日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第六章:商いをする漢

212:氷解は突然に

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「オマエエエエエエエエ!?」
「キサマアアアアアアア!?」
「今日こそ先日の決着を付けてやる!」
「それはこちらの台詞だ馬鹿ものが!」

 互いに壺を握りしめ、一歩も引かず壺を強引に自分の方へと持って来る。
 流が引くと、金髪野郎も負けじと引き戻す。
 そんな二人に店主が困惑し、それを見た周囲は野次馬となり群がる。

「「ぐぬぬぬぬぬぅ」」

 さらに激しく引く二人。そこにどこかで聞いた事のある、天使の声が木霊する。

「ねぇ~パパ? またあのお兄ちゃん達がいるよ?」
「あ、またあいつらかぁ。情操教育に悪いったらありゃしない……」
「でも今日も変わらず仲がいいね! リリンもあんなお友達が出来るといいな~」
「ナッ!? リ、リリン! あんな変態になってはいけないよ。さ、ここは空気悪い。早く帰ろう、変態が感染しうつったら大変だ。ママが心配しているから帰るよ?」
「は~い。じゃあお兄ちゃん達、またね~」
「「ちょ、まっ、俺は領域者ヘンタイじゃな――」」

 そんな天使の声に一瞬気が抜けた二人は、手の力を緩めてしまう。
 するとお互いの手からスルっと抜け落ちた壺は、元あった場所へと戻る様に落ちる。
 そして元の場所へと戻った瞬間――

「ああああああ! 俺の娘がああああ!?」
「ああああああ! 俺の嫁がああああ!?」
「ああああああ! 俺の品がああああ!?」

 見事に「ぱっかり」と二つに分かれ、機械で切断したんじゃないかと思う程、断面が綺麗に分かれた。冗談だろ?

「「「うっそだろ……」」」

 それを見た三人は思わず絶句するのだった。



 その後、露天のオヤジにこっぴどく叱られた流と金髪の男は、半分になった壺を片方ずつ購入して、仲よく肩を落として並んで歩く。

「はぁ……俺の娘がこんなになっちまった……」
「うぅ……俺の嫁がこんな惨い姿になった……」
「「ハァ~……」」

 なぜか一緒に歩き、そのまま近くにあるベンチに腰を落とす。
 しばらく無言でお互い座っていたが、流が嫌そうにボソリと話し出す。

「おい……」
「何だ貴様……」
「俺はお前が嫌いだ」
「奇遇だな、俺も大嫌いだ」
「「…………」」

 そこで押し黙る二人、すると目の前に果実水の売り子が通りかかる。
 売り子の娘はベンチに座る、妙な雰囲気を放つ二人に一瞬〝ビクリ〟と肩をふるわせるが、プロの根性で営業をこころみる。

「え~、果実水はいかがっすか~? 魔具で冷えているコルコの実のジュースだよ~! 一杯半銅五枚だよ~!」
「おいそこの娘、貰おうか」
「やった、言ってみるものだね! 毎度あり~♪」
「では受け取れ、銅貨五枚だ」

 売り子の娘はチラリと流を見てから、ニコリと頷く。

「はいよ、ちょっと待っててね!」

 その様子を見ていた流は少し考える。

(あれ、えっと半銅って確か……二枚で銅貨一枚分だったよな? って事は銅貨五枚は多すぎだろう、倍額だぜ? 何考えているんだこいつ)

 そう流が思った頃、娘がジュースを二杯持っている事に気が付く。
 すると金髪の男はそれを受け取ると、そのジュースをジット見つめる。

「……俺は貴様が大嫌いだ。だが同じ妻を娶った同士でもある。それに貴様は領域者ヘンタイだが、その骨董への愛は本物だ……。だから分かる、お前は悪い奴じゃなさそうな気がする」

 そう言うと金髪の男は、流へとコルコの実のジュースを差し出す。

「……俺もお前が嫌いだ。だが同じ娘を愛した漢と言う仲間でもある。お前は周囲もドン引く領域者ヘンタイだが、骨董への愛は間違いなく本物だ。だから俺もお前を信じる事にする」

 差し出されたジュースを流は受け取ると、どちらともなく乾杯をして飲み始める。

「美味いな……。初めて飲んだが、スッキリとした酸味と甘みの調和がとてもいい」
「だろう? なんだ、貴様は初めて飲んだのか? これは俺のお気に入りのジュースでな、今の時期が一番美味いのだよ」
「ほほう! 他にもこの時期に美味いのはあるのか?」
「もちろんあるとも! いいか、この時期はだな――」

 元が似た者同士。しかも激コアな部分の価値観がほぼ同じと言う、常人では理解不能の領域にいる領域者ヘンタイは、同族嫌悪と言う巨大な鏡の前でいがみ合った。

 しかし辛辣な親子天使なむすめの登場で、その姿見が崩壊した事により、一気に友好度が爆上がりする。
 
「よ~し、じゃあ俺が美味い店を案内してやるから付いて来い!」
「それは行かないとダメなヤツだな! じゃあ案内してくれよ!」
「じゃあ屋台がいいかな? それとも店舗がいいか?」
「う~ん……。どっちもだな!!」
「欲張りな奴め!」
「お代官様程ではございませんよ?」
「「は~っはっはっはっは」」

 隣のベンチに座っている娘達に白い目で見られながら、流と金髪の男は堂々と歩いて行く。
 領域者にとって、白い目こそ勲章なのだから。




 二人はあちこちの屋台へ乗り込むと、旬の食材で作ったばかりの作品を堪能する。
 ある屋台では予想外の美味さに驚き、別の屋台では感動を共有し、そして心の底から笑い合う。
 それは正に夢のように楽し気な時間となり、二人の笑顔は絶えなかった。

 だが夢は何時か覚めるもの。やがてその夢が覚める時がやって来る……。
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