巻いていたと言うのが正しいな」
流はそっと〆の腕を優しく撫でる。
「覚悟はしていたつもりだったが、殺盗団との死闘で、俺は二度と平穏な世界で生きる事は出来ないと確信した。だが……やはり凶賊でも人を殺めたと思うと、異世界だろうが思うところはある。だが躊躇すれば、俺が殺られる世界なのもまた事実。そんな軽い現実と、理想の狭間が、心に気が付かないうちに食い込んでいた事に、今さらながら気が付いてな……」
檜の升を片手に持ち、ぼんやり光る名水ブレンドを見つめる。
「だけど〆を始めとした兄弟達や、因幡。たぬ爺や骨董達も俺を見守ってくれていると思うと、こんな事で落ち込んでいられないって思ってな。それに先祖の無念をリベンジしてやりたいし、何よりこのままじゃ俺も死んじまうかもしれない。大体超えられない『理』を無視してまで渡った人形なら、何時かまた日本へ戻って来て、古廻を根絶やしにするかもしれないしな」
そう言うと流は自虐的で乾いた笑をする。
「根絶やし、ですか。その可能性も憚り者が動いたとなると、かなり現実的でしょうか……あれから長い時が経ちました。人形が負った傷もだいぶ癒えたかもしれませんからね」
(……? 憚り者と人形は違う存在?)
疑問に思ったが、〆が話を続けるのでそのまま聞き入る。
「以前……話したかもしれませんね。私達は古廻様が此方へ呼ばれたのは偶然とも、必然ともどちらでも良かったのです。ただ『私達の元へおいでになった』と言う事。それだけで魂が焦げ付くような熱い思いで、本当に心から嬉しく思っています。そして折角おいでになったのですから、異世界を楽しんでいただけたらと安易に考えておりました」
そして消え入りそうな声で続ける。
「広大な世界。何処かに未だ『憚り者』が存在しているかもしれないとは思っていましたが、こんなに早く邂逅するとは思ってもみませんでした。そしてまさか、この異怪骨董やさんの中で、あの憚り者に襲撃される等とは……。全ては私の判断ミスでございます。本当にも――」
そんな〆へ流は被せるように、煽り口調で言いながら、〆を背後に置き湯舟から立ち上がる。
「おんやあ~? 盗賊を地獄送りにした娘のセリフとは思えませんなぁ~。もっと鬼の番頭さんは、こ~んなツノを生やして無いとだめだろう?」
そして前を向いたままで、頭の両端に握り拳を作り、人差し指を立ててツノを模した形にする。
それに釣られて〆も立ち上がり、流の背に向けて抗議する。
「え!? こ、古廻様それは酷いで――」
瞬間、〆ともあろう者が何が起きたか分からなかった。
気が付くと流は振り向き、〆を正面から抱きしめていた。
「じゃろう? それは精神力を回復させる効果がある水じゃ。今の小僧にはぴったりじゃろうて」
「ああ、確かにな……ありがとう、本当に助かるよ」
「うむうむ、気に入ったようで何よりじゃ。ではゆっくりと浸かって心と体を癒すがよい」
たぬ爺はそう言うと、湯煙の奥へと消えていく。
「はぁ~美味い……癒される……」
体の芯から癒されていると感じるが、やはり岩山での戦闘を思い出す。
祖父から明かされた真実と、今思えばそれに備えるための修行の日々。
そしてその結果、人を手にかけてしまった現実をじっくりと考える。
「覚悟、していたはずだったんだがな……落ち着いてみると……アレだな……はは……ジジイの言う通りまだまだ未熟ってところか」
流は大きく息を吸うと、そのまま背後へ倒れるように湯へと体を投げ出す。
しかし、何故か「ふよん」とした感触が、背中越しに伝わって来る。
それはとても大きい極上のクッションのような感触で、流は思わず「へ?」とマヌケな声を出してしまう。
「な、なんだあ!?」
「うふふ。古廻様……本日はお疲れ様でした。今だけはごゆっくりと、お休みくださいまし」
「〆か! 驚いたぞ」
「申し訳ございません。古廻様がお辛そうだったので、つい……」
そう言うと〆は流を後ろから抱きしめる。
「うわ、お前」
「今だけはこのままで……」
ふわりと優しく抱きしめられていると、心の暗く淀んだ塊が一つ、また一つと解けていく。
そんな感覚のせいか、流は思わず昔の事を語りだす。
「…………俺はこの世界に来るべくして来たんだと、今なら良く分かる」
「はい……」
「知っているかも知れないが、俺は幼少からジジイに死ぬような……いや、今思えば実際死んでもおかしくない修行をさせられた」
〆は無言で、流の体を抱く力が少し強くなる。
「あの頃はそれが異常だと思わなかったし、親も学校も何故かそれを黙認していたんだよ。しかも修行で抜けた授業を、後で特別授業をしてまでな。あらためて今思うと、やはり狂った非常識な日常だったが、それもこれも全部この世界で生き抜くためだったんだと思えるようになった」
「古廻様……」
心配そうに流を抱きしめる〆は、その後に流が話す事を待つ。
「今、俺の中に二つの感情が渦巻いている……いや、渦巻いていたと言うのが正しいな」
流はそっと〆の腕を優しく撫でる。
「覚悟はしていたつもりだったが、殺盗団との死闘で、俺は二度と平穏な世界で生きる事は出来ないと確信した。だが……やはり凶賊でも人を殺めたと思うと、異世界だろうが思うところはある。だが躊躇すれば、俺が殺られる世界なのもまた事実。そんな軽い現実と、理想の狭間が、心に気が付かないうちに食い込んでいた事に、今さらながら気が付いてな……」
檜の升を片手に持ち、ぼんやり光る名水ブレンドを見つめる。
「だけど〆を始めとした兄弟達や、因幡。たぬ爺や骨董達も俺を見守ってくれていると思うと、こんな事で落ち込んでいられないって思ってな。それに先祖の無念をリベンジしてやりたいし、何よりこのままじゃ俺も死んじまうかもしれない。大体超えられない『理』を無視してまで渡った人形なら、何時かまた日本へ戻って来て、古廻を根絶やしにするかもしれないしな」
そう言うと流は自虐的で乾いた笑をする。
「根絶やし、ですか。その可能性も憚り者が動いたとなると、かなり現実的でしょうか……あれから長い時が経ちました。人形が負った傷もだいぶ癒えたかもしれませんからね」
(……? 憚り者と人形は違う存在?)
疑問に思ったが、〆が話を続けるのでそのまま聞き入る。
「以前……話したかもしれませんね。私達は古廻様が此方へ呼ばれたのは偶然とも、必然ともどちらでも良かったのです。ただ『私達の元へおいでになった』と言う事。それだけで魂が焦げ付くような熱い思いで、本当に心から嬉しく思っています。そして折角おいでになったのですから、異世界を楽しんでいただけたらと安易に考えておりました」
そして消え入りそうな声で続ける。
「広大な世界。何処かに未だ『憚り者』が存在しているかもしれないとは思っていましたが、こんなに早く邂逅するとは思ってもみませんでした。そしてまさか、この異怪骨董やさんの中で、あの憚り者に襲撃される等とは……。全ては私の判断ミスでございます。本当にも――」
そんな〆へ流は被せるように、煽り口調で言いながら、〆を背後に置き湯舟から立ち上がる。
「おんやあ~? 盗賊を地獄送りにした娘のセリフとは思えませんなぁ~。もっと鬼の番頭さんは、こ~んなツノを生やして無いとだめだろう?」
そして前を向いたままで、頭の両端に握り拳を作り、人差し指を立ててツノを模した形にする。
それに釣られて〆も立ち上がり、流の背に向けて抗議する。
「え!? こ、古廻様それは酷いで――」
瞬間、〆ともあろう者が何が起きたか分からなかった。
気が付くと流は振り向き、〆を正面から抱きしめていた。
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