もふもふ子狐のせいで、廃棄(ゴミ)の烙印を押されたハズレ男。あまりにも酷い扱いをされたので、異世界召喚をした国を爽快バトルにて滅ぼします

竹本蘭乃

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異世界の残酷な洗礼編

023:名演技?

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「ぐああ……っれ?」

 やはりダメか。治療魔法もあるし、肋骨をへし折るつもりで殴ったが、まるで鉄の壁を殴っている感覚だ。
 例え剣や槍で突き刺しても、よくて軽い刺し傷が付けばラッキーくらいなものだな。
 そしてこの鉄の棒も、今の攻撃で少し歪むとかありえねぇよ。

 この世界の武具全てに魔力を込めなければ、まったく使い物にならないってのはわかった。
 わかった……が。

「ハァ~、こいつはやってられねぇ程のハンデだろう」
「な、なにかスミマセン」
「お前のせいじゃねぇよ。そのまま怒った感じで、俺を下から大剣ですくい上げるように斬ってくれ」
「ッ!? そ、そんな!!」
「いいからやってくれ、頼むぜ剛流。その後、適当に攻撃もヨロシク」

 剛流は無言で頷くと大声で気合をこめ、戦極の指示通りに、左斜め下から力強く斬り上げる。

「ウラアアアアアアアアアア!!」

 ナイス剛流! と言いたいが――ッ、予想以上に凶悪な力だッ!!
 両手でできるだけ力を流した角度でも、ここまで鉄棒にダメージ入るかよッ!?
 だがなんとか、ギリギリでも怪しいが受け流せた。
 後はこの力を利用して、目的の場所・・・・・へと飛び上がれば!!

「ぐうううううううッ、キッツイぞ」

 戦極はへし曲がった鉄棒を盾に、なんとかライオスが指定した目的の場所へと向かう。
 地上五メートルほどを、放物線を描きながら、意外とゆっくりと打ち上がったが、落下は早かった。
 
 地面まで残り一メートル二十ほどで受け身の姿勢をとり、そのまま左背中から落ち回転をかけてダメージを逃す。
 多少戦闘経験をつんだものでも分からない、〝やられたように見せる〟見事な落ちと転がりは、覗き見をしている二人を騙せたようだ。

 まんまと騙された監視者の一人が口元を歪ませ、隣の男へと憐れむように話す。

「オイ。魔力が無いとあそこまで無様なのか?」
「らしいな。俺たちは魔力はそれなりにあるから、ああいう風にはならんだろうが……それにしても酷すぎるな」
「あぁ……このまま見ているのも馬鹿らしい、どうせこの後も似たような状況だろう」
「ならこのままサボるか?」
「あぁそれもいいな。最近休みもないからな」

 二人は戦極の無様さに呆れ果て、見るものはないと物陰から静かに姿をけす。
 それを確認したライオスは、ニヤリと口角をあげて飛び出す。
 追撃とばかりに迫る剛流だったが、剛流の大剣をライオスは背中の大剣で受け止める。

「そこまで! 実によい戦いだった! と、言っておこうか?」
「イテテ……なにが言っておこうか。だよ、こっちはこんな軽い戦闘でも必死だつーの」
「あ、アレが軽いんですか!? やはり戦極さんは色々と違いますね」
「チート全開の剛流に言われると、なんかビミョーなんだがまあいいや。それでライオンマン、奴らはいなくなったと思う……でもねぇのか」

 戦極は辺りを見ずに、気配を探る。
 すると先程いた二人とは別の場所に気配を感じた。どうやら二組監視者がいたらしい。

御名答ごめいとう、よく分かったな? 先に消えたのは王直轄の奴らだろう。それで今いる奴らが多分宰相の手のものだろう」
「えぇ? 普通そういう組織って、国に大本が一箇所ってイメージだが違うのか?」
「まぁそこもこれから話そう。まずは……コホン、模擬戦もぎせんが終わったことで、少し休憩をする!! お互い何が問題だったのかを語らい、オレ様に聞かせてくれ!!」

 大声でライオスは背後に残る二人に聞こえるように話す。
 ライオスの影で見えない事をいいことに、苦笑いを浮かべる戦極はあぐらで闘技台へと座る。
 それを見た剛流も同じように座るのだった。

「うむ、これでいいだろう。さて続きだが、今見て実感してもらったから分かると思うが、諜報機関ですら一枚岩ではない。国の最重要組織だというのにだ」

 ふむ。言っている事はもっともだ。
 が、あまりに軽々しく俺たちを信用しすぎじゃないのか?
 こんな情報がもし豚王セルドの耳にでも入ったら事だろうに……なら

「確かにな……だからアンタたち国家反逆者・・・・・は、それに乗じて国を盗ろうとでも?」

 ライオスは鼻筋にシワを寄せ怒りをあらわにするが、戦極をにらみながら冷静に話す。

「違う。オレ様たちは国を盗ろうだなどと思わぬ。元のあるべき姿に戻したい……ただそれだけだ」
「あぁ悪かったよ、そんなに怒るなって」

 あおってみたが、このは怒りは本物のようだ。
 もしこれがウソなら、大した役者か、俺がマヌケだった事になるわけだが……。
 嫌だぜ? マヌケは見つかったようだなとか鏡を見るのはな。

 なにか真意は別にありそうな気もするが、今は味方ぽいライオンマンをこれ以上怒らせるのも得策でもない、か。
 
「それで俺をなぜ選んだんだい? 勇者の方が強いだろうに」
「それは簡単だ。センゴクの体捌きが一般人のソレではないのでな」
「それだけじゃないだろう? もっと分かっている・・・・・・はずだ」

 ライオスは戦極の瞳をジっと見つめると、「ふっ」と一言もらす。

「そういう何者も恐れないような所もだろうな。いいだろう教えてやる、この国に伝わる伝承をな」
「伝承? またあいまいだなそれは」

 ライオスは「まぁ聞け」と言うと、目を閉じ思い出すように話す。
 
 大昔にデュロック王国に魔物の大厄災が訪れる。
 それを救ったのが、黒髪黒目の人物だという。
 その英雄は、国を去り際にこう言い残したという。
 ――「俺がもし失敗したら次が来る。だからアンタらはもし次が来たら手助けしてくれたら嬉しい」と。

「なんだよそりゃ? 漠然ばくぜんとしすぎていて、おとぎ話にすらなってないぜ?」
「うむ。オレ様もそう思うが、そう伝わっているからしかたがない。それでだ。もしかしたら、その次というのが」
「俺だと思ったってワケかよ。どっちもテキトー過ぎてなんだかなぁ~だぜ?」

 ライオスは「違いない」と笑いながらも、内心は確信している。
 この男、センゴクがその〝次〟になるのだと。

 自分でも荒唐無稽こうとうむけいなことだとは思う。
 センゴクは魔力も使えない、無能な人物に過ぎないと。
 だが、だからこそ、生粋きっすいの勇者を倒したあのナイフや、圧倒的劣勢でも一つも致命傷を受けなかった身のこなしを思うと、ますますそうだとしか思えないのだった。
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