日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第九章:奪還作戦と、国の闇

368:疑惑の氷

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 流はその様子を黙ってみている。この漢の性格からして、このような場合は迷わず攻撃するのだが、何か考えがあるのか……。
 アルギッドは魔力を高めたからか鼻血は止まっており、傷も回復しつつあるように見える。
 それを見たワン太郎は「ほぅ……」と言うと、セリアの隣へと来るのだった。

「そこの小娘。ぼけーっとしてないで、早くあるじの薬を飲むんだワン」
「は……え? 子犬が喋った? ひぃ!?」
「うるさい小娘だわんねぇ。ワレは子犬じゃない! 小狐で王様なのだ、エライのだワン!!」
「お、王様? って王滅クラス!? まさかぁねぇ……こんな可愛いわんちゃんが」

 そう言うとセリアはワン太郎を抱きしめるが、苦痛を思い出して顔を歪めた。

「馬鹿な小娘だわんねぇ。ほら、あるじが言っていたように早く飲むんだわんよ」
「それが……もう沢山回復薬を飲んだから、お腹一杯で飲めなくて……」
「しかたないワンねぇ。ほらぁ、ここに注ぐワンよ」

 因幡の薬は外からかけただけでは効能が薄く、セリアの紫色に膨れた指や、二の腕からしたたる血液を見てワン太郎は〝氷の皿〟を空中へと作り出す。
 そこに紫の回復薬を注ぎ込むと、皿のふちへと短い前足をのせる。すると皿に溜まっていた紫の回復薬は、しだいに右回転をすると、圧縮しはじめ最後には直径一センチほどの「紫色に輝く塊」となる。
 それをワン太郎はゆび差し、セリアへと渡す。

「これを舐めるといいワン。ちょっぴり冷たいけど、美味しいから食べてみるといいワンよ」
「え? とても綺麗……」

 セリアは氷の皿から紫色の飴玉のような塊を口に入れる。ビクリと震えてから、

「あぅん!? なにこれぇ……美味しい」
「もぅ紛らわしい声をだすんじゃないワンよ。ほら、そろそろ最終幕が上がるワン」

 そんなワン太郎とセリアの微笑ましいやり取りなど、騎士も冒険者達も気にする余裕はない。
 なぜなら、アルギッドの魔力が恐ろしいほどに膨らんでおり、確実に災害クラスの被害が出るであろう攻撃だと認識していたからだ。
 なおも膨らむ魔力。それは研ぎ澄まされ、アイスブルーの短剣に惜しげもなく注ぎ込まれていく。

「どぅ~したぁ? こ・わ・い・の・かぁ? コイツはなぁ~俺の家の家宝『アイ・ス・ダガー』だッつーの!!」
「おい美琴。俺も酷いが、アイツの家宝も名前になんのひねりもないぞ? むしろ劣化品にしか聞こえん」
『そうだよねぇ……本家から見たら、な~んか安っぽい響きですねぇ。よかったね、似たような境遇の人がいて』
「うっさいわ。おっと準備が完了したようだぞ?」
『待ちくたびれました』
「グダグダ何を言っているぅ? 最初の宣言どぅ~り、粉々になってシ・ネ♪」

 アルギッドは氷を纏った短剣〝アイ・ス・ダガー〟を大上段から構えて、大ぶりに流へと斬り込む。
 本来避けることも容易いほど、マヌケにも上段からまっすぐ長剣にまで成長した氷の刃を受ける。
 そのまま高速に氷の長剣を振り抜き、∞を描くように何度も何度も美琴へと当てに来る。
 流もそれに応じて受け流し、いざ攻撃に移ろうとした時だった。何か違和感を感じて美琴を握っている部分へと目線を向ける。すると〝パキキキッ〟と聞き慣れない音が美琴の刃を覆う。

「……」
「どぅーだ? 凍てつく斬撃はぁ? もうまともに剣も振れまい? ブンブン? はぁ~ッハッハッハ!!」

 アルギッドは流の返事もまたず、そのまま氷の刃を高速で叩きつける。それを流は受けるだけで、攻撃が出来ないようだった。

「ナガレ!! どうしよう子犬ちゃん、ナガレが氷漬けにされちゃうよ!?」
「んぁ~? そんなに冷たくないから大丈夫だワンよ~」
「何を言っているのよ! ほら、もう首まで氷の塊になっちゃったよ!!」
「うるさいワンねぇ~。あ、すっぽり埋まったワン。たのしそ~」

 まったく取り合ってくれない子犬に、いらだちを覚えながらも〝ギュッ〟と抱きしめる。
 ワン太郎は苦しそうに腕をタップするが、どうやら気がついていないらしい。
 その時だった。氷の中から聞こえる硬質な破壊音。その直後に割れた氷のスキマから聞こえる、くぐもった声が響く。
 
「――ィりゅう薙払術ていふつじゅつ! 岩斬破砕がんざんはさい!!」

 流の閉じ込められている、氷の小さな山に無数の亀裂が瞬時に入る。アルギッドはそれが〝ありえない!?〟とばかりに凝視した刹那、氷のつぶてがアルギッドへと襲いかかる。

「グガアアアアアアダダダダダ!? 一体なにアダダダダイッ!!」
「実に気持ちのいい空間ありがとう。で、やっと視えた。お前もアイツと同じだな? その『右の角』が元凶か?」
「何を言っている!? あぁ~りぇなぁ~いぢゃないっか!? 氷のスッペシャリぅスットの、こ・の俺様の業がなぜ効かない!!」
「アレが氷のスペシャリストだと? 気持ちのいいリラックス空間だったぞ」
「そんなはずはない!! 氷系最上位の業だぞおおおおおおう!?」
「最上位ねぇ……うちにもいるぞ? そのスペシャリストが、な?」

 そう流が言うと、いつの間にかワン太郎がアルギッドの足元へと来ていた。それを見たセリアが「あぶない!! ワンちゃん戻ってきて!! と立ち上がろうとするが、腕の中が重い事に気がつく。
 さらにその冷たさに、一瞬ゾクリとしながら見ると、氷の可愛い小狐を抱いている事に驚く。

「おい、羽トカゲ。あるじのオーダーだワン。とりあえず『コレが本当の氷の力』だと思い知るのだワン」

 ワン太郎は前足を〝ぽむ〟とアルギッドの右足へ嫌そうに触る。するとそこから深い青色の氷が出来、それがまたたく間に全身へと広がりはじめる。
 叫ぶアルギッドの意思などお構いなしに、やがて首より上を残し、氷の塊の中へと閉じ込められたのだった。
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