日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第八章:塔の管理者達と、新たな敵

330:メリサ

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「エスポワール様!?」

 使用人の一人が侍の斬撃を受けながし、その反動を利用しエスポワールの死体へと駆け寄る。
 懐から丸い光る宝珠のような物を取り出すと、エスポワールの胸に押し付け――。

「グギャアアアアアアアッ!?」

 押し付けた宝珠のような物が光る刹那、使用人は斬らずに手と宝珠を破壊する。
 それを見た「首だけのエスポワール」は、死んだはずの動かない瞳を〝ギョロリ〟と動かし、三左衛門を睨みつけながら吐き捨てるように話しだす。

「クッ……なぜ復活すると分かった!!」
「だからのぅ、お前ら死人しびとのやる事なぞお見としなんじゃよ。何年お前らと戦って来たと思う。その側仕そばづかえは「生贄」であろう? 宝珠を破壊し内部の術式を開放することで、側仕えの身体と魂を犠牲に復活するのは分かりきっておる。大殿が来る前にさっさと左手を復活させておくべきだったな。死人しびとはその頑丈さゆえに、すぐ油断してくれるから助かるわい」
 
 その言葉で最後のあがきが無駄だと悟ったエスポワールは、悪い顔色をさらに土気色に染めて必死に脱出方法を考える。

(ッゥ……船はまだですか!? このままではあああああああッ!! っ――アレは!?)

 エスポワールは見た。無様に転がった首が見つめる先にあるものを。それは一つの奇跡の前触れであり、それを呼び寄せる自分の強運に感動すらおぼえる。

「ふ~む……古廻様。どうやらここまでのようですなぁ。残念です、わたくしめは反省しました。ですので今後は――」

 そうエスポワールが話している最中に、三左衛門が一足飛びに転がる汚い首へと近づくと、眉間に刃を打ち込む。

「アガアアアアアアアアッ!?」
「さ、三左衛門いきなりどうした?」
「大殿、こやつら死人は必ずと行っていいほど、軽口を叩きます。が、その時は大抵裏に何か仕込んでいるか、その他の活路を見出したのでしょう。なので、軽口を叩き出したらこうするのが――」

 三左衛門はそのまま汚い頭部を真っ二つに斬り割る。

「正しい作法にてございます」
「ぉ……おぅ……流石はこの道のプロだな」
「ぷろ? あぁ、今はそう言うのでしたかな」

 そう三左衛門は言うと、カラカラと笑いながら状況をしっかりと見定める。
 人質の娘は健在であり、小物と呼ばれる男が震えながらナイフを娘にあてがっていた。
 使用人達はほぼ壊滅状態であり、その抵抗は最早時間の問題に思われる。

「メリサ!! またせた、大丈夫だったか?」
「は、はい……でも……」

 アルレアン子爵は恐怖に震える瞳でメリサを羽交い締めにしながら、水路の方へと後ずさる。その時だった、上方から聞こえる大きな破壊音と共にくる〝ぐらり〟と揺れる振動。

「っ――まさか、もう水塔がもたないのか!?」
「そ、そ、そうら!! もうココはダメら、ここもやがて崩壊ふる!! 全員道連れらぞ!!」
「だが、その前にメリサを返してもらう!!」

 流は左手に妖力を込め、一本のクナイを作ると飛竜牙を飛ばす。その一撃は、アルレアン子爵には回避不可能な速度で紫色の一筋の光となり、ナイフを持っている右手へと突き刺さる。

「ぐぎゃああああああ!?」
「メリサ! いまのうちにコッチへ走って来い!!」

 アルレアン子爵は激痛のあまり、持ったナイフを手放し、床にひざまずいたまま大粒の涙と聞くに堪えない声で叫ぶ。
 メリサはその様子を見て決心する。その瞳は覚悟を決めており、それが形となって――現れなかった。

「ナガレ様……ごめんなさい。私は怖いんです……。今のあなたが心底恐ろしい……だから、ホラ……見てください」

 メリサが指をさす足を見る流は、その震えからまともに歩けないのだと理解する。

「ッ!? 何を言っている、今行くから待って――」
「だめッ!! 来ないでッ!!」

 流が駆け出す刹那、メリサはそう言ってそれを静止させる。その迫力があまりにもすごかった。そう、思わず流の足をとめるくらいには十分すぎるほどに。
 だがそれが今後の運命を、大きく変えてしまった瞬間だった。

 エスポワールが先程感じ取った奇跡がついにその牙をく。流とメリサの距離は十メートルほどだったが、その中間に真っ二つに亀裂が走った瞬間、水が勢いよく吹き出す。
 それを迂回するには幅が十五メートはある水路からしか方法がなく、それを回避する方法も船以外ない状態だった。

「メ、メリサアアアアアアアアア!! なぜだッ!?」

 絶叫する流。その様子を水の向こうから見つめるメリサは何かを言っているようだったが、吹き出す水の轟音でそれが聞き取れない。
 だが、メリサはその左手の薬指にはめた、「氷盾の指輪」を胸の前へと掲げる。
 そしてそっと撫でると、とても。そう……とても困った表情でニコリと流へと微笑む。

「メリサ……一体何を……」

 呆然とその意味が分からず立ち尽くす流の横、水路に突如現れる黒塗りの船が高速で水壁の向こう側へと接岸するのが見える。
 中から即座に先程戦っていた使用人たちと同じ服装の男女が下船すると、メリサとアルレアン子爵を連れ去るのが見えた。

 それにメリサは何の抵抗もせず、一度こちらを振り向くと「あ・り・が・と・う」と口の動きだけで伝えてから、右目より一筋の涙を落としそのまま振り向かずに乗船する。

「待て……行くな……」

 流は高圧に吹き出る水へと七連斬を放つも、吹き上がる水を止めることは出来ない。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 続けて、太刀魚を放ち無駄だと分かれば、岩斬破砕がんざんはさいで水そのものを止めようとするが、余計にヒビが大きくなり状況が悪化する。
 すでに水路も水が吹き上がり、地下水脈まで爆発しそうになっているようだった。

「クッソガアアアアアアアアアアア!! 何故だッ!? メリサアアアアアアアアアアア!!」

 崩壊の水塔、その地下に絶叫する嘆き。それを今や流の家臣とも言える亡霊達は静かに見守ることしか出来なかった。



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