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第五章:殺盗団を壊滅せよ

139:決戦? オルドラ大使館⑦

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「「姉さあああああああああああん!!!!」」

 突如響き渡るメイドの声に流も思わず振り返る。

「グアアアッ……来るな! お前達はそこに居ろ!!」
「で、でも姉さん……」
「黙れ!! いいか、これは因果応報ってヤツだ。オレ……いや、アタシ達はとうの昔に死んでいる。分かるな!?」
「はい……」
「……いい子だ。ナガレ! さあ、最後の勝負といこうじゃないか。アタシとお前の命の輝きをここに示せ!!」

 ボルツは怪我など無かったように、左手と両足で果敢に攻め立てる。
 それは一撃を放つ度にボルツの命を削るかのような鋭い攻撃だった。

「そのダメージでそこまでやるかよッ!」
「ハハッ、当たり前だ。この……そう今、この瞬間のために生きて来たのだからなぁ」

 ボルツは流の頭部へ踵落としで大技を放つが、それを見切って半歩体を右にひねり流はかわす。
 が、それは誘いで本当の攻撃は右足で踵落としをし、そのままグルリと縦に一回転した遠心力を利用した左足の踵落とし二連撃を流に叩き込む。

 セミプロの業ならいざ知らず、玄人。それも本職のトップの業に、たまらず流はすでに再使用が可能になった奥の手を使う。

「ッゥ! アクティブ! 氷盾の指輪!!」

 二連撃と思われた蹴り技は、そのまま止まる事を許さず縦、横とコマのように回転しながら流を追い詰める。
 突然の事にアクティブの三つの盾はあっと言う間に使い切る。

「くぅ!? お前、毒蛇より今の方がよほど脅威だぞ!!」
「くはッ~、嬉しい事を……言って……くれる。本来、これが、アタシの業だよ」

 ボルツの顔はすでに死相が取り付いているのが分かるほど土気色に変色し、さらに息も荒い。

「ボルツ……お前もうやめな――」
「ば~っか♪ これがアタシの最後の生きた証だよ」


 流の言葉を遮るようにボルツはクスリと笑うと、まるでバレリーナのように右足を高々と頭の上へと掲げると、右足から覗く左目で妹達を見ながら最後の言葉をかける。

「ねぇ、ミレリア。ロッティ。今日までありがとうね、あんた達が居てくれたからお姉ちゃん頑張れたんだ。あれからもう何十年かな……」
「百十五年だよお姉ちゃん……」
「そっか……もし天国……違うか、地獄ってものが本当にあったらそこで謝るね。本当にごめんね、ありがとう」
「私達こそごめん……」
「お姉ちゃん、先に行ってて。すぐに向かうね」
「馬鹿!! 出来れば何とか生きて。そのためにも……ッ!!」
「俺が邪魔か?」
「ええ、お願い。私と一緒に地獄へ落ちて!!」
「そう言うセリフは、愛しい娘に言って欲しかったんだがな」

 流は腰のアイテムバッグから取り出した、紫色の回復薬を一気に煽り飲む。

「準備はいい? はぁ~。最後の大技、ナガレに受けてもらえて最高の気分で逝けるってねえええええ!!」
「ふん、かかって来い。俺も美琴も雑魚には負けん!!」

 ボルツは高く掲げた足を正面へ勢い無く・・・・落とす。
 すると突然正面の空間が歪み、歪んだ空間の分だけ流が引き寄せられる。

 流は「なッ!?」と言う呻きとも驚愕とも言える声が出る。

「いらっしゃ~い♪ そして、死んで!!」

 目前に迫るボルツの右膝が、流の鳩尾へと痛恨の一撃となってめり込む。

「グッボッッヴァ!?」

 たまらず流は吐しゃ物を嘔吐し、内臓も破壊されたのか血液も吐き出し倒れる。
 それを満足気に見つめたボルツも、同時に大量に吐血して倒れた。

「ぐぼッ――はぁぐぅッ! 今……『契約』が、切れ、たわ!」
「「おねえぢゃん!!」」
「ミレリア……ロッティ……ナガレ、が生きていたら……あり……がとう。そして、ごめんなさいと……伝えて……あと、二人とも……元気で……ね」
「う゛ん゛! おねえぢゃんも……ありがどう」
「さようなら姉さん……愛しています、いつまでも」
「先……生……今そ――」

 その言葉を聞いたボルツは、憑物が晴れたかのような清々しい顔で瞼を閉じる。
 すると美しかった容姿は、突如時間が無慈悲に過ぎたかのように流がれ、美しかった顔は骨と皮だけになってから灰になってしまう。

「ボルツ……最後の攻撃、死ぬほど効いたぞ。よく分からないが、ボルツの意思は受け取った。安らかに眠ってくれ」

 流は完璧にダメージが抜けていないからか、片膝を床に付きつつも左手をスっと胸の位置まで上げ片合掌をし、軽く頭を下げ黙祷するのだった。

「ナガレさん……あの怪我でもう……」
「本当に申し訳ありませんでした。言い訳はしません、後の事はお任せします」
「おいおい、それじゃ何の事かさっぱりなんだが? 俺としてはボルツだと思っていたあっちに転がっている男が実は偽物で、本物は君らの姉さんってだけで混乱モノなんだぞ?」

 二人の姉妹は顔を見合わせ頷き合う。
 
「あらためまして名乗りをさせていただきます。私がこの子の姉のミレリア、そして妹のロッティと申します。少し、長い話になりますがお付き合い……いただけますでしょうか?」
「ああ構わないよ。まだ夜は……始まったばかりだ」

 流は窓より見える、町の喧騒を思い出しながら先を促す。
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