158 / 486
第五章:殺盗団を壊滅せよ
157:泣かないで!!
しおりを挟む
おもむろにバーツは立ち上がると、自分の机の方へと歩き出す。
そして長い溜息の後、引き出しから質の良い紙を手に取ると、そこへ書き込みをしてサインをし、さらにギルド印を押してから戻って来る。
「ナガレ、この依頼を受けてはくれないか?」
バーツは応接セットの椅子へ座り直すと、今作成したばかりの用紙を真剣な顔で流へ手渡す。
「これは……ええ、分かりました。元は俺が原因みたいなものですし、乗りかかった船ってやつですからね。この依頼受けましょう」
「助かる。奴は……アレハンドはギルドを正面にして、右隣の建物にある不正会計局の二階にある局長室にいるはずだ。だが奴には部下がいるんだが、それも先程のリストに入っているのを確認した。その部下だが、殺盗団の手練れだそうだ……」
ふと気になるワードが耳に入った流は、その疑問を聞く。
「殺盗団の手練れですか? でもよくそんな怪しいのを採用しましたね」
「ああ。さっき話したと思うが、奴には不正会計局を任せている。本来奴は取り締まる立場なんだ。だから必然的に命の危機に会いやすい。だが、資料を見る限りでは、不正を見逃している代わりに金銭を得ていたようだ。さらに殺盗団と関わりのある商家へ便宜を図り、そこからも……と言う訳だ」
「ギルド支援金の過小評価からのピンハネですか。なるほど、それで問題は……アレハンドの私兵が殺盗団と言う事ですか?」
多少考えて、流は手練れの今後予想される行動に思い至る。
「ふっ、カンがいい。私兵をそのままギルドに入れておくのも、問題があると言う事になってな。それで今は一職員という扱いになっている」
「そうなると商業ギルドの職員では、私兵を押さえるのは難しいでしょうね」
「ああ、だからお前だ。奴らがここを盾にする可能性を考え、万が一に備え俺達はギルドを今すぐ封鎖し、立ち入りを制限する」
「分かりました、では今すぐ捕えて来ますよ」
「頼む……身内から、しかも信頼していた男だったが、こんな馬鹿が出るとは痛恨の極みだ!」
バーツは応接セットの椅子にある、ひじ掛けを強く叩く。
「アレハンドの容姿だが、中肉中背で背はナガレのアゴ程の男だ。年齢は四六歳で、見た目より老けている。肌の色は白、目は灰色のヒューマンだ」
「分かりました。詳細な情報ありがとうございます。では早速『討伐』して来ますが、出来るだけ生かして連れて来たいと思います」
「ああ、頼む! 奴らの事より、まずはお前が怪我しないで戻って来いよ」
バーツは自然に頭を下げ、流への無事も同時に祈る。
そんなバーツに「ええ」と流は告げ、正面を見据え歩き出す。
そのまま入口へと歩いて行くと、メリサが下を向いたまま泣いていた。
通り過ぎ様、流はメリサの左肩へ手を優しく置くように触れる。
「恩人の魂は救ってやれないが、お前の心は俺が守るさ。だからそんな顔するなよな?」
メリサは優しい口調と、自愛に満ち、思いやりの込められた流の言葉に「ハッ」っとして顔を上げ、彼を見あげる。
「ナガレさッ――」
するとそこには――――形容し難い変顔の流がいた。
「プッ!? あはははははッ! もぅ、もぅ! こんな時にナガレ様ったら何をしているんですか!?」
「どーよ、渾身の変顔だったろ? ピューリッツァー賞のカメラマンも、シャッターチャンスを逃すほどの自信作だ」
「い、意味が分からないですが凄そうですね、ふふふ。怪我……しないでくださいね?」
「あぁ、約束するさ。じゃあ行って来る」
メリサが無言で頷くのを確認すると、流は部屋を後にした。
「ありがとうございます……ナガレ様。心、温かくなりました……」
そんな二人を微笑ましく見守っていたバーツだったが、メリサのあまりの豹変ぶりにドン引きである。
「うわぁ、メリサが女の子になってる……映像保存の魔具を用意しとけば良かったなぁ」
「何か言いましたか、ギ・ル・マ・ス……?」
「い~え何も? さて、ギルドを封鎖するぞ! メリサも各所に連絡と対応をしてくれ、行くぞ!!」
バーツは腕まくりをしながら、逃げるように部屋を出て行く。
「あ!? もう、ごまかして~!! ナガレ様……どうかご無事で」
そう一言つぶやき、窓の外を一瞥する。そしてすぐ、メリサは各所へ連絡へ向かうのだった。
そして長い溜息の後、引き出しから質の良い紙を手に取ると、そこへ書き込みをしてサインをし、さらにギルド印を押してから戻って来る。
「ナガレ、この依頼を受けてはくれないか?」
バーツは応接セットの椅子へ座り直すと、今作成したばかりの用紙を真剣な顔で流へ手渡す。
「これは……ええ、分かりました。元は俺が原因みたいなものですし、乗りかかった船ってやつですからね。この依頼受けましょう」
「助かる。奴は……アレハンドはギルドを正面にして、右隣の建物にある不正会計局の二階にある局長室にいるはずだ。だが奴には部下がいるんだが、それも先程のリストに入っているのを確認した。その部下だが、殺盗団の手練れだそうだ……」
ふと気になるワードが耳に入った流は、その疑問を聞く。
「殺盗団の手練れですか? でもよくそんな怪しいのを採用しましたね」
「ああ。さっき話したと思うが、奴には不正会計局を任せている。本来奴は取り締まる立場なんだ。だから必然的に命の危機に会いやすい。だが、資料を見る限りでは、不正を見逃している代わりに金銭を得ていたようだ。さらに殺盗団と関わりのある商家へ便宜を図り、そこからも……と言う訳だ」
「ギルド支援金の過小評価からのピンハネですか。なるほど、それで問題は……アレハンドの私兵が殺盗団と言う事ですか?」
多少考えて、流は手練れの今後予想される行動に思い至る。
「ふっ、カンがいい。私兵をそのままギルドに入れておくのも、問題があると言う事になってな。それで今は一職員という扱いになっている」
「そうなると商業ギルドの職員では、私兵を押さえるのは難しいでしょうね」
「ああ、だからお前だ。奴らがここを盾にする可能性を考え、万が一に備え俺達はギルドを今すぐ封鎖し、立ち入りを制限する」
「分かりました、では今すぐ捕えて来ますよ」
「頼む……身内から、しかも信頼していた男だったが、こんな馬鹿が出るとは痛恨の極みだ!」
バーツは応接セットの椅子にある、ひじ掛けを強く叩く。
「アレハンドの容姿だが、中肉中背で背はナガレのアゴ程の男だ。年齢は四六歳で、見た目より老けている。肌の色は白、目は灰色のヒューマンだ」
「分かりました。詳細な情報ありがとうございます。では早速『討伐』して来ますが、出来るだけ生かして連れて来たいと思います」
「ああ、頼む! 奴らの事より、まずはお前が怪我しないで戻って来いよ」
バーツは自然に頭を下げ、流への無事も同時に祈る。
そんなバーツに「ええ」と流は告げ、正面を見据え歩き出す。
そのまま入口へと歩いて行くと、メリサが下を向いたまま泣いていた。
通り過ぎ様、流はメリサの左肩へ手を優しく置くように触れる。
「恩人の魂は救ってやれないが、お前の心は俺が守るさ。だからそんな顔するなよな?」
メリサは優しい口調と、自愛に満ち、思いやりの込められた流の言葉に「ハッ」っとして顔を上げ、彼を見あげる。
「ナガレさッ――」
するとそこには――――形容し難い変顔の流がいた。
「プッ!? あはははははッ! もぅ、もぅ! こんな時にナガレ様ったら何をしているんですか!?」
「どーよ、渾身の変顔だったろ? ピューリッツァー賞のカメラマンも、シャッターチャンスを逃すほどの自信作だ」
「い、意味が分からないですが凄そうですね、ふふふ。怪我……しないでくださいね?」
「あぁ、約束するさ。じゃあ行って来る」
メリサが無言で頷くのを確認すると、流は部屋を後にした。
「ありがとうございます……ナガレ様。心、温かくなりました……」
そんな二人を微笑ましく見守っていたバーツだったが、メリサのあまりの豹変ぶりにドン引きである。
「うわぁ、メリサが女の子になってる……映像保存の魔具を用意しとけば良かったなぁ」
「何か言いましたか、ギ・ル・マ・ス……?」
「い~え何も? さて、ギルドを封鎖するぞ! メリサも各所に連絡と対応をしてくれ、行くぞ!!」
バーツは腕まくりをしながら、逃げるように部屋を出て行く。
「あ!? もう、ごまかして~!! ナガレ様……どうかご無事で」
そう一言つぶやき、窓の外を一瞥する。そしてすぐ、メリサは各所へ連絡へ向かうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる