もふもふ子狐のせいで、廃棄(ゴミ)の烙印を押されたハズレ男。あまりにも酷い扱いをされたので、異世界召喚をした国を爽快バトルにて滅ぼします

ダンジョン～〝戦極〟覚醒編

０７４：雌伏

「この……王に……何をした……」

　王は震えながら右腕で口元へとふれる。
　こぼれ落ちそうな左目が揺れうごき、奥からどす黒い液体が流れ落つ。

　戦極は油断なくそれを確認しつつ、次の攻撃の隙をねらう。
　震える右手が王自身の顔をおおい隠し、右足が動かないと判断した戦極は、チャンスとばかりに王へ斬りかかる瞬間。

「この王に何をしたかと聞いているッ!!　その下賤げせんな剣さばき、やはりあの寄生虫と話していた内容どおり、古廻だなキサマ!?」

　うぉぷッ、なんだこのドス黒い霧は!?
　ッ!?　コイツはヤバイ感じしかしねぇ、一旦離れ背後へと――。

「――ぐぅッ!?　痛ッ何だ、骨ぇ？」

　チィ、脇腹にかすったのか？　こいつ、骨を飛ばして来たのか。
　しかも針山みたいに骨が突き出ているとか、冗談キツすぎだろう……。
　
「って、マジかよ。それを連続で飛ばすとか！」

　しかも骨が飛ばした先から生えそろいやがる。
　ハリネズミも真っ青だぞ！
　だが、あれをかい潜くぐって斬り込むしかねぇ。どこかに隙は……。
　ん、骨の生成速度が遅くなったぞ。

「ここだ！」

　戦極は動きを大きくして、飛ぶ骨を左回りに回避する。
　やはり骨の生成速度が徐々に遅くなり、その数も減ってきたところで、動きを細かく変更して王へと迫る。

　右足を負傷し、動きが鈍くなったと予想した戦極は右側から接近。
　そのまま細身の剣を左斜め後ろへとかまえて、王の右足を完全に切断しようと向かう、が。

「ばぁかめぇ！　この王がなぜ不死者の王と呼ばれているか教えてやろう」

　王がそう言うと、負傷したはずの右足を使い二本立ちになると、そのまま立ち上がる。
　そのまま口を〝ねう゛ぁり〟と開くと、腐肉したたる牙より奥の赤黒いノド奥より赤い光が見えた。

　よく見れば魔法陣であり、それが光ると同時に赤紫の濃霧が発生。
　濃霧は口内で濃密に絡まり合った瞬間、一筋の光が放たれる。

「朽ちよ古廻！　アシッドランス!!」
「なッ!?」

　勢いよく放たれた一筋の赤紫のヤリは、戦極が攻撃場所と選んだところへと降ってくる。
　ビクリと驚いた戦極は動きを止めるが、気で強化した速度により滑ってしまう。
　とっさに細身の剣を床に突き立て、速度を殺して対処するが。

「チ、外したか。だがまぁ、それでは戦えまい」
「そうでもねぇぜ？」

　と、強がりは言ってはみたが……流石にマズイぞ。
　剣先が溶け落ちた・・・・・のは、洒落にならないくらいマズイ。
　だが業はなんとか放てるが、威力が落ちる。

　それより今はコイツの足がなぜ復活した？
　治癒の魔法でもつかったのか……いや、ゾンビに治癒とかダメージじゃないのか？
　
「フン、そんなに凝視をしおって。この王の右足がそんなに気になるのか？」
「アンデッドのくせに健康だなと思ってな」
「この王をアンデッド風情と一緒にするな!!」

　怒りのまま咆哮ほうこうをあげる王は、戦極の鼓膜こまくを容赦なく叩く。
　耳が潰れるかと思うほど、音が痛みに変わりかけた頃にそれはやむ。

「っぅ～、なら一体なんだよ」
「この王は不死の存在よ。それが寄生虫が体に入り込み、ここまで腐らせた。もう少しで完全に活動を停止されるまえに、この王がのっとりかえしたまでよ」
「なに？　付喪神はそんな事を言ってはいなかったぞ」
「寄生虫は、この王の本当の力を知らぬ。この王は不滅の存在よ、ゆえに肉体も瞬時に回復するが……あの寄生虫により腐る体へと変えられた・・・・・事で、回復もままならぬ」

　そういう事かよ。
　付喪神はコイツがここまでの事が出来ると思わず油断……いや、だまされていたのだろうな。
　付喪神が制御不能になった瞬間ドラゴンゾンビになり、ゆっくりと地上へその影響がおよぶと思っていたくらいだ。

「よく数百年も騙し続けられたな」
「ふん、一時は本当に消えかけた。が、急速に地上で負の力が集まりだした事で、この王は復活できたのよ」

　負の力――ッ、セルド王のせいか!!
　あの豚王、自分の首をしめる存在を呼び覚ますとか、救えねぇにも程があるぞ。

「肉体が崩壊する事をいいことに、この王も賭けに出た」
「それで賭けに勝った、か」
「そうだ！　寄生虫が依代よりしろとする肉体が完全に崩壊する手前で、寄生虫の支配力が極限まで弱った瞬間、この王が主導権を取り返す事をな!!」
「それは用意周到な事で呆れるぜ」
「だからこそ古廻！　キサマの体を使い復活する!!　その体をよこせええええええ!!」

　王はさらに力を取り戻そうと、戦極へと襲いかかるのだった。